新築マンションの短期転売対策を税制で考えるとき、見落としてはいけないのが購入者の違いです。
マンションを購入するのは個人だけではありません。
不動産会社や投資会社などの法人がマンションを取得し、値上がり後に売却するケースもあります。
個人がマンションを売却した場合には、所有期間によって短期譲渡所得と長期譲渡所得に分かれます。
一方、法人には個人と同じ仕組みはありません。
短期転売を税制によって抑制するのであれば、個人と法人の違いを考える必要があります。
個人は譲渡所得として課税される
個人が土地や建物を売却して利益を得た場合、その利益は原則として譲渡所得として扱われます。
不動産の譲渡所得は、給与所得などの他の所得とは分けて税額を計算する分離課税です。
そして重要なのが所有期間です。
売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下であれば、原則として短期譲渡所得になります。
5年を超えていれば長期譲渡所得です。
短期間で売却するほど税負担が重くなる仕組みが設けられています。
個人の短期譲渡所得は39%
個人の短期譲渡所得には、所得税30%と住民税9%を合わせて39%の税率が適用されます。
これに復興特別所得税が加わります。
一方、長期譲渡所得は所得税15%と住民税5%を合わせて20%です。
こちらにも復興特別所得税が加わります。
短期39%と長期20%では19ポイントもの差があります。
個人については、長期間保有してから売却する方が税率面で有利になる制度になっています。
法人には短期と長期という同じ区分はない
一方、法人がマンションを売却した場合は考え方が異なります。
法人税では、個人の不動産譲渡所得のように、所有期間が5年以下だから39%、5年を超えたから20%という同じ区分で課税する仕組みにはなっていません。
法人がマンションを売却して得た利益は、原則として法人の所得の一部として計算されます。
本業による利益や他の取引による損益などと合わせて法人全体の所得を計算し、法人税などが課されます。
つまり個人と法人では、不動産売却益に対する課税の基本構造そのものが違います。
法人は他の損益と通算される
この違いは重要です。
個人の土地や建物の譲渡所得は原則として分離課税されます。
一方、法人ではマンション売却による利益だけを切り離して税額を計算するわけではありません。
例えばマンション売却で利益が出ても、法人の他の事業で損失が生じていれば、法人全体の所得は小さくなる場合があります。
反対に本業でも大きな利益が出ていれば、それらを含めた所得に法人税などが課されます。
法人によるマンション取引を考える場合には、物件単体の売却益だけで税負担を判断することはできません。
個人向けの課税強化だけでは資金が法人へ移る可能性
ここから短期転売対策の問題が見えてきます。
仮に購入後1年以内のマンション売却について、個人の税率だけをさらに引き上げる制度が導入されたとします。
個人で短期売買することが不利になれば、投資家が法人を利用する動機が強まる可能性があります。
もちろん法人を設立すれば必ず税負担が軽くなるわけではありません。
法人の設立費用や維持費用もかかりますし、法人から個人へ資金を移す段階の課税なども考える必要があります。
それでも個人と法人で制度上の差が大きくなれば、その差を意識した取引形態が選ばれる可能性があります。
法人だけ除外すると政策効果が弱くなる
短期転売を抑制する目的で税制を導入するのであれば、誰が取引したかだけで大きな差が生じる制度には注意が必要です。
個人による購入には追加的な負担があるのに、法人による購入には同じ負担がなければ、法人を使った取引へ資金が移る可能性があります。
その結果、個人の短期売買件数は減っても、マンション市場全体の投機的な需要は十分に減らないことも考えられます。
制度を評価するときには、個人の取引件数だけを見るのではなく、法人を含めた市場全体を見る必要があります。
法人まで対象にすると事業者との区別が問題になる
それなら法人にも同じように追加課税すればよいのでしょうか。
ここにも難しい問題があります。
法人の中には投資目的でマンションを購入する会社だけでなく、不動産の売買そのものを事業としている会社があります。
中古住宅を購入してリフォームし、付加価値を高めて販売する事業者もいます。
こうした事業者にとって、短期間で不動産を売却することは通常の事業活動です。
短期売買という理由だけで一律に負担を重くすると、正常な不動産流通まで抑えてしまう可能性があります。
投機と事業をどう区別するのか
個人では投機と実需の区別が難しいという問題がありました。
法人では、さらに投機と通常の事業活動を区別する必要があります。
単純に保有期間だけを見ると、販売用不動産を扱う事業者の多くが短期売買に該当する可能性があります。
一方、法人による資産運用目的の短期転売だけを正確に区別することも簡単ではありません。
どの物件を対象とするのか。
どのような法人を対象とするのか。
販売事業者を除外するのか。
税制によって短期転売を抑える場合には、こうした細かな制度設計が必要になります。
取引主体まで見る必要がある
新築マンション価格の高騰を分析するときには、短期売買の件数だけではなく、誰が購入しているのかも重要になります。
個人なのか法人なのか。
自宅として購入しているのか投資目的なのか。
不動産事業者による仕入れなのか。
同じ購入後1年以内の売却でも、取引の意味は異なります。
税制改正を検討する場合には、取引期間だけでなく取引主体や取引目的までどこまで把握できるのかがポイントになります。
結論
個人と法人では、マンション売却益に対する課税の仕組みが異なります。
個人の場合、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下なら原則として短期譲渡所得となり、所得税30%と住民税9%を合わせて39%の税率が適用されます。
一方、法人には個人と同じ5年を基準とした短期譲渡所得と長期譲渡所得の区分はなく、マンション売却による利益は原則として法人全体の所得の中で課税されます。
そのため短期転売への税制措置を個人だけに設けると、取引が法人へ移る可能性があります。
反対に法人まで一律に対象とすれば、不動産売買を通常の事業として行っている事業者にも影響します。
マンションの短期転売対策では、何年以内に売却したかだけではなく、誰が、どのような目的で取引しているのかまで考えた制度設計が重要になります。
参考
税のしるべ 2026年9月14日 国交省が新築マンション高騰対応で税制措置を要望、主に短期売買を問題視か