AI時代の問題設定力とは何か 答えを出す力より問いを作る力が重要になる理由編

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生成AIが急速に進化したことで、ビジネスでは答えを得るためのコストが大きく下がっています。

市場について調べる。

競合企業を比較する。

新規事業のアイデアを考える。

業務改善策を列挙する。

資料の構成を作る。

こうした仕事なら、生成AIは短時間で大量の案を提示できます。

そこで重要になるのが、そもそも何をAIに考えさせるのかという問題です。

優れた答えを出す能力だけではなく、企業が本当に解決すべき問題を見つけ、適切な問いに変える問題設定力です。

AIが答えを作る能力を高めるほど、人間には問いを作る能力が求められるようになります。

問題設定力とは何か

問題設定力とは、目の前で起きている現象から、本当に解決すべき問題を見つけ出す能力です。

例えば、ある会社の売上が減少しているとします。

売上を増やすにはどうすればよいか。

これも一つの問いです。

しかし、本当に売上減少が問題なのでしょうか。

顧客数が減っているのかもしれません。

顧客数は変わらず、一人当たりの購入額が下がっているのかもしれません。

既存顧客の離反が増えている可能性もあります。

利益率の低い商品を減らした結果、意図的に売上が減っているだけかもしれません。

最初に問題を正しく設定できなければ、その後どれほど高度な分析をしても適切な答えにはたどり着けません。

問題解決と問題設定は違う

問題解決とは、与えられた問題に対して解決策を考えることです。

一方、問題設定とは、何を解決すべきなのかを決めることです。

例えば、

若手社員の離職率が高いので研修制度を充実させたい

という相談があったとします。

問題解決だけを考えれば、どのような研修制度を作るかを検討します。

しかし問題設定から考えれば、本当に研修不足が離職原因なのかを疑う必要があります。

給与水準が低いのかもしれません。

上司との関係に問題があるのかもしれません。

仕事そのものに魅力がないのかもしれません。

勤務地や勤務時間が原因かもしれません。

原因を間違えたまま研修制度を充実させても、離職率は下がらないでしょう。

正しい問題を見つけることが、解決策を考える前に必要なのです。

AIは与えられた問いに強い

生成AIは、問いを与えられると非常に多くの答えを作ることができます。

例えば、

製造コストを削減する方法を考えてください

と質問すれば、原材料費、物流費、在庫、生産工程、エネルギー、人員配置など多くの観点から改善策を提示できます。

さらに条件を与えれば、具体的な提案にすることもできます。

しかし、その会社が本当に製造コストを下げるべきなのかは別問題です。

コスト削減より商品価格を引き上げるべきかもしれません。

高付加価値商品へ集中すべきかもしれません。

不採算事業そのものから撤退した方がよい可能性もあります。

AIは与えられた問いに対して優秀でも、問いそのものが間違っていれば、間違った方向へ非常に効率よく進んでしまいます。

間違った問いに正しい答えを出す危険

AI時代には、これが大きなリスクになります。

生成AIは短時間で大量の分析を行えるため、もっともらしい資料をすぐに作ることができます。

そのため、問題設定が間違っていることに気づかないまま意思決定が進む可能性があります。

例えば、

店舗の来店客を増やす方法

についてAIに分析させたとします。

広告、キャンペーン、ポイント制度など、多くの案が出てくるでしょう。

しかし利益を分析すると、来店客を増やすことより、既存顧客の購入単価を上げた方が効果的かもしれません。

さらに店舗網そのものが過剰であれば、来店客を増やすのではなく店舗を減らすことが正しい可能性もあります。

最初の問いを間違えると、AIの高い能力がかえって問題を見えにくくすることがあります。

コンサルタントは問いを作る仕事へ

これまでコンサルタントには、情報を集め、分析し、答えを出す能力が求められてきました。

しかし生成AIがこの部分を急速に効率化しています。

そこでコンサルタントの価値は、その前段階へ移ります。

顧客が何に困っているのか。

表面上の問題と本当の問題は同じなのか。

経営者が気づいていない問題はないか。

そもそも解決すべき問題なのか。

別の問題を優先すべきではないか。

こうした問いを作る能力です。

顧客から与えられた問題をそのまま解くのではなく、問題そのものを再定義することが重要になります。

経営者の言葉をそのまま受け取らない

問題設定では、経営者が最初に示した課題をそのまま受け取らないことも必要です。

例えば経営者が、

営業社員の能力が低い

と考えているとします。

しかし実際に調べると、営業社員の能力ではなく商品競争力が低下しているのかもしれません。

価格設定に問題がある可能性もあります。

営業管理システムが複雑で、社員が顧客訪問に使える時間が少ないのかもしれません。

顧客層そのものが変化している可能性もあります。

経営者が見ている問題と、企業が本当に抱えている問題が一致するとは限りません。

コンサルタントには、顧客の依頼内容そのものを疑う能力が必要です。

良い問いには企業固有の事情が必要

生成AIに一般的な質問をすれば、一般的な回答が返ってきます。

企業にとって価値のある問いを作るには、その企業を深く理解する必要があります。

どの事業で利益を稼いでいるのか。

どの顧客が重要なのか。

競合企業と何が違うのか。

経営者は何を目指しているのか。

社員は何に不満を持っているのか。

過去にどの改革が失敗したのか。

会社にはどのような文化があるのか。

こうした情報を理解したうえで初めて、その企業固有の問いを作ることができます。

ここに外部コンサルタントが顧客企業を深く理解する意味があります。

問いを細かく分解する力も重要

大きな経営課題は、そのままでは分析できない場合があります。

例えば、

会社の利益を増やすにはどうすればよいか

という問いは大きすぎます。

売上の問題なのか。

原価の問題なのか。

販売管理費の問題なのか。

商品構成の問題なのか。

顧客構成の問題なのか。

事業ポートフォリオの問題なのか。

問いを細かく分解する必要があります。

そして、それぞれについてAIに調査や分析をさせます。

AI時代の問題設定力とは、AIに一つの完璧な質問をする能力だけではありません。

大きな問題を適切な小さな問題へ分解し、AIを使いながら検証していく能力でもあります。

AIとの対話で問いを改善する

一方で、問題設定をすべて人間だけで行う必要もありません。

生成AIは問いを改善するための相手として利用できます。

例えば人間が最初の仮説を作ります。

AIに反対意見を出させます。

別の原因を考えさせます。

見落としている論点を挙げさせます。

前提条件を疑わせます。

すると、人間が最初に考えた問題設定を修正できます。

AIに答えを出させるだけでなく、自分の問いを批判させるわけです。

人間が問いを作り、AIが問いを揺さぶり、それを人間が再び修正する。

この繰り返しによって問題設定の精度を高めることができます。

データが増えても問題設定は自動化されない

企業では今後、AIによって分析できるデータが急速に増えるでしょう。

しかし、データが多ければ正しい経営判断ができるとは限りません。

どのデータを見るのか。

どの数字を比較するのか。

どの変化を問題と考えるのか。

何を目標にするのか。

これらは経営判断と結び付いています。

例えば利益率が低下しているという同じデータでも、成長投資による一時的な低下なら問題ではないかもしれません。

逆に利益率が維持されていても、将来の競争力を失っているなら深刻な問題です。

数字の意味は、経営目的によって変わります。

問いを作るには現場を見る必要がある

問題設定力を高めるには、AIとの対話だけでは十分ではありません。

現場を見ることが重要です。

工場へ行く。

店舗を見る。

顧客と話す。

社員から話を聞く。

経営会議に参加する。

実際の業務を見る。

データだけでは見えない問題があるからです。

現場社員が毎日行っている小さな作業に大きな非効率が隠れていることがあります。

顧客の何気ない不満が、新しい事業機会につながることもあります。

AIが大量の情報を分析する時代だからこそ、人間が現実の企業を見ることの価値が高まる可能性があります。

専門知識より問題設定力の価値が高まる

従来、専門家の価値の大きな部分は知識量にありました。

多くの業界情報を知っている。

過去の事例を知っている。

専門制度を理解している。

しかし生成AIによって、こうした情報へのアクセスは容易になります。

もちろん専門知識が不要になるわけではありません。

専門知識がなければ、適切な問題設定そのものが難しいからです。

ただし知識を持っているだけでは差別化しにくくなります。

知識を使って何を問題と考えるのか。

何を優先するのか。

何をあえて問題にしないのか。

こうした判断の価値が高まります。

問題設定力は専門職全体に必要になる

この変化はコンサルタントだけのものではありません。

税務でも同じです。

税法上どう処理するかという問いの前に、そもそもどの取引方法を選ぶべきかという問題があります。

法務でも、法律上可能かという問いだけでなく、どのリスクを企業として受け入れるのかという判断があります。

金融でも、どの商品を買うかという問いの前に、何のために資産を運用するのかを決める必要があります。

AIが個別の問いへの回答能力を高めるほど、専門家には、その前にある問題そのものを設定する能力が求められます。

結論

問題設定力とは、与えられた問題を解く能力ではなく、本当に解決すべき問題が何なのかを見つけ、適切な問いとして設定する能力です。

生成AIは、与えられた問いに対して大量の情報を集め、分析し、複数の解決策を提示する能力を急速に高めています。

そのため、答えを作ること自体の希少性は低下していく可能性があります。

一方、間違った問いを与えれば、AIは間違った方向へ非常に効率よく進みます。

だからこそ人間には、経営者の依頼をそのまま受け取るのではなく、企業の現場やデータを見ながら、本当の問題を見つける能力が必要になります。

AI時代に重要なのは、AIより速く答えを出すことではありません。

AIに何を考えさせるべきなのかを決めることです。

答えを持っている専門家から、正しい問いを作れる専門家へ。

生成AIの普及は、コンサルタントの価値を問題解決力から問題設定力へと、さらに上流へ移していく可能性があります。

参考

日本経済新聞 2026年8月 AIでコンサルもう不要?(下)代替される危機感ない

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