少数株主ディスカウントとは何か 会社を支配できない株式の価値を考える編

税理士
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同じ会社が発行する同じ種類の株式であれば、一株の価値も同じになるように思えます。しかし、非上場株式の世界では必ずしもそう単純ではありません。会社を支配できる大株主が持つ株式と、経営にほとんど影響を与えられない少数株主が持つ株式では、その経済的な意味が異なるからです。

前回取り上げた「支配権プレミアム」が会社を支配できることによる価値の上乗せだとすれば、その反対側から株式価値を考えるのが「少数株主ディスカウント」です。非上場株式の評価を理解するためには、株式数だけでなく、その株式によってどのような権利を行使できるのかを見る必要があります。

少数株主とは何か

少数株主とは、一般的には会社の経営を支配できるほどの議決権を持っていない株主をいいます。

ただし、何パーセント未満なら必ず少数株主という単純なものではありません。

会社法上の株主としての権利、株主総会における議決権、他の株主との関係などによって、その株主が会社に与えられる影響力は変わります。

例えば、ある会社についてAさんが60パーセント、Bさんが30パーセント、Cさんが10パーセントの株式を所有しているとします。

Cさんも会社の10パーセントを所有する立派な株主ですが、Cさん単独では通常、会社の経営方針を決定することはできません。

一方、Aさんは過半数の議決権を持っているため、株主総会の普通決議などについて強い影響力を持つことになります。

同じ会社の株式であっても、株主としての立場には大きな違いがあるのです。

少数株主ディスカウントとは何か

少数株主ディスカウントとは、会社を支配できない少数持分について、支配可能な持分と比較した場合に価値が低く評価されるという考え方です。

英語ではマイノリティーディスカウントなどと呼ばれます。

例えば、ある会社全体の株主価値が10億円だとします。

単純に考えれば、その会社の10パーセントの株式は1億円になります。

しかし、その10パーセントだけを取得した人は、会社全体を自由に動かせるわけではありません。

経営陣を自由に選べるとは限りません。

配当額を自分だけで決めることもできません。

会社の重要な経営方針についても、自分の意思だけで決定することは通常できません。

そのため、

会社全体の価値掛ける持株割合

という単純計算によって少数持分の経済価値を求めてよいのか、という問題が生じます。

議決権が株式価値を左右する

株式には、利益配当を受ける権利などの財産的な権利だけでなく、株主総会で議決権を行使する権利があります。

会社の重要な意思決定は株主総会などを通じて行われます。

例えば、取締役の選任などについて、株主は議決権を行使します。

多数の議決権を持つ株主であれば、会社経営に大きな影響を与えることができます。

これに対して少数株主の場合、自分が反対票を投じても、多数株主の賛成によって議案が可決されることがあります。

つまり、株式数そのものだけではなく、

「その株式を持つことによって会社の意思決定にどれだけ影響を与えられるのか」

という点にも経済的な意味があります。

これが少数株主持分の価値を考える重要な要素になります。

少数株主にも重要な権利がある

もっとも、少数株主だから何の権利もないわけではありません。

会社法では、株主にさまざまな権利を認めています。

また、一定割合以上の議決権などを持つ株主には、一定の少数株主権が認められる場合があります。

したがって、

「過半数を持っていないから株式にはほとんど価値がない」

と考えるのは適切ではありません。

配当を受ける権利や残余財産の分配を受ける権利など、株式そのものが持つ財産的価値もあります。

問題は、支配株主と比べた場合に、会社経営を左右する力が限定されていることです。

少数株主ディスカウントは、この影響力の違いに着目した考え方なのです。

配当を自分で決められない問題

非上場会社の少数株主を考えるうえで重要なのが配当です。

上場会社の場合、株主は株式市場で株式を売却することができます。

しかし非上場会社では、株式を簡単に売却できない場合があります。

そのため、少数株主にとって配当は重要な投資回収手段になります。

ところが、少数株主が、

「今年はもっと配当してほしい」

と思っても、その希望だけで配当額を決められるわけではありません。

会社の利益が大きくても、会社側が内部留保を厚くする方針を取れば、配当が限定されることもあります。

支配株主であれば会社の経営方針や利益処分に強い影響力を持てる場合がありますが、少数株主にはそのような力がありません。

この違いも、少数株主持分の経済価値を考えるうえで重要です。

換金性にも大きな問題がある

少数株主が保有する非上場株式では、もう一つ大きな問題があります。

換金性です。

上場株式であれば、通常は証券市場を通じて売却できます。

売却価格は変動しますが、「売りたいときに市場へ注文を出す」という仕組みがあります。

ところが非上場株式には、そのような公開された市場がありません。

買い手を自分で探さなければならない場合があります。

さらに、会社の定款によって株式に譲渡制限が設けられているケースも多くあります。

買い手が見つかったとしても、希望する価格で売却できるとは限りません。

特に少数株式について、

「会社を支配できない株式を誰が買うのか」

という問題があります。

買い手から見れば、取得しても会社経営を自由に動かせず、いつ売却できるかも分からない株式です。

このため、非上場会社の少数持分には、支配力だけでなく換金性という問題も加わります。

少数株主ディスカウントと非流動性ディスカウントは違う

ここで注意したいのが、少数株主ディスカウントと非流動性ディスカウントの違いです。

両者は似ていますが、着目している問題が異なります。

少数株主ディスカウントは、

会社を支配できないこと

に着目します。

一方、非流動性ディスカウントは、

株式を容易に売却できないこと

に着目します。

非上場会社の少数株式では、この二つの問題が同時に存在することがあります。

会社を支配できない。

しかも簡単には売却できない。

そのため、非上場株式の経済価値を考える際には、両者を区別して理解する必要があります。

相続税ではどう評価するのか

では、相続税における非上場株式評価では、少数株主の問題をどのように扱っているのでしょうか。

取引相場のない株式については、財産評価基本通達に評価方法が定められています。

重要なのは、すべての株主について同じ評価方法を使うわけではないことです。

同族株主など一定の株主については、原則として会社そのものの経済価値に着目した原則的評価方式を用います。

代表的な方法として、

類似業種比準方式

純資産価額方式

両者を組み合わせる方式

があります。

一方、一定の少数株主については、特例的評価方式である配当還元方式によって評価する場合があります。

株主の立場によって評価方式を使い分けているのです。

配当還元方式とは何か

配当還元方式は、非上場株式から受け取る配当を基礎として株式を評価する方法です。

少数株主の場合、会社を支配することより、株式を持つことによって配当を受け取るという経済的利益が重要になる場合があります。

そこで一定の株主については、会社全体の利益や純資産を中心に評価するのではなく、配当を基礎に株式価値を算定する仕組みが設けられています。

ここには、

支配株主が保有する株式

少数株主が保有する株式

では、株式を保有する経済的な意味が異なり得るという考え方を見ることができます。

ただし、税務上の配当還元方式を、そのまま少数株主ディスカウントと考えるのは適切ではありません。

税務では一定割合を値引きするわけではない

ここは特に重要なポイントです。

相続税評価では、

「少数株主だから株価を30パーセント値引きする」

といった形で、少数株主ディスカウントを直接適用する仕組みになっているわけではありません。

財産評価基本通達では、株主の区分などを判定したうえで、一定の場合に配当還元方式という別の評価方式を適用します。

つまり、

まず原則的評価方式で株価を計算する

その後、少数株主だから一定割合を差し引く

という構造ではありません。

M&Aや企業価値評価で使われる少数株主ディスカウントの考え方と、相続税の通達評価は区別して理解する必要があります。

誰が持つかによって価値は変わるのか

少数株主ディスカウントを考えていくと、財産評価の根本的な問題に行き着きます。

同じ会社の同じ一株なのに、所有する人によって価値が違ってよいのでしょうか。

客観的交換価値という考え方だけから見れば、一株は誰が持っても同じ価値であるようにも思えます。

しかし現実には、

その株式によって会社を支配できるのか

配当政策に影響できるのか

経営陣を選任できるのか

株式を自由に売却できるのか

といった条件によって、株式から得られる経済的利益が変わります。

ここに非上場株式評価の難しさがあります。

単純に会社全体の価値を発行済株式数で割れば、一株の価値が決まるとは限らないのです。

財産評価制度を考える重要な視点

相続税における財産評価では、できるだけ客観的な基準によって財産を評価する必要があります。

一方で、非上場株式については、株主の置かれている立場によって経済的価値が異なる可能性があります。

この二つをどのように調整するかが難しいところです。

評価制度を細かくすれば、個々の株主の経済的実態を反映しやすくなります。

しかし、評価方法が複雑になりすぎれば、納税者にとって将来の税負担を予測しにくくなります。

反対に、評価方法を単純化すれば分かりやすくなりますが、現実の経済価値との乖離が大きくなる可能性があります。

非上場株式評価には、

公平性

客観性

実態への適合

計算の簡便性

という複数の要請が存在しているのです。

結論

少数株主ディスカウントとは、会社を支配できない少数持分について、支配可能な持分と比べて価値が低くなるという考え方です。

少数株主も株主として重要な権利を持っていますが、会社の経営方針、役員人事、配当政策などについて、自分だけで意思決定することは通常できません。

さらに非上場株式の場合には、売却できる市場が存在しないため、換金性の問題もあります。

相続税の非上場株式評価でも株主の立場は重要で、一定の少数株主については配当還元方式が用いられる場合があります。

ただし、これは原則的評価額から少数株主ディスカウントとして一定割合を直接差し引く仕組みではありません。

非上場株式の評価を理解するうえでは、

「会社全体の価値はいくらか」

だけでなく、

「その株主が持っている株式には、どのような権利と経済的利益があるのか」

という視点が重要です。

そして、少数株主の問題と並んで重要になるのが、非上場株式を簡単に売却できないという問題です。

これは「非流動性ディスカウント」と呼ばれ、少数株主ディスカウントとは別の角度から非上場株式の価値を考える重要な論点になります。

参考

税のしるべ 2026年8月3日 連載「続・傍流の正論~税相を斬る」第101回「評価論①、物の価値」 弁護士・税理士 品川芳宣

相続税法第22条

国税庁 財産評価基本通達 取引相場のない株式の評価

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