企業が新しい取引先を選ぶとき、これまでは価格や品質、納期、財務内容などが重要な判断材料でした。
これからは、そこに新しい項目が加わる可能性があります。
サイバーセキュリティーです。
2027年3月ごろから始まる予定のSCS評価制度では、企業のサイバー対策を星1個から5個までで評価します。
特に一般的なサイバー攻撃に対処できる水準とされる星3個が広く普及すれば、星3個を持っていることが特別な強みではなく、企業間取引を行うための基本条件になる可能性があります。
企業の信用を考えるときに、財務信用だけではなくサイバー信用も見る時代が始まろうとしています。
企業取引にはさまざまな信用が必要になる
企業同士が取引するときには、相手が信用できる会社かを確認します。
代金を支払える会社なのか。
約束した品質の商品を提供できるのか。
納期を守れるのか。
法令を守っているのか。
こうした要素を総合的に見て取引するかどうかを判断します。
デジタル化が進んだ現在では、ここに情報やシステムを安全に管理できるのかという問題が加わっています。
サイバー信用とは何か
サイバー信用という言葉を、企業が情報やシステムを適切に守れることへの信用と考えると分かりやすくなります。
重要なデータを預けても大丈夫なのか。
自社のシステムと接続しても安全なのか。
サイバー攻撃を受けたときに適切に対応できるのか。
事故が起きても事業を復旧できるのか。
取引先から見れば、こうした能力も相手企業を選ぶ重要な材料になります。
SCS評価制度の星は、その水準を外部から確認しやすくする仕組みと考えることができます。
星3個が最低ラインになる可能性
星3個は、一般的なサイバー攻撃に対処できる水準として位置づけられています。
SCS評価制度が広く普及すれば、まず星3個を持っているかどうかが確認される場面が増える可能性があります。
当初は星3個を取得していることが評価されても、取得企業が増えれば状況は変わります。
星3個を持っていることが特別なのではなく、持っていないことが取引上の不安材料になる可能性があります。
これは企業取引における資格や認証が普及していく過程と似ています。
価格だけでは取引先を選べなくなる
発注企業にとって、安い取引先を選ぶことは重要です。
しかし、価格が安くてもサイバー攻撃によって業務が停止すれば、結果として大きな損失になる可能性があります。
重要情報が流出すれば、その影響は発注企業にも及びます。
部品供給が止まれば、生産そのものが止まるかもしれません。
そのため、取引先を選ぶ際には価格と安全性を一緒に見る必要があります。
安さだけでなく、安定して取引を続けられる会社なのかが重要になります。
調達基準に星が組み込まれる可能性
SCS評価制度が普及すると、企業や自治体が調達基準として利用する可能性があります。
たとえば一般的な業務では星3個以上。
より重要な情報を扱う業務では、さらに高い水準。
このように、委託する仕事の重要度によって必要な星の数を変える方法も考えられます。
発注企業にとっては、取引先ごとにゼロからセキュリティー水準を調査するより、共通基準を利用した方が確認しやすくなります。
取引先の選別にも影響する
星が調達基準として使われるようになると、取引先の選別にも影響します。
これまで長期間取引してきた企業であっても、必要なセキュリティー水準を満たしていなければ改善を求められる可能性があります。
新しい取引先を探す際にも、一定の星を取得している企業だけを候補にすることが考えられます。
つまり、SCS評価制度は新規取引だけでなく、既存の取引関係にも影響する可能性があります。
大企業には支援するという選択肢もある
ただし、星を取得していない中小企業をすぐに取引先から外せばよいとは限りません。
長年培った技術を持つ企業。
代替が難しい部品を製造する企業。
特定の地域で重要な役割を担う企業。
こうした会社がサプライチェーンには存在します。
記事では、大手企業が対策の弱い企業を特定し、対策を支援することが重要だとの指摘も紹介されています。
取引先を選別するだけでなく、サプライチェーン全体の水準を引き上げる考え方も必要になります。
中小企業には新しい競争条件になる
中小企業にとってSCS評価制度は負担になる面があります。
機器やソフトウエアへの投資。
社内規定の整備。
社員教育。
専門家への相談。
こうした費用や作業が必要になります。
しかし、一定のセキュリティー水準を示せる企業にとっては、新しい取引先を獲得するための材料になる可能性もあります。
会社の規模ではなく、対策水準を共通基準で示せるからです。
小さな会社でも信用を見える形にできる
大企業であれば、専門のセキュリティー部門を持っていること自体が安心材料になる場合があります。
中小企業には、そのような組織を持つ余裕がないこともあります。
しかし、SCS評価制度によって一定の基準を満たしていることを示せれば、小さな会社でも自社の安全性を説明しやすくなります。
企業規模ではなく、実際にどの程度の対策をしているのかを共通の物差しで示せることには意味があります。
サイバー対策が企業価値の一部になる
これまでサイバーセキュリティーは、事故を起こさないための裏方の仕事と考えられがちでした。
しかし、取引先がセキュリティー水準を見るようになれば、その位置づけは変わります。
事故を防ぐ。
取引を維持する。
入札へ参加する。
新しい取引先へ安全性を説明する。
こうした役割を持つようになれば、サイバー対策は企業価値を支える要素の1つになります。
セキュリティーへの投資と営業活動が、これまで以上に近い関係になる可能性があります。
星は取得して終わりではない
もう1つ重要なのは、星を取得すること自体を目的にしないことです。
サイバー攻撃の方法は変化します。
会社が利用するシステムも変わります。
社員も入れ替わります。
取引先との関係も変わります。
そのため、一度基準を満たしたからといって、その状態が永遠に続くわけではありません。
企業信用を維持するのと同じように、サイバー信用も継続的に維持する必要があります。
結論
SCS評価制度の星3個が広く普及すれば、企業間取引の考え方が変わる可能性があります。
価格、品質、納期、財務内容などに加えて、サイバーセキュリティーの水準も取引先を選ぶ重要な判断材料になります。
そして星3個を取得している企業が増えれば、星3個そのものが特別な強みではなくなるかもしれません。
むしろ、一定のサイバー対策を行っていることが取引を始めるための基本条件になる可能性があります。
中小企業にとっては新たな費用や作業が発生しますが、自社の安全性を共通の物差しで示せるという意味もあります。
会社の信用は、代金を支払えるか、品質を守れるかだけでは決まらない時代になっています。
重要な情報を守れるか。
サイバー攻撃を受けても事業を継続できるか。
取引先へ被害を広げない体制を持っているか。
こうしたサイバー信用が、新しい企業信用の1つとして定着していく可能性があります。
参考
日本経済新聞 2026年9月17日 朝刊 サイバー対策、試される中小