企業が別の会社へ仕事を委託するとき、価格や品質だけでなく、サイバーセキュリティー対策を確認することが増えています。
問題は、その確認方法が企業ごとに異なることです。
ある取引先からはパスワード管理について質問され、別の取引先からはバックアップや社員教育について独自の書式で回答を求められることがあります。
取引先が増えるほど、似たような質問に何度も答えなければなりません。
2027年3月ごろから始まる予定のSCS評価制度には、こうした企業ごとに異なる確認作業を共通化するという重要な意味があります。
なぜ発注企業は取引先を調べるのか
企業が取引先のセキュリティー対策を確認するのには理由があります。
業務を委託すると、自社の情報を取引先へ渡す場合があります。
取引先が自社のシステムへ接続するケースもあります。
もし委託先がサイバー攻撃を受ければ、自社の情報が流出したり、業務が停止したりする可能性があります。
そのため、発注企業は仕事を任せる前に、相手が十分なセキュリティー対策をしているか確認する必要があります。
企業ごとに質問内容が違う
これまでは、発注企業が独自の基準を作って取引先を確認することが多くありました。
自社の業務やリスクに合わせて質問票を作り、取引先へ回答を求めます。
パスワードをどのように管理しているのか。
データをどこに保存しているのか。
バックアップを取っているのか。
社員教育を実施しているのか。
事故が発生した場合の対応手順があるのか。
内容そのものは似ていても、質問の表現や回答方法は企業によって異なります。
同じことを何度も回答する
複数の大企業と取引している中小企業では、この違いが大きな負担になります。
A社の質問票に回答する。
翌月にはB社から別の質問票が届く。
さらにC社からも違う形式の調査を求められる。
実際には同じセキュリティー対策について説明しているのに、それぞれの書式に合わせて回答を作り直さなければならないことがあります。
専任のセキュリティー担当者がいない中小企業では、総務やIT担当者などが通常業務と並行して対応することになります。
発注企業にも負担がある
負担を抱えるのは受注側だけではありません。
発注企業も質問票を作成しなければなりません。
回答を回収する。
内容を確認する。
不十分な回答があれば問い合わせる。
多数の取引先があれば、この作業を何十社、何百社について行う必要があります。
さらに各社の回答を比較し、どの会社がどの程度安全なのかを判断する必要もあります。
取引先が増えるほど、確認作業そのものが大きな業務になります。
共通の物差しがあれば確認しやすい
そこでSCS評価制度の役割が出てきます。
企業のサイバーセキュリティー対策を星1個から5個までの共通基準で示します。
たとえば、発注企業が一般的な取引先には星3個以上を求めるという使い方が考えられます。
受注企業がすでに星3個を取得していれば、一定の基準を満たしていることを示しやすくなります。
発注側も、ゼロからすべての項目を確認する負担を減らせる可能性があります。
星3個が共通言語になる
統一基準の大きなメリットは、企業同士で同じ言葉を使えることです。
これまでは十分なセキュリティー対策をしていますと言っても、その意味は企業によって違いました。
ある企業ではウイルス対策ソフトを導入していることを意味するかもしれません。
別の企業では、社員教育や事故対応まで含めた仕組みを意味するかもしれません。
星3個という共通基準が普及すれば、一定の対策水準を共通の物差しで示しやすくなります。
企業間のセキュリティーに関する会話そのものを簡単にする効果が期待できます。
個別確認が完全になくなるとは限らない
ただし、SCS評価制度が始まれば企業独自の調査がすべてなくなるとは限りません。
企業によって扱う情報や事業の重要性が異なるからです。
非常に重要な機密情報を扱う委託先。
基幹システムへ直接アクセスする委託先。
事業停止時の影響が大きい委託先。
こうした企業には、星の確認に加えて独自の対策を求めることも考えられます。
SCS評価制度はすべての確認を置き換えるというより、共通部分を標準化する仕組みと考えると分かりやすくなります。
中小企業にもメリットがある
中小企業にとってSCS評価制度は、取得費用や文書作成など新しい負担を伴います。
一方で、一度共通基準を満たせば複数の取引先に自社の対策水準を説明しやすくなるというメリットがあります。
新規取引を始める際にも、自社が一定水準のサイバー対策を行っていることを示しやすくなります。
取引先ごとにゼロから説明するより、星の取得状況を共通の出発点にできれば、企業間取引の効率化につながります。
統一基準は比較をしやすくする
共通の基準ができれば、発注企業はサプライチェーン全体を見ることも容易になります。
どの取引先が星3個を取得しているのか。
どの会社がまだ対応途中なのか。
より高度な対策が必要な業務をどの企業へ委託しているのか。
こうした情報を整理しやすくなります。
対策が不足している企業を早めに見つけ、改善を求めたり支援したりすることにもつながります。
統一基準は、個別企業の認定だけではなく、サプライチェーン全体を管理するための物差しにもなります。
結論
これまで企業が業務を委託する際には、発注企業が独自の質問票などを使って取引先のサイバーセキュリティー対策を確認することが多くありました。
そのため受注企業は、似た内容であっても取引先ごとに異なる形式で回答しなければならず、発注企業側にも回答を確認する大きな負担がありました。
SCS評価制度が普及すれば、星1個から5個という共通の物差しで企業の対策水準を示せるようになります。
特に星3個が一般企業の基本的な水準として定着すれば、取引先ごとの重複した確認作業を減らせる可能性があります。
もちろん、重要な業務では個別の確認が残るでしょう。
それでも、共通部分を標準化する意味は大きいと考えられます。
SCS評価制度は企業に新しい対策を求める制度であると同時に、企業間で繰り返されてきたセキュリティー確認を効率化する仕組みでもあるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月17日 朝刊 サイバー対策、試される中小