信託型と資金移動業型は何が違うのか 同じ円連動型でも送金上限が変わる仕組み編

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円に連動するステーブルコインであれば、どれも同じように使えると思うかもしれません。

しかし実際には、どのような法律上の仕組みで発行されているかによって、資金の管理方法や利用できる金額、適した用途が変わります。

特に重要なのが、信託型と資金移動業型の違いです。

どちらも1コインを1円相当として利用することを目指す円連動型ステーブルコインを発行できますが、その背後にある金融制度は同じではありません。

この違いを理解すると、なぜ日常的な買い物では資金移動業型が利用しやすく、住宅や自動車などの高額決済では信託型が注目されるのかが見えてきます。

発行主体の違い

まず違うのが、ステーブルコインをどのような資格や制度に基づいて発行するのかという点です。

日本では2023年に施行された改正資金決済法によって、法定通貨と価値が連動し、額面で償還できる一定のステーブルコインが電子決済手段として制度化されました。

その発行には、銀行、資金移動業者、信託会社など、それぞれの制度を利用する方法があります。

資金移動業型では、資金移動業者が資金決済法に基づく仕組みを利用して発行します。

資金移動業者は銀行ではありません。

銀行のように預金を受け入れて、その資金を企業への融資や住宅ローンなどに利用することを中心的な業務としているわけではなく、主として資金を移動させるサービスを提供します。

一方、信託型では信託会社や信託銀行などが関係し、信託という法的な仕組みを利用します。

つまり、同じ円連動型ステーブルコインでも、その裏側で利用している金融制度が違うのです。

裏付け資産の管理方法も違う

ステーブルコインでは、1コインを1円として利用できる信用をどのように作るかが重要です。

そのためには、利用者が保有するステーブルコインを円へ戻せる仕組みが必要になります。

資金移動業型では、利用者から受け入れた資金について、資金決済法に基づいた利用者保護のための資産保全が求められます。

事業者が利用者から受け取ったお金を何の制約もなく自由に使えるわけではありません。

一方、信託型では、円などの裏付け資産を信託財産として管理します。

信託財産は、信託を引き受ける事業者自身の財産とは区別して管理されます。

この違いは非常に重要です。

信託型では、ステーブルコインの裏付けとなる資産そのものを信託という法律上の箱に入れて管理するイメージです。

例えば1000万円分の円連動型ステーブルコインを発行するのであれば、それに対応する裏付け財産を信託の仕組みのなかで管理します。

利用者が保有するデジタル上のコインと、その背後に存在する現実の円を対応させる仕組みです。

100万円規制の違い

信託型と資金移動業型の違いが特に分かりやすく表れるのが、100万円という金額です。

資金移動業には第一種、第二種、第三種があります。

このうち一般的な第二種資金移動業では、1件当たり100万円相当額以下の資金移動を取り扱います。

したがって第二種の枠組みを利用する場合、500万円の自動車や5000万円の住宅を一度に決済することは難しくなります。

ただし、資金移動業ならすべて100万円までという意味ではありません。

第一種資金移動業では100万円を超える資金移動を取り扱うことができます。

一方、信託型には、第二種資金移動業にある1件100万円相当額以下という上限がそのまま設けられているわけではありません。

そのため、高額なステーブルコイン決済を考える場合には信託型が有力な選択肢になります。

500万円の自動車なら違いが分かりやすい

例えば500万円の自動車をステーブルコインで購入するとします。

購入者は500万円相当の円連動型ステーブルコインを保有しています。

販売店もステーブルコインを受け取れる環境を整えているとします。

第二種資金移動業の1件100万円相当額以下という枠組みを利用している場合、500万円を一度に資金移動することはできません。

高額決済への対応には別の制度上の仕組みが必要になります。

一方、信託型には同じ100万円の上限がないため、制度上は500万円相当のステーブルコインを一度に移転できる可能性があります。

この違いが、自動車や不動産などの高額決済で信託型が注目される理由です。

5000万円の住宅では違いがさらに大きくなる

住宅の場合は違いがさらに明確になります。

例えば5000万円の住宅を購入するとします。

銀行振り込みなら、買主の銀行口座から売主側へ5000万円を振り込む方法が考えられます。

将来的には、これを円連動型ステーブルコインで決済する可能性があります。

しかし5000万円は100万円の50倍です。

日常的な小口送金を想定した第二種資金移動業の枠組みでは、このような高額決済への対応は難しくなります。

信託型であれば100万円という同じ制限がないため、数千万円単位の決済にも利用できる可能性があります。

住宅や不動産のような高額資産の取引では、この違いが決済手段を選択する重要な要素になります。

個人決済では資金移動業型との相性がよい

それでは信託型のほうが優れているのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

金融サービスは、取り扱える金額が大きければよいというものではないからです。

例えばコンビニで500円の商品を購入する場合を考えてみます。

500円を支払うために、数千万円の資金移動を前提とした高度な仕組みは必要ありません。

飲食店で5000円を支払う場合も同じです。

日常的な小口決済では、

簡単に利用できること

スマートフォンで支払えること

送金が速いこと

手数料が低いこと

などが重要になります。

こうした用途では資金移動業の仕組みとの相性がよいと考えられます。

100万円という上限があっても、日常生活の多くの支払いでは問題にならないからです。

企業間決済では信託型が注目される

一方、企業間取引では動く金額が大きくなります。

例えば企業が仕入先へ5000万円を支払う場合があります。

設備を購入すれば1億円を超えることもあります。

不動産取引なら数億円という決済も珍しくありません。

このような世界では100万円単位の小口決済とは異なる金融インフラが必要です。

信託型ステーブルコインは、高額な裏付け資産を信託財産として管理しながら発行できるため、企業間の大口決済との組み合わせが期待されています。

3メガバンクが信託型ステーブルコインの共同発行を検討している背景にも、こうした企業間決済への利用があります。

信託型にも普及を妨げる問題がある

もっとも、信託型ならすぐに住宅や自動車の決済に利用できるわけではありません。

現在の大きな問題の一つが税務上の手続きです。

信託型ステーブルコインでは、所有者が変更された場合などに、所有者の氏名や価格などを記載した書類を税務署へ提出する必要が生じることがあります。

金額の上限がなくても、取引するたびに煩雑な書類提出が必要であれば、決済手段として普及しにくくなります。

そこで金融庁は、相続税法や所得税法を見直し、こうした書類提出を一律で不要とすることを求めています。

実現すれば、信託型が持つ高額決済への強みを実際の取引で生かしやすくなります。

同じ1円でも中身を見る必要がある

利用者から見れば、1コインが1円で使えるのであれば、どのステーブルコインでも同じように見えるかもしれません。

しかし金融商品や決済手段を見るときには、表面上の価格だけでなく、その裏側を見る必要があります。

誰が発行しているのか。

どの法律に基づいているのか。

裏付け資産はどのように保全されているのか。

いくらまで資金を移動できるのか。

円へ戻す仕組みはどうなっているのか。

こうした違いによって、同じ1円連動型でも性質が変わります。

これは銀行預金と電子マネーが、どちらも1円単位で表示されていても法律上の性質が異なるのと似ています。

ステーブルコインについても、表示されている金額だけではなく、その背後にある仕組みを理解することが重要です。

小口と大口で使い分ける時代になる可能性

今後ステーブルコインが普及すれば、一種類の仕組みですべての決済を処理するのではなく、用途によって使い分ける形になる可能性があります。

日常的な買い物や個人間送金では、小口決済に適した仕組みを利用する。

自動車や住宅などの高額決済では、信託型など大きな金額を扱いやすい仕組みを利用する。

企業間の大口決済では、さらに決済と契約や資産移転を組み合わせる。

このように同じステーブルコインでも、用途によって求められる制度が変わってきます。

重要なのは、ステーブルコインを一つの金融商品として考えるのではなく、複数の発行方式を持つ新しい決済インフラとして考えることです。

結論

信託型と資金移動業型は、どちらも円に価値を連動させるステーブルコインを提供できますが、その背後にある仕組みは異なります。

資金移動業型では、資金決済法に基づく資金移動業の制度を利用して資金を移動させます。

一般的な第二種資金移動業では1件当たり100万円相当額以下という枠組みがあるため、日常的な個人決済との相性がよい一方、自動車や住宅などの高額決済には向きにくい面があります。

一方、信託型では円などの裏付け資産を信託財産として管理します。

第二種資金移動業と同じ100万円の上限がそのまま適用されるわけではないため、数百万円の自動車、数千万円の住宅、さらに企業間の大口決済への利用が期待されています。

つまり同じ1コイン1円のステーブルコインでも、その中身は同じではありません。

誰が発行し、裏付けとなる円をどのように管理し、どの金融規制のもとで資金を移動させるのかによって、利用できる金額や適した用途が変わります。

ステーブルコインが本格的に普及する時代には、円連動型かどうかだけでなく、信託型なのか資金移動業型なのかという違いまで確認することが重要になりそうです。

参考

日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 家・車もステーブルコイン

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