第二次納税義務の「受けた利益」はどう評価するのか 固定資産税評価額ではなく時価が基準となった公表裁決

税理士
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税金を滞納している人が、自分の財産を家族などへ無償で移してしまえば、税務署が差し押さえる財産がなくなり、国税を徴収できなくなることがあります。

こうした事態を防ぐために設けられているのが、国税徴収法39条の第二次納税義務です。

今回取り上げる公表裁決では、国税を滞納していた父親から土地の贈与を受けた長男に対して第二次納税義務が課されました。

大きな争点となったのは、長男が贈与によって「受けた利益」をいくらと評価するのかという問題です。

請求人側と原処分庁側の評価額には10倍以上もの開きがありました。

国税不服審判所は、固定資産税評価額などから機械的に算定するのではなく、公売財産の評価に準じて時価を求めるのが相当と判断しました。

第二次納税義務における財産評価を考えるうえで、非常に興味深い裁決です。

第二次納税義務とは何か

税金は、原則として納税義務を負っている本人から徴収します。

しかし、滞納者が自分の財産を第三者へ無償で譲渡するなどした結果、本人から税金を徴収できなくなった場合まで、そのままにしておくと公平ではありません。

そこで一定の場合には、滞納者本人以外の第三者にも納税義務を負わせる制度が設けられています。

これが第二次納税義務です。

国税徴収法39条では、滞納者が法定納期限の1年前の日以後に無償または著しく低い額の対価による財産処分などを行い、その処分によって国税の徴収不足が生じた場合などに、利益を受けた者に第二次納税義務を負わせる仕組みが定められています。

ただし、無制限に滞納税額を負担するわけではありません。

重要になるのが、その財産処分によって「受けた利益」の限度です。

今回の裁決では、まさにこの「受けた利益」の評価額が争われました。

父親から長男へ複数の土地が贈与された

事案では、国税を滞納していた父親が、平成14年4月に所有していた複数の土地を長男である請求人へ贈与しました。

所有権移転登記も行われています。

請求人は贈与税の申告を行い、土地については現況から地目を田として、財産評価基本通達に定める純農地の倍率方式によって評価しました。

さらに農地等の贈与税の納税猶予制度を利用し、贈与税について納税猶予を受けていました。

その後、父親は令和4年11月に死亡します。

法定相続人全員が相続放棄したため、父親の相続財産について相続財産法人が成立し、滞納国税の納付義務も承継されました。

一方、父親の死亡によって、請求人が猶予を受けていた贈与税については免除されています。

そして原処分庁は、父親から長男への土地の贈与が国税徴収法39条の無償譲渡等に該当すると判断しました。

令和6年6月、請求人に対して第二次納税義務の納付告知処分を行いました。

問題となったのは土地の「時価」だった

請求人側も、土地の贈与があったこと自体を否定しているわけではありません。

大きな問題となったのは、贈与によって請求人が「受けた利益」をいくらと考えるかでした。

請求人は、平成13年度の固定資産税評価額から算出される実勢価格、あるいは請求人が依頼した不動産業者による査定額などを基礎として計算すべきだと主張しました。

これに対して原処分庁は、より高い金額を主張していました。

両者の評価には10倍以上の開差があったとされています。

土地の評価方法によって第二次納税義務の負担額が大きく変わるため、請求人にとって極めて重要な問題だったわけです。

固定資産税評価額と時価は同じではない

今回の裁決を理解するうえで重要なのが、固定資産税評価額と時価を区別することです。

固定資産税評価額は、固定資産税などを課税するために市町村が土地や家屋について算定する評価額です。

一方、今回問題となった「受けた利益」は、無償譲渡によって実際にどの程度の経済的利益を受けたのかという問題です。

したがって、固定資産税評価額が存在するからといって、その金額をそのまま「受けた利益」とすることにはなりません。

同様に、贈与税の申告で財産評価基本通達に基づいて評価した金額が、そのまま第二次納税義務における利益額になるとも限りません。

ここは実務上、非常に重要なポイントです。

同じ土地であっても、どの税法上の制度で評価するのかによって、評価の目的が異なるからです。

審判所は公売財産の評価に準じると判断した

国税不服審判所は、国税徴収法39条の「受けた利益」の算定について、国税徴収法や国税徴収法基本通達に直接の定めがないことを確認しました。

そのうえで、公売財産の評価について定める国税徴収法基本通達98条関係2に準じて算定するのが相当であると判断しました。

公売財産の評価では、単純に一つの公的評価額を当てはめるのではありません。

財産の特性に応じて、

取引事例比較法

収益還元法

原価法

その他の評価方法

などを適切に利用し、価格を形成するさまざまな要因を考慮して時価に相当する価額を求めます。

つまり、「受けた利益」の実質的な経済価値を把握しようという考え方です。

審判所自身が不動産鑑定を依頼した

今回の裁決でもう一つ注目されるのが、国税不服審判所が不動産鑑定士に鑑定評価を依頼したことです。

対象となった土地は農地であり、一般的な評価方法が確立している財産でした。

そこで審判所は、贈与時点における時価に相当する価額を確認するため、専門家である不動産鑑定士に鑑定を依頼しました。

審判所は、この鑑定評価について不合理な点はないと判断しています。

そして、その鑑定評価額を贈与時における各土地の時価であると認定しました。

税務上の評価額を巡って当事者双方の主張に大きな開きがある場合、専門家による鑑定評価が重要な判断材料になり得ることを示しています。

鑑定評価額と原処分庁の金額には重要な関係がある

今回の裁決で特に興味深いのは、審判所が鑑定評価額を認定したからといって、直ちに原処分が取り消されたわけではない点です。

審判所による鑑定の結果、原処分庁が主張していた金額は、鑑定評価による金額の範囲内に収まっていました。

そのため審判所は、原処分について取り消すべき部分はないと判断しました。

請求人は、原処分庁の評価額が不当に高いとして争いました。

しかし、第三者である不動産鑑定士による評価によって確認しても、原処分庁の主張額が時価を超えているとは認められなかったわけです。

結果として、第二次納税義務の納付告知処分は適法とされました。

贈与税評価と第二次納税義務の評価は別問題である

この裁決から得られる大きな実務上の示唆は、「税務上の評価額」という言葉を一括りにしてはいけないということです。

今回の土地について、請求人は贈与税申告時に財産評価基本通達の倍率方式を使って評価しています。

しかし、第二次納税義務で問題となる「受けた利益」の評価では、その評価額がそのまま採用されたわけではありません。

なぜなら、制度の目的が違うからです。

贈与税における財産評価は、贈与税の課税価格を算定するためのものです。

固定資産税評価額は、固定資産税などを課税するための評価です。

これに対して国税徴収法39条では、無償譲渡などによって第三者が実際にどの程度の利益を受けたのかが問題になります。

そのため、財産の客観的な交換価値としての時価を把握する必要性が高くなります。

同じ土地に複数の「評価額」が存在することは、税務では珍しいことではありません。

20年以上前の贈与が第二次納税義務につながった点にも注意したい

今回の事案では、もう一つ注目すべき点があります。

土地が贈与されたのは平成14年です。

第二次納税義務の納付告知処分が行われたのは令和6年ですから、贈与から20年以上が経過しています。

それでも、滞納国税との関係や国税徴収法39条の成立要件などを踏まえ、第二次納税義務が問題となりました。

家族間で財産を贈与し、所有権移転登記を終え、贈与税についても適切に申告しているからといって、それだけで国税徴収法上の問題がなくなるわけではありません。

贈与者に国税の滞納がある場合には、受贈者側にも徴収法上のリスクが生じる可能性があります。

財産移転を検討するときには、所得税、法人税、相続税、贈与税だけでなく、国税徴収法まで視野に入れる必要があります。

結論

今回の公表裁決では、国税を滞納していた父親から土地の贈与を受けた長男について、国税徴収法39条の第二次納税義務が成立すると判断されました。

そして重要な争点となった「受けた利益」の額について、国税不服審判所は、固定資産税評価額などをそのまま用いるのではなく、公売財産の評価に準じて時価を算定するのが相当としました。

審判所は不動産鑑定士に鑑定評価を依頼し、その鑑定評価額を贈与時の時価と認定しました。

その結果、原処分庁の主張額は鑑定評価による金額の範囲内であり、処分を取り消すべき部分はないとして、納付告知処分は適法とされています。

この裁決から分かるのは、税務における「財産評価」は、その制度の目的によって異なるということです。

贈与税申告に使った評価額、固定資産税評価額、不動産業者の査定額が存在していても、それが当然に第二次納税義務における「受けた利益」の額になるわけではありません。

特に、税金を滞納している人から家族などへ財産を移転する場合には、単に贈与税の問題だけを検討するのでは不十分です。

第二次納税義務まで含め、誰がどのような経済的利益を受け、その利益をどのように評価するのかという視点が重要になります。

今回の裁決は、国税徴収法39条における「受けた利益」の評価について、公売財産の評価に準じた時価評価という具体的な考え方を示した点で、今後の実務でも参考になる事例といえるでしょう。

参考

税のしるべ 2026年8月3日 【公表裁決】原処分庁の主張額は審判所依頼の鑑定評価額の範囲内、処分は適法

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