暗号資産は値動きが大きく、ある年に大きな損失が出た後、翌年に大きな利益が出ることがあります。
ところが、現在の個人の暗号資産税制では、原則として年をまたいで損失を利用することができません。
この仕組みが2028年から大きく変わる見込みです。
一定の暗号資産取引について申告分離課税が導入されるのに合わせ、損失を翌年以降3年間繰り越し、将来の利益から差し引くことができる制度が設けられます。
暗号資産投資では税率の変更が注目されがちですが、価格変動の大きさを考えると、損失繰越控除も非常に重要な制度変更です。
現在は暗号資産で損失が出ても翌年に持ち越せない
現在、個人が暗号資産取引から得た利益は、原則として雑所得として総合課税の対象になります。
問題になるのが損失です。
例えば、ある年に暗号資産取引で500万円の損失が発生したとします。
翌年に600万円の利益が出たとしても、前年の500万円の損失をそのまま翌年の600万円の利益から差し引くことは原則としてできません。
税金は暦年ごとに計算するためです。
投資期間全体で見れば差し引き100万円しか利益が出ていなくても、税務上は翌年の600万円について課税所得を計算することになります。
価格変動が大きい暗号資産では、この年ごとの区切りが大きな税負担の差につながることがあります。
損失の繰越控除とは何か
損失の繰越控除とは、ある年に発生した損失を翌年以降へ持ち越し、将来発生した利益から差し引く制度です。
例えば1年目に500万円の損失が発生し、2年目に600万円の利益が発生したとします。
500万円の損失を繰り越せるのであれば、2年目は
600万円から500万円を差し引いた100万円
を基礎として課税所得を計算できます。
投資期間全体で発生した実質的な利益に近い金額に対して税金を計算できるわけです。
毎年の価格変動が大きい金融商品ほど、損失繰越制度の意味は大きくなります。
2028年から一定の暗号資産で3年間繰り越せる
2028年から予定される新制度では、一定の特定暗号資産の取引から生じた損失について、翌年以降3年間の繰越控除が認められる仕組みとなります。
例えば2028年に損失が発生した場合、その損失を一定の要件のもとで2029年、2030年、2031年の利益から控除できることになります。
もちろん、損失が無制限にいつまでも残るわけではありません。
利用できる期間が3年間に限定されます。
その期間内に対象となる利益が発生すれば、繰り越した損失と相殺して税負担を抑えることができます。
翌年に利益が出た場合はどうなるのか
具体的に考えてみます。
2028年に暗号資産取引で300万円の損失が発生したとします。
そして2029年に200万円の利益が出たとします。
一定の要件を満たして損失を繰り越していれば、
200万円から300万円を差し引くことができます。
2029年の200万円の利益は繰越損失によって相殺され、さらに使い切れなかった100万円の損失が残ります。
その100万円については、繰越期間内であれば、その後の対象となる利益から控除することができます。
2030年に150万円の利益が出れば、
150万円から100万円を差し引き、残った50万円を基礎として課税所得を計算することになります。
複数年にわたって損益をならすことができるのが大きな特徴です。
暗号資産の価格変動と相性のよい制度
暗号資産は株式などと比べても短期間で大きく価格が動くことがあります。
ある年には1000万円の利益が出たものの、翌年には800万円の損失が発生することも考えられます。
逆のケースもあります。
このような金融資産について各年を完全に切り離して課税すると、長期間で見た実際の投資成果と税負担が大きく乖離することがあります。
損失繰越制度を導入すれば、複数年にわたる投資成果をある程度税金にも反映できるようになります。
申告分離課税への移行と損失繰越制度は、一体として見る必要があります。
株式ではすでに3年間の繰越控除がある
上場株式等については、一定の要件を満たす譲渡損失を翌年以降3年間繰り越す制度があります。
例えば株式投資で100万円の損失が発生し、翌年に100万円の譲渡益が発生した場合、要件を満たして損失を繰り越していれば両者を相殺できます。
暗号資産についても3年間の繰越控除が導入されることで、税制の一部が株式投資に近づくことになります。
これは暗号資産が投資対象となる金融資産として制度上位置付けられていく流れの一つといえます。
株式の損失と暗号資産の損失は同じものではない
ただし、暗号資産の税制が株式に近づくからといって、両者を一つの損益として自由に相殺できるとは限りません。
上場株式等には上場株式等の課税区分があり、暗号資産には新たな暗号資産の課税区分があります。
それぞれ異なる制度として考える必要があります。
例えば暗号資産で500万円の損失が出たからといって、その500万円をそのまま上場株式の譲渡益500万円から控除できるという意味ではありません。
損失繰越控除では、何の損失を、どの所得から控除できるのかという範囲を確認することが重要です。
給与所得から差し引ける制度でもない
同じように注意したいのが給与所得との関係です。
暗号資産で損失が発生したからといって、その損失を会社から受け取る給与所得から自由に差し引ける制度ではありません。
例えば給与所得が800万円あり、対象となる暗号資産取引で300万円の損失が出たとしても、
800万円から300万円を差し引いて500万円
という形で給与所得に対する税金を計算できるわけではありません。
申告分離課税とは、他の所得から分離して税額を計算する制度です。
利益を分離する一方、損失についてもどこまで相殺できるのかが制度上定められます。
損失が出た年の確定申告が重要になる
損失繰越控除で非常に重要なのが確定申告です。
その年に税金を払うほどの利益がないから、確定申告をしなくてもよいと考えてしまうと、翌年以降に損失を利用できなくなる可能性があります。
株式の損失繰越控除でも、制度を利用するためには損失が発生した年から必要な確定申告を行うことが重要です。
暗号資産についても同様に、繰越控除を利用するためには制度上必要となる申告を継続して行うことが重要になります。
損をした年ほど税務手続きを確認する必要があるわけです。
損失を証明するためには取引記録が必要になる
損失を繰り越すためには、その損失額を正しく計算しなければなりません。
そのためには暗号資産の取得価額や売却価額などの記録が必要です。
例えば複数回に分けてビットコインを購入している場合、どのように取得価額を計算するのかによって損益額が変わります。
さらに複数の取引所を利用している場合には、それぞれの取引履歴を集める必要があります。
海外取引所や自分で管理するウォレットを利用していれば、さらに記録管理は複雑になります。
損失繰越制度を利用するためにも、日頃から取引記録を保存しておくことが重要です。
含み損があるだけでは繰越損失にはならない
もう一つ注意したいのが、含み損と実現損の違いです。
例えば100万円で購入した暗号資産の時価が50万円まで下落したとします。
50万円の含み損が発生しています。
しかし、保有しているだけで直ちに50万円の税務上の損失が確定するわけではありません。
実際に売却するなど、税務上損益を認識する取引が行われて初めて損失が確定します。
年末時点で価格が下落しているというだけで、その金額を翌年へ繰り越せるわけではない点には注意が必要です。
税率変更だけでなく損失処理まで見る
暗号資産税制改正については、総合課税から20%の申告分離課税へ変わるという部分が注目されます。
しかし、投資家にとっては損失の扱いも同じくらい重要です。
利益が出たときの税率だけを比較すると、投資税制の一部分しか見ていないことになります。
利益が出たときにいくら税金を払うのか。
損失が出たときにその損失をどう利用できるのか。
複数年で利益と損失をどのように調整できるのか。
この三つを合わせて考えることで、新しい暗号資産税制の姿が見えてきます。
結論
2028年から一定の暗号資産取引について申告分離課税が導入されるのに合わせ、対象となる損失を翌年以降3年間繰り越す仕組みが設けられます。
これまでの暗号資産税制では、ある年に大きな損失が発生しても、原則としてその損失を翌年の利益から控除することができませんでした。
新制度では、一定の要件を満たせば損失を将来の対象となる利益から差し引けるようになります。
価格変動の大きい暗号資産にとって、これは税率の変更と並ぶ重要な制度改正です。
ただし、株式の利益や給与所得などと自由に損益通算できるという意味ではありません。
また、損失繰越控除を利用するためには、損失が出た年から適切に確定申告を行い、取引記録を保存することが重要になります。
2028年以降の暗号資産投資では、利益が出た年の税金だけではなく、損失が出た年にどのような手続きをするかまで考える必要があります。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 資産運用の税、ルール点検 暗号資産、28年に税率変更
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 金融商品として規制