企業価値担保権のデメリットとは何か 担保が不要になる代わりに銀行との情報共有が増える理由編

経営

企業価値担保権は、不動産などの個別資産に頼らず、会社の事業全体の価値を踏まえて融資を受けられる仕組みです。

土地や建物をあまり持たない企業でも、技術、ブランド、顧客基盤、ノウハウ、将来キャッシュフローなどを評価してもらえる可能性があります。

経営者保証への過度な依存を減らすことも期待されています。

それなら企業にとってメリットばかりの制度なのでしょうか。

そうとは限りません。

企業価値を金融機関に評価してもらうためには、会社の事業内容を詳しく説明する必要があります。

融資を受けた後も、事業計画と実績を比較しながら継続的に情報を提供することが重要になります。

企業価値担保権は、担保や保証に頼らない代わりに、企業と金融機関がこれまで以上に深く関わる融資ともいえるのです。

企業価値担保権は何でも無担保で借りられる制度ではない

最初に注意したいのは、企業価値担保権は何の担保もなく簡単に借りられる制度ではないことです。

企業価値担保権そのものが担保の仕組みです。

従来は土地や建物など個別の資産に担保権を設定する方法が広く利用されてきました。

企業価値担保権では、会社の事業全体の価値を担保として捉えます。

つまり、

担保がなくなる

というより、

担保として評価する対象が変わる

と考えた方が分かりやすいでしょう。

事業計画を詳しく作る必要がある

企業価値を評価するためには、金融機関が会社の将来を理解しなければなりません。

そこで重要になるのが事業計画です。

今後どの程度売上を伸ばすのか。

どのような商品やサービスを販売するのか。

どの顧客層を開拓するのか。

設備投資はいくら必要なのか。

何人採用するのか。

いつ利益が出るのか。

どの程度のキャッシュフローを生み出すのか。

こうした内容を具体的な数字にする必要があります。

経営者の頭の中にある計画だけでは、金融機関は企業価値を十分に判断できません。

事業計画作成には負担がかかる

小規模企業では、経営者自身が営業、採用、資金繰りなど多くの仕事を担当している場合があります。

そこへ詳細な事業計画の作成が加われば負担になります。

過去の売上を整理します。

顧客別の売上を分析します。

将来の販売数量を予測します。

利益計画を作ります。

資金繰りも予測します。

金融機関から質問を受ければ、その根拠も説明します。

参考記事のコカゲでも、融資を受けるまで金融機関との継続的な打ち合わせが行われています。

企業価値を丁寧に評価してもらうことと、企業側の説明負担は表裏一体です。

融資を受けた後も情報提供が必要になる

通常の融資でも金融機関への決算書提出などは行われます。

企業価値担保権では、それ以上に継続的な経営情報の共有が重要になる可能性があります。

企業価値は毎年同じとは限らないからです。

主要顧客を失えば価値が下がる可能性があります。

新商品が成功すれば価値が高まる可能性があります。

そこで金融機関は、融資後も会社の状況を確認します。

売上。

利益。

在庫。

売掛金。

現預金。

キャッシュフロー。

事業計画の進捗。

こうした情報を継続的に共有する必要があります。

モニタリングを受ける意味

金融機関が融資後も会社の経営状況を確認することをモニタリングと呼びます。

企業側から見ると、銀行に経営を監視されているように感じるかもしれません。

しかし企業価値を基礎に融資する以上、金融機関にとってモニタリングは重要です。

不動産担保なら、融資後も土地そのものが急に消えるわけではありません。

一方、事業価値は短期間で変化する可能性があります。

売上が急減する。

重要な取引先を失う。

主力商品の競争力が低下する。

重要な人材が退職する。

こうした出来事によって企業価値が低下する可能性があります。

そのため金融機関は継続的に会社を見る必要があります。

コベナンツが設定される場合もある

企業価値担保権を使った融資では、一定の条件を設定する場合があります。

こうした融資契約上の条件をコベナンツと呼びます。

参考記事のコカゲでは、売上や在庫などを3カ月ごとに確認する条件が設定されています。

金融機関は計画と実績の差を確認します。

企業側から見ると、自由に経営しているだけでは済まず、一定の経営情報を定期的に説明する必要が生じます。

これも企業価値担保権を利用するときに理解しておきたい点です。

悪い情報も伝える必要がある

企業と銀行との情報共有では、良い情報だけを伝えればよいわけではありません。

むしろ重要なのは悪い情報です。

売上が計画を下回った。

新商品が予定通り発売できない。

大口顧客との取引が終了した。

在庫が増えている。

資金繰りが悪化している。

こうした情報を金融機関へ早めに伝えることが重要です。

問題を隠して企業価値を高く見せようとすれば、金融機関との信頼関係を損なう可能性があります。

企業価値担保権では、企業と金融機関の信頼関係が従来以上に重要になります。

経営の自由度に影響すると感じる場合もある

金融機関との関係が深くなることで、経営者によっては自由度が低くなったと感じる可能性があります。

例えば新しい事業へ大規模投資したいとします。

しかし当初の事業計画には入っていません。

新しい投資によって会社のリスクが大きく変わるのであれば、金融機関への説明が必要になることがあります。

大きな事業転換。

重要資産の売却。

多額の追加借入れ。

こうした経営判断について、融資契約との関係を確認しなければならない場合があります。

銀行から細かく経営に口を出されたくないと考える経営者には負担に感じられる可能性があります。

企業秘密をどこまで説明するかという問題もある

企業価値を評価してもらうには、会社の競争力の源泉を説明する必要があります。

主要顧客。

独自技術。

価格戦略。

仕入先。

新商品の計画。

将来の事業戦略。

これらは会社にとって重要な情報です。

金融機関には守秘義務がありますが、企業側としても、どの情報をどの程度共有するのかを適切に管理する必要があります。

特に技術やノウハウが企業価値の中心となる会社では、情報管理の体制も重要になります。

銀行によって評価が変わる可能性がある

不動産であれば、一定の市場価格を参考にできます。

もちろん不動産評価にも違いはありますが、比較材料は比較的多くあります。

一方、ブランドや技術、ノウハウ、将来性の評価は簡単ではありません。

同じ会社を見ても、

A銀行は成長性が高いと判断する

B銀行はリスクが高いと判断する

ということが起こり得ます。

企業価値担保権では、金融機関の目利き力によって評価が変わる可能性があります。

企業側にとっては、自社の事業を十分理解してくれる金融機関を選ぶことも重要になります。

将来予測が外れる可能性がある

企業価値担保権では将来キャッシュフローが重要になります。

しかし将来を正確に予測することはできません。

3年間で売上を2倍にする計画だった。

ところが市場環境が変わった。

競合企業が新商品を発売した。

原材料価格が上昇した。

予定していた人材を採用できなかった。

こうしたことは起こり得ます。

事業計画が外れたからといって、直ちに経営者が悪いとは限りません。

重要なのは、計画との差が生じたときに原因を分析し、必要に応じて計画を修正することです。

金利が必ず低くなるわけではない

企業価値担保権を利用すれば、必ず低金利で借りられるわけでもありません。

参考記事ではシードの融資について、無担保融資の場合と比べて金利が半分程度になったとされています。

しかしこれは個別の事例です。

実際の融資条件は会社の信用力、事業内容、将来性、借入期間などによって変わります。

企業価値担保権を設定するための手続きや、事業計画の策定、継続的なモニタリングなども考慮する必要があります。

単純に金利だけで制度の有利不利を判断することはできません。

すべての会社に向く制度ではない

企業価値担保権が特に力を発揮しやすいのは、不動産などの有形資産だけでは十分に評価できない会社です。

例えば、

ブランド力のある会社

独自技術を持つ会社

成長中の企業

スタートアップ

事業再生中の企業

などが考えられます。

一方、十分な不動産を持ち、従来型の融資で低い金利の資金を安定して調達できている会社なら、必ず企業価値担保権を利用する必要があるわけではありません。

制度を使うこと自体が目的ではありません。

自社にとって最も適切な資金調達方法を選ぶことが重要です。

情報共有を負担ではなく経営改善に使えるか

企業価値担保権を利用すると、事業計画の作成や銀行への情報提供などの負担が増える可能性があります。

しかし見方を変えることもできます。

事業計画を作ることで、自社の将来戦略を整理できます。

毎月の数字を確認することで、経営悪化を早く発見できます。

銀行から質問を受けることで、経営者自身が見落としていた問題に気付くこともあります。

金融機関のネットワークを利用して取引先や専門家につながる場合もあります。

つまり情報共有を単なる報告義務と考えるか、経営管理を改善する機会として利用するかによっても制度の価値は変わります。

結論

企業価値担保権は、不動産などの個別資産に過度に依存せず、会社の事業全体の価値を踏まえて融資を受けられる仕組みです。

土地を持たない企業や、ブランド、技術、顧客基盤などを強みにする企業にとって、新しい資金調達の可能性を広げます。

一方で、企業価値を評価してもらうためには事業計画を詳しく作り、金融機関へ自社の事業を説明する必要があります。

融資後も売上、利益、在庫、キャッシュフローなどについて継続的な情報共有を求められる可能性があります。

コベナンツやモニタリングによって、金融機関との関係も従来以上に深くなります。

企業価値担保権は、担保も保証もなく自由に借りられる制度ではありません。

不動産などの個別資産に頼る代わりに、企業自身が事業の価値と将来性を説明し続ける仕組みだと考えると分かりやすいでしょう。

銀行から細かく経営を見られることを負担と考える会社には向かない場合があります。

一方、金融機関との対話を経営改善に利用したい企業にとっては大きなメリットになる可能性があります。

何を担保として持っているかだけではなく、会社がどのような事業を行い、これからどのように価値を生み出していくのかを銀行と共有する。

企業価値担保権のメリットとデメリットは、まさにその新しい銀行との関係の中にあるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 小さくても勝てる 企業価値担保に借り入れ 資産に頼らずブランド評価

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