NISAでは長期投資が重視されています。
そのため、
「NISAで買った商品は老後まで売ってはいけない」
「途中で売ったら長期投資の意味がなくなる」
と思っている人もいるかもしれません。
しかしNISAは、購入した金融商品を一定の年齢まで売却できない制度ではありません。
必要になれば途中で売却できます。
すべてを一度に売る必要もなく、必要な金額だけ部分的に売却することもできます。
住宅費や教育費、老後の生活費など、自分の人生でお金が必要になったときに利用することができます。
長期投資とは、何があっても一生売らないことではありません。
必要になるまで長期間運用し、必要になったときに使うという考え方もできるのです。
NISAの資産は途中で売却できる
NISAは、一定の範囲内で購入した金融商品から得られる利益などを非課税にする制度です。
売却を禁止する制度ではありません。
例えばNISAで保有している投資信託が300万円あるとします。
100万円必要になった場合、保有する商品を必要な分だけ売却して現金化することができます。
残った資産については、そのままNISA口座で運用を続けることができます。
NISAを利用したからといって、資金が老後まで完全に固定されるわけではないのです。
一度に全部売る必要はない
NISA資産を取り崩すと聞くと、口座の金融商品をすべて売却するイメージを持つかもしれません。
しかし必ずしも全額売却する必要はありません。
例えばNISA口座に1000万円の投資信託があり、100万円の現金が必要になったとします。
必要な分だけ売却し、残りを運用し続けることができます。
これが部分売却です。
資産形成の段階では毎月少しずつ積み立てます。
資産を使う段階になったら、必要に応じて少しずつ取り崩すこともできます。
積み立てる時期と取り崩す時期の両方が、長期の資産形成にはあるのです。
長期投資とは売却しないことではない
長期投資では、
「短期的な値動きに振り回されて頻繁に売買しない」
ことが重要になります。
しかし、これは、
「一度買ったら何十年たっても絶対に売ってはいけない」
という意味ではありません。
そもそも資産形成には目的があります。
老後の生活を支えるため。
住宅を購入するため。
子どもの教育を支えるため。
将来の生活の選択肢を増やすため。
こうした目的のためにお金を積み立てているのであれば、その目的が訪れたときに使うことは自然です。
投資は資産残高を永遠に増やし続けることだけが目的ではありません。
住宅費に使うこともできる
例えば30代からNISAで資産形成を始めた人が、40代で住宅を購入することになったとします。
十分な現金を別に用意していれば、NISA資産を使わないという選択もあります。
一方、住宅購入資金の一部としてNISA資産を利用したい場合には、必要な分を売却することもできます。
ただし住宅購入の時期が数年後に決まっているのであれば、最初からその資金のすべてを価格変動の大きな商品で運用することには注意が必要です。
住宅を購入する直前に相場が大きく下落する可能性があるからです。
使う時期が近づいたお金については、徐々に現金へ移していく方法も考えられます。
教育費に使うこともできる
子どもの教育費も同じです。
例えば子どもが生まれたときからNISAを利用して長期的に資産形成をしていたとします。
大学進学まで十数年あるなら、長期間運用できる可能性があります。
その後、大学進学が近づき、入学金や授業料が必要になれば、NISA資産の一部を売却して教育費に充てることもできます。
この場合も、
教育費に使ったから長期投資に失敗した
ということではありません。
教育費を準備することが投資の目的だったのであれば、その目的を達成したことになります。
老後は取り崩す時期になる
老後の資産形成を考えるときにも、売却は避けられないテーマです。
現役時代には、
給与を受け取る
生活費を支払う
余ったお金を積み立てる
という流れがあります。
退職後は給与収入が減少したり、なくなったりする場合があります。
すると、
年金を受け取る
不足する生活費を金融資産から取り崩す
という流れに変わります。
NISAで何十年も資産を形成したとしても、老後にそのお金を生活のために使うのであれば、いずれ売却することになります。
売却は資産形成の失敗ではなく、資産を使う段階に移ったということなのです。
運用しながら取り崩す方法もある
老後になったからといって、NISA資産を一度にすべて現金化する必要もありません。
例えば1000万円の資産がある場合、その全額を売却して預金へ移すのではなく、必要な生活費だけ少しずつ取り崩す方法があります。
残った資産は引き続き運用します。
こうすれば、
一部は生活費として使う
一部は運用を続ける
という二つの役割を持たせることができます。
老後は何年続くか分かりません。
そのため資産を一度に使うのではなく、運用と取り崩しを組み合わせるという考え方があります。
売却する理由を考えることが重要
NISA資産を売ること自体が問題なのではありません。
重要なのは、なぜ売るのかです。
例えば株価が急落したため、
「もっと下がりそうで怖い」
という理由だけで売却する場合があります。
これは本来の長期投資とは異なる判断になりやすくなります。
一方、
住宅購入に必要だから売る
教育費が必要だから売る
老後の生活費として使う
といった売却には明確な目的があります。
同じ売却でも意味は大きく違います。
相場下落時の売却には注意する
投資資産を取り崩すときに難しいのが、相場の状況です。
例えば100万円必要になったとき、投資商品が値上がりしていれば比較的売却しやすいでしょう。
しかし30パーセント値下がりしているときでも、同じ100万円が必要になる可能性があります。
生活費や教育費は、株価が回復するまで待ってくれるとは限りません。
そのため近いうちに使う予定のお金については、あらかじめ現金で準備しておくことが重要です。
NISAを途中で売却できるからといって、生活に必要な現金をすべて投資してよいという意味ではありません。
生活防衛資金をNISAの代わりにしない
例えば、
「急にお金が必要になったらNISAを売ればよい」
と考えて、生活防衛資金をほとんど持たない方法があります。
これは注意が必要です。
失業や景気悪化と株価下落が同時に起こることがあるからです。
景気が悪化して勤務先の業績が悪くなり、収入が減る。
同じ時期に株式市場も下落する。
こうした状況で生活費が必要になれば、値下がりしたNISA資産を売却することになります。
生活防衛資金を現金で持つことには、こうした状況で投資資産を売らずに済むという役割があります。
売却できることが安心につながる
NISA資産を途中で売却できることは、制度を利用するうえでの安心材料にもなります。
人生では予定外の出来事が起こります。
転職するかもしれません。
住宅を購入するかもしれません。
子どもの進路が変わるかもしれません。
退職時期が変わることもあります。
何十年先の人生を完全に予測することはできません。
必要になれば資産の一部を現金化できるという柔軟性があることで、長期間の資産形成にも取り組みやすくなります。
売却した後の非課税保有限度額はどうなるのか
現在のNISAでは、保有している金融商品を売却すると、その商品の取得価額に相当する非課税保有限度額を翌年以降に再利用できます。
例えば100万円で購入した商品を売却した場合、100万円分の非課税保有限度額を翌年以降に再利用できます。
ただし、売却した年の年間投資枠がその場で復活するわけではありません。
また、150万円まで値上がりした商品を売却した場合でも、非課税保有限度額の再利用は取得価額を基準に考えます。
この仕組みは年間投資枠とは別に理解する必要があります。
次回は、この非課税保有限度額の再利用について詳しく取り上げます。
売らないことを目的にしない
投資では長期保有が重要だと聞くと、
「売却しないこと」
そのものが目標になってしまうことがあります。
しかし資産形成の本来の目的は、NISA口座の数字をできるだけ大きくすることだけではありません。
将来必要なときに、そのお金を自分や家族のために使えるようにすることです。
例えば70歳で5000万円のNISA資産を持っていても、
「売ったら長期投資ではなくなる」
と思って生活を過度に切り詰めるのであれば、何のために資産形成をしてきたのかという問題が生じます。
お金は増やすためのものでもありますが、最終的には使うためのものでもあります。
長期投資と途中売却は矛盾しない
20年間運用した資産を住宅や老後生活のために売却したとしても、それまでの20年間が長期投資でなくなるわけではありません。
必要になるまで長く運用し、必要になった時点で取り崩す。
残った資産は引き続き運用する。
こうした方法も長期的な資産形成の一つです。
大切なのは、
長く持つこと
と
必要になったら使うこと
を対立させないことです。
資産形成には、増やす段階と使う段階の両方があります。
結論
NISAで購入した金融商品は、老後まで絶対に売ってはいけないわけではありません。
必要になれば途中で売却できます。
すべてを売却する必要もなく、必要な分だけ部分的に取り崩し、残った資産の運用を続けることもできます。
住宅費や教育費、老後の生活費など、自分が資産形成をしてきた目的のためにNISA資産を使うことは自然なことです。
一方、NISAをいつでも売却できるからといって、生活防衛資金まで投資してよいわけではありません。
現金が必要になる時期と相場下落が重なれば、安値で売却せざるを得なくなる可能性があるからです。
長期投資とは、何があっても売らないことではありません。
必要になるまで長期間運用し、必要になったときに適切に使うことです。
資産形成には積み立てる時期だけでなく、取り崩して人生に役立てる時期もあります。
NISAは資産残高を増やし続けることだけが目的の制度ではありません。
将来、自分のお金を必要なときに使うための資産形成にも活用できる制度なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月7日 夕刊 現金枯渇民 NISAを優先するあまり