銀行や信用金庫にとって、預金は多ければ多いほどよいと思われがちです。
確かに預金は、金融機関が融資や有価証券投資を行うための重要な資金源です。
しかし、金融機関の経営では、預金を集めるだけでは利益になりません。
預金には金利などのコストがかかり、集めたお金を融資や有価証券などで運用して初めて収益を得ることができます。
人口減少で融資先が減る地域では、預金をたくさん集めることが必ずしも経営上の強みになるとは限らなくなっています。
預金は金融機関にとって負債になる
私たち個人から見ると、銀行口座にある預金は自分の資産です。
しかし、金融機関から見ると預金は負債になります。
預金者から預かっているお金であり、預金者から払い戻しを求められれば返さなければならないからです。
例えば、私たちが銀行に100万円を預けたとします。
私たちの家計では100万円の金融資産ですが、銀行の貸借対照表では100万円の預金という負債になります。
一方、銀行が企業へ貸したお金や保有している有価証券などは銀行の資産です。
金融機関のビジネスを理解するには、この預金者と金融機関では資産と負債が逆になる関係を知っておくことが重要です。
預金を集めるだけでは利益は生まれない
金融機関が100万円の預金を集めたとしても、その瞬間に100万円の利益が生まれるわけではありません。
むしろ預金は調達した資金です。
金融機関はその100万円を企業への融資などで運用します。
例えば、預金者へ支払う金利より高い金利で企業へ融資できれば、その金利差が収益の源泉になります。
預金金利と貸出金利との差は金融機関の収益を考えるうえで重要です。
つまり、預金は利益そのものではなく、利益を生み出すための材料なのです。
材料を大量に集めても、それを有効に使えなければ十分な利益にはつながりません。
金利が上がれば預金にもコストがかかる
超低金利時代には、金融機関が預金者へ支払う金利は極めて低い状態が続いていました。
そのため預金を大量に抱えていても、金利面の負担は比較的小さく済みました。
しかし、日本銀行が2024年3月にマイナス金利政策を解除してから、預金金利のある世界が戻ってきました。
メガバンクやネット銀行などが預金金利を引き上げれば、信用金庫や地方銀行も顧客を維持するために対応を迫られます。
預金金利が上昇すれば、金融機関にとって預金を集めるためのコストも増えます。
預金量だけではなく、その資金をどのくらいのコストで調達しているのかが重要になるのです。
貸出先がなければ預金を融資に使えない
金融機関にとって望ましいのは、集めた預金を信用力のある企業や個人への融資に活用し、安定した利息収入を得ることです。
ところが、金融機関がお金を貸したいと思っても、借り手がいなければ融資はできません。
特に人口減少が進む地域では、この問題が深刻になります。
企業数が減れば設備投資などの資金需要も小さくなります。
人口が減れば住宅を購入する人も減り、住宅ローン需要も縮小する可能性があります。
地域の企業が十分な現預金を持っていれば、そもそも銀行からお金を借りる必要がない場合もあります。
預金は集まるのに貸出先が見つからないという状況が起こり得るのです。
貸せないお金は別の方法で運用する
融資に使えない預金をそのまま置いておくわけにはいきません。
金融機関は国債や地方債、社債などの有価証券を購入するなどして資金を運用します。
預貸率が低い金融機関では、こうした市場運用の重要性が高くなります。
しかし、有価証券運用にもリスクがあります。
代表的なのが金利変動です。
一般に市場金利が上昇すると、既に発行されている低い金利の債券の価格は下落します。
長期間の超低金利を前提として購入した債券を大量に持っていれば、金利上昇によって評価損が膨らむ可能性があります。
融資先がないから債券を買えばよいというほど単純ではありません。
預金を増やす競争にも採算性が必要になる
金利のある世界では、金融機関による預金獲得競争が激しくなります。
例えば、ある銀行が高い定期預金金利を提示すれば、他の金融機関から預金が移ってくる可能性があります。
しかし、高い金利を払って100億円の預金を集めても、その100億円をさらに高い利回りで運用できなければ利益は残りません。
預金金利を引き上げれば顧客は集めやすくなりますが、その分だけ資金調達コストも上昇します。
重要なのは預金残高の大きさではなく、預金をいくらで集め、いくらで運用できるのかという採算性です。
預金減少を単純に悪いと考える必要はない
信用金庫の個人預金が減少していると聞くと、すぐに経営悪化を連想するかもしれません。
しかし、預金減少だけを見て金融機関の経営状態を判断することはできません。
例えば、預金が1000億円あり、貸出金が500億円しかない金融機関では、多額の余剰資金を別の方法で運用する必要があります。
この金融機関から預金が多少流出しても、直ちに企業への融資資金が不足するとは限りません。
一方、預金と貸出金がともに減り続ければ話は違います。
それは金融機関だけの問題ではなく、その地域の人口や企業活動そのものが縮小している可能性を示します。
大切なのは預金量より資金をどう使うか
地域金融機関にとって本当に重要なのは、預金をどれだけ集めたかではありません。
集めた資金を地域の経済活動へどれだけ結びつけられるかです。
例えば、成長する中小企業への設備資金融資や、新しく事業を始める人への創業融資に資金を回すことができれば、そのお金は地域経済を動かします。
企業が成長すれば雇用が生まれ、従業員が給与を受け取り、そのお金が地域で消費されます。
そこで生まれたお金が再び金融機関へ預金されることもあります。
預金を集め、融資し、企業が成長し、所得が生まれ、再び預金が集まる。
この循環をつくることが地域金融の重要な役割です。
金融機関も預金の質を見る時代になる
これからは金融機関にとって、預金の量だけでなく質も重要になります。
長期間安定して預けてもらえる資金なのか。
高い金利を提示しなければすぐに他行へ移ってしまう資金なのか。
給与や年金の受取口座として日常的に利用されている預金なのか。
相続によって一度に流出する可能性のある預金なのか。
同じ100万円の預金でも、金融機関にとっての意味は必ずしも同じではありません。
金利上昇と相続が同時に進む時代には、預金残高だけでは金融機関の本当の競争力を判断しにくくなっています。
結論
預金は金融機関にとって重要な資金源ですが、多ければ多いほどよいとは限りません。
預金者にとって預金は資産ですが、金融機関にとっては将来返済する必要のある負債です。
さらに金利のある世界では、預金金利という調達コストも増えていきます。
集めた預金を融資に回せなければ、有価証券などで運用しなければなりません。
そこには金利変動など別のリスクがあります。
人口減少によって資金需要が縮小する地域では、単純な預金獲得競争だけでは金融機関の収益力を高められません。
これから重要になるのは、預金をどれだけ集めるかではなく、集めたお金をどこへ貸し、どのように運用し、地域経済の成長につなげるかです。
金融機関の本当の力を見るには、預金残高の大きさだけではなく、そのお金をどう生かしているのかを見る必要があります。
参考
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 信金の個人預金、初の2年連続減 昨年度