非上場会社の株式は、市場で売買されていないため「取引相場のない株式」と呼ばれます。中小企業の多くがこの区分に該当し、相続や贈与では財産評価基本通達に基づいて評価額が算定されます。
近年、この評価方法を利用した相続税対策が広がる一方で、制度の趣旨を超えた租税回避が問題視されるようになりました。そのため、国税庁は評価ルールの見直しに向けた検討を進めています。
今回は、国税庁が示した具体的な事例や見直しの方向性、事業承継への影響について解説します。
国税庁が示した八つの事例
国税庁は、取引相場のない株式の評価方法を検討する有識者会議において、現行制度を利用した租税回避や制度の濫用が疑われる八つの事例を公表しました。
これらの事例には、
- 資産管理会社を利用した株式評価の引下げ
- 貸付用不動産の取得による純資産価額の圧縮
- 評価ルールの適用時期を利用したスキーム
などが含まれています。
いずれも、制度の文言には適合していても、本来想定されていた利用方法とは異なるケースとして取り上げられています。
国税庁は、こうした事例を踏まえ、評価制度の公平性を高める必要があると考えています。
見直しの方向性
現在、個人が取得した一定の貸付用不動産については、令和九年一月から新たな評価ルールが適用される予定です。
これを踏まえ、法人が保有する貸付用不動産を利用した株式評価についても、同様の考え方を導入する方向で検討が進められています。
現行制度では、会社が取得した不動産は、一定期間が経過すると取得価額ではなく相続税評価額で評価される場合があります。
その結果、会社の純資産価額が大きく減少し、株式評価額も引き下げられることがあります。
今後は、このような評価方法の見直しや適用要件の変更などが検討される可能性があります。
ただし、現時点では具体的な改正内容は決定しておらず、有識者会議での議論が続いています。
事業承継への影響
今回の見直しは、相続税対策だけでなく、中小企業の事業承継にも影響を及ぼす可能性があります。
自社株は、多くの中小企業経営者にとって最大の資産です。
評価方法が変更されれば、自社株の評価額が変わり、後継者が負担する相続税や贈与税にも影響が及ぶことになります。
一方で、今回の見直しは、通常の事業活動を行っている企業ではなく、制度の趣旨を超えた節税策への対応が主な目的とされています。
そのため、事業承継を検討している企業は、過度に不安になるのではなく、自社がどのような評価方法で株価が算定されているかを確認し、必要に応じて専門家へ相談することが重要です。
今後の制度改正で注目すべき点
今後の議論では、次のような点が注目されます。
第一に、貸付用不動産に関する評価ルールが法人にもどのように適用されるのかという点です。
第二に、財産評価基本通達がどのように改正されるのかという点です。
第三に、資産管理会社など特定の評価会社に対する評価方法が変更されるかどうかです。
制度改正は一度で終わるものではなく、社会経済の変化や新たな租税回避策に応じて見直しが続けられます。
そのため、最新情報を継続的に確認することが重要です。
相続対策は制度改正を前提に考える時代へ
これまで有効だった相続対策が、将来も同じように認められるとは限りません。
マンション評価の見直しや貸付用不動産の評価方法の変更など、近年は相続税評価に関する制度改正が相次いでいます。
今回の非上場株式評価の見直しも、その流れの一つといえるでしょう。
今後は、単に税負担を減らすことだけを目的とするのではなく、円滑な事業承継や資産承継という本来の目的を重視した相続対策が、これまで以上に重要になると考えられます。
結論
取引相場のない株式の評価方法は、中小企業の相続や事業承継に大きな影響を与える重要な制度です。
国税庁は、有識者会議で示した八つの事例を踏まえ、制度の公平性を確保するための見直しを進めています。
今後は、貸付用不動産や資産管理会社を利用した評価方法にも変更が加えられる可能性があります。
相続や事業承継を検討している方は、現在の評価ルールだけでなく、制度改正の動向にも目を向けながら、長期的な視点で対策を進めることが重要です。
参考
税のしるべ
2026年8月3日
「法人が不動産を購入した後の株式の評価方法を見直しへ、『3年しばり』に短いの声」