利益を出し続ける会社ほど相続税評価額が上がるのか 内部留保と自社株評価の関係編

税理士
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会社を経営するなら、利益を出し続けることは重要です。

利益が出れば、従業員への給与を増やすこともできます。

設備投資をすることもできます。

借入金を返済することもできます。

将来の不況に備えて会社に資金を残すこともできます。

ところが、中小企業のオーナーにとっては、利益を積み重ねることが別の問題につながる場合があります。

それが自社株の評価です。

会社が利益を出し、その利益を内部に蓄積すると、純資産が増えていきます。

さらに、今後検討されている残余利益方式によって収益力がより強く評価されることになれば、利益を安定して生み出している会社ほど自社株の評価額が上昇する可能性があります。

これは、企業経営と相続税の関係を考えるうえで重要なテーマです。

利益は会社の中に残る

会社が利益を出したからといって、その利益がすべて経営者個人の預金になるわけではありません。

利益の一部を配当することもありますが、配当せずに会社に残すこともあります。

例えば、年間5,000万円の利益を出した会社が、その利益の多くを会社内部に残したとします。

その資金は現預金として残ることもあります。

設備投資に使われることもあります。

借入金の返済に充てられることもあります。

結果として、会社の財務基盤が強くなっていきます。

内部留保とは何か

「内部留保」という言葉を聞くと、会社がどこかに現金を積み立てているように感じるかもしれません。

しかし、内部留保は特定の銀行口座に保管されている現金そのものを意味するわけではありません。

これまでの利益のうち、配当などで社外に流出せず会社内部に蓄積された部分を指す考え方です。

その利益が現金として残っている場合もあれば、設備や不動産などの資産に姿を変えている場合もあります。

会社の利益が積み上がれば、結果として純資産の増加につながることがあります。

純資産が増えると株式評価に影響する

非上場株式の評価では、純資産が重要な要素の一つです。

会社の資産から負債を差し引いた純資産が大きくなれば、会社の財務基盤が強くなっていることを意味します。

類似業種比準方式でも、配当、利益、純資産が評価要素として使われています。

したがって、利益を積み重ねて純資産が増えることは、自社株評価に影響する可能性があります。

会社としては健全になっているのに、オーナー個人の相続税評価額は上がる可能性があるということです。

利益が出ることと現金が増えることは同じではない

ここも重要です。

例えば、会社が1億円の利益を出したとしても、その1億円がすべて現預金として残っているとは限りません。

設備投資をしていれば、現金は設備に変わっています。

借入金を返済していれば、負債が減っています。

売掛金として回収前になっている場合もあります。

つまり、利益が増えたことと、納税に使える現金が同じ金額だけ増えることはありません。

ところが、利益が積み上がれば、株式評価には影響する可能性があります。

ここに非上場会社の事業承継の難しさがあります。

収益力も評価される可能性がある

現在の類似業種比準方式では、利益そのものが評価要素になっています。

さらに今回検討されている残余利益方式では、会社が将来生み出す収益力をより直接的に企業価値へ反映させる考え方が取り入れられようとしています。

つまり、現在の純資産だけでなく、会社が利益を生み出す力そのものがより重要になる可能性があります。

そうなると、利益を安定して生み出している会社ほど評価額が高くなる可能性があります。

成長企業ほど評価額が上がる可能性

例えば、毎年3,000万円の利益を出している会社と、毎年1億円の利益を出している会社があるとします。

同じ業種で、その他の条件が近ければ、収益力を重視する評価方法では後者の方が高く評価される方向に働きます。

さらに、利益を会社内部に残しているのであれば、純資産も増えていきます。

つまり、

利益が増える

純資産が増える

収益力も高く評価される

という複数の経路から株式評価額に影響する可能性があります。

もちろん、実際の評価額は具体的な制度設計によって決まります。

ここでは、残余利益方式の考え方から見た構造を理解することが重要です。

会社を成長させた経営者ほど問題になる

中小企業の経営者の中には、長年かけて会社を成長させてきた人がいます。

創業当初は小さな会社だったものが、従業員を増やし、売上を伸ばし、利益を積み上げてきた。

会社に現金や設備などの資産も蓄積されています。

こうした会社では、経営者が保有する自社株の評価額も高くなっている可能性があります。

会社を成長させたこと自体は、企業としてはプラスです。

しかし、相続という場面になると、その企業価値の高さが相続税評価額という形で表れてきます。

「優良企業ほど相続税が重くなる」という問題

ここで、事業承継特有の問題が出てきます。

会社の業績が悪ければ、自社株の評価額も低くなる可能性があります。

一方、会社が利益を出し続け、純資産も増えていると、自社株の評価額が高くなる可能性があります。

つまり、経営者が会社を健全に成長させるほど、相続時の自社株評価が高くなる可能性があるのです。

もちろん、これは「優良企業だから不利」という単純な話ではありません。

会社の価値が高い以上、株式の価値も高くなるという面があります。

問題は、その株式価値に対応する現金が相続人の手元にあるとは限らないことです。

自社株は換金しにくい

非上場株式の大きな特徴が、換金性の低さです。

上場株式であれば、市場で売却できます。

しかし、非上場会社の株式では、自由に売買できる市場がありません。

特に経営権を持つ株式を第三者に売却することは、会社経営そのものを変える可能性があります。

後継者に会社を引き継ぎたいのであれば、なおさら簡単には売却できません。

そのため、相続税評価額が高くても、その金額を現金化できるとは限りません。

株式評価額と納税資金は別問題

例えば、自社株の評価額が3億円になったとします。

これは税務上の評価額です。

経営者が3億円の現金を持っていることを意味するわけではありません。

会社の株式という形で3億円の価値を持っているだけかもしれません。

ところが、その株式を相続すれば相続税の計算上、課税対象となります。

このため、事業承継では「株価はいくらか」だけではなく、「納税資金をどうするか」まで考える必要があります。

会社の現金を相続人が自由に使えるわけではない

会社に多額の現金があったとしても、その現金は会社の財産です。

経営者個人の財産ではありません。

経営者が亡くなったからといって、相続人が会社の預金を自由に引き出して相続税を支払えるわけではありません。

会社から配当を受ける方法などはありますが、会社法や税務など別の問題が生じます。

この点も、非上場会社の事業承継が難しい理由です。

利益を出さない方がよいという話ではない

ここで誤解してはいけないのが、相続税評価額を下げるために利益を出さない方がよいという話ではないことです。

会社経営では、利益を出して財務基盤を強くすることが重要です。

従業員の雇用を守るためにも、設備投資を行うためにも、利益は必要です。

税負担だけを理由に経営判断を変えると、会社そのものの競争力を損なう可能性があります。

重要なのは、会社を成長させながら、将来の事業承継についても早い段階から準備することです。

配当すれば株式評価は下がるのか

利益が出た場合、配当として株主に還元する方法があります。

しかし、配当を増やせば必ず自社株評価が下がるという単純な話ではありません。

配当を増やすことで会社内部に残る利益が減る一方、株主への配当額そのものが評価要素に影響する場合があります。

また、配当を行えば会社から資金が流出します。

事業に必要な資金まで配当に回してしまえば、会社の財務基盤を弱くする可能性があります。

したがって、配当政策と自社株評価は、会社経営全体の中で考える必要があります。

内部留保にも経営上の意味がある

内部留保は、単純に「税金を増やす原因」と考えるべきものでもありません。

会社が現金を蓄えておけば、景気が悪化したときの資金繰りに使えます。

設備投資にも使えます。

新規事業への投資にも使えます。

借入金の返済にも使えます。

つまり、内部留保は企業の経営安定性を高める役割があります。

その一方で、内部留保が積み上がれば純資産が増え、自社株評価に影響する可能性があります。

ここに経営と税務の難しいバランスがあります。

残余利益方式では収益力も重要になる

今回の見直し議論で特に注目されているのは、純資産だけでなく収益力を評価する点です。

会社が現在どれだけの財産を持っているのか。

それだけでなく、その財産を使ってどれだけ利益を生み出せるのか。

この両方を見ることで、会社の価値を評価しようとしています。

そのため、利益を出し続けている企業では、評価額への影響が大きくなる可能性があります。

ただし「利益が多いほど必ず評価額が上がる」とは限らない

実際の制度では、さまざまな計算要素が関係します。

会社の規模、業種、純資産、配当、利益などによって評価結果は異なります。

残余利益方式についても、還元率や将来利益の計算方法などが決まらなければ、具体的な評価額は分かりません。

したがって、現段階で「利益が多い会社は必ず大幅増税になる」と断定することはできません。

重要なのは、どの企業にどの程度の影響が出るのかを具体的な試算で確認することです。

事業承継は早くから考える必要がある

自社株評価の問題は、経営者が高齢になってから初めて考えればよいものではありません。

会社が成長すればするほど、自社株の評価額が上がる可能性があります。

後継者への株式移転にも時間がかかります。

事業承継税制を利用する場合も、要件の確認や手続きが必要です。

そのため、会社が順調な時期から自社株の評価と事業承継をセットで考えることが重要になります。

結論

利益を出し続ける会社では、利益の蓄積によって純資産が増える可能性があります。

現在の類似業種比準方式でも、利益と純資産は株式評価の重要な要素です。

さらに、今回検討されている残余利益方式では、会社の収益力そのものをより直接的に評価する方向が示されています。

そのため、安定して利益を生み出し、内部留保を積み上げてきた企業では、自社株評価額が大きく変わる可能性があります。

ただし、評価額が上がることと、経営者個人がその金額の現金を持っていることは別です。

非上場株式は換金性が低いため、評価額の上昇は事業承継時の納税資金という問題につながります。

一方で、内部留保は会社の経営を安定させる重要な役割を持っています。

利益を出さない、あるいは必要以上に配当することが解決策になるわけではありません。

重要なのは、会社を成長させる経営と、将来の事業承継に備えた自社株対策を両立させることです。

次回は、自社株評価が上昇すると、なぜ事業承継そのものが難しくなる可能性があるのかを取り上げます。

株式評価額、相続税、納税資金、後継者という4つの問題をつなげて考えます。

参考

税のしるべ 2026年9月14日 財務省主税局で相続税・贈与税等の企画・立案に従事した高橋達也氏に取引相場のない株式の評価見直しについて聞く

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