サイバーセキュリティーという言葉を聞くと、パソコンやネットワークを管理するIT担当者の仕事だと思う人もいるかもしれません。
確かに、システムの設定やソフトウエアの更新などには専門的な知識が必要です。
しかし、2027年3月ごろから始まる予定のSCS評価制度への対応を考えると、サイバー対策をIT担当者だけに任せることには限界があります。
どこまで対策するのか。
いくら予算を使うのか。
どの情報や業務を優先して守るのか。
取引先からどの水準を求められるのか。
こうした問題は、ITの問題というより経営判断だからです。
サイバー攻撃は会社全体を止める
サイバー攻撃によって影響を受けるのはパソコンだけではありません。
業務システムが利用できなくなれば、受注や発注ができなくなる可能性があります。
工場のシステムに影響すれば、生産が停止することも考えられます。
顧客情報が流出すれば、顧客への説明や対応も必要になります。
取引先との業務が止まれば、売上にも影響します。
つまり、サイバー攻撃はIT部門の障害ではなく、会社全体の事業継続に関係する問題です。
何を優先して守るかは経営判断になる
企業には多くの情報やシステムがあります。
そのすべてに同じ費用をかけて最高水準の対策をすることは現実的ではありません。
そこで必要になるのが優先順位です。
停止すると会社の事業に最も大きな影響が出るシステムは何か。
外部へ流出すると大きな問題になる情報は何か。
どの取引先との接続が重要なのか。
どの業務を最優先で復旧させるのか。
こうした判断には、会社全体の事業を理解している経営者の関与が必要です。
予算を決めるのも経営側
SCS評価制度の星3個へ対応する場合でも、一定の費用が必要になる可能性があります。
記事では、現在ほとんど対策していない企業がゼロから星3個の要求事項を網羅する場合、年間数百万円、場合によってはそれ以上かかるとの見方が紹介されています。
新しい機器を導入する。
セキュリティーソフトを利用する。
外部専門家へ相談する。
社員教育を行う。
こうした費用をIT担当者だけの判断で決めることは難しいでしょう。
どこまで投資するかを決めるのは経営側の役割です。
サイバー対策には全社員が関係する
サイバー攻撃の入口になるのは、システムの弱点だけではありません。
社員が不審なメールを開くこともあります。
パスワードを不適切に管理することもあります。
重要なデータを誤って外部へ送ることもあります。
そのため、営業部門、経理部門、人事部門などを含め、会社で働く人全体がサイバー対策に関係します。
IT担当者がどれほど高度なシステムを導入しても、社員が基本的なルールを理解していなければリスクは残ります。
社内ルールには経営側の意思が必要になる
SCS評価制度では、技術的な対策だけでなく、管理体制や社内規定の整備も重要になります。
誰がセキュリティー対策の責任者なのか。
事故が発生したら誰に報告するのか。
重要な判断を誰が行うのか。
どの情報を社外へ持ち出せるのか。
取引先へどの情報を渡せるのか。
こうしたルールはIT担当者だけでは決められません。
会社としての方針を明確にする必要があります。
事故が起きたとき経営判断が必要になる
サイバー攻撃を完全に防ぐことは困難です。
そのため、侵入を防ぐ対策だけでなく、事故が起きた後の対応も重要になります。
システムを停止するのか。
顧客へ説明するのか。
取引先へ連絡するのか。
業務をどの方法で継続するのか。
外部の専門家へ調査を依頼するのか。
こうした判断には、事業への影響や費用、信用などを総合的に考える必要があります。
重大な事故ほど、最終的には経営者が判断しなければなりません。
取引継続にも関係する
SCS評価制度が普及すると、企業や自治体が取引先を選ぶ際に星の数を利用する可能性があります。
星3個以上が取引条件になれば、サイバー対策は受注にも関係します。
取得していないことで新しい案件へ参加できない。
既存の取引先から取得を求められる。
重要な取引では、さらに高い水準を求められる。
こうした状況になれば、サイバーセキュリティーは営業や経営戦略にも関係する問題になります。
経営者が技術の専門家になる必要はない
経営者自身がサイバーセキュリティーの細かな技術をすべて理解する必要はありません。
どのソフトウエアを使うのか。
ネットワークをどのように設定するのか。
どのような脆弱性があるのか。
こうした専門的な部分は、IT担当者や外部専門家の力を借りることができます。
経営者に求められるのは、専門家の説明を踏まえて会社として何を優先するのかを決めることです。
技術を自分で実行することと、経営として責任を持つことは別です。
中小企業では外部の力も使う
中小企業では、IT担当者そのものがいない場合もあります。
その場合でも、すべてを経営者が自分で勉強して対応する必要はありません。
外部のセキュリティー事業者や専門家を活用できます。
SCS評価制度の開始に向けては、中小企業向けの支援サービスも広がっています。
重要なのは、外部へ丸投げすることではなく、専門家から必要な情報を得ながら会社として判断することです。
セキュリティーを経営会議のテーマにする
サイバー対策をIT担当者だけに任せていると、経営側には問題が起きるまで状況が見えない可能性があります。
そこで、定期的に経営側が状況を確認する仕組みが重要になります。
現在どのようなリスクがあるのか。
重大な問題は発生していないか。
改善が必要な項目は何か。
予算は十分なのか。
取引先から新しい要求が出ていないか。
こうした内容を経営レベルで確認すれば、サイバー対策を日常的な経営管理の一部にできます。
結論
サイバーセキュリティーは、もはやIT担当者だけに任せる問題ではありません。
サイバー攻撃によってシステムが停止すれば、売上や生産、顧客対応、取引先との関係など会社全体に影響します。
さらにSCS評価制度が企業間取引で利用されるようになれば、セキュリティー水準そのものが受注や取引継続にも関係する可能性があります。
技術的な対策はIT担当者や専門家に任せることができます。
しかし、何を優先して守るのか、どこまで予算を使うのか、事故が起きたときにどう対応するのかを決めるのは経営側の仕事です。
経営者がサイバー技術の専門家になる必要はありません。
必要なのは、サイバーリスクを会社の経営リスクの1つとして認識することです。
SCS評価制度への対応は、企業がサイバー対策をIT部門の仕事から経営課題へ変えていくきっかけにもなりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年9月17日 朝刊 サイバー対策、試される中小