企業の子育て支援というと、育児休業の取得促進、短時間勤務、テレワーク、残業削減など、さまざまな取り組みがあります。
こうした制度を充実させれば、従業員が仕事と育児を両立しやすくなり、企業にとっても人材の採用や定着につながる可能性があります。
しかし、同じ制度でも大企業と中小企業では導入の難しさが大きく異なります。
大企業には人事や労務を専門に担当する部署がありますが、中小企業では経営者や総務担当者が給与計算、採用、社会保険、労務管理などを兼務していることも珍しくありません。
子育て支援を進めたくても、制度を調べ、設計し、申請するための人材そのものが不足しているのです。
大企業と中小企業では人員に差がある
大企業では、人事部や労務部などの専門部署を設けることができます。
その中でも採用、人材育成、給与、社会保険、福利厚生など、業務ごとに担当者を置くことがあります。
法律が改正された場合には、専門の担当者が内容を確認し、就業規則や社内制度を変更できます。
一方、中小企業では同じことを少人数で行わなければならない場合があります。
一人の担当者が給与計算をしながら採用活動を行い、社会保険の手続きも担当するといったケースです。
そこへ新しい子育て支援制度の調査や申請が加われば、業務負担はさらに大きくなります。
制度を導入したくないのではなく、制度を導入するための人員が足りないという問題があるわけです。
制度設計にも専門知識が必要になる
子育て支援制度は、単に育児休業を認めますと決めれば完成するものではありません。
誰が利用できるのか。
どのような手続きが必要なのか。
休業中の業務を誰が担当するのか。
職場復帰後の働き方をどうするのか。
人事評価や昇進にどのように反映するのか。
さまざまな問題を考える必要があります。
さらに育児介護休業法や労働基準法など、関係する法律も確認しなければなりません。
中小企業の経営者が通常の営業や経営をしながら、こうした制度をすべて理解して設計するのは簡単ではありません。
専門人材を社内に置けない企業ほど、制度導入のハードルが高くなります。
一人が休む影響も中小企業ほど大きい
従業員数の違いも重要です。
例えば1000人の会社で一人が育児休業を取得する場合と、10人の会社で一人が取得する場合を考えてみます。
前者では全従業員の0.1%ですが、後者では10%です。
もちろん実際の影響は職務によって異なりますが、人数が少ない企業ほど一人の休業が組織全体に与える影響は大きくなりやすいといえます。
特に特定の従業員しかできない仕事がある場合、その人が長期間休むと業務そのものが止まる可能性があります。
そのため、中小企業では育児休業制度だけでなく、仕事を複数の人が担当できる体制づくりも必要になります。
子育て支援を進めることが、業務の標準化や技能承継の問題にもつながるわけです。
代替人員を確保する余裕も小さい
大企業では、育児休業を取得する従業員が出た場合、部署間で人員を異動させるなどの対応ができることがあります。
一方、もともと最低限の人数で運営している中小企業では、社内から代替人員を出すことが難しい場合があります。
新たに人を採用しようとしても、人手不足の中では簡単に見つかるとは限りません。
期間限定の代替人員であれば、さらに採用が難しくなることも考えられます。
制度上は育児休業を取得できても、その穴を誰が埋めるのかという実務上の問題が大きいのです。
ここを解決しなければ、制度を利用する従業員本人も周囲への負担を気にして取得をためらう可能性があります。
申請手続きも企業の負担になる
企業向けの認定制度や補助金では、一定の申請手続きが必要になります。
申請書を作成し、必要な資料をそろえ、取り組みの実績を確認する作業が発生します。
大企業であれば専門部署が対応できます。
しかし、中小企業では通常業務を担当している人が申請作業も行うことになります。
例えば補助金が利用できるとしても、申請のために多くの時間が必要であれば、金額によっては申請しないという判断もあり得ます。
制度のメリットより手続きコストのほうが大きくなってしまうからです。
政策をつくる側から見ると小さな手続きでも、人員の少ない企業にとっては大きな負担になることがあります。
認定制度が大企業に偏る理由
こうした事情から、企業認定制度は大企業のほうが利用しやすくなる傾向があります。
認定基準を調べる。
社内制度を整備する。
必要なデータを集計する。
申請書を作成する。
認定後も継続的に実績を管理する。
これらの作業には人と時間が必要です。
大企業は専門部署を持つことができるため対応しやすい一方、中小企業では同じ作業の負担が相対的に大きくなります。
その結果、実際には子育て支援に熱心な中小企業でも、認定を取得していないということが起こり得ます。
認定企業数だけを見て企業の取り組みを判断すると、こうした違いを見落とす可能性があります。
資金面の壁もある
中小企業には人員だけでなく資金面の問題もあります。
例えばオフィスに育児支援設備を整備したり、子ども連れで利用しやすい店舗に改修したりするには費用がかかります。
大企業なら複数店舗で試験的に導入し、効果を確認してから全国展開することもできます。
中小企業では一店舗への数百万円の投資でも大きな経営判断になります。
さらに投資によってどれだけ売上が増えるか分からなければ、実行をためらうのは自然です。
子育て支援の社会的価値が高くても、資金力の違いによって実行できる企業とできない企業が生まれる可能性があります。
法人減税だけでは十分でない場合がある
中小企業を支援する場合、法人減税だけでは十分でないことがあります。
税制優遇は、基本的には利益が出て税金を負担している企業ほど利用しやすい仕組みだからです。
利益が少ない企業や赤字企業では、税金を減らす余地が小さくなります。
特に新しい子育て関連事業へ先行投資した企業では、最初の段階では利益が出ないこともあります。
そこで補助金などによって設備投資の一部を直接支援することが重要になります。
税制と補助金を組み合わせ、企業の状況に応じて支援する必要があります。
伴走支援とは何か
資金を提供するだけでは解決できない問題もあります。
そこで重要になるのが伴走支援です。
伴走支援とは、企業に制度を紹介するだけではなく、実際に取り組みを進める過程まで継続的に支援する考え方です。
どの制度を利用できるのか。
何から始めればよいのか。
どのような申請が必要なのか。
自社の規模に合った子育て支援は何なのか。
こうした問題を外部の専門家や金融機関などが一緒に考えることで、中小企業の負担を減らすことができます。
人材不足という問題には、お金だけでなく知識や実務の支援が必要なのです。
地域金融機関にも役割がある
中小企業への伴走支援では、地域金融機関も重要な存在になります。
地域の銀行や信用金庫は、融資を通じて多くの中小企業と継続的な関係を持っています。
企業の財務状況や事業内容を理解している場合もあります。
その金融機関が子育て支援制度や補助金などの情報を企業へ提供し、必要に応じて資金面でも支援できれば、中小企業が新しい取り組みを始めやすくなります。
こども家庭庁が金融機関を活用した取り組みを進めていることも、こうした中小企業への支援と関係しています。
行政だけで全国の中小企業を個別に支援することは難しいため、地域に企業との接点を持つ金融機関などを活用する意味があります。
結論
中小企業が子育て支援制度を導入しにくい理由は、子育て支援への関心が低いからとは限りません。
大企業に比べて人事や労務の専門人材が少なく、制度設計や申請手続きに割ける人員が限られています。
さらに従業員数が少ないため、一人が育児休業を取得した場合の影響も大きくなりやすく、代替人員の確保も簡単ではありません。
設備投資を伴う子育て支援では、資金面の問題もあります。
そのため、中小企業へ子育て支援を広げるには、認定制度をつくるだけでは十分ではありません。
申請手続きを簡素化し、補助金などで初期投資を支え、外部の専門家や地域金融機関が制度導入を手伝う伴走支援が重要になります。
大企業だから子育て支援ができるのではなく、中小企業でも取り組める仕組みをつくる。
2027年度に創設が検討されている新しい子育て支援企業認定制度が全国に広がるかどうかは、中小企業が無理なく参加できる制度にできるかが大きなポイントになります。
参考
日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 子育て向け商品・サービス提供企業に法人減税