生成AIを経理業務に導入すると、最初にぶつかりやすい問題があります。
生成AIに作業をさせても、その結果を経理担当者が一件ずつ確認しているのであれば、結局は二度手間になるのではないかという問題です。
たとえば100件のデータを生成AIにチェックさせた後、人間が同じ100件をもう一度チェックするのであれば、生成AIを導入した効果を感じにくいでしょう。
しかし、だからといって最初から人間のチェックをなくすこともできません。
参考記事では、導入当初は人間の手作業と生成AIの出力を並行して動かし、答え合わせを行いながら精度を高め、信頼できる部分を徐々にチェック対象から外していく方法が示されています。
重要なのは、最初から百パーセントの自動化を目指すのではなく、人間が確認する範囲を段階的に減らしていくことです。
導入初期に全件確認する理由
生成AIを新しい経理業務に利用するときには、まず生成AIがどの程度正確に処理できるのかを確認する必要があります。
たとえば100件のデータについて、生成AIに一定のチェックをさせるとします。
最初の段階では、人間も100件を確認します。
一見すると二度手間です。
しかし、この段階の目的は作業時間を削減することだけではありません。
生成AIがどのようなケースなら正しく判断できるのか。
どのようなケースで間違えるのか。
どのような指示を出すと精度が上がるのか。
こうした特徴を確認することに意味があります。
参考記事でも、最初は人間の手作業と生成AIの出力を並行して動かし、正解パターンを学習させるという考え方が示されています。
最初の全件確認は無駄な二重作業ではなく、生成AIを業務で安全に利用できるかを検証する期間と考えることができます。
AIと人間を並行して動かす
生成AI導入の初期段階では、人間の仕事をいきなり生成AIへ置き換えるのではなく、両方を並行して動かします。
たとえば経理担当者がこれまで100件のデータをチェックしていたとします。
従来通り人間がチェックする一方で、同じ100件を生成AIにもチェックさせます。
そして結果を比較します。
人間が問題ありと判断したものを生成AIも見つけられたのか。
生成AIだけが問題として指摘したものは本当に問題だったのか。
どのようなケースで見落としが発生したのか。
こうした答え合わせを繰り返します。
この作業によって、単純に「生成AIは使える」「生成AIは使えない」と判断するのではなく、どこまでなら任せられるのかを把握できます。
生成AIが得意な処理と不得意な処理を見極めるわけです。
百パーセントを目指さないとはどういうことか
経理では正確性が重要なので、「生成AIの精度が百パーセントにならなければ使えない」と考えてしまうことがあります。
しかし、参考記事では百パーセントを目指さないことがポイントとして示されています。
これは、経理の数字が間違っていても構わないという意味ではありません。
生成AIだけですべてを処理し、人間の確認を完全になくすことを最初から目標にしないという意味です。
たとえば100件のうち、一定の条件に該当する50件については生成AIで安定して処理できることが分かったとします。
残り50件については、人間の判断が必要だとします。
それでも人間が確認する件数は100件から50件になります。
参考記事でも、100件中50件のチェックを減らせるだけでも、業務工数は半減すると説明されています。
すべてを自動化できなくても、十分な効率化になるのです。
信頼できるデータをチェック対象から外していく
人間と生成AIを並行して動かしていると、生成AIが安定して正しく処理できるパターンが分かってきます。
そこで、信頼できるデータについては人間のチェック対象から外していきます。
たとえば処理内容によって、
生成AIだけで処理するもの。
生成AIが処理した後に一部だけ確認するもの。
必ず人間が確認するもの。
というように分ける考え方です。
重要なのは、生成AIを導入した瞬間に人間を外すのではなく、実績を確認しながらチェック範囲を変えていくことです。
参考記事でも、精度が向上してきたら信頼できるデータをチェック対象から外し、怪しい箇所やサンプルのみを人間がチェックする方法が示されています。
生成AIへの信頼を感覚で決めるのではなく、実際の処理結果を積み重ねながら判断していくわけです。
サンプルチェックへ移行する
生成AIによる処理が安定してきたら、人間による確認方法も変えることができます。
全件チェックからサンプルチェックへの移行です。
サンプルチェックとは、すべての処理結果を確認するのではなく、その一部を抽出して確認する方法です。
たとえば生成AIが1000件を処理した場合、人間が1000件すべてを確認するのではなく、その中から一定数を抽出して確認します。
その結果、問題がなければ生成AIによる処理を継続します。
一方、サンプルの中に問題が見つかれば、チェック範囲を広げる必要があるかもしれません。
さらに、生成AI自身が怪しいと判断したものについては、人間が重点的に確認するという方法も考えられます。
すべてのデータを同じように確認するのではなく、リスクの高いところへ人間の時間を集中させるわけです。
怪しい箇所だけを人間が確認する
生成AI活用が進んだ状態では、人間の役割はすべての処理結果を見ることから、例外的な処理を確認することへ変わっていきます。
通常のパターンは生成AIに任せる。
判断に迷うデータは人間へ回す。
異常値があれば人間が確認する。
一部についてはサンプルチェックを行う。
このような役割分担です。
これは経理担当者の判断を不要にすることとは反対です。
単純な確認作業を減らし、人間の判断が必要な案件へ時間を使えるようにすることが目的です。
1000件すべてを同じように見るより、生成AIによって絞り込まれた数十件を詳しく確認する方が、人間の専門性を生かしやすくなります。
人間の確認作業を段階的に減らす
生成AIを経理業務へ導入する流れを考えると、人間による確認範囲は段階的に変化します。
最初は生成AIと人間の両方で全件を処理します。
次に答え合わせを行い、生成AIが間違えやすいパターンを確認します。
プロンプトや業務の進め方を改善します。
安定して処理できる部分が増えたら、その部分について人間の全件チェックをやめます。
さらに実績が積み上がれば、サンプルチェックや例外チェックへ移行します。
こうすれば、いきなり生成AIへ業務を丸投げすることなく、人間の作業量を少しずつ減らすことができます。
生成AI導入の効果は、初日から現れるとは限りません。
参考記事でも、生成AI導入の初期段階では検証やプロンプト作成に時間がかかり、最初は作業時間が増える場合がある一方、そこを乗り越えれば、その後の作業時間は毎月の蓄積によって減っていくと説明されています。
全件チェックをやめても最終責任はなくならない
人間による全件チェックをやめることと、人間が責任を負わなくなることは別です。
生成AIが処理したからといって、その結果について生成AIが会社として責任を取るわけではありません。
どこまで生成AIに任せるのか。
どの条件なら人間が確認するのか。
どの程度のサンプルを確認するのか。
問題が発生した場合にどこまでチェック範囲を戻すのか。
こうした仕組みを人間が設計する必要があります。
参考記事でも、生成AIがデータ加工や一次チェックなどを担う一方、最終的な責任や意思決定は人間が担う領域だとされています。
人間が全件を見ることだけが管理ではありません。
生成AIをどのように管理し、どこに人間を介在させるのかを決めることも、新しい管理の仕事になります。
結論
生成AIの全件チェックをやめるとは、生成AIの回答を無条件に信用することではありません。
導入初期には、人間と生成AIを並行して動かし、全件について答え合わせを行います。
そこで生成AIが正しく処理できるパターンと、間違えやすいパターンを把握します。
精度が安定してきたら、信頼できる部分を人間のチェック対象から外します。
さらに、怪しい箇所やサンプルだけを人間が確認する方式へ移行します。
100件すべてを人間が確認していた仕事を50件に減らせれば、それだけでも確認作業は大きく減ります。
重要なのは、最初から百パーセントの自動化を目指すことではありません。
生成AIの実績を確認しながら、人間が確認しなくてもよい仕事を少しずつ増やしていくことです。
生成AI時代の経理では、人間がすべてを見ることが安心なのではなく、どこを生成AIに任せ、どこに人間の判断を残すのかを適切に設計することが重要になっていくのです。
参考
企業実務 2026年9月号 経理の生成AI活用お悩み相談 現場の実情に答えます