少子化が進む日本では、企業にとって商品を売る競争だけでなく、人を採用する競争も厳しくなっています。
特に若い人材が減っていけば、企業が求職者を選ぶだけではなく、求職者から企業が選ばれるという側面が強くなります。
そこで重要になるのが、給与や仕事内容だけではありません。
結婚や出産をしても働き続けられるのか。育児休業を実際に取得できるのか。子育てと仕事を両立できるのか。
こうした働き方も就職先を選ぶ材料になります。
こども家庭庁が2027年度に創設を目指す新しい子育て支援企業の認定制度では、民間の求人サイトで認定企業かどうかが分かるようにし、人材確保を後押しすることも視野に入れています。
子育て支援の認定が、企業の採用力にもつながる可能性があるのです。
認定企業を見える化する意味
企業は採用活動でさまざまな情報を発信します。
給与、休日、勤務地、仕事内容、福利厚生などです。
その中で、子育てを支援する会社ですと説明することもできます。
しかし、求職者からすると、その説明が実際の職場環境をどこまで反映しているのか判断することは簡単ではありません。
そこで第三者による認定が意味を持ちます。
一定の基準を満たした企業だけが認定を受けられるのであれば、求職者は企業自身の広告だけではなく、外部の評価を企業選びの参考にできます。
認定マークは、複雑な企業情報を分かりやすく伝える目印になるわけです。
くるみんも採用で利用できる
既存のくるみん認定にも同じような役割があります。
くるみんは、次世代育成支援対策推進法に基づき、仕事と子育ての両立支援に取り組む企業を認定する制度です。
認定企業はくるみんマークを使用できます。
求職者が企業の詳しい人事制度をすべて調べなくても、認定の有無を一つの判断材料にできます。
特に育児休業取得や労働時間などについて一定の基準を満たしていることが示されれば、将来子どもを持ったときにも働き続けられる会社かどうかを考えやすくなります。
企業側にとっては、子育て支援への投資を採用活動にも利用できることになります。
求人サイトとの連携には大きな意味がある
認定制度があっても、求職者がその存在を知らなければ採用への効果は限定的です。
そこで重要になるのが求人サイトとの連携です。
求職者が仕事を探す際に、給与や勤務地などと一緒に子育て支援企業の認定状況を確認できれば、認定そのものが企業選びの情報になります。
例えば求人検索で、一定の認定を取得している企業だけを絞り込めるようになれば、子育て支援に積極的な企業へ求職者が集まりやすくなる可能性があります。
企業にとっても、認定を取得する経済的な意味が大きくなります。
認定を取ることが採用市場での露出につながるからです。
若い世代にも子育て支援は関係する
現在子どもがいない求職者には、子育て支援制度は関係ないと思われるかもしれません。
しかし就職は、数カ月だけ働く会社を選ぶとは限りません。
20代で就職した人が、その後結婚し、30代で子どもを持つこともあります。
そのとき会社を辞めなければならないのか、それとも仕事を続けられるのかは長期的なキャリアに大きく影響します。
そのため、現在子育てをしていない人でも、将来利用する可能性のある制度として育児支援を見ることができます。
企業の子育て支援は、現在の子育て世代だけを対象とした福利厚生ではなく、若い人材に対する将来の働き方の約束という意味も持ちます。
福利厚生だけでなく働き方そのものが重要になる
ただし、子育て支援という名称の制度が多ければ採用で有利になるとは限りません。
制度を実際に利用できるかが重要です。
育児休業制度があっても、取得すると周囲に迷惑をかけるという雰囲気が強ければ利用しにくくなります。
短時間勤務制度があっても、利用者が昇進や評価で不利になると考えれば利用をためらうでしょう。
毎日の長時間労働が当たり前であれば、育児休業から復帰した後に仕事と子育てを両立することが難しくなります。
求職者にとって本当に重要なのは、制度の数ではなく実際に働き続けられる環境があるかどうかです。
その意味でも、一定の実績を確認したうえで認定する仕組みが重要になります。
採用コストを減らせる可能性がある
企業が人を採用するためには費用がかかります。
求人広告を出したり、人材紹介会社を利用したり、採用担当者が説明会や面接を行ったりします。
応募者が集まりにくければ、さらに採用活動を続けなければなりません。
一方、子育て支援企業としての認知度が高まり、求職者から積極的に応募してもらえるようになれば、採用活動を効率化できる可能性があります。
認定取得のために子育て支援へ投資しても、その結果として採用費用が減れば、企業側にも経済的なメリットがあります。
子育て支援費だけを見るのではなく、人材獲得にかかる費用全体で考える必要があります。
採用だけでなく離職防止にもつながる
子育て支援のメリットは、新しい人を採用することだけではありません。
すでに働いている人材に長く働いてもらうことにもあります。
企業が採用した人材が数年後に出産や育児を理由に退職すれば、再び採用活動が必要になります。
新しい人材を教育する費用も発生します。
育児をしながら働き続けられる環境を整備すれば、こうした人材の入れ替わりを減らせる可能性があります。
採用力と定着力は別々の問題ではありません。
人を採用しやすく、さらに長く働いてもらえる企業をつくることが、人手不足時代の人材戦略になります。
中小企業ほど認定が武器になる可能性がある
大企業は企業名そのものが知られているため、求人を出せば多くの人に認知される場合があります。
一方、中小企業には優れた職場環境があっても、その情報が求職者に届きにくいという問題があります。
そこで認定制度が役立つ可能性があります。
企業名を知らなくても、国の認定を取得した子育て支援企業であることが求人情報に表示されれば、求職者の目に留まりやすくなります。
認定制度は、中小企業の働きやすさを外部に伝える共通の物差しになるわけです。
ただし、中小企業が認定を取得するための事務負担が重すぎれば利用は広がりません。
認定制度と中小企業への伴走支援を組み合わせることが重要になります。
新制度では社外への取り組みも企業イメージになる
2027年度に創設が検討されている新制度では、従業員への育児支援だけでなく、商品やサービスを通じた社外への子育て支援も評価する方向です。
例えば、子育て支援住宅を提供している企業や、子ども連れで利用しやすい店舗を運営している企業などです。
こうした企業は、自社の従業員だけではなく、社会全体の子育てを支援する企業として認知される可能性があります。
若い求職者が就職先を選ぶ際には、仕事内容や給与だけでなく、その企業が社会でどのような役割を果たしているかを考える場合もあります。
子育て支援への取り組みが企業理念や事業内容と結び付けば、企業ブランドを通じた採用力にもつながる可能性があります。
認定を取るだけでは十分ではない
一方、認定マークを取得すること自体が目的になってしまうことには注意が必要です。
求職者が認定をきっかけに入社しても、実際の職場が認定から受けるイメージと大きく違えば、早期退職につながる可能性があります。
重要なのは、認定と実態が一致していることです。
育児休業の取得実績、職場復帰後の働き方、労働時間、管理職の理解などを継続的に改善する必要があります。
認定マークは企業の実態を伝える入口であり、それだけで働きやすい職場が完成するわけではありません。
結論
子育て支援企業の認定は、企業の採用力を高める手段になる可能性があります。
国などによる認定が求人情報に表示されれば、求職者はその企業が子育て支援に取り組んでいることを簡単に確認できます。
特に、将来結婚や出産を考える若い世代にとって、子どもが生まれても働き続けられる会社かどうかは長期的なキャリアを考える重要な情報です。
企業側にとっても、認定によって応募者が増えれば採用コストを抑えられる可能性があります。
さらに育児を理由とした離職を防ぐことができれば、採用と定着の両方でメリットが生まれます。
2027年度に創設が検討されている新しい認定制度と求人サイトなどが連携すれば、子育て支援への取り組みが採用市場で見えるようになります。
子育て支援にお金を使うことが福利厚生費で終わるのではなく、人材を獲得し、長期間働いてもらうための投資になる。
人手不足が進む日本では、子育て支援企業であることそのものが採用競争力の一つになっていく可能性があります。
参考
日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 子育て向け商品・サービス提供企業に法人減税