日本はかつて「黄金の国ジパング」として海外に知られていました。
江戸時代には、日本が世界の金生産量の約20%を占めていたともいわれています。しかし、鉱石の枯渇などによって金鉱山の閉山が相次ぎ、現在、国内で操業している代表的な金鉱山は鹿児島県の菱刈鉱山となっています。
ところが今、日本で再び金を探す動きが活発になっています。
背景にあるのが金価格の大幅な上昇です。
重要なのは、金価格が上昇すると、すでに採掘している金鉱山の利益が増えるだけではないことです。
これまで「採算が合わない」と考えられていた金鉱脈や廃棄物まで、資源として利用できる可能性が出てきます。
日本で再び金鉱脈の調査が進んでいる
北海道北東部の雄武町では、カナダの鉱物探査会社アービング・リソーシズとJX金属が金鉱脈の調査を進めています。
2026年6月には、一部地域で高品位の鉱脈が発見されたと発表されました。
ただし、金鉱脈が見つかったからといって、すぐに金鉱山を開けるわけではありません。
鉱量の調査、採掘方法の検討、鉱業権や各種許認可の取得、設備投資など、事業化までには多くの段階があります。
順調に進んでも、実際に事業化するのは2030年代になる可能性があります。
それでも実現すれば、1985年に稼働した菱刈鉱山に続く、新たな国内金鉱山の誕生につながる可能性があります。
金価格が上がると採算ラインが変わる
金鉱山の事業性を考えるうえで重要なのが、金価格と採掘コストの関係です。
地下に金が存在していても、それを掘り出す費用の方が高ければ事業にはなりません。
例えば、1グラムの金を取り出すために必要な採掘や選鉱などのコストが、その金を売って得られる金額を上回れば、採掘する経済的な意味は小さくなります。
反対に金価格が大きく上昇すると、それまで採算が取れなかった鉱石でも利益を出せる可能性が生まれます。
つまり、
金価格上昇
採算ライン低下
採掘可能な鉱石の範囲拡大
探鉱投資増加
という流れが起こります。
ニューヨーク金先物価格は2026年9月17日時点で1トロイオンス4,000ドル台前半となり、10年前と比べて3倍を超える水準となっています。
さらに日本では円安の影響も加わります。
円ベースの金価格は、日本で金探鉱が下火になった1990年代末ごろと比較して10倍以上になったとされています。
この価格変化が、日本の金資源を改めて見直す大きなきっかけになっています。
日本にはまだ探査されていない場所がある
日本で金鉱山が少なくなったからといって、日本国内に金が存在しなくなったわけではありません。
アービング・リソーシズは北海道だけでなく、鹿児島県や石川県でも金の探鉱を進めています。
鹿児島県では、閉山した山ケ野金山周辺で住友商事や米ニューモントと共同で探鉱しています。
過去には、金価格や為替、採掘技術などの条件から十分な探査が行われなかった地域もあります。
金価格の上昇によって、こうした地域をもう一度調査する経済的な意味が大きくなっているのです。
金鉱山だけが金の供給源ではない
もう一つ注目したいのが「都市鉱山」です。
都市鉱山とは、使用済みの家電や電子機器などに含まれている金、銀、銅などの金属を資源として回収する考え方です。
日本製鉄系の新日本電工では、さらに一般ゴミを焼却した後に残る灰から金などを回収しています。
自治体が焼却したゴミの灰を工場に集め、専用の炉で溶かして有価金属を取り出します。
焼却灰から回収した金属には、一般的な金鉱石の含有量の約10倍に相当する金が含まれているとされています。
燃えるゴミの中に捨てられた小型電子機器やカード類などに含まれる微量の金が集積しているとみられています。
これまで「ゴミ」と考えられていたものが、金価格の上昇によって「鉱石」としての価値を持つ可能性があるわけです。
海水から金を採る研究も進む
さらに興味深いのが海水です。
IHIは、藻を利用して水の中から金を回収する技術の実用化を目指しています。
海水などに含まれる金は非常に薄いため、理論的に金が存在していても、そのままでは採算が合いません。
現在の技術では1グラムの金を採取するために極めて大量の水が必要とされ、実用化には大きなコスト上の課題があります。
そこで、通常の海水だけでなく、温泉水や鉱山廃水など、比較的金の濃度が高い水から回収する方法も検討されています。
ここでもポイントになるのは「金が存在するか」だけではありません。
その金をいくらで回収できるかです。
技術革新も採算ラインを下げる
金鉱山の採算性を改善する方法は、金価格の上昇だけではありません。
採掘コストそのものを下げる方法もあります。
鹿児島県の菱刈鉱山では、住友金属鉱山が坑内でドローンを活用しています。
人が直接確認しにくい場所をドローンのカメラで確認し、鉱脈の方向などを把握することで採掘効率を高めます。
デジタル技術や自動化によって採掘コストが下がれば、これまで採算が合わなかった鉱脈を利用できる可能性も高まります。
つまり金鉱山の採算性は、
金価格
為替
鉱石に含まれる金の量
採掘コスト
技術力
といった複数の要素によって決まります。
日本の強みは天然資源だけではない
日本が再び世界有数の金生産国になるかどうかは分かりません。
2025年の世界の金鉱山生産量は推計約3,300トンであるのに対し、日本の生産量は2024年時点で約4トンにとどまります。
中国、ロシア、オーストラリアなどの主要生産国とは大きな差があります。
しかし、日本には天然鉱山だけでなく、都市鉱山、製錬技術、リサイクル技術、鉱山DXなどの強みがあります。
天然の鉱脈を探す。
廃棄物から金を回収する。
水に含まれる微量の金を取り出す。
デジタル技術で鉱山の生産性を高める。
こうして考えると、現代の「黄金の国ジパング」は、地下から大量の金を掘り出す国という意味だけではないのかもしれません。
結論
金価格の上昇には、単に金を保有している人の資産価値を高めるだけではない側面があります。
資源開発の採算ラインそのものを変える力があります。
金価格が上がれば、以前は採算が取れなかった鉱脈にも投資できるようになります。さらに技術革新によって採掘や回収のコストが下がれば、利用できる資源の範囲はさらに広がります。
その対象は地下の金鉱脈だけではありません。
焼却灰などの都市鉱山、さらには温泉水や鉱山廃水まで「金の供給源」になる可能性があります。
金価格の高騰を投資商品の値動きとして見るだけでなく、「何を資源として利用できるのかを変える価格シグナル」として見ると、金市場の別の姿が見えてきます。
日本で進む新たな金鉱脈の探査や都市鉱山の開発は、「黄金の国ジパング」の意味を現代の技術で作り直す動きともいえそうです。
参考
日本経済新聞 2026年9月21日 朝刊 「黄金の国ジパング」再興へ