日本ではかつて多くの金鉱山が操業していました。
しかし、鉱石の枯渇や採算性の低下などによって閉山が相次ぎ、現在、国内で操業する代表的な金鉱山は鹿児島県の菱刈鉱山となっています。
それでは、日本の金はほとんど掘り尽くされてしまったのでしょうか。
実はそうとは限りません。
北海道などでは新たな金鉱脈を探す調査が進められています。金鉱山が閉山したことと、地下から金そのものがなくなったことは同じではないからです。
さらに金価格の上昇や探査技術の進歩によって、以前は調査や開発の対象にならなかった場所にも再び注目が集まっています。
日本列島と金には深い関係がある
日本に金鉱床が形成された背景には、日本列島の成り立ちが関係しています。
日本列島は複数のプレートがぶつかり合う場所にあり、火山活動や熱水活動が活発な地域です。
地下深くで熱せられた水が岩石の割れ目などを通って上昇すると、その水に溶けていた金や銀などの成分が特定の場所に沈殿することがあります。
長い時間をかけてこれが繰り返されると、金を多く含む鉱脈が形成されます。
日本各地に金銀鉱山が存在してきたのは、こうした地質的な条件と関係しています。
過去に金鉱山が多かったという事実は、日本列島がもともと金鉱床を形成しやすい地質環境を持っていることを示しています。
閉山したから金がなくなったとは限らない
鉱山が閉山する理由は一つではありません。
もちろん、採掘できる鉱石が減少することは大きな理由です。
しかし、それ以外にも金価格、採掘コスト、人件費、設備費、技術力などが影響します。
地下に金が残っていても、採掘して得られる収入より採掘費用の方が大きければ事業として成立しません。
つまり、
金が存在すること
と
経済的に採掘できること
は別の問題なのです。
過去に採算が取れず開発されなかった鉱脈でも、経済環境が変化すれば再び資源として評価される可能性があります。
金価格の上昇が探鉱を後押しする
現在、日本の金資源が再び注目されている大きな理由が金価格の上昇です。
ニューヨーク金先物価格は2026年9月17日時点で1トロイオンス4,000ドル台前半となり、10年前と比較して3倍を超える水準となっています。
日本では円安も加わるため、円換算した金価格の上昇はさらに大きくなります。
日本で金探鉱が下火になった1990年代末ごろと比べると、現在の円ベースの金価格は10倍以上になったとされています。
例えば、過去には採掘費用に見合わなかった鉱石でも、金そのものの価格が大幅に上昇すれば採算が取れる可能性があります。
金価格の上昇は、単に既存の金鉱山の収益を増やすだけではありません。
どこまでを資源として利用できるのかという境界線そのものを動かします。
北海道で新たな金鉱脈を調査
実際に日本国内では新たな探鉱が進んでいます。
北海道北東部の雄武町では、カナダの鉱物探査会社アービング・リソーシズとJX金属が金鉱脈を調査しています。
アービングは2026年6月、この地域の一部で高品位の鉱脈を発見したと発表しました。
ただし、金鉱脈が見つかったことと金鉱山として事業化できることは同じではありません。
鉱脈がどこまで続いているのか。
どれくらいの量の金が存在するのか。
採掘にどれくらいの費用がかかるのか。
こうした点をさらに調査する必要があります。
鉱業権や許認可の取得、設備建設などにも長い時間が必要です。
順調に進んだ場合でも、事業化は2030年代になる可能性があります。
鹿児島や石川でも探鉱が進む
新たな金探しは北海道だけではありません。
アービングは鹿児島県霧島市にある閉山した山ケ野金山の周辺でも、住友商事や米国の金採掘大手ニューモントと共同で探鉱を進めています。
石川県志賀町でも初期の地表調査が行われています。
ここで重要なのは、昔の金山そのものだけを調べているわけではないことです。
過去に金が採れた地域の周辺には、まだ発見されていない鉱脈が存在する可能性があります。
地質構造や過去の鉱山データなどを手掛かりに、より広い範囲を調査することができます。
探査技術の進歩も追い風になる
昔と現在では、地下資源を探す技術も異なります。
地質調査だけでなく、地球化学的な分析、物理探査、ボーリング調査などを組み合わせることで、地下の構造を詳しく調べられるようになっています。
さらに大量の地質データをデジタル技術で解析することも可能になっています。
昔の技術では発見できなかった鉱床を、新しい技術によって見つけられる可能性があります。
つまり日本の金資源を考える場合、過去にどれだけ採掘したかだけを見るのでは不十分です。
現在の技術で改めて地下を調査したら何が見つかるのかという視点も必要になります。
未探査ということにも価値がある
資源開発では、すでに鉱山が存在している場所だけに価値があるわけではありません。
十分に調査されていない場所にも可能性があります。
海外の鉱物探査会社が日本に注目している理由の一つも、まだ探査余地が残されていると考えられていることです。
過去には言語の壁や為替などもあり、日本は世界の鉱山投資の対象として十分に注目されてこなかった面があるとされています。
金価格が大きく上昇した現在、その状況が変わり始めています。
地下に新しく金が生まれたわけではありません。
以前から存在していた可能性のある金を、もう一度探す経済的な理由が生まれたのです。
結論
日本で多くの金鉱山が閉山したからといって、日本列島の金がすべて掘り尽くされたとは限りません。
地下に金が存在することと、それを経済的に採掘できることは別だからです。
金価格が低ければ、金を含む鉱石が存在していても開発対象にならないことがあります。
反対に金価格が上昇し、探査技術や採掘技術が進歩すれば、これまで見向きもされなかった鉱脈が資源に変わる可能性があります。
北海道、鹿児島、石川などで進む新たな探鉱は、日本の地下資源を現在の価格と技術でもう一度評価し直す動きともいえます。
「黄金の国ジパング」の復活を考えるうえで大切なのは、昔どれだけ金が採れたかではありません。
これからどれだけ新しい金鉱床を発見し、経済的に利用できる資源へ変えられるかです。
参考
日本経済新聞 2026年9月21日 朝刊 「黄金の国ジパング」再興へ