SDGsへの取り組みを宣言する企業や自治体が増えています。
環境負荷を減らす。働きやすい職場をつくる。地域社会に貢献する。こうした活動を外部へ示すことには、企業の取り組みを広げたり、企業同士の連携を促したりする効果があります。
一方で、SDGsという言葉やロゴを掲げていても、実際の事業活動がほとんど変わっていなければ意味がありません。
実態以上にSDGsへ貢献しているように見せることは、SDGsウォッシュと呼ばれます。
自治体による宣言・登録・認証制度が広がるほど、登録企業数を増やすことだけではなく、その企業が実際に何を行い、地域社会にどのような変化を生み出したのかを確認することが重要になります。
SDGsウォッシュとは何か
SDGsウォッシュとは、企業や団体が実態以上にSDGsへ取り組んでいるように見せることをいいます。
環境分野で使われるグリーンウォッシュと似た考え方です。
例えば企業が自社の事業とSDGsの17目標を結び付け、ホームページなどで紹介したとします。
それ自体が問題なのではありません。
問題になるのは、具体的な取り組みや成果がほとんどないにもかかわらず、SDGsへ大きく貢献しているような印象を与える場合です。
SDGsの目標を掲げることと、その目標に向けて企業活動を実際に変えることは別です。
なぜSDGsウォッシュが起こるのか
SDGsは非常に幅広い目標を扱っています。
貧困、教育、健康、働きがい、産業、環境、まちづくりなど17の目標があります。
そのため、ほとんどの企業は何らかの形でSDGsと自社事業を結び付けることができます。
例えば社員を雇用しているから働きがいに貢献している。
電気を節約しているから気候変動対策に取り組んでいる。
地域で営業しているから持続可能なまちづくりに貢献している。
こうした説明だけでもSDGsとの関係を示すことはできます。
しかし、それだけでは通常の企業活動にSDGsという名前を付けただけになる可能性があります。
宣言すること自体には意味がある
もっとも、最初から高度な取り組みを企業へ求めれば、特に中小企業は参加しにくくなります。
そのため、まず自社とSDGsの関係を考え、目標を宣言することにも意味があります。
例えば製造業が、自社ではどのくらい廃棄物が発生しているのかを初めて調べる。
運送会社が燃料使用量を確認する。
企業が女性管理職の割合を調べる。
こうした現状把握が改善の第一歩になることがあります。
問題は宣言することではなく、宣言したところで止まってしまうことです。
宣言と実行を分けて考える
SDGsへの取り組みは、いくつかの段階に分けて考えることができます。
まず自社の課題を把握します。
次に目標を設定します。
その目標を達成するための行動を決めます。
実際に行動します。
結果を測定します。
そして結果を踏まえて次の取り組みを改善します。
宣言はこの過程の入口にすぎません。
宣言した企業が翌年も同じ宣言を掲載しているだけなら、実際に前進しているのか分かりません。
登録制度は何のためにあるのか
自治体がSDGs登録制度を設ける理由の一つは、地域でSDGsに取り組む企業を見える化することです。
どの企業が環境問題に取り組んでいるのか。
どの企業が地域福祉に力を入れているのか。
どの企業が資源循環に取り組んでいるのか。
企業の存在を一覧化すれば、企業同士や自治体との連携が生まれやすくなります。
福井県で繊維廃材の資源循環に企業同士の連携が生まれているように、見える化にはマッチングを促す意味があります。
したがって、登録制度そのものが形式的な仕組みというわけではありません。
登録企業数だけを競う問題
一方で、自治体が登録企業数そのものを成果として重視しすぎると問題が生じます。
100社登録した。
500社登録した。
1000社登録した。
数字は分かりやすいため、制度の成果として示しやすくなります。
しかし、本来重要なのは登録した企業数ではありません。
登録企業の活動によって廃棄物がどれだけ減ったのか。
地域の雇用がどれだけ増えたのか。
二酸化炭素排出量がどれだけ減ったのか。
企業間の新しい事業がどれだけ生まれたのか。
地域社会がどう変化したのかを見る必要があります。
登録と認証は同じではない
自治体の制度には宣言、登録、認証など様々な形があります。
企業が自らSDGsへの取り組みを宣言する制度もあります。
一定の項目を記入すれば登録できる制度もあります。
さらに第三者や自治体が内容を確認し、一定の基準を満たした企業を認証する方法もあります。
一般的には、確認する内容が厳しくなるほど制度の信頼性を高めやすくなります。
一方で審査を厳しくすれば、自治体側の事務負担や企業側の負担も増えます。
参加しやすさと信頼性をどう両立するかが課題になります。
厳しい基準だけが答えではない
登録基準を非常に厳しくすれば、SDGsウォッシュを減らせるように思えます。
しかし、完成された企業だけを認証する制度にすると、これから取り組みを始めたい中小企業が参加できなくなる可能性があります。
そのため、段階的な仕組みにする方法も考えられます。
最初は宣言。
次に具体的な目標設定。
一定期間後に実績を報告。
さらに高い基準を満たした企業を認証。
このように企業の成長段階に応じた制度を設計すれば、参加の入口を広くしながら実効性を高めることができます。
目標には数字を入れる
SDGsウォッシュを防ぐ方法の一つが、目標を具体化することです。
環境に配慮します。
働きやすい職場をつくります。
地域社会に貢献します。
こうした目標だけでは、達成したのか判断できません。
例えば廃棄物を三年間で何%減らす。
再生材の利用率を何%にする。
有給休暇取得率を何%にする。
地域企業からの調達額を何%増やす。
数字と期限を設定すれば、後から成果を確認できます。
活動量と成果を区別する
SDGsの取り組みでは、活動量と成果を混同しないことも重要です。
例えば企業が地域清掃を10回行ったとします。
10回という数字は活動量です。
参加者が500人だったという数字も活動量です。
しかし、本来知りたいのは、その活動によって地域環境がどう改善したかです。
同じように、研修を100人が受講したことと、社員の行動が変わったことは同じではありません。
何をしたのかだけではなく、その結果何が変わったのかを見る必要があります。
定期的な更新を求める
一度登録すれば永久にSDGs企業を名乗れる制度では、実効性を保つことが難しくなります。
登録後に事業内容が変わることがあります。
当初の目標を達成できないこともあります。
そこで一定期間ごとに登録内容を更新し、取り組み状況を報告する仕組みが考えられます。
前年の目標は達成できたのか。
できなかった場合はなぜなのか。
次年度は何を改善するのか。
こうした情報を継続的に確認することで、登録制度を企業の改善活動につなげることができます。
失敗を隠させないことも重要
成果を求めすぎると、企業が良い数字だけを公表する可能性があります。
SDGsの取り組みはすべて計画通りに進むわけではありません。
廃棄物削減目標を達成できないこともあります。
新しいリサイクル事業が採算に乗らないこともあります。
重要なのは、失敗したこと自体ではありません。
なぜ達成できなかったのかを分析し、次の改善につなげることです。
成功事例だけを求める制度より、改善過程を評価する制度の方が実態を把握しやすくなります。
企業にもSDGsウォッシュのリスクがある
SDGsウォッシュは自治体の制度だけの問題ではありません。
企業にとっても信用に関わります。
環境に優しいと宣伝していた商品が、実際には大きな環境負荷を生んでいることが分かれば、消費者の信頼を失う可能性があります。
採用活動で働きがいを強調していても、実際の職場環境が大きく異なれば社員の不満につながります。
SDGsを積極的に発信するほど、その内容について説明する責任も大きくなります。
発信と実態を一致させることが重要です。
本業との結び付きが重要
SDGsウォッシュを避けるためには、SDGsを本業と結び付けることが有効です。
例えば繊維企業なら製造工程の廃材を減らす。
食品企業なら食品ロスを減らす。
運輸企業なら燃料消費を減らす。
金融機関なら地域の持続可能な事業へ資金を供給する。
本業の中にある社会課題へ取り組めば、事業規模が大きくなるほどSDGsへの効果も大きくなります。
寄付や清掃活動だけではなく、企業が日々行っている事業そのものを変えることが重要です。
自治体も成果を説明する必要がある
自治体も登録制度を設けただけで終わってはいけません。
登録企業数。
企業同士のマッチング件数。
新しく始まった事業数。
本格事業へ進んだ件数。
環境負荷の削減量。
地域で生まれた雇用や所得。
こうした成果を継続的に確認する必要があります。
制度をつくったことではなく、制度によって地域がどう変わったのかを説明することが求められます。
結論
SDGsウォッシュとは、企業や団体が実際の取り組み以上にSDGsへ貢献しているように見せることです。
自治体によるSDGs宣言、登録、認証制度が広がるほど、企業数を増やすだけではなく制度の実効性が重要になります。
ただし、登録の入口を厳しくするだけでは、中小企業がSDGsへ取り組むきっかけを失う可能性があります。
まず宣言する。
具体的な目標を設定する。
実際に行動する。
成果を数字で測る。
一定期間後に報告し、次の改善につなげる。
こうした段階的な仕組みをつくることが重要です。
そして評価すべきなのは、SDGsという言葉を掲げているかどうかではありません。
廃棄物が減ったのか。
働く環境が改善したのか。
新しい地域事業が生まれたのか。
住民の生活が良くなったのか。
登録企業数から地域社会の変化へ評価の軸を移す必要があります。
SDGsを企業の看板にするのではなく、企業経営や地域社会を実際に変える道具として使えるかどうか。
そこがSDGsウォッシュと実効性のあるSDGs経営を分けるポイントになるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 自治体SDGs、企業が相棒
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 SDGsパートナー 甲府の登山用品店、天然素材の衣類提案