著しく低い額の譲渡とは何か 時価より安く財産を売った場合の第二次納税義務編

税理士
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税金を滞納している父親が、所有している土地を子どもへ贈与すれば、国税徴収法39条の第二次納税義務が問題になる可能性があります。

それでは、贈与ではなく「売買」にすればどうでしょうか。

例えば、時価3000万円の土地を子どもへ100万円で売却したとします。

契約書を作成し、100万円を実際に支払い、所有権移転登記も売買を原因として行ったのであれば、形式上は贈与ではありません。

しかし、3000万円相当の土地を100万円で取得した子どもには、大きな経済的利益が生じています。

こうした取引を第二次納税義務の対象外にしてしまえば、贈与ではなく極端に安い価格で売却することによって国税徴収法39条を回避できてしまいます。

そこで国税徴収法39条は、無償譲渡だけでなく「著しく低い額の対価による譲渡」も対象としています。

今回は、親族間売買などで特に注意したい低額譲渡について見ていきます。

贈与と低額譲渡は何が違うのか

まず、贈与と売買の違いを整理しておきましょう。

贈与は、財産を無償で相手に与える契約です。

例えば父親が子どもへ土地を無償で移転すれば、子どもは代金を支払うことなく土地を取得します。

一方、売買では買主が代金を支払います。

時価3000万円の土地を3000万円で売買するのであれば、通常は売主が土地を渡し、買主がそれに見合う対価を支払います。

ところが、

時価3000万円

売買価格100万円

という取引では、形式的には売買であっても、経済的には通常の売買とは大きく異なります。

買主は100万円を支払うだけで3000万円相当の財産を取得できるからです。

このような経済的利益に着目するのが国税徴収法39条です。

国税徴収法39条は形式だけを見ていない

国税徴収法39条では、滞納者が行った無償または著しく低い額の対価による譲渡などによって国税の徴収不足が生じた場合、利益を受けた人に第二次納税義務が生じることがあります。

したがって、

贈与契約なのか

売買契約なのか

という契約名称だけで結論が決まるわけではありません。

重要なのは、その取引によって第三者に経済的利益が移転しているかどうかです。

例えば、時価とほぼ同額で売却し、代金も実際に支払われているのであれば、買主が無償で利益を受けたとは通常考えにくいでしょう。

一方、時価と売買価格に大きな開きがあれば、その差額について経済的利益の移転が問題になります。

なぜ低額売買まで対象になるのか

低額売買が対象となる理由は、国税の徴収を確保するためです。

例えば滞納者が5000万円相当の不動産を所有しているとします。

滞納者がその不動産を所有したままであれば、税務署は一定の手続きを経て差し押さえ、公売によって滞納国税を徴収できる可能性があります。

ところが滞納者が子どもへ100万円で売却すると、滞納者の手元には原則として100万円しか残りません。

5000万円相当の不動産が100万円に置き換わった結果、滞納処分によって確保できる財産が大きく減少する可能性があります。

その一方、子どもは非常に有利な条件で不動産を取得しています。

このような取引を単に「売買だから問題ない」としてしまえば、財産を極端な低額で関係者へ移すことで徴収を困難にすることが可能になります。

そのため低額譲渡も規制対象とされているわけです。

時価より安ければすべて対象になるわけではない

では、時価より1円でも安ければ「著しく低い額の対価」になるのでしょうか。

そうではありません。

「著しく低い」という言葉が使われている以上、単に時価より低いというだけで直ちに該当するわけではありません。

財産の種類、数量、取引条件、市場価格その他の事情などを踏まえて、その対価が著しく低いと認められるかどうかを判断することになります。

通常の売買取引でも、必ず時価と完全に一致する価格で取引されるわけではありません。

売主が早期売却を希望している。

土地の形状に問題がある。

建物に修繕が必要である。

賃借人が存在する。

大量の財産を一括処分する。

こうした事情によって、通常想定される価格より安くなることはあります。

したがって、時価との差額だけではなく、なぜその価格になったのかという事情も重要になります。

何割以下なら低額譲渡という単純な基準ではない

実務上気になるのは、

「時価の何パーセントなら大丈夫なのか」

という点でしょう。

しかし、国税徴収法39条について、すべての財産に共通する単純な割合だけで著しい低額かどうかを判断することは適切ではありません。

例えば、

時価の80パーセントなら安全

50パーセントを下回れば必ず該当

といった一律の線引きだけで考えるべきではありません。

財産にはそれぞれ個別性があります。

特に不動産や非上場株式では、「時価」自体に評価の幅が生じることがあります。

したがって最初に問題になるのは、売買価格が時価の何割なのか以前に、その財産の適正な時価はいくらなのかということです。

低額譲渡でも時価の把握が重要になる

例えば親が子どもへ土地を1000万円で売却したとします。

この1000万円が著しく低いかどうかを判断するためには、土地の時価を把握する必要があります。

土地の時価が1100万円なら、1000万円という価格には一定の合理性があるかもしれません。

しかし、時価が5000万円なら事情は大きく変わります。

つまり低額譲渡の問題でも、結局は「時価」が重要になります。

今回のシリーズの出発点となった公表裁決で、不動産鑑定評価が重要な役割を果たしたことともつながります。

不動産については、

所在地

面積

形状

接道状況

利用状況

法令上の制限

農地であれば農地としての利用条件

周辺の取引事例

など、さまざまな価格形成要因があります。

単純に固定資産税評価額だけを見て判断できるとは限りません。

受けた利益は時価と対価の差が問題になる

無償贈与の場合、受贈者は対価を支払わずに財産を取得します。

これに対して低額譲渡では、買主が一定の対価を支払っています。

そのため「受けた利益」を考える場合には、財産の時価と実際に支払った対価との関係が重要になります。

例えば、

土地の時価3000万円

売買価格500万円

だったとします。

単純化して考えれば、買主は500万円の負担によって3000万円相当の財産を取得しています。

したがって、経済的利益を把握するうえでは2500万円の差額が重要になります。

ただし実際の事案では、財産に付随する負担や取引条件なども含めて検討する必要があります。

「売買価格がそのまま利益額になる」という話ではありません。

親族間売買は特に価格の根拠が重要になる

低額譲渡で特に注意したいのが親族間売買です。

第三者同士の売買では、売主はできるだけ高く売り、買主はできるだけ安く買おうとするのが一般的です。

双方の利害が対立するため、交渉によって一定の市場価格が形成されます。

しかし、親子や夫婦などでは事情が異なります。

例えば父親が、

「子どもだから安く売ってあげよう」

と考えることは十分あり得ます。

家族としては自然な判断でも、税務上は経済的利益の移転として検討される可能性があります。

特に売主に滞納国税が存在する場合には、国税徴収法39条の問題まで考える必要があります。

売買契約書だけでは十分とは限らない

親族間で財産を移転するとき、

売買契約書を作った

所有権移転登記をした

代金を支払った

という事実はもちろん重要です。

しかし、それだけで低額譲渡の問題がなくなるわけではありません。

例えば時価5000万円の土地について500万円の売買契約書を作り、実際に500万円を支払ったとしても、価格が著しく低ければ国税徴収法39条の検討対象となり得ます。

つまり、契約の形式が整っていることと、取引価格が適正であることは別問題です。

重要なのは、

なぜその売買価格になったのか

という価格決定の合理性です。

不動産会社の査定だけで十分なのか

親族間売買では、不動産会社に査定を依頼して価格を決めることもあります。

第三者による査定は、価格の合理性を説明する資料の一つになり得ます。

しかし、不動産会社の査定額と不動産鑑定士による鑑定評価額は同じものではありません。

不動産会社の査定は、一般的には売却活動を行う際の参考価格として提示されます。

一方、不動産鑑定評価は、不動産鑑定士が専門的な評価手法によって価格を判定するものです。

今回の公表裁決でも、請求人は不動産業者による査定額を主張しましたが、審判所は独自に不動産鑑定士へ鑑定評価を依頼しました。

評価額を巡る争いでは、単に査定書が存在するかどうかではなく、その評価方法や根拠まで問題になる可能性があります。

所得税や贈与税の問題も別に生じる

親族間で財産を低額譲渡した場合には、国税徴収法39条だけを考えればよいわけではありません。

取引内容によっては、

所得税

贈与税

法人税

など、別の税務問題が生じることがあります。

例えば個人から個人へ財産を著しく低い価格で譲渡した場合、買主側に贈与税の問題が生じることがあります。

また、売主側についても所得税上の取扱いを確認する必要があります。

つまり同じ低額売買でも、

課税上どう扱われるのか

滞納国税の徴収上どう扱われるのか

という二つの視点が存在します。

贈与税などを適切に処理したからといって、第二次納税義務の問題まで当然になくなるわけではありません。

売買代金を払ってもそのお金が戻ってきたらどうなるのか

親族間取引では、さらに取引全体を見る必要があります。

例えば父親から子どもが3000万円で土地を購入し、実際に3000万円を父親へ振り込んだとします。

表面上は時価相当額による売買です。

ところが、その直後に父親から子どもへ3000万円が別の形で戻されたとしたらどうでしょうか。

個々の取引だけを見るのではなく、資金の流れ全体を確認する必要があります。

契約書に記載された売買価格だけではなく、

代金が本当に支払われたのか

その資金がどこから出たのか

支払った代金がその後どうなったのか

といった実態が重要になります。

形式上の売買だけを整えても、実質的に無償で財産を移転していれば税務上の問題が生じる可能性があります。

適正価格を説明できる資料を残すことが重要になる

親族間で不動産などを売買する場合には、取引時点で価格の根拠を残しておくことが重要です。

例えば、

周辺の取引事例

不動産会社による査定

公示価格や基準地価

土地の個別的な事情

必要に応じた不動産鑑定評価

などが考えられます。

数年後、あるいは十数年後に税務上の問題が生じた場合、当時の価格が適正だったことを後から説明するのは簡単ではありません。

今回の公表裁決でも、贈与が行われた平成14年当時の土地の時価が、20年以上経過した後に争われています。

財産移転時の資料を保存しておくことには大きな意味があります。

結論

国税徴収法39条は、滞納者による無償譲渡だけでなく、著しく低い額の対価による財産の譲渡も第二次納税義務の対象としています。

したがって、税金を滞納している人が家族へ財産を移す場合、

「贈与ではなく売買にすれば問題ない」

とは限りません。

重要なのは契約の名称ではなく、その取引によって第三者にどの程度の経済的利益が移転したのかです。

また、時価より安ければすべて著しい低額譲渡になるわけでもありません。

財産の種類、数量、取引条件、市場価格その他の事情を踏まえて判断する必要があります。

そのため低額譲渡を検討する際には、まず財産の適正な時価を把握することが重要になります。

そして、ここから次の問題につながります。

税務では、土地一つをとっても固定資産税評価額、相続税評価額、公示価格、実勢価格など複数の価格が存在します。

では、これらは何が違い、第二次納税義務ではどの価格を重視するのでしょうか。

次回は「財産評価基本通達の評価額と時価は何が違うのか」として、税務上の評価額と実際の時価との違いを詳しく見ていきます。

参考

税のしるべ 2026年8月3日 【公表裁決】原処分庁の主張額は審判所依頼の鑑定評価額の範囲内、処分は適法

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