法人税収が過去最高でも増税は必要なのか 税収が増えることと安定財源は別問題である理由編

税理士
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企業業績が好調になると、国に入る法人税収も増えます。

そのような状況で法人税の増税が議論されると、

法人税収がこれだけ増えているのに、なぜさらに増税する必要があるのか

という疑問が出てきます。

確かに税収が増えているのであれば、新たな増税をしなくても、その増収分を政策の財源に使えばよいように見えます。

しかし、ここには税収が増えることと恒久的な財源を確保することは同じではないという重要な問題があります。

特に法人税は企業の利益に課税するため、景気や企業業績によって税収が大きく変動します。

今回は、法人税収が高い水準にあっても増税論が出てくる理由と、税収の増加と安定財源の違いを整理します。

企業の利益が増えると法人税収も増える

法人税は、基本的に企業が稼いだ所得に対して課税されます。

そのため企業業績が好調になれば、税率を引き上げなくても法人税収は増えていきます。

例えば、法人税率が変わらなくても企業の課税所得が100から120へ増えれば、課税対象そのものが大きくなります。

結果として国が受け取る法人税も増えます。

つまり税収が増えたからといって、必ずしも増税が行われたわけではありません。

税率を変えなくても、企業が稼ぐ利益が増えれば税収は自然に増えます。

これを考えるときに重要なのが、税率と税収を分けることです。

法人税率が同じでも税収は毎年変わります。

企業利益が増える理由は一つではない

法人税収が増える背景には、さまざまな要因があります。

国内景気が良くなり売上が増える場合があります。

海外事業の利益が増える場合もあります。

値上げによって企業の名目上の売上や利益が膨らむこともあります。

円安によって海外で稼いだ利益を円に換算したときの金額が増える企業もあります。

そのため法人税収が増えているからといって、それだけで日本経済全体が同じ程度に実質成長しているとは限りません。

物価上昇によって名目金額が大きくなれば、企業利益や税収も名目ベースでは増えやすくなります。

税収を見るときには、その増加がどのような要因によって生じているのかを見る必要があります。

法人税収の増加は永遠に続くとは限らない

企業利益が増え続ければ法人税収も増え続けます。

しかし、企業利益が毎年必ず増える保証はありません。

景気が後退すれば売上が減ることがあります。

原材料価格が急騰すれば利益率が低下します。

急激な円高によって輸出企業や海外事業の円換算利益が減ることもあります。

金融危機や世界的な景気後退が起きれば、多くの企業の利益が同時に減少する可能性があります。

その場合、法人税率を変えていなくても法人税収は減少します。

ここが消費税などとの大きな違いです。

赤字になれば法人税の所得部分は大きく減る

法人税収が景気によって変動しやすい理由の一つが、赤字企業の存在です。

法人税は基本的に企業の所得に対して課税されます。

企業が赤字になり、課税所得がなければ、その所得に対する法人税は基本的に発生しません。

もちろん法人住民税の均等割など、赤字でも負担する税金はあります。

しかし企業利益に連動する法人税の中心部分は、利益がなくなれば大きく減ります。

好景気では多くの企業が黒字となり法人税収が増えます。

不況になれば利益が減り、赤字企業が増えて法人税収が落ち込みます。

法人税収には景気変動が直接反映されやすいわけです。

過去最高の税収と恒久財源は別の話

ここで重要になるのが恒久財源という考え方です。

例えば、ある年に企業業績が非常に好調になり、法人税収が前年より3兆円増えたとします。

この3兆円を、その年だけ実施する給付金の財源に使うのであれば比較的分かりやすいでしょう。

翌年には給付金を支払わないため、法人税収が元に戻っても問題はありません。

ところが毎年3兆円必要になる政策を始めた場合は事情が違います。

翌年も3兆円。

その翌年も3兆円。

10年後も制度を続けるなら、原則として毎年財源が必要になります。

一時的な税収増を恒久的な歳出の財源にすると、税収が元に戻ったときに穴が開きます。

これが税収増と安定財源を区別する理由です。

消費税減税は毎年税収が減る

消費税減税を考える場合には、この問題が特に重要になります。

仮に消費税減税によって税収が毎年5兆円減るとします。

1年だけ減税するのであれば、必要な財源も基本的には1年分です。

しかし減税を恒久化すれば、翌年も5兆円、その翌年も5兆円という形で税収が減り続けます。

10年間続けば、単純計算では累計50兆円規模になります。

その財源として法人税収の一時的な上振れを使った場合、企業業績が悪化したときに財源不足が発生します。

そのため恒久減税を行うのであれば、恒久的に確保できる財源が必要だという議論になります。

社会保障費は景気が悪くても減りにくい

さらに難しいのが社会保障との関係です。

年金、医療、介護などの社会保障費は、企業利益のように景気によって大きく上下するものではありません。

景気が悪くなったから高齢者への年金を大幅に減らすということは簡単にはできません。

病院を利用する人が景気後退によって急にいなくなるわけでもありません。

むしろ不況時には失業などによって社会保障への需要が増えることがあります。

つまり、

支出は安定的に発生する

一方で、

法人税収は景気によって減る

という組み合わせになる可能性があります。

このため社会保障の恒久財源には、税収が比較的安定する税目が望ましいと考えられてきました。

消費税が安定財源といわれる理由

消費税も景気の影響をまったく受けないわけではありません。

不況になれば消費が減少し、消費税収が落ち込む可能性があります。

しかし、人は景気が悪くなっても食事をし、衣服を購入し、電気や水道などを利用します。

生活に必要な消費はゼロにはなりません。

一方、企業利益は好況時には大きく増え、不況時には急激に減ることがあります。

場合によっては利益そのものがなくなります。

この違いから、一般的に消費税は法人税より税収が安定しやすいと考えられています。

社会保障財源として消費税が重視されてきた背景には、この税収の安定性があります。

好景気の税収を前提に歳出を増やす危険性

財政を考えるうえでは、現在の税収が将来も続くと考えないことが重要です。

企業業績が好調なときには法人税収が増えます。

所得や消費が増えれば所得税や消費税も増えます。

その結果、国全体の税収が過去最高になることがあります。

しかし、その増収のすべてが構造的なものとは限りません。

景気循環による一時的な増収が含まれている可能性があります。

その増収を前提として恒久的な減税や恒久的な歳出を始めると、景気後退時に財源が不足します。

不足分を国債で補えば、今度は国の債務が増えていきます。

税収が多い時期ほど、その税収が恒久的なのか一時的なのかを見極める必要があります。

では法人税を増税すれば安定財源になるのか

ここで、

それなら法人税率を上げれば安定して税収を増やせるのではないか

という考え方が出てきます。

確かに税率を引き上げれば、同じ企業利益であれば税収は増えます。

しかし、税率を上げても課税対象となる企業利益そのものが景気によって変動する性質は変わりません。

例えば好景気のときには大きな増収を得られても、景気後退によって企業利益が半減すれば、法人税収も大きな影響を受けます。

さらに法人税率を引き上げることで、企業の国内投資や海外との立地競争に影響が出る可能性も考える必要があります。

法人税増税によって税収が増えることと、その税収が毎年安定して入ってくることは別問題です。

増税が必要かどうかは何に使うかで変わる

法人税収が高い水準にあるから増税は不要とも、恒久財源が必要だから必ず増税すべきとも一概には言えません。

重要なのは、何の財源を確保しようとしているのかです。

一時的な物価高対策であれば、一時的な税収増を利用する考え方もあります。

一方、恒久的な消費税減税や給付付き税額控除、社会保障制度などを支えるのであれば、毎年確保できる財源を考える必要があります。

さらに法人税だけでなく、

所得税

消費税

金融所得課税

租税特別措置の見直し

歳出削減

などを組み合わせる方法もあります。

財源論では、現在いくら税収があるかだけではなく、その収入と支出が将来も継続するのかを見る必要があります。

結論

法人税収が高い水準にあるのは、企業利益が増え、課税対象となる所得が拡大していることなどが背景にあります。

税率を引き上げなくても企業利益が増えれば法人税収は増えます。

しかし、現在の税収が多いことと、その税収を将来にわたって安定的に確保できることは同じではありません。

法人税は企業利益に課税するため、景気後退によって企業利益が減れば税収も減少しやすい特徴があります。

一方、消費税減税や社会保障などの恒久的な政策には、毎年継続して財源が必要になります。

そのため、法人税収が過去最高だから増税は必要ないという議論だけでは、恒久財源の問題への答えにはなりません。

反対に、税収が増えているにもかかわらず増税をするのであれば、なぜ現在の増収では足りないのかを明確にする必要があります。

見るべきなのは税収の現在の金額だけではありません。

その税収が景気による一時的な増加なのか、将来も期待できる構造的な増加なのか。

そして、その財源で賄う政策が一時的なのか恒久的なのか。

税収が過去最高という数字と安定財源という考え方を分けることで、法人税増税をめぐる財源論がより分かりやすくなります。

参考

日本経済新聞 2026年8月 野党、法人増税案を提起 減税・給付の財源

日本経済新聞 2026年8月 法人税率、G7で上位

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