生命保険会社は、契約者から受け取った保険料をそのまま保管しているわけではありません。
将来の保険金や給付金の支払いに備えて、国債や社債、株式などで運用しています。
そこで重要になるのが、単に高い利回りを得ることだけではありません。
いつ保険金を支払うのかという負債側の期間と、いつ投資した資金を回収するのかという資産側の期間をできるだけ合わせる必要があります。
この期間を考えるうえで重要になるのがデュレーションです。
デュレーションとは何か
デュレーションは、債券投資では非常に重要な指標です。
簡単にいえば、投資した資金を利息や元本として平均的に何年後に回収するのかを示します。
例えば、10年後に満期を迎える国債だからといって、必ずしもデュレーションが10年になるわけではありません。
途中で利息を受け取るため、その分だけ平均的な資金回収期間は満期より短くなります。
また、デュレーションには金利が変化したときに債券価格がどの程度動きやすいのかを測る役割もあります。
一般的にはデュレーションが長い債券ほど、金利変動による価格への影響が大きくなります。
生保には資産と負債の両方に期間がある
生命保険会社を理解する場合には、資産だけでなく負債にもデュレーションがあることが重要です。
生保にとって国債や社債などは資産です。
一方、契約者に将来支払う保険金や給付金は負債になります。
例えば、契約者から保険料を受け取り、平均して20年後に保険金を支払うとします。
この場合、生保は20年程度先に大きな支払いを予定していることになります。
そこで運用する資産についても、長期間にわたって収益を得られるものを組み合わせます。
この考え方が、生保が長期間の国債を大量に保有してきた理由の一つです。
なぜ期間を合わせる必要があるのか
仮に20年後に保険金を支払う必要があるのに、運用資産が5年国債ばかりだったとします。
5年後に国債が満期になれば、その資金を再び15年間運用しなければなりません。
問題は、その時点の金利が分からないことです。
5年後に金利が大幅に低下していれば、想定していた運用収益を確保できない可能性があります。
これを再投資リスクといいます。
反対に、比較的近い将来に保険金を支払う必要があるにもかかわらず、30年や40年の国債ばかり持っている場合も問題です。
保険金を支払うために満期前の国債を売却しなければならなくなる可能性があるからです。
その時点で金利が上昇して国債価格が下落していれば、損失を抱えた状態で売却することにもなりかねません。
だからこそ、生保は資産と負債の期間をできるだけ近づけようとします。
終身保険と超長期国債は相性がよかった
かつて生保の主力商品だった死亡保険や終身保険は、契約してから保険金を支払うまでの期間が非常に長くなることがあります。
例えば若い時期に終身保険へ加入すれば、保険金支払いが数十年先になる可能性があります。
生保にとっては非常に長期間の負債を抱えることになります。
その負債に対応するためには、資産側にも長期間の運用商品が必要です。
そこで20年国債や30年国債、40年国債といった超長期国債が重要な運用先になりました。
生保が日本の超長期国債市場で大きな存在感を持ってきた背景には、保険商品の構造そのものがあったわけです。
負債デュレーションが短くなっている
ところが、この構造に変化が起きています。
モルガン・スタンレーMUFG証券の試算によると、国内生保の負債デュレーションは2003年度の20.1年から2025年度には16.3年となりました。
約20年間で3.8年短くなっています。
第一生命保険では2021年3月末の21.2年から2026年3月末には13.8年へ短縮しました。
かんぽ生命保険でも2022年3月末の12.7年から2026年3月末には9.8年へ短くなっています。
負債の期間が短くなれば、それに対応する資産についても以前ほど長い期間を必要としなくなります。
なぜ負債が短くなったのか
背景には生命保険契約者の変化があります。
若年層の生命保険加入率が低下し、契約者の平均年齢が上昇しています。
若い人が減って高齢の契約者が増えれば、平均的にみて保険金や給付金を支払うまでの期間は短くなります。
さらに販売される保険商品も変化しました。
かつて主力だった長期の死亡保険に対して、現在は医療保険など第三分野の商品が重要になっています。
医療保険などでは、終身保険よりも保険会社が想定するキャッシュフローの期間が短くなる場合があります。
加入者の年齢と商品の両面から、生保の負債構造が変化しているのです。
負債が短くなれば10年国債も使いやすくなる
負債デュレーションが20年程度だった時代には、10年国債だけでは資産と負債の期間を合わせにくいという問題がありました。
そのため、生保にとって20年国債や30年国債などの超長期国債が重要でした。
しかし負債デュレーションが短くなれば事情は変わります。
10年程度の国債を組み入れても、資産と負債の期間を合わせやすくなります。
しかも現在は金利が上昇し、10年国債でも相応の利回りを確保できる環境になっています。
負債の短期化と金利上昇が同時に進んだことで、生保にとって中長期国債の魅力が高まっているわけです。
デュレーションを見ると生保の国債運用が分かる
生保がどの国債を買うのかを考える場合、単純にどの国債の利回りが高いのかだけを見ると本質を見失います。
生保には将来支払わなければならない保険金があります。
そのため資産運用では、利回りだけでなく負債との期間の整合性が重要になります。
負債デュレーションが長くなれば長い国債が必要になります。
反対に負債デュレーションが短くなれば、短い国債を購入する余地が広がります。
つまり、生保の国債購入行動を理解する鍵の一つがデュレーションなのです。
結論
生命保険会社にとってデュレーションとは、単なる債券投資の専門用語ではありません。
将来の保険金支払いと資産運用を結び付ける重要な考え方です。
長期間先に保険金を支払うのであれば、長期間運用できる資産を持つ必要があります。そのため、生保は長年にわたり超長期国債の代表的な買い手となってきました。
しかし、若年層の生保離れや契約者の高齢化、販売商品の変化によって負債デュレーションは短くなっています。
負債が短くなれば、それに合わせて運用資産も短くできます。
生保が10年以下の国債へ資金を振り向け始めている背景には、この資産と負債の期間を合わせるという基本原則があります。
生保の国債運用を理解するには、金利だけではなく、保険金をいつ支払うのかという負債側を見ることが重要なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月25日 朝刊 生保運用、「短い国債」に食指