予定利率を上げると企業年金は必ず増えるのか 運用利回りと給付額は同じではない理由編

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金利が上昇すると、確定給付企業年金であるDBでも予定利率を引き上げる余地が生まれます。

そこで気になるのが、予定利率が上がれば自分が将来受け取る企業年金も増えるのかという点です。

予定利率が1%から2%になれば、年金も増えるように感じるかもしれません。

しかし、予定利率の引き上げと年金給付額の増加は同じではありません。

予定利率は企業年金の財政計算に使う数字であり、給付額は別のルールによって決められているからです。

この違いを理解すると、金利上昇が企業年金にどのような影響を与えるのかが分かりやすくなります。

予定利率は企業年金の計算上の前提

DBでは、企業が従業員に将来一定のルールに基づいた年金を支払います。

そのため、将来必要になる資金を現在から積み立てなければなりません。

ただし、必要な資金をすべて掛金だけで準備するわけではありません。

積み立てた年金資産を長期間運用し、その運用収益も将来の給付に利用します。

そこで、将来どの程度の運用収益を見込むのかという前提が必要になります。

その重要な数字の一つが予定利率です。

予定利率が高くなれば、将来の運用収益をより多く見込む計算になります。

予定利率が低くなれば、運用収益をあまり見込まず、掛金などでより多くの資金を準備する必要があります。

運用利回りは実際の運用結果

予定利率と混同しやすいのが運用利回りです。

両者は似ていますが意味は違います。

予定利率は将来の財政計算に使う前提です。

一方、運用利回りは実際に年金資産を運用した結果です。

例えば予定利率を2%としていても、その年の実際の運用利回りが5%になることがあります。

反対にマイナスになることもあります。

株式市場、債券市場、為替相場などによって実際の運用成績は変動するからです。

つまり予定利率は目標や計算上の前提に近い数字であり、実際の運用成果そのものではありません。

予定利率を上げても給付額は自動的には増えない

ここが最も重要なところです。

予定利率を引き上げても、従業員が受け取る企業年金が自動的に増えるわけではありません。

DBの給付額は、それぞれの企業年金が定めている給付設計によって決まります。

勤続年数や給与、ポイントなどを使って計算する制度があります。

例えば給与と勤続年数を基準として年金額を決める制度であれば、予定利率だけを変更しても給付額の計算式そのものは変わりません。

予定利率は企業年金を支える財政面の数字です。

給付額は従業員にいくら支払うのかという制度面の数字です。

この2つを分けて考える必要があります。

では予定利率を上げる意味は何か

給付額が自動的に増えないのであれば、予定利率を上げても加入者には関係がないように思えるかもしれません。

しかし、そうではありません。

予定利率を引き上げられるほど運用環境が改善すれば、企業年金の財政にも余裕が生まれる可能性があります。

企業はその余裕をどのように使うのかを考えることになります。

企業側の掛金負担を抑える方法もあります。

将来の財政悪化に備えて余裕を残しておく方法もあります。

そして、給付水準を引き上げて加入者や受給者に還元するという選択肢も考えられます。

企業年金連合会の早崎保浩理事長が、予定利率を引き上げて給付改善を検討する企業が出てくる可能性を指摘しているのは、このためです。

運用が好調でも年金がすぐ増えるとは限らない

同じことは実際の運用利回りにもいえます。

例えば企業年金の運用が好調で、大きな運用益が出たとします。

だからといって、その利益がすぐに加入者の年金へ上乗せされるとは限りません。

企業年金は何十年という長期間にわたって給付を続ける制度です。

ある年に大きな利益が出ても、翌年に株価が下落して損失が出る可能性があります。

金利や為替も変動します。

そのため短期間の運用成績だけを見て恒久的に給付額を引き上げることには慎重な判断が必要です。

一度給付水準を引き上げれば、その給付を将来にわたって支える必要があるからです。

予定利率を高くしすぎるリスクもある

予定利率は高ければ高いほどよいわけでもありません。

例えば予定利率を3%としている企業年金が、実際には長期間1%程度しか運用できなかったとします。

当初見込んでいた運用収益を得られないため、年金財政に不足が生じる可能性があります。

その不足を誰かが埋めなければなりません。

DBでは企業側が追加の掛金を負担することになる場合があります。

予定利率を高く設定すると、現在必要となる掛金を抑えられる可能性がある一方、想定した運用収益を達成できなかったときのリスクも大きくなります。

企業年金にとって大切なのは、高い予定利率を設定することではなく、長期間にわたって現実的に達成できる水準を設定することです。

金利上昇で予定利率を見直しやすくなる

長期間の低金利時代には、この予定利率を高く設定することが難しい環境でした。

安全性の高い国内債券では十分な利回りを得にくかったからです。

ところが国内金利が上昇すると状況が変わります。

国債などでも以前より高い利回りを確保できるようになれば、企業年金全体として運用収益を見込みやすくなります。

為替リスクを負わず円建て資産で一定の収益を確保できる意味は大きいといえます。

その結果、予定利率そのものを見直せる企業年金が出てくる可能性があります。

インフレ時代には給付額の実質価値も重要

企業年金については、予定利率だけではなくインフレも考える必要があります。

例えば年間100万円の企業年金を受け取る制度があったとします。

10年後も100万円を受け取れるとしても、その間に物価が大きく上昇すれば100万円の実質的な価値は低下します。

名目上の年金額が減っていなくても、実際に購入できるモノやサービスが減るからです。

そのためインフレ時代には、企業年金の金額が維持されているかだけではなく、給付の実質的な価値が維持されているかを見る必要があります。

金利上昇によって運用環境が改善すれば、その成果を給付改善へどこまで反映するのかという問題も重要になります。

見える化で企業年金を比較する機会が増える

今後は企業年金の運用状況や給付実績などの見える化も進みます。

他社の企業年金がどのような運用を行い、どのような給付を行っているのかを確認しやすくなれば、自社の制度との違いも見えやすくなります。

ただし、単純に予定利率が高い会社ほど企業年金が優れていると判断することはできません。

予定利率、実際の運用利回り、給付水準、積立状況などを合わせて見る必要があります。

会社員にとって企業年金は給与明細には表れにくい報酬の一部です。

インフレと金利上昇によって、その中身を確認する重要性はこれまで以上に高まっています。

結論

予定利率を引き上げても、企業年金の給付額が自動的に増えるわけではありません。

予定利率は将来の運用収益をどの程度見込むのかという財政計算上の前提であり、実際の運用結果を示す運用利回りとも、従業員が受け取る給付額とも異なります。

ただし金利上昇によって運用環境が改善し、予定利率を引き上げられる状況になれば、企業年金の財政に余裕が生まれる可能性があります。

その余裕を企業の負担軽減に使うのか、将来に備えるのか、それとも給付改善として従業員へ還元するのかは、それぞれの企業年金の判断になります。

企業年金を見るときには、予定利率が何%なのかという数字だけではなく、実際の運用利回りや給付設計まで分けて考えることが重要です。

参考

日本経済新聞 2026年9月25日朝刊 インフレ下の企業年金(1)「企業、給付額増を検討」

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