銀行や信用金庫は、私たちから預金を集め、そのお金を企業や個人へ貸し出しています。
それなら、100円の預金を集めれば、その大部分を融資していると思うかもしれません。
ところが信用金庫では、預金に対する貸出金の割合である預貸率が50パーセント程度となっています。
単純化すれば、100円の預金に対して貸出金は約50円ということです。
なぜ、集めた預金をすべて融資に回さないのでしょうか。
預貸率は預金と貸出金の関係を示す
預貸率とは、金融機関が集めた預金に対して、どの程度の貸出金を持っているかを示す指標です。
例えば、預金が1000億円あり、貸出金が500億円なら、預貸率は50パーセントです。
預金が1000億円で貸出金が800億円なら、預貸率は80パーセントになります。
預貸率を見ることで、金融機関が集めた預金をどの程度融資に活用しているのかを大まかに把握できます。
地域金融を考えるうえでも重要な数字です。
預金と貸出金の差額は消えるわけではない
預貸率が50パーセントだからといって、残りの50パーセントのお金が金庫の中で眠っているわけではありません。
金融機関は貸出金以外にも、国債や地方債、社債などの有価証券を保有します。
他の金融機関への預け金などとして運用される資金もあります。
また、預金者から払い戻しを求められたときに対応できるよう、一定の流動性を確保する必要もあります。
つまり、預金として集めた資金は融資だけでなく、さまざまな形で管理、運用されています。
預貸率は金融機関の資産運用全体を見る数字ではなく、その中で貸出金が預金に対してどの程度あるかを見る数字なのです。
信用金庫の預貸率は50パーセント程度
参考記事によると、信用金庫業界の預貸率は50パーセント程度です。
単純化すると、100円の預金に対して貸出金が約50円という状態です。
この数字を見ると、信用金庫には預金に比べて貸出金が少ないことが分かります。
信用金庫は地域の住民から預金を集め、地域の中小企業などへ融資することを重要な役割としています。
それにもかかわらず預貸率が低い背景には、地域経済の構造変化があります。
貸したくても借りる企業がなければ貸せない
金融機関が預貸率を上げようと思っても、自由に融資を増やせるわけではありません。
お金を借りたい企業や個人が必要だからです。
人口が増え、企業が積極的に設備投資をする地域なら、資金需要も大きくなります。
企業が工場を建設したり、新しい店舗を開いたりすれば金融機関からの借り入れが増える可能性があります。
住宅を購入する人が増えれば住宅ローン需要も増えます。
一方、人口が減少し、企業数も減っている地域では状況が違います。
企業が設備投資を控え、住宅を購入する人も減れば、金融機関がお金を貸したくても借り手が十分に見つかりません。
企業自身がお金を持つようになった影響もある
企業の資金調達構造が変化したことも預貸率に影響します。
企業が十分な現預金を保有していれば、設備投資をするときにも銀行から借りず、自己資金を使うことができます。
特に業績が安定している企業ほど、必ずしも借り入れを必要としません。
一方、金融機関が積極的に融資したい企業と、実際に資金を必要としている企業が一致するとは限りません。
借りたい企業だからといって、返済能力を確認せず融資することはできないからです。
金融機関は貸出金を増やすだけでなく、融資先の信用リスクも管理しなければなりません。
預貸率が低いと有価証券運用が重要になる
貸出金として使われない資金が多くなれば、金融機関はその資金を別の方法で運用する必要があります。
代表的なのが債券などの有価証券です。
預金者には預金金利を支払わなければなりません。
店舗や職員などの経費もかかります。
そのため、預金を集めるだけでは金融機関の利益にはなりません。
集めたお金を融資や有価証券などで運用し、預金金利や経費を上回る収益を得る必要があります。
預貸率が低い金融機関ほど、有価証券運用の重要性が高くなると考えることができます。
金利上昇局面では債券運用にも注意が必要
ここで問題になるのが金利です。
一般に市場金利が上昇すると、既に発行されている低い利率の債券価格は下落します。
そのため、多額の債券を保有する金融機関では、金利上昇によって保有債券に評価損が発生することがあります。
超低金利時代には、貸出先が少ないため余った預金を債券などで運用する金融機関もありました。
しかし、金利のある世界では有価証券運用にもこれまでとは異なるリスク管理が必要になります。
預金を大量に集めれば安心という単純な話ではなくなっています。
預貸率は高ければ高いほどよいわけでもない
では、預貸率は高いほど優れた金融機関なのでしょうか。
必ずしもそうではありません。
預貸率が高すぎれば、預金に対して貸出金が多くなり、預金の払い戻しなどに備える流動性管理がより重要になります。
また、預貸率を上げることだけを目的として融資基準を緩めれば、将来の貸し倒れにつながる可能性があります。
逆に預貸率が低すぎれば、集めた預金を融資として十分に活用できていない可能性があります。
重要なのは数字の高さそのものではありません。
地域の資金需要や金融機関の経営戦略に応じて、適切に資金を運用できているかどうかです。
相続による預金流出の見方も変わる
信用金庫の個人預金が減っているという話を考えるときにも、預貸率という視点は重要です。
相続によって地方の信用金庫から都市部の銀行へ預金が流出すれば、信用金庫にとって資金基盤が縮小することになります。
しかし、預貸率が50パーセント程度で、融資に使われていない資金が多いのであれば、多少預金が減少したからといって直ちに融資できなくなるわけではありません。
むしろ問題は、長期的に地域の預金と貸出金の双方が縮小していくことです。
預金者が減り、同時に企業や住宅ローンの借り手も減る。
人口減少地域では、この二つが同時に進む可能性があります。
地域金融で重要なのはお金を循環させること
信用金庫の本来の役割を考えると、単に預金残高を増やすことだけが目標ではありません。
地域の住民から集めた資金を、地域の企業や個人へ適切に供給することが重要です。
企業がその資金を使って設備投資を行い、事業を成長させ、雇用を生み出せば、そこで得られた所得が再び地域で使われます。
これが地域内のお金の循環です。
預貸率は、その循環がどの程度起きているのかを考える一つの手掛かりになります。
結論
預貸率とは、金融機関が集めた預金に対してどの程度の貸出金を持っているのかを示す指標です。
信用金庫業界では預貸率が50パーセント程度で、単純化すれば100円の預金に対して貸出金は約50円となります。
残りのお金が眠っているわけではなく、債券などの有価証券や預け金などとして管理、運用されています。
問題は、人口減少や企業数の減少によって地域の資金需要そのものが小さくなれば、信用金庫がお金を貸したくても貸出先を増やすことが難しくなることです。
預金は多ければ多いほどよいわけではありません。
集めた預金をどのように運用し、地域の企業や住民へ資金として循環させられるのか。
預貸率は、人口減少時代の地域金融を考えるうえで重要な数字なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 信金の個人預金、初の2年連続減 昨年度