財産評価基本通達の評価額と時価は何が違うのか 同じ土地に複数の価格が存在する理由編

税理士
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土地には一つの値段しかないと思われがちですが、実際にはそうではありません。

例えば同じ土地についても、相続税評価額、固定資産税評価額、公示価格、不動産会社の査定価格、実際に売買される価格など、いくつもの金額が存在します。

そのため税務の世界では、

「この土地はいくらなのか」

という一見単純な質問に、一つの数字だけで答えられないことがあります。

今回のシリーズの出発点となった公表裁決でも、この問題が重要な争点となりました。

請求人は固定資産税評価額から算出される実勢価格や不動産業者による査定額などを主張しました。

一方、国税不服審判所は不動産鑑定士に鑑定評価を依頼し、その鑑定評価額を贈与時の時価と認定しました。

なぜ、贈与税の申告ですでに土地を評価していたにもかかわらず、改めて時価を求める必要があったのでしょうか。

その理由を理解するためには、財産評価基本通達による評価額と時価との違いを知る必要があります。

財産評価基本通達とは何か

相続税や贈与税では、取得した財産の価額を計算する必要があります。

現金1000万円を相続したのであれば、その価額は基本的に1000万円です。

しかし、土地や建物、非上場株式などは簡単ではありません。

同じ土地でも、

駅からの距離

道路との接し方

土地の形

面積

用途地域

建築規制

周辺環境

などによって価値が変わります。

相続や贈与が発生するたびに、すべての財産について不動産鑑定士などへ個別の鑑定を依頼しなければならないとすれば、納税者にも税務行政にも大きな負担が生じます。

そこで、相続税や贈与税の財産評価を統一的に行うための基準として使われているのが財産評価基本通達です。

相続税法では時価が原則になる

財産評価基本通達を理解するうえで重要なのが、相続税法22条です。

相続や贈与によって取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、その財産を取得した時における「時価」によることが原則です。

つまり、法律上の基本的な考え方は時価です。

しかし、「時価はいくらなのか」をすべての納税者について個別に判断するのは容易ではありません。

そこで財産評価基本通達では、さまざまな財産について具体的な評価方法を定めています。

土地であれば路線価方式や倍率方式、非上場株式であれば類似業種比準方式や純資産価額方式などがあります。

こうした統一的な評価方法を使うことによって、大量の相続税や贈与税の申告を実務的に処理できるようにしているわけです。

相続税評価額と実際の売買価格は一致しない

ここで注意したいのが、財産評価基本通達によって算出された金額と、実際に市場で売買できる価格が必ず一致するわけではないという点です。

例えば、相続税評価額が3000万円の土地について、実際には4000万円で売却できることがあります。

逆に、相続税評価額が3000万円でも、さまざまな事情から2500万円でなければ買い手が見つからないこともあります。

財産評価基本通達による評価は、相続税や贈与税を公平かつ効率的に計算するための統一的な評価方法です。

これに対して実際の市場価格は、売主と買主の需給関係や個々の土地の事情などによって決まります。

したがって、

相続税評価額イコール売却価格

という関係ではありません。

路線価とは何か

市街地などの宅地を相続税や贈与税で評価するときに代表的なのが路線価方式です。

路線価とは、道路に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額です。

土地が接している道路の路線価を基礎として、

土地の面積

奥行

間口

形状

角地かどうか

などを考慮して評価額を計算します。

一般に路線価は、公示価格等を基に一定の水準を目安として設定されます。

このため市場で実際に成立する売買価格とは差が生じることがあります。

路線価は不動産会社が売却価格を決めるための価格表ではなく、相続税や贈与税を評価するための基準なのです。

倍率方式とは何か

路線価が設定されていない地域では、倍率方式によって土地を評価することがあります。

倍率方式では、その土地の固定資産税評価額に国税当局が定める一定の倍率を掛けて相続税評価額を求めます。

今回の公表裁決で問題となった土地も農地でした。

請求人は贈与税申告において、土地の現況から各地目を田として、純農地に係る倍率方式を適用して評価しています。

ここで重要なのは、この評価額が贈与税申告のために算出された金額だということです。

国税徴収法39条の「受けた利益」を求める目的とは異なります。

固定資産税評価額とは何か

固定資産税評価額は、市町村が固定資産税などを課税するための基礎として土地や家屋について決定する価額です。

土地については、一定の評価基準に基づいて評価されます。

固定資産税評価額は、

固定資産税

都市計画税

不動産取得税

登録免許税

などにも関係する重要な数字です。

しかし、これも実際の売買価格そのものではありません。

固定資産税を公平かつ継続的に課税するための評価額だからです。

したがって、

固定資産税評価額が1000万円だから土地の時価も1000万円

とは限りません。

今回の公表裁決でも、請求人は固定資産税評価額から算出される実勢価格を基礎とすべきだと主張しましたが、それだけで時価が決まったわけではありません。

公示価格とは何か

土地価格を考えるうえでもう一つ重要なのが地価公示です。

国が毎年、標準的な地点について価格を公示する制度です。

土地取引の指標などとして利用されています。

公示価格は土地価格を考えるうえで非常に重要な情報ですが、すべての土地について公示価格が存在するわけではありません。

公示されるのは標準地です。

そのため実際の土地について価格を求める場合には、近隣の標準地との位置関係や個別的な条件などを考慮する必要があります。

同じ地域にあるからといって、公示価格をそのまま対象土地へ当てはめられるとは限りません。

実勢価格とは何か

実勢価格という言葉も不動産ではよく使われます。

一般的には、実際の不動産市場で取引が成立する価格を意味します。

しかし実勢価格も、一つの公的な価格表に掲載されているわけではありません。

売主が急いで売りたい場合と、時間をかけて高値を待てる場合では価格が変わることがあります。

買主側の事情によっても変わります。

さらに不動産は、株式市場の上場株式のように全く同じ商品が大量に取引されているわけではありません。

隣り合った土地であっても、

面積

形状

道路条件

建築規制

利用状況

などによって価格が違います。

そのため「実勢価格」自体についても、慎重に検討する必要があります。

不動産会社の査定価格とは何か

土地を売却するときには、不動産会社に査定を依頼することがあります。

不動産会社は周辺の取引事例、市場動向、土地の状況などから売却可能と考えられる価格を提示します。

この査定価格は、実際の不動産売買を検討するうえで重要な情報です。

しかし、不動産会社の査定価格と不動産鑑定士による鑑定評価額は同じものではありません。

不動産会社の査定は、一般的には売却活動における参考価格という性格を持ちます。

実際にその金額で売れることを保証するものでもありません。

税務争訟などで財産の客観的な時価そのものが問題となる場合には、その評価方法や根拠まで検討する必要があります。

不動産鑑定評価額とは何か

不動産鑑定評価は、不動産鑑定士が専門的な評価手法によって不動産の経済価値を判定するものです。

代表的な評価手法として、

取引事例比較法

収益還元法

原価法

などがあります。

対象となる不動産の性質に応じて、これらの手法を適切に適用しながら価格を求めます。

今回の公表裁決では、請求人と原処分庁との主張額に10倍以上の開差がありました。

そこで国税不服審判所は、不動産鑑定士に対象土地の贈与時点における鑑定評価を依頼しました。

そして、その鑑定評価に不合理な点はないとして、鑑定評価額を贈与時の時価と認定しています。

なぜ第二次納税義務では通達評価額をそのまま使わなかったのか

ここが今回の裁決を理解するうえで最も重要なポイントです。

請求人は、土地を贈与された平成14年の贈与税申告で、財産評価基本通達に基づく倍率方式を使って評価していました。

しかし、第二次納税義務における「受けた利益」の評価について、審判所はその金額をそのまま採用したわけではありません。

国税徴収法39条の「受けた利益」を算定するに当たり、徴収法や国税徴収法基本通達には直接の定めがありません。

そこで審判所は、公売財産の評価に準じて算定するのが相当としました。

対象土地それぞれの特性に応じ、適切な評価方法によって価格形成要因を考慮し、時価に相当する価額を求めるという考え方です。

つまり、財産評価基本通達による評価額を機械的に利用するのではなく、第二次納税義務という制度目的に応じた時価を求めたわけです。

同じ土地でも制度によって評価目的が違う

土地に複数の価格が存在する理由は、それぞれの制度の目的が違うからです。

相続税評価額は、相続税や贈与税を計算するための評価です。

固定資産税評価額は、固定資産税などを課税するための評価です。

公示価格は、一般の土地取引の指標などとなる価格です。

不動産会社の査定価格は、売却を検討するときの参考となる価格です。

不動産鑑定評価額は、不動産鑑定士が専門的な評価方法によって求める経済価値です。

そして第二次納税義務では、無償譲渡等によって第三者がどれだけの利益を受けたのかという観点から時価が問題になります。

同じ土地でも、「何のために価格を求めるのか」が違うわけです。

税務上の評価額だから絶対というわけではない

実務では、

「税務署が公表している路線価だから時価だろう」

「固定資産税評価額は役所が決めた金額だから正しいだろう」

と考えてしまうことがあります。

もちろん、これらは公的制度に基づく重要な評価額です。

しかし、その評価額があらゆる税法や取引について絶対的な時価になるわけではありません。

重要なのは、

どの制度について

何を目的として

どの時点の

どの財産価値を

求めているのかということです。

評価額を見るときには、その数字だけでなく「何のための評価額なのか」を確認する必要があります。

結論

財産評価基本通達による評価額と時価は、必ずしも同じものではありません。

相続税や贈与税では時価による評価が原則ですが、大量の財産を公平かつ効率的に評価するため、財産評価基本通達による統一的な評価方法が実務上用いられています。

土地については路線価方式や倍率方式が代表的です。

一方、固定資産税評価額、公示価格、実勢価格、不動産会社の査定価格、不動産鑑定評価額など、それぞれ異なる目的や方法による価格も存在します。

今回の公表裁決では、贈与税申告時の倍率方式による評価額をそのまま第二次納税義務の「受けた利益」とするのではなく、公売財産の評価に準じて時価を求めるのが相当とされました。

そして国税不服審判所自身が不動産鑑定士へ鑑定を依頼し、その鑑定評価額を贈与時の時価と認定しています。

税務における財産評価を理解するときに重要なのは、「どの評価額が正しいのか」と一つに決めつけることではありません。

それぞれの価格が、どの制度で、どのような目的のために使われているのかを理解することです。

次回は、今回の裁決で「受けた利益」の算定方法として示された「公売財産の評価」について、税務署が差押不動産などの価格をどのように決めるのかを詳しく見ていきます。

参考

税のしるべ 2026年8月3日 【公表裁決】原処分庁の主張額は審判所依頼の鑑定評価額の範囲内、処分は適法

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