確定給付企業年金であるDBについて調べていると、「予定利率」という言葉が出てきます。
予定利率は企業年金の掛金や財政運営を考えるうえで重要な数字ですが、預金金利や実際の運用利回りとは意味が違います。
長く続いた低金利環境が変わり、国内金利が上昇している現在、この予定利率にも注目が集まっています。
企業年金連合会の調査では、予定利率の引き上げを考える企業年金も出てきています。
予定利率が上がるとなぜ企業年金の給付改善につながる可能性があるのでしょうか。
予定利率とは将来の運用収益を見込む数字
確定給付企業年金では、将来従業員に支払う年金額をあらかじめ一定のルールで決めています。
そのため企業は、将来必要になる年金資金を計画的に準備しなければなりません。
例えば、将来100万円を支払う必要があるからといって、現在100万円をそのまま積み立てておく必要があるとは限りません。
積み立てた資金を運用して増やせるからです。
将来どの程度の運用収益を得られると見込んで掛金などを計算するのか。
その前提となる利率の一つが予定利率です。
予定利率が高ければ運用によって多くの収益を得られることを前提にできます。
反対に予定利率が低ければ、運用収益をあまり期待できないため、その分を掛金などで準備する必要があります。
予定利率と実際の運用利回りは違う
ここで注意したいのは、予定利率は実際の運用利回りを保証する数字ではないことです。
予定利率は企業年金の財政計算に使う前提です。
実際の年金資産は国内債券、外国債券、国内株式、外国株式などさまざまな資産で運用されています。
市場環境によって実際の運用成績は毎年変動します。
予定利率を2%に設定していても、実際の運用利回りが必ず2%になるわけではありません。
3%になる年もあれば、マイナスになる年もあります。
そのため、予定利率を高く設定しすぎることにもリスクがあります。
想定した運用収益を長期間確保できなければ、企業年金の財政が悪化する可能性があるからです。
低金利時代は予定利率を高く設定しにくかった
日本では長期間にわたって低金利が続きました。
特に安全性の高い国内債券では十分な利回りを確保することが難しい状況でした。
企業年金からすると、予定利率を高く設定しても、それに見合う運用収益を安定して得られなければ意味がありません。
そのため低金利は企業年金の財政運営にとって大きな制約となっていました。
必要な運用収益を確保するために、株式や外国債券などへ資産を分散する必要もありました。
しかし株式には価格変動リスクがあり、外国資産には為替変動リスクもあります。
安全性を重視しながら必要な利回りを確保することが難しい時代だったわけです。
金利上昇で環境が変わってきた
現在は状況が変化しています。
国内金利が上昇し、日本国債などの円建て債券でも以前より高い利回りを得られるようになってきました。
企業年金にとって重要なのは、為替リスクを負わない国内資産で一定の利回りを確保できることです。
例えば外国債券で高い利回りを得られても、円高が進めば円換算した資産価値が減少する可能性があります。
国内債券には基本的にこうした為替変動の問題がありません。
金利上昇によって、企業年金が比較的安定した運用収益を見込みやすい環境に変われば、予定利率についても見直す余地が生まれます。
予定利率を上げると何が変わるのか
予定利率を引き上げると、企業年金の財政計算の前提が変わります。
将来の運用収益を以前より多く見込めるためです。
企業年金の財政状況や制度設計によっては、その改善分を企業の負担軽減だけではなく、加入者や受給者の給付改善に使うという選択肢も考えられます。
企業年金連合会の早崎保浩理事長は、予定利率を引き上げて給付改善を検討する企業が出てくるとの見方を示しています。
企業年金連合会が2025年に公表した調査では、予定利率の引き上げ意向がある企業年金は約4%でした。
まだ大きな割合ではありません。
それでも長く続いた低金利時代には考えにくかった動きが出始めている点は重要です。
予定利率を上げれば自動的に年金が増えるわけではない
もっとも、予定利率が上がったからといって従業員の年金が自動的に増えるわけではありません。
予定利率の変更と給付額の変更は別の問題だからです。
実際に給付を増やすためには、企業年金の規約や給付設計などについて必要な見直しを行うことになります。
企業側は将来にわたって給付を続けられるかも考えなければなりません。
現在の金利が高いからといって、それが何十年も続く保証はありません。
予定利率を引き上げて給付も増やした後に再び金利が低下すれば、企業側の負担が重くなる可能性があります。
したがって、企業年金では短期的な金利水準だけではなく、長期的な運用環境を見ながら判断する必要があります。
インフレも給付見直しを促す
もう一つ重要なのが物価上昇です。
仮に毎年受け取る企業年金が100万円で変わらなくても、物価が上昇すれば100万円で購入できるモノやサービスは少なくなります。
つまり名目上の年金額が変わらなくても、実質的な価値は低下します。
企業年金には公的年金と同じように物価上昇がそのまま給付額へ反映されるとは限らない制度もあります。
インフレが続くほど、給付水準をどう維持するのかという問題が大きくなります。
金利上昇によって運用環境が改善すれば、その改善を加入者や受給者へどのように還元するのかという議論も出てきます。
会社員も予定利率を知る時代になる
これまで企業年金について、従業員が予定利率まで意識する機会は多くありませんでした。
しかし企業年金の運用状況や給付実績などを分かりやすくする見える化が進めば、状況は変わってきます。
自分の勤務先の企業年金がどのような前提で運営されているのか。
他社と比べてどのような違いがあるのか。
こうした情報を確認しやすくなれば、企業年金も給与や賞与、退職金などと同じように勤務先の待遇を判断する材料になっていきます。
特にインフレの時代には、将来受け取る金額だけではなく、その年金の実質的な価値が維持できるのかを見ることが重要です。
結論
予定利率とは、確定給付企業年金が将来の給付に必要な資金を準備する際に、運用によってどの程度の収益を得られるかを見込むための重要な前提です。
長く続いた低金利時代には、安全性の高い国内債券だけで十分な収益を得ることが難しく、予定利率を高く設定しにくい環境が続きました。
しかし金利上昇によって、国内債券でも一定の利回りを確保しやすくなっています。
その結果、予定利率を見直し、さらに給付改善まで検討する余地が生まれています。
ただし、予定利率の引き上げと給付額の増加は同じではありません。
金利が上がったから年金が自動的に増えるのではなく、企業年金の財政状況や将来の運用環境を踏まえて企業が判断します。
インフレと金利上昇が続く時代には、会社員にとっても予定利率は知っておきたい企業年金の重要な数字になりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年9月25日朝刊 インフレ下の企業年金(1)「企業、給付額増を検討」