内部統制とは何か 会社が社員を信用していてもチェック体制が必要な理由編

会計

会社では、多くの社員が毎日さまざまな仕事をしています。

商品を販売する人がいます。

商品を仕入れる人がいます。

請求書を発行する人がいます。

代金を振り込む人がいます。

会計システムに仕訳を入力する人もいます。

ここで、

「社員を信用しているので、一人の担当者にすべて任せればよい」

と考えると、会社にとって大きなリスクになることがあります。

社員を信用することと、チェックをしないことは同じではありません。

人間が仕事をする以上、意図的な不正だけでなく、勘違いや入力間違いなどのミスも起こります。

そこで会社は、仕事のやり方を決め、複数の人が確認し、問題が起きれば発見できる仕組みを作ります。

これが内部統制です。

内部統制というと、上場企業だけに関係する難しい会計制度のように思えるかもしれません。

しかし、その基本的な考え方は非常に単純です。

誰か一人の注意力や善意だけに頼らず、会社の仕組みによって業務を適正に行うことなのです。

内部統制とは何か

内部統制とは、会社の業務を適正かつ効率的に行うために、会社の内部に設けるさまざまな仕組みです。

たとえば会社が商品を仕入れる場合を考えてみます。

担当者が商品を発注します。

上司が発注内容を承認します。

商品が届いたら、注文した商品と一致しているか確認します。

取引先から請求書が届いたら、発注内容や納品内容と照合します。

支払いについて別の責任者が承認します。

経理担当者が会計処理をします。

このように一つの取引について複数の手続きを設けます。

面倒に見えるかもしれません。

しかし、こうした仕組みがあることで、間違った商品を注文したり、架空の請求書に代金を支払ったり、同じ請求書を二重に支払ったりするリスクを減らせます。

内部統制とは、会社の仕事を安全に動かすための仕組みだと考えると分かりやすいでしょう。

内部統制は会計だけの仕組みではない

内部統制という言葉は、J SOXや決算書と一緒に使われることが多いため、会計だけの制度と思われがちです。

しかし、内部統制そのものはもっと広い概念です。

金融庁が示している内部統制の基本的枠組みでは、内部統制の目的として、業務の有効性及び効率性、報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守、資産の保全が挙げられています。

つまり、正しい決算書を作ることだけが目的ではありません。

仕事を効率的に行う。

社内外へ正しい情報を報告する。

法律や社内ルールを守る。

会社のお金や商品などを守る。

こうした幅広い目的を達成するために内部統制があります。

そのうち、特に財務報告の信頼性に関係する内部統制を対象としているのが、J SOXの財務報告に係る内部統制です。

なぜ社員を信用していても必要なのか

内部統制について、

「社員を疑っているからチェックするのか」

と思う人もいるかもしれません。

そうではありません。

内部統制は、社員を信用するかどうかとは別の問題です。

どれだけ真面目な社員でもミスをすることがあります。

請求金額の数字を一桁間違えることがあります。

振込先を間違えることがあります。

売上を違う月に計上することがあります。

会計システムへの入力を忘れることもあります。

一人で仕事をしていれば、その本人が自分の間違いに気づかなければ、そのまま処理が進んでしまいます。

しかし、別の人が確認すれば、

「この金額はおかしいのではないか」

と気づく可能性があります。

内部統制には、人間はミスをする可能性があるという前提があります。

誰か一人の能力や注意力に頼るのではなく、仕組みによってミスを減らすのです。

不正を防ぐ仕組み

内部統制には、不正を防止する役割もあります。

たとえば会社の銀行口座について、一人の経理担当者が自由に振り込みできる状態を考えてみます。

その担当者が、

振込先を登録する。

振込金額を入力する。

振込を承認する。

会計処理も行う。

銀行残高も確認する。

これらをすべて一人で行えるとします。

本人が不正をしなければ問題は起きないかもしれません。

しかし、もし不正をしようと思えば、架空の取引先へ会社のお金を振り込み、その会計処理まで自分で操作できる可能性があります。

そこで、

振込データを作る担当者。

振込を承認する責任者。

会計処理をする担当者。

銀行残高を確認する担当者。

というように仕事を分けます。

一人では取引を完結できないようにするのです。

これだけでも不正を行うハードルは高くなります。

不正の防止と発見は違う

内部統制を理解するときには、

「不正を起こさせない仕組み」

「不正が起きたときに見つける仕組み」

を分けて考えると分かりやすくなります。

たとえば一定金額以上の支払いには上司の事前承認が必要というルールは、不正な支払いを事前に防ぐ仕組みになります。

一方、毎月銀行口座の残高と会計帳簿を照合する仕組みは、不正な支払いなどが発生していないかを後から発見する役割があります。

どちらか一方だけで十分とは限りません。

不正をできるだけ防ぐ。

それでも起きてしまった場合には早く見つける。

この二段構えが重要になります。

ミスを防ぐ仕組み

内部統制は、不正をする人だけを想定した制度ではありません。

実際の会社では、意図的な不正より日常的なミスのほうが頻繁に起こることもあります。

たとえば売上高100万円を1000万円と入力してしまうかもしれません。

取引先から届いた請求書を二重に処理するかもしれません。

売掛金の入金を別の取引先のものとして処理することもあります。

こうしたミスを完全になくすことは難しいでしょう。

そこでシステム上で異常な金額を警告したり、別の担当者が入力内容を確認したりします。

内部統制では、

「社員が絶対に間違えないようにする」

ことを目指すのではありません。

「間違いが起きても重大な問題になる前に防止したり発見したりできる」

仕組みを作ることが重要です。

業務を分担する意味

内部統制の代表的な考え方が職務分掌です。

簡単にいえば、一つの取引を最初から最後まで一人に任せないことです。

たとえば商品を購入する場合、

購入を依頼する人。

購入を承認する人。

商品を受け取る人。

請求書を確認する人。

支払いを行う人。

会計処理をする人。

といった役割があります。

すべてを一人に集中させれば仕事は速く進むかもしれません。

しかし、その人が間違えても誰も気づかない可能性があります。

不正をしようとすれば、一人で取引を操作できる可能性もあります。

そこで重要な業務を複数の人に分けます。

これが相互チェックにつながります。

職務分掌は、

「社員を信用しないから仕事を分ける」

のではありません。

会社の重要な仕事を誰か一人に依存させないための仕組みなのです。

承認があるだけでは内部統制とはいえない

会社にはさまざまな承認手続きがあります。

しかし、承認欄に印鑑が押されていたり、システム上で承認ボタンが押されていたりすれば、それだけで内部統制が機能しているとは限りません。

たとえば毎日大量の申請が上がってくるため、上司が内容を見ずに承認ボタンを押しているとします。

形式上は承認されています。

しかし、実質的なチェックは行われていません。

重要なのは、

誰が確認するのか。

何を確認するのか。

どのような場合に承認しないのか。

異常を発見したら誰に報告するのか。

というところまで仕組みとして機能していることです。

内部統制は、ルールが存在するだけでは足りません。

実際に運用されていることが重要なのです。

システムによる内部統制もある

現在の企業では、多くの業務がITシステムを通じて行われています。

そのため、人が目で確認するだけが内部統制ではありません。

たとえば会計システムへのアクセス権限を限定します。

経理担当者だけが仕訳を入力できるようにします。

一定金額以上の支払いでは、自動的に上位者の承認が必要になるよう設定します。

一度承認されたデータを自由に変更できないようにします。

異常な取引があればシステムが警告を出す仕組みもあります。

このように、ITを利用してミスや不正を防ぐことも内部統制の重要な部分です。

ただし、システムを導入すれば安心というわけではありません。

誰にどの権限を与えるのか。

システムを変更できる人をどう管理するのか。

退職した社員のアクセス権限を削除しているか。

こうしたシステムそのものを管理する仕組みも必要になります。

内部統制にも限界がある

内部統制をどれだけ整備しても、不正やミスを完全になくすことはできません。

たとえば二人の社員が共謀すれば、本来の相互チェックが機能しなくなる可能性があります。

経営トップが通常の承認手続きを無視して取引を進める可能性もあります。

人間による判断ミスもあります。

さらに、あらゆるリスクに対して何重ものチェックを設ければ、会社の仕事が進まなくなります。

100万円の取引を確認するために100万円のコストをかけていては意味がありません。

そのため内部統制では、重要なリスクを考えながら、合理的な範囲で仕組みを整える必要があります。

内部統制は、

「絶対に事故が起きない会社」

を作る制度ではありません。

重大な不正やミスが発生する可能性を合理的な水準まで下げるための仕組みです。

経営者が内部統制に責任を持つ理由

内部統制は経理部門だけの仕事ではありません。

売上の内部統制には営業部門が関係します。

在庫には営業部門や物流部門、製造部門などが関係します。

システムにはIT部門が関係します。

人事や給与には人事部門が関係します。

会社全体の仕事がつながって財務情報が作られています。

だからこそ、特定の部署だけでは会社全体の内部統制を作ることはできません。

最終的に会社全体の仕組みを構築する責任を持つのが経営者です。

今回、金融庁が検討している確認書の厳格化も、この考え方につながっています。

有価証券報告書の数字を経理部門に任せるだけではなく、その数字が正しく作られるチェック体制が実際に機能しているかについて、経営トップ自身が責任を持って確認することが求められる方向です。

結論

内部統制とは、会社の業務を適正に行うために設けられる社内の仕組みです。

不正を防ぐだけではありません。

人間が仕事をする以上避けることが難しいミスを防止したり、発生した問題を早く発見したりする役割もあります。

その代表的な方法が、担当者と承認者を分けるなど、一つの仕事を複数の人で確認する職務分掌です。

社員を信用することと、内部統制を設けることは矛盾しません。

むしろ、

「人間は誰でも間違える可能性がある」

「一人に権限を集中させれば不正が可能になる」

という前提に立ち、社員個人の注意力や善意だけに会社を依存させないことが内部統制の考え方です。

良い会社の仕組みとは、優秀な社員が一度も間違えないことを期待する仕組みではありません。

誰かが間違えても別の人やシステムが気づき、重大な問題になる前に止められる仕組みなのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月29日 朝刊 会計、経営者自ら確認 不正防止へ「宣言」義務付け 金融庁

タイトルとURLをコピーしました