店の売上が100万円あれば、100万円のお金が手元にある。
現金商売であれば、このような感覚でも大きな違和感はありません。
しかし、キャッシュレス決済の割合が高くなると事情が変わります。
売上はすでに発生しているのに、その代金はまだ銀行口座に入っていないという状態が増えるからです。
そのため、売上高だけを見て店の資金繰りを判断することが難しくなります。
今回の参考記事では、決済サービス会社である全東信の破産によって、サービスを利用していた加盟店の中に最大で1カ月分の売上代金が入金されない店舗が出たとされています。
キャッシュレス比率が高くなるほど、店舗経営では売上を管理するだけでなく、いつ、いくら入金されるのかを管理することが重要になるのです。
キャッシュレス比率とは何か
キャッシュレス比率とは、店舗の売上のうち、現金以外の決済がどの程度を占めているのかを見る考え方です。
たとえば1日の売上が100万円だったとします。
このうち現金売上が30万円、キャッシュレス売上が70万円なら、キャッシュレス決済が売上の大部分を占めています。
現金で受け取った30万円は、その時点で店舗の手元資金になります。
しかし、キャッシュレスで決済された70万円については、顧客が支払い手続きを終えたからといって、同じ瞬間に店舗の銀行口座へ70万円が入るわけではありません。
後日、決済の仕組みを通じて店舗へ入金されます。
つまり、キャッシュレス比率が高くなるほど、売上高と実際に受け取った現金との間に時間差が生まれやすくなります。
売上と現金残高は同じではない
店舗経営では、売上と現金を分けて考えることが重要です。
たとえば月間売上が1000万円だったとします。
そのうち800万円がキャッシュレス決済だったとします。
月末までに800万円がすべて入金されているとは限りません。
売上高としては1000万円でも、銀行口座に1000万円が増えているわけではないのです。
一方、店舗では売上代金の入金を待っている間にも支払いが発生します。
食材を仕入れます。
従業員へ給与を支払います。
店舗の家賃や水道光熱費も支払います。
売上が十分にあったとしても、必要な日に現金がなければ支払いはできません。
キャッシュレス比率が高い店舗では、売上高だけでなく現預金残高を別に確認する必要があります。
未入金売上が増えるということ
キャッシュレス決済が増えると、まだ店舗へ入金されていない売上代金も大きくなる可能性があります。
単純な例で考えてみます。
月間売上1000万円の店舗で、キャッシュレス比率が20パーセントなら、キャッシュレス売上は200万円です。
80パーセントなら800万円です。
同じ売上高1000万円でも、後から入金される売上の規模は大きく違います。
キャッシュレス比率が高いほど、決済事業者などを通じて後から受け取る金額が大きくなるわけです。
通常通り予定日に入金されている間は、大きな問題を感じないかもしれません。
しかし、何らかの理由で入金が遅れたり止まったりすると、その影響も大きくなる可能性があります。
今回の参考記事は、まさにその問題を示しています。
全東信の破産で入金が止まった
全東信は、飲食店を中心とするクレジットカード加盟店に対して、カード会社より先に売上代金を入金するサービスを提供していました。
加盟店から見れば、カード売上を早く現金化できるため、資金繰りに役立つサービスだったと考えられます。
しかし、全東信は2026年7月に自己破産しました。
参考記事では、同社のサービスを利用していた加盟店の中に、最大で1カ月分の売上代金が入金されない店舗が出たとされています。
ここで重要なのは、店舗に売上がなかったわけではないという点です。
顧客は飲食などのサービスを利用しています。
カード決済も行っています。
それでも店舗が予定していた売上代金を受け取れない事態が起きました。
売上と現金は別物であることが、非常に分かりやすく表れた事例です。
キャッシュレス比率が高いほど入金停止の影響も大きくなる
仮に月間売上1000万円の店舗が二つあるとします。
A店のキャッシュレス売上が200万円、B店が800万円だったとします。
同じ期間のキャッシュレス売上に入金トラブルが発生した場合、単純に考えればB店の方が影響を受ける金額は大きくなる可能性があります。
もちろん、実際の影響は決済サービスの利用状況や入金条件などによって異なります。
しかし、キャッシュレス売上の割合が高くなれば、決済の仕組みを経由して受け取る資金の重要性も高まります。
キャッシュレス化によって決済が便利になる一方、店舗の資金繰りが決済インフラに依存する度合いも高まるわけです。
入金予定表を管理する意味
そこで重要になるのが、入金予定の管理です。
売上高を見るだけではなく、
いつ
いくら
入金される予定なのか
を把握します。
たとえば月曜日に50万円、水曜日に80万円、金曜日に100万円が入る予定だと分かっていれば、それに合わせて支払い予定を確認できます。
一方、今月の売上は1000万円だったという情報だけでは、来週の300万円の支払いに対応できるかどうかは分かりません。
資金繰りで必要なのは、売上の大きさだけではなく、入金と支払いのタイミングだからです。
キャッシュレス比率が高い店舗ほど、この入金予定の管理が重要になります。
入金予定と実際の入金を照合する
入金予定表を作るだけでは十分ではありません。
予定日に本当に入金されたかを確認することも重要です。
たとえば100万円が入る予定だった日に98万円しか入っていなければ、その理由を確認する必要があります。
決済に伴う手数料などが関係している場合もあります。
あるいは予定していた入金そのものが行われていない可能性もあります。
重要なのは、
売上はいくらだったか
入金予定はいくらだったか
実際にいくら入ったか
という三つを分けて見ることです。
こうすることで、売上と現金のずれを把握しやすくなります。
資金繰りでは未来の現金残高を見る
資金繰り管理では、今日の銀行残高だけを見るのでも十分ではありません。
これから入ってくるお金と、これから出ていくお金を合わせて考える必要があります。
現在の現預金が500万円あるとします。
来週までに300万円が入金される予定なら、単純化すれば利用できる資金は800万円になります。
しかし同じ期間に給与400万円、仕入代金250万円、家賃100万円を支払う予定なら、750万円が出ていきます。
予定通り300万円が入れば支払えるかもしれません。
ところが、その300万円の入金が突然止まれば事情は一変します。
現在500万円あるから大丈夫ではありません。
将来の入金と支払いまで含めて、現金残高がどう動くのかを見る必要があります。
決済会社も資金繰り管理の対象になる
従来、会社の資金繰りでは取引先からいつ代金を回収できるのかが重要でした。
キャッシュレス化が進むと、それに加えて決済に関係する事業者からの入金も重要になります。
今回の参考記事では、全東信の破産によって一部の加盟店に売上代金の未入金が発生しました。
さらにカード決済が利用できなくなることで客離れを招き、資金繰りに支障を来す事業者が多数出る可能性も指摘されています。
キャッシュレス比率が高い店舗ほど、
どの決済サービスにどれだけ依存しているのか
どれだけの金額が未入金になっているのか
次の入金日はいつなのか
という情報の重要性が高まります。
キャッシュレス決済を売上を増やすための手段として見るだけでなく、資金繰りの一部として管理する必要があるのです。
結論
キャッシュレス比率が高い店舗ほど資金繰り管理が重要になるのは、売上が発生する時点と現金を受け取る時点が一致しなくなるからです。
現金決済なら、基本的には顧客が支払った時点で店舗に現金が入ります。
一方、キャッシュレス決済では、顧客が支払いを終えても店舗への入金は後になります。
キャッシュレス比率が高くなれば、それだけ未入金の売上代金も大きくなる可能性があります。
今回の参考記事では、全東信の破産によって、サービスを利用していた加盟店の中に最大で1カ月分の売上代金が入金されない店舗が出たとされています。
店舗には売上があっても、予定していた現金が入ってこなければ、給与や仕入代金、家賃などの支払いに影響します。
だからこそキャッシュレス時代の店舗経営では、売上高だけを見るのでは十分ではありません。
入金予定額、入金日、実際の入金額、現預金残高、今後の支払予定を一緒に管理する必要があります。
キャッシュレス比率が高くなるほど、売上を管理する経営から、売上と現金の両方を管理する経営へ変わる必要があるのです。
参考
企業実務 2026年9月 キャッシュレス時代の盲点 懸念される小規模飲食店の連鎖倒産