退職金制度の経過措置とは何か 新入社員だけ新制度にする企業がある理由編

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企業が退職金制度を見直すとき、すべての社員を同じ日に新制度へ切り替えるとは限りません。

既存社員には従来の制度を残し、新しく入社する社員から新制度を適用することがあります。

また、既存社員についても、これまで積み上げてきた退職給付は旧制度で保障し、制度変更後の勤務分だけ新制度で計算する方法があります。

こうした急激な制度変更の影響を和らげる仕組みが経過措置です。

退職金は何十年という勤務期間を通じて形成される報酬です。

特に退職が近い社員にとって、制度の突然の変更は人生設計に大きな影響を与えます。

そのため企業は、制度を変える必要性と既存社員への影響の両方を考えながら移行方法を設計します。

経過措置とは何か

経過措置とは、古い制度から新しい制度へ切り替えるときに、急激な影響が出ないよう一定期間や一定の対象者について旧制度の取り扱いを残す仕組みです。

退職金制度なら、

既存社員は旧制度を継続する

新入社員だけ新制度にする

一定年齢以上の社員は旧制度を残す

制度変更までに積み上げた退職金を保障する

旧制度から新制度へ数年間かけて移行する

といった方法が考えられます。

重要なのは、

制度を変えること

と、

過去の勤務まで一気に新しいルールで扱うこと

は別の問題だという点です。

なぜ既存社員への影響が大きいのか

たとえば22歳で入社し、現在55歳の社員がいるとします。

すでに33年間勤務しています。

この社員が、

60歳で2000万円程度の退職金を受け取る

ことを前提として老後資金を準備していたとします。

ところが55歳になった時点で会社から、

退職金制度を廃止します

と言われたらどうでしょうか。

残された期間は5年しかありません。

若い社員なら、給与として増えたお金を30年や40年かけて積み立てたり、企業型DCで運用したりできます。

55歳の社員には、その時間がほとんどありません。

同じ制度変更でも、社員の年齢や勤続年数によって影響がまったく違います。

既存社員には制度への期待がある

退職金は毎月の給与とは違い、実際に受け取るまで長い時間があります。

それでも社員は、

この会社に長く勤めれば、このくらいの退職金を受け取れる

という期待を持ちながら働いています。

住宅ローンの返済。

子どもの教育費。

定年後の生活費。

住宅のリフォーム。

こうした人生設計の中に退職金を組み込んでいる人もいます。

特に長期間勤務してきた社員ほど、その期待は大きくなります。

そのため企業が制度を変更するときには、既存社員がこれまでの制度を前提として形成してきた期待をどう扱うのかが重要になります。

新入社員だけ新制度にする方法

最も分かりやすい経過措置の一つが、新入社員だけ新制度にする方法です。

たとえば、

2026年3月31日までに入社した社員は旧退職金制度

2026年4月1日以降に入社した社員は新報酬制度

と分けます。

新入社員には最初から、

従来型の退職一時金はありません

その代わり企業型DCへ掛金を拠出します

あるいは給与へ一定額を上乗せします

と説明できます。

入社時点からその条件を理解したうえで働き始めるため、途中で制度を変更される既存社員とは事情が異なります。

同じ会社でも退職金制度が違うことがある

新入社員だけ新制度にすると、一つの会社の中に複数の退職給付制度が存在することになります。

たとえば50歳の社員は従来型の退職一時金制度。

30歳の社員は旧制度から新制度への移行制度。

22歳の新入社員は企業型DC中心の制度。

ということもあり得ます。

社員から見ると、

同じ会社なのになぜ制度が違うのか

と感じるかもしれません。

しかしこれは、制度変更による既存社員への急激な影響を抑えるための結果でもあります。

制度を一気に統一することより、世代ごとの影響を小さくすることを優先するわけです。

過去分と将来分を分ける方法もある

既存社員をずっと旧制度のままにする方法だけではありません。

制度変更時点を境に、

過去分は旧制度

将来分は新制度

と分ける方法もあります。

たとえば勤続20年の社員について、制度変更時点までに積み上がった退職金相当額が1000万円だったとします。

この1000万円については旧制度に基づく権利として扱います。

そのうえで制度変更後の勤務については、

企業型DCへ掛金を拠出する

新しいポイント制度で退職金を計算する

給与へ一定額を振り替える

などの新制度を適用します。

これなら過去20年間の勤務まで新制度で計算し直すことを避けられます。

一定年齢以上だけ旧制度を残す方法

年齢によって経過措置を分けることも考えられます。

たとえば制度変更時点で、

50歳以上は旧制度を継続する

40歳から49歳は一部を新制度へ移行する

39歳以下は新制度へ移行する

といった設計です。

退職までの期間が短い社員ほど旧制度を多く残し、若い社員ほど新制度へ移しやすくする考え方です。

若い社員には新制度のもとで老後資金を形成する時間があります。

一方、退職直前の社員には制度変更へ対応する時間がありません。

経過措置は、こうした時間の違いを調整する役割も持っています。

なぜ会社は制度を一本化しないのか

企業にとっては、すべての社員を同じ制度にした方が管理は簡単です。

複数の制度を同時に運営すると、人事や経理の事務負担も増えます。

それでも経過措置を設けるのは、退職金が社員にとって重要な労働条件だからです。

特に既存社員の退職金を減らす変更では、労働条件の不利益変更が問題になる可能性があります。

制度変更の必要性だけでなく、

社員が受ける不利益の程度

変更後の内容

変更の合理性

労使での話し合い

などが重要になります。

企業にとって管理が簡単だからという理由だけで、社員の長年の期待を無視できるわけではありません。

経過措置は激変緩和の役割を持つ

経過措置の目的を一言で表すと、激変緩和です。

制度を変える必要があっても、その影響を一度に発生させないようにします。

たとえば退職金制度を企業型DCへ変更する場合でも、

今年から退職金を全部なくす

のではなく、

これまでの退職金相当額は保全する

今後の勤務分だけDCへ移す

という方法なら影響を抑えられます。

制度変更そのものを止めるのではなく、

古い制度から新しい制度へ橋を架ける

役割を果たすのが経過措置です。

新制度の方が必ず不利とは限らない

経過措置という言葉から、

旧制度は有利で新制度は不利

と思うかもしれません。

しかし必ずしもそうではありません。

若い社員にとっては、従来型の退職金より新制度の方が働き方に合う場合があります。

たとえば従来制度が、

30年や40年勤務すると退職金が大きく増える

という仕組みだったとします。

10年程度で転職する予定の社員にとっては、それほど魅力的ではありません。

企業型DCなら毎年掛金が拠出され、転職時に一定の要件のもとで資産を持ち運ぶことができます。

給与へ振り替える制度なら、現在からお金を受け取ることができます。

働き方によっては、新制度の方が使いやすい場合もあるのです。

世代によって制度への評価も変わる

退職金制度への考え方は、社員の世代によっても違います。

退職まであと数年の社員なら、

これまで約束されていた退職金を守ってほしい

という意識が強くなります。

一方、20代の社員なら、

40年後にもらう退職金より現在の給与を増やしてほしい

と考えるかもしれません。

転職を前提としている社員なら、

一つの会社に長く勤めないと有利にならない退職金より、持ち運べる企業型DCがよい

と考えることもあります。

企業が退職金制度を変更するときには、こうした世代ごとの価値観の違いにも対応する必要があります。

経過措置が長期間続くこともある

退職金制度の経過措置は、数年で終わるとは限りません。

既存社員に旧制度を適用し続ける場合、その社員が退職するまで制度が残ります。

たとえば25歳の社員まで旧制度の対象にした場合、定年まで30年以上あるかもしれません。

会社はその間、

旧制度

新制度

を並行して管理することになります。

制度変更は一度決めれば終わりではありません。

何十年にもわたって企業の人事制度や財務に影響する可能性があります。

だからこそ企業は、新制度への切り替え時点を慎重に設計します。

社員は自分がどの制度なのか確認する必要がある

退職金制度が変更された会社で働く場合には、

会社に退職金制度があるか

だけを確認しても十分ではありません。

自分にどの制度が適用されるのかを見る必要があります。

同じ会社でも、

入社年月日

年齢

職種

制度変更時点での勤続年数

などによって適用される制度が異なる場合があります。

確認したいのは、

旧制度の退職金はいくら残るのか

新制度では何が支給されるのか

企業型DCへいくら拠出されるのか

給与へ振り替えられる金額はいくらか

といった具体的な内容です。

制度名ではなく、自分自身に適用される条件を見ることが重要です。

結論

退職金制度の経過措置とは、古い制度から新しい制度へ移行するときに、既存社員への急激な影響を和らげるための仕組みです。

代表的な方法として、

新入社員だけ新制度にする

既存社員は旧制度を継続する

制度変更までに積み上げた退職金を保全する

将来の勤務分だけ新制度へ移す

一定年齢以上の社員には旧制度を残す

といった方法があります。

こうした措置が必要になるのは、退職金が何十年という勤務期間を通じて形成される報酬だからです。

特に退職直前の社員にとって、突然の制度変更は老後の人生設計に大きな影響を与えます。

一方、企業側には人材流動化や採用競争への対応などから、従来型の退職金制度を見直す必要が生じることがあります。

そこで、

制度は変える

しかし過去の勤務や既存社員への影響にも配慮する

という二つを両立させる役割を果たすのが経過措置です。

今後、退職金から給与や企業型DCへ移行する企業が増えれば、同じ会社の社員でも世代によって退職給付制度が異なるケースが増える可能性があります。

そのとき重要なのは、会社全体の制度だけを見ることではありません。

自分がどの制度の対象なのか。

これまで積み上げた退職金はどうなるのか。

今後の勤務分はどの制度で積み上がるのか。

そこまで確認して初めて、制度変更が自分の生涯報酬にどのような影響を与えるのかが分かるのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月31日夕刊 退職金、なくなるの? 人材流動化で見直しも

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