企業の設備投資を支援する税制では、特別償却と税額控除という2つの仕組みがよく登場します。
令和8年度税制改正で創設された大胆な投資促進税制でも、一定の要件を満たす設備について、即時償却と税額控除の選択適用が認められています。
機械装置などでは取得価額の7%、建物、建物附属設備、構築物については4%相当額の税額控除を選択できます。
即時償却も税額控除も法人税負担を軽くする制度ですが、その仕組みは大きく異なります。
即時償却は課税所得を減らす制度です。
これに対して税額控除は、計算された法人税額そのものから一定額を直接差し引く制度です。
この違いを理解すると、なぜ企業によって有利な選択肢が変わるのかが見えてきます。
税額控除とは何か
法人税は、大まかにいえば会社の課税所得に税率を掛けて計算します。
通常は、売上などの益金から費用などの損金を差し引いて所得を求め、その所得を基礎として法人税額を計算します。
税額控除は、そのようにして計算された法人税額から一定額を直接差し引く仕組みです。
つまり、税額控除額が100万円なら、一定の適用限度などを考慮する必要はありますが、基本的な考え方として法人税額を100万円減らす方向に働きます。
ここが減価償却などによって課税所得を減らす仕組みとの大きな違いです。
所得を減らす制度と税額を減らす制度は違う
たとえば100万円の損金が追加で認められたとします。
課税所得は100万円減りますが、法人税が100万円減るわけではありません。
税負担の減少額は、その100万円に対して適用される税率などによって決まります。
一方、100万円の税額控除が適用できれば、基本的には計算された法人税額から100万円を直接差し引くことになります。
つまり、
損金算入は税金を計算する前の所得を減らす仕組みです。
税額控除は計算した後の税額を減らす仕組みです。
設備投資税制を理解するときには、この違いが非常に重要になります。
大胆な投資促進税制では7%または4%
大胆な投資促進税制では、一定の特定機械装置等について税額控除を選択できます。
機械装置、工具、器具備品、一定のソフトウエアなどについては、取得価額の7%相当額が基本となります。
一方、建物、建物附属設備、構築物については取得価額の4%相当額です。
たとえば、税額控除の対象となる機械装置を1億円で取得したとします。
単純計算では、
1億円に7%を掛けた700万円
が税額控除額の計算の基礎になります。
建物などを1億円で取得した場合には、
1億円に4%を掛けた400万円
が計算の基礎になります。
大規模な設備投資になるほど、この割合の違いによる金額差も大きくなります。
即時償却は課税所得を減らす
これに対して即時償却は、法人税額から一定額を直接差し引く制度ではありません。
対象設備について、通常なら将来の年度に計上する減価償却費を早い段階で計上することによって、その年度の課税所得を圧縮します。
たとえば1億円の設備について、通常より8,000万円多く初年度に償却できたとします。
課税所得は8,000万円減少します。
しかし、法人税が8,000万円減るわけではありません。
実際に軽減される税負担は、その会社に適用される税率などによって変わります。
この点が税額控除との決定的な違いです。
即時償却には課税の繰延べという性格がある
即時償却では、本来は将来の年度に計上する予定だった減価償却費を先に計上します。
初年度の課税所得は大きく減りますが、その代わり、その後の年度に計上できる減価償却費は少なくなります。
したがって、設備の使用期間全体で考えると、即時償却によって損金になる総額そのものが大きく増えるわけではありません。
費用計上の時期を前倒しすることで、法人税を支払う時期を後ろへずらす効果が中心となります。
これを課税の繰延べと考えることができます。
税額控除は税負担そのものを減らす
税額控除は考え方が異なります。
一定の要件や限度の範囲内で法人税額から直接差し引くため、適用できた税額控除額については税負担そのものを軽減する効果があります。
将来の減価償却費を先に使っているわけではありません。
そのため、税額控除と即時償却を比較するときには、単年度の法人税額だけを見るのではなく、設備を使用する期間全体で考える必要があります。
即時償却によって今年いくら法人税が減るのか。
将来の法人税負担はどうなるのか。
税額控除なら実際にいくら控除できるのか。
こうした違いを比較する必要があります。
税額控除額を単純計算するだけでは判断できない
取得価額1億円の機械なら7%で700万円だから、必ず700万円の法人税が減ると考えるのは早計です。
税額控除制度には、実際に控除できる金額について一定の限度などが設けられることがあります。
そもそも控除前の法人税額が十分になければ、計算上の税額控除額をそのまま利用できない場合もあります。
そのため、取得価額に7%や4%を掛けただけで最終的な節税額を判断することはできません。
実際の適用では、その法人の所得や法人税額、制度上の控除限度などを確認する必要があります。
利益が大きい企業ほど選択肢を比較する意味が大きい
設備投資を行う年度に十分な利益がある企業では、即時償却と税額控除の双方を比較する意味が大きくなります。
即時償却を選べば、その年度の課税所得を大幅に圧縮できる可能性があります。
税額控除を選べば、法人税額から一定額を直接差し引くことができます。
一方、利益が少ない企業では状況が変わります。
課税所得や法人税額が小さければ、それぞれの制度による効果を十分に生かせない可能性があります。
したがって、設備投資額だけではなく、その年度と将来の利益見通しを含めて考えることが重要になります。
キャッシュフローにも違いが出る
企業にとって重要なのは、会計上の利益だけではありません。
実際に会社にいくら現金が残るのかというキャッシュフローも重要です。
即時償却によって設備投資直後の法人税負担を抑えることができれば、会社に資金を残しやすくなります。
その資金を次の投資や研究開発、人材採用などへ回すこともできます。
一方、税額控除は法人税額そのものを直接減らすため、適用できれば税負担を軽減する効果が明確です。
どちらもキャッシュフローを改善する方向に働きますが、その仕組みと時間軸は異なります。
どちらが有利かは会社ごとに違う
即時償却と税額控除のどちらが有利かについて、一律の答えはありません。
設備投資をした年度に大きな利益があり、当面の資金負担をできるだけ軽くしたい企業では、即時償却の効果が重要になることがあります。
一方、長期的な税負担そのものを考えると、税額控除が魅力的になる場合があります。
現在の所得だけでなく、将来の利益見通し、資金繰り、投資計画、控除限度などを含めて比較する必要があります。
大胆な投資促進税制は、設備を購入すれば自動的に最も有利な税制が適用される制度ではありません。
企業自身が選択するからこそ、事前のシミュレーションが重要になります。
結論
税額控除とは、計算された法人税額から一定額を直接差し引く仕組みです。
大胆な投資促進税制では、機械装置などについて取得価額の7%、建物、建物附属設備、構築物について4%相当額の税額控除を選択できます。
一方、即時償却は法人税額を直接減らす制度ではありません。
将来計上する減価償却費を早期に計上することで課税所得を減らし、法人税を支払う時期を後ろへずらす効果が中心です。
つまり、即時償却は課税所得を減らす仕組み、税額控除は税額そのものを減らす仕組みと整理すると分かりやすくなります。
同じ設備投資でも、どちらを選ぶかによって法人税とキャッシュフローへの影響は変わります。
次に重要になるのは、実際に即時償却と税額控除のどちらを選べばよいのかという問題です。
企業の利益水準や将来の収益を含めて比較することで、2つの制度の違いがさらに明確になります。
参考
税のしるべ 2026年9月14日 8年度法人税関係法令の改正対応で措置法通達、大胆な投資促進税制関係など
国税庁 2026年9月4日 租税特別措置法関係通達 法人税編 の一部改正について