企業年金には、大きく分けて二つの代表的な仕組みがあります。
確定給付企業年金と企業型確定拠出年金です。
名前が似ているため分かりにくいのですが、両者には大きな違いがあります。
確定給付企業年金は、将来受け取る給付の算定方法があらかじめ決められている制度です。
一方、確定拠出年金は、会社などが拠出する掛金が決められており、将来受け取る金額は運用結果によって変わります。
つまり、
将来の給付を中心に設計するのが確定給付企業年金
現在の掛金を中心に設計するのが確定拠出年金
と考えると分かりやすくなります。
この違いは、資産運用のリスクを誰が負担するのかという問題にもつながっています。
確定給付企業年金とは何か
確定給付企業年金は、企業が社員の老後所得を支えるために設ける企業年金制度の一つです。
英語ではDefined Benefitと呼ばれるため、頭文字を取ってDBとも呼ばれます。
Definedは確定された、Benefitは給付という意味です。
つまり、
給付をあらかじめ一定のルールで決める年金
です。
たとえば、
勤続年数
給与
職務や等級
ポイント
などをもとに、将来受け取る給付額を計算する仕組みがあります。
実際の計算方法は企業の制度によって異なります。
社員から見ると、一定の算定方法に基づいて将来の給付を見通しやすいことが特徴です。
給付額の決まり方
確定給付企業年金では、規約で給付の算定方法が定められています。
たとえば単純化して、
勤続年数掛ける一定額
によって給付額を計算する制度があったとします。
勤続30年で1年につき40万円なら、
40万円掛ける30年で1200万円
となります。
実際にはこれほど単純とは限りません。
給与水準や職務、勤続期間などを反映した複雑な計算方法を採用している制度もあります。
重要なのは、
社員自身の投資成績だけで将来の給付が決まる制度ではない
という点です。
一定の算定ルールに基づいて給付を行うことを前提として、必要な資金を準備します。
会社は将来の給付に備えて掛金を積み立てる
企業年金は、社員が退職したときに会社がその都度すべてのお金を用意する仕組みではありません。
将来の年金給付に備えて、企業などが掛金を拠出し、年金資産を積み立てます。
その資産を長期間運用しながら、将来の給付に備えます。
イメージすると、
会社が掛金を拠出する
年金資産として積み立てる
長期間運用する
社員が退職後などに給付を受け取る
という流れです。
何十年という長期間にわたる制度なので、資産運用の結果が制度運営に大きく影響します。
なぜ資産を運用するのか
企業が将来1000万円を社員に給付するとします。
だからといって、現在1000万円を現金のまま保管しておかなければならないわけではありません。
将来の給付まで長い時間があります。
その間、年金資産を運用すれば運用収益を得られる可能性があります。
たとえば企業が拠出した掛金と、その掛金から得られる運用収益を合わせて将来の給付原資にします。
そのため企業年金では、
企業が拠出する掛金
資産運用による収益
の両方が重要になります。
株式や債券などに分散して長期運用することによって、将来必要になる資金を準備していきます。
企業が運用リスクを負うとはどういうことか
確定給付企業年金の大きな特徴は、運用結果によって社員の給付額が直接そのまま上下する仕組みではないことです。
たとえば、将来必要となる給付のために100億円の資産が必要になると見込んでいたとします。
ところが株価下落や金利環境の変化などによって、年金資産の積み立て状況が悪化することがあります。
必要な資金に不足が生じれば、制度を運営する企業側に追加の負担が必要になる場合があります。
社員が、
運用に失敗したので、あなたの年金をそのまま半分にします
という単純な仕組みではありません。
この意味で、確定給付企業年金では企業側が運用や積立不足に関するリスクを相対的に大きく負っていると考えることができます。
確定拠出年金では考え方が逆になる
企業型確定拠出年金では考え方が大きく変わります。
確定拠出年金は、英語ではDefined Contributionと呼ばれ、DCと略されます。
Contributionは拠出という意味です。
つまり、
会社が拠出する掛金を決める制度
です。
たとえば会社が、
毎月3万円
を社員の確定拠出年金口座に拠出するとします。
会社側は原則として、その掛金を拠出する役割を負います。
その資金をどの商品で運用するのかは加入者である社員が選びます。
預金などを選ぶ人もいれば、投資信託などを選ぶ人もいます。
その結果、将来受け取れる金額は運用成績によって変わります。
DBとDCでは何が確定しているのか
確定給付と確定拠出という言葉が分かりにくい理由は、
何が確定しているのか
が違うからです。
確定給付企業年金では、
給付の算定方法
があらかじめ決まっています。
企業型確定拠出年金では、
会社などが拠出する掛金
が決まっています。
したがって、
DBは給付を基準に考える
DCは掛金を基準に考える
と覚えると理解しやすくなります。
この違いが、そのまま企業と社員のリスク分担の違いにつながります。
企業にとってDBの負担が重くなる場合がある
確定給付企業年金は、社員にとって将来の給付を見通しやすい制度です。
しかし企業にとっては、将来の負担を抱える制度でもあります。
年金制度は数十年間続きます。
その間には、
株価の下落
金利の変動
加入者や受給者の構成変化
賃金制度の変更
など、さまざまな変化が起こります。
当初想定していた運用収益を得られなければ、必要な積立水準を確保するため企業側の負担が増えることがあります。
企業にとって企業年金は、単なる福利厚生ではなく長期的な財務負担にもなります。
会計上も企業の経営に影響する
確定給付型の退職給付制度は、企業会計にも影響します。
企業は将来社員へ支払う退職給付について、一定の会計処理を行います。
将来の退職給付を見積もり、年金資産などとの関係を考慮して財務諸表に反映します。
そのため金利や年金資産の運用状況などが変化すると、企業の財務数値にも影響することがあります。
社員にとっては老後保障の制度ですが、会社側から見ると、
人事制度
資産運用
財務
会計
が関係する大きな制度なのです。
なぜ企業はDCへ移行するのか
企業が確定給付型の制度から確定拠出型の制度へ移行する理由の一つが、将来負担を見通しやすくすることです。
確定給付企業年金では、将来必要な給付を行うため、長期間にわたって年金財政を管理する必要があります。
一方、確定拠出年金では企業が負担する掛金が明確です。
たとえば、
社員1人につき毎月3万円
と決めれば、企業は必要な費用を比較的把握しやすくなります。
企業側から見ると、将来の年金給付に関する不確実性を抑えやすい仕組みです。
これが確定拠出年金を採用する理由の一つです。
社員にとってDBが安心とは限らない
確定給付企業年金では、給付の算定方法があらかじめ決められているため、社員にとって安心感があります。
しかし、
DBなら絶対に有利
というわけではありません。
会社ごとに制度内容が違うからです。
給付水準がどの程度なのか。
何年働けば受給資格を得られるのか。
退職時に一時金を選択できるのか。
年金として何年間受け取れるのか。
こうした条件を確認する必要があります。
制度の名前だけで判断するのではなく、実際の給付内容を見ることが重要です。
転職が増えると企業年金にも変化が求められる
確定給付企業年金は、長期間同じ会社で働く従来型の雇用制度と相性がよい面があります。
長く勤めるほど給付が増える制度であれば、社員に長期勤続を促す効果があります。
一方、転職が一般的になると、
一つの会社に長く勤めることを前提とした制度
が必ずしもすべての社員に適しているとは限りません。
中途採用の社員が増えれば、入社年齢や勤続期間も社員ごとに異なります。
そのため企業年金も、人材流動化に対応した制度設計が求められるようになります。
退職金制度の見直しと企業年金制度の見直しが同時に議論されるのは、このためです。
結論
確定給付企業年金は、将来受け取る給付の算定方法をあらかじめ定め、その給付を行うために企業などが掛金を拠出し、年金資産を積み立てていく制度です。
英語ではDefined Benefitと呼ばれ、DBと略されます。
企業型確定拠出年金との最大の違いは、何を基準として制度を設計するのかです。
確定給付企業年金では給付の算定方法をあらかじめ定めます。
確定拠出年金では会社などが拠出する掛金を定め、将来受け取る金額は運用結果によって変わります。
この違いによって、資産運用のリスクを誰が負担するのかも変わります。
確定給付企業年金では、必要な積立水準を確保するために企業側の追加負担が生じる場合があります。
一方、確定拠出年金では社員自身の運用結果が将来の受取額に直接影響します。
終身雇用を前提とした時代には、企業が社員の老後まで支える確定給付型の制度には大きな意味がありました。
しかし、人材の流動化が進む時代には、企業がどこまで将来の給付を保証し、社員がどこまで自分で老後資産を形成するのかという役割分担が変わり始めています。
退職金制度の変化を理解するには、企業年金についても、
誰がお金を出すのか
誰が運用するのか
誰が運用リスクを負うのか
という三つの視点から見ることが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年8月31日夕刊 退職金、なくなるの? 人材流動化で見直しも