2026年6月末時点で、日本の家計が保有する株式と投資信託の残高は678兆9608億円となりました。
前年同期と比べると44パーセント増えています。
これだけを見ると、日本の家計が猛烈な勢いで株式や投資信託を買い、678兆円ものお金を投資しているように感じるかもしれません。
しかし、金融資産の残高を見るときには注意が必要です。
678兆円という数字は、家計がこれまで実際に支払った購入金額の合計ではありません。
株式や投資信託の現在の評価額を含んだ数字だからです。
家計のお金が本当にどれだけ投資へ動いているのかを理解するには、資金流入と値上がりを分けて考える必要があります。
678兆円は購入金額ではない
株式や投資信託の残高は、その時点の価値を基準に計算されます。
例えば100万円で購入した株式が、その後200万円まで値上がりしたとします。
家計が実際に投資したお金は100万円です。
しかし、その時点で保有している金融資産の残高は200万円になります。
逆に100万円で購入した株式が80万円まで値下がりすれば、残高は80万円です。
つまり、株式や投資信託の残高と、実際に投資した金額は一致しません。
678兆9608億円という数字を見る場合にも、この違いを理解しておく必要があります。
株高だけでも残高は大きく増える
2026年6月末までの家計金融資産を考えるうえでは、株価上昇の影響が非常に大きくなっています。
6月下旬には日経平均株価が7万円を突破しました。
株価が上昇すると、すでに株式を持っている家計の資産価値も上昇します。
投資信託についても同様です。
国内株式や海外株式を組み入れた投資信託では、保有している株式の価格が上昇すれば基準価額も上昇します。
家計が新たに投資信託を購入していなくても、既存の保有資産の評価額が増えることになります。
そのため、株式と投資信託の残高が前年同期比44パーセント増えたからといって、家計が1年間で44パーセント分の新しい資金を投入したわけではありません。
評価益とは何か
購入した金融商品の価格が上昇したことで生じる利益を評価益といいます。
例えば投資信託を100万円購入した後、基準価額が20パーセント上昇したとします。
追加投資をしていなければ、投資した元本は100万円のままです。
しかし資産の評価額は120万円になります。
20万円が評価益です。
この20万円も金融資産残高の増加として表れます。
株価が大きく上昇する局面では、家計が新たに投資した金額以上のペースで金融資産残高が増えることがあります。
円安による増加も含まれる
海外資産の場合には、さらに為替の影響があります。
例えば1万ドル相当の海外株式を保有しているとします。
1ドル140円なら円換算額は140万円です。
その後、株価がまったく変わらないまま1ドル160円まで円安になれば、円換算額は160万円になります。
新しい資金を投入していなくても20万円増えます。
海外株式型の投資信託でも同じことが起こります。
現在の家計では海外資産を組み入れた投資信託も広く利用されているため、株価だけでなく為替も金融資産残高を動かします。
したがって、678兆円という数字には、実際の投資資金、株価上昇、為替変動など複数の要因が含まれています。
本当の資金移動を見るにはフローを見る
では、家計が実際にどれだけ新しいお金を株式や投資信託へ振り向けたのでしょうか。
ここで重要になるのがフローです。
残高がある時点の資産額を表すのに対して、フローは一定期間にどれだけ資金が流れたのかを表します。
2026年4月から6月期には、株式と投資信託への純流入額が3.7兆円となりました。
これは価格変動の影響を除いた資金の流れです。
つまり、株高によって資産額が膨らんだだけではなく、実際に家計のお金が株式や投資信託へ流れ込んでいることが分かります。
純流入とは何か
純流入は、入ってきたお金から出ていったお金を差し引いて考えます。
例えば、ある期間に投資信託を10兆円購入し、7兆円分を売却したとします。
単純化すると、差額の3兆円が純流入です。
購入額だけを見れば10兆円ですが、その一方で売却している人もいます。
家計全体として投資商品へどれだけお金が移動したのかを見るためには、購入と売却の両方を見る必要があります。
2026年4月から6月期には株式と投資信託への純流入が3.7兆円あり、2四半期連続で3兆円を上回りました。
この数字は、家計の投資意欲を考えるうえで重要です。
投資信託だけでは3.9兆円が流入した
さらに注目したいのが投資信託です。
2026年4月から6月期には、投資信託だけで3.9兆円の資金流入がありました。
新NISAなどを利用して、投資信託を積み立てる家計が増えていることが背景にあります。
株式市場が上昇しているから資産残高が増えているだけではなく、家計が給与や預金などから新しい資金を投資信託へ移していることが分かります。
日本の家計の資産構成を考える場合には、この実際の資金移動が続くかどうかが重要になります。
新NISA開始前から73パーセント増えた数字にも注意する
2023年12月末と比較すると、2026年6月末の株式と投資信託の残高は73パーセント増えています。
新NISAが始まった時期と重なるため、新NISAによって73パーセント増えたと考えたくなるかもしれません。
しかし、これも注意が必要です。
新NISAを通じた資金流入だけでなく、その期間の株価上昇や円安による評価額の増加も含まれているからです。
新NISAが家計の投資を後押ししていることと、残高の73パーセント増加すべてが新NISAによるものであることは別の話です。
数字を見るときには原因を分けて考える必要があります。
投資が増えたかを見るには2つの数字を見る
家計の投資が増えているかを判断するときには、残高とフローをセットで見ることが大切です。
残高が増えているだけなら、株価上昇による可能性があります。
フローが増えているだけなら、新しい資金は入っていても、株価下落によって残高が増えていない可能性があります。
残高が増え、同時に純流入も続いているのであれば、資産価格の上昇と新規投資の両方が起きていると考えることができます。
現在の日本の家計では、まさにこの2つが同時に進んでいます。
株価が下がれば逆のことも起こる
もう1つ忘れてはいけないことがあります。
株高によって金融資産残高が大きく増えるのであれば、株価が下落したときには逆のことも起こります。
例えば100万円の投資信託を新たに20万円購入したとしても、市場下落によって全体の評価額が30万円減れば、残高は以前より減る可能性があります。
新しい資金が流入しているのに、金融資産残高が減ることもあるわけです。
そのため、将来、株式や投資信託の残高が減少したとしても、それだけで家計が投資から撤退したとは判断できません。
そのときもフローを見る必要があります。
結論
2026年6月末時点で家計が保有する株式と投資信託は678兆9608億円に達しました。
しかし、この678兆円は家計が実際に678兆円を投資したという意味ではありません。
金融資産の残高には、新しく投資されたお金だけでなく、株価上昇による評価益や円安による円換算額の増加も含まれます。
一方、価格変動の影響を除いた2026年4月から6月期の純流入額は3.7兆円でした。
ここから、株高によって資産額が膨らんでいるだけではなく、家計が実際に新しいお金を株式や投資信託へ振り向けていることも分かります。
金融統計を見るときに重要なのは、大きくなった残高だけを見ないことです。
残高は今いくら持っているのかを示し、フローは実際にお金がどこへ動いたのかを示します。
この2つを分けて考えることで、日本の家計で進んでいる投資シフトの実態が見えてきます。
参考
日本経済新聞 2026年9月18日 朝刊 家計、株式・投信へシフト