東京都がアフォーダブル住宅の供給を増やしている背景には、都営住宅だけではカバーできない世帯が存在するという事情があります。都営住宅は住宅に困窮する低所得世帯を支える重要な制度ですが、誰でも入居できるわけではありません。所得などについて一定の要件があり、その基準を超えると対象外になります。東京の家賃が上昇するなかでは、都営住宅には入れないものの民間住宅の家賃負担は重いという世帯も増えています。都営住宅の仕組みを理解すると、なぜアフォーダブル住宅という新しい選択肢が必要になっているのかが見えてきます。
都営住宅とは何か
都営住宅とは、東京都が供給する公営住宅です。
公営住宅法に基づき、住宅に困窮する低所得世帯へ低廉な家賃で住宅を提供することを目的としています。
一般の民間賃貸住宅では、家賃は立地や広さ、築年数、設備、需給などによって決まります。
一方、都営住宅では住宅そのものの条件だけでなく、入居世帯の所得も家賃に反映されます。
所得が低い世帯ほど住宅費負担を抑えられるように設計されています。
単なる安い賃貸住宅ではなく、社会保障的な性格を持った住宅制度と考えると分かりやすいでしょう。
誰でも申し込めるわけではない
都営住宅には入居資格があります。
代表的な条件が所得基準です。
公営住宅は、住宅に困っている低所得世帯への支援を目的としているため、一定以上の所得がある世帯は原則として対象外になります。
そのほかにも、
東京都内に居住していること
住宅に困っていること
世帯構成など一定の要件を満たすこと
など、募集区分ごとに条件があります。
単身者向け、家族向け、高齢者向けなど募集区分によって条件が異なる場合もあります。
そのため、家賃が高くて困っているからという理由だけで必ず入居できるわけではありません。
所得基準はなぜ設けられているのか
都営住宅に所得制限があるのは、公的な住宅を必要性の高い世帯へ重点的に提供するためです。
都営住宅の戸数には限りがあります。
もし所得に関係なく誰でも入居できるようにすれば、本当に住宅確保が難しい低所得世帯へ住宅が行き渡らなくなる可能性があります。
そこで一定の所得基準を設けています。
限られた公的資源を住宅困窮度の高い世帯へ配分するという考え方です。
これは公営住宅制度の基本的な役割といえます。
所得は単純な年収だけでは判断されない
都営住宅の所得基準を考える際には、単純な額面年収だけを見るわけではありません。
世帯の所得について一定の方法で計算し、扶養親族などに応じた控除を反映したうえで判定します。
そのため、同じ年収でも世帯構成によって判定結果が異なることがあります。
高齢者世帯や障害者世帯、子育て世帯などについて、制度上一定の配慮が設けられる場合もあります。
具体的な基準は募集時期や募集区分によって確認することが重要です。
公営住宅の所得基準は、単純に年収がいくら以下なら入れるというだけの仕組みではないのです。
家賃はどのように決まるのか
都営住宅の大きな特徴が家賃の決め方です。
民間賃貸住宅では、基本的には市場家賃が基準になります。
これに対して公営住宅では、入居者の所得や住宅の条件などを踏まえて家賃が決まります。
住宅の立地、規模、築年数などに加え、入居世帯の収入状況が考慮されます。
そのため同じような住宅でも、世帯所得によって負担する家賃が異なる場合があります。
所得に応じた負担という考え方が制度に組み込まれているのです。
低所得世帯の生活を支える重要な制度
住宅費は家計の中でも大きな固定費です。
所得が低い世帯にとって、市場家賃をそのまま負担することは大きな負担になります。
住宅費を払い続けるために、
食費を削る
医療費を抑える
教育費を減らす
といった状況になれば、生活全体が不安定になります。
都営住宅によって住宅費を抑えられれば、家計の基盤を安定させることができます。
住宅は生活の土台です。
そのため公営住宅は、福祉政策や社会保障政策とも深く結び付いています。
応募しても必ず入居できるとは限らない
入居資格を満たしていても、必ず都営住宅へ入れるわけではありません。
募集戸数より応募者が多ければ、抽選などによって入居者を決める必要があります。
特に交通の便がよい場所や家族向けの物件などでは、高い応募倍率になることもあります。
所得基準を満たしていることと、実際に住宅を確保できることは別の問題です。
公営住宅には供給量という制約があります。
これもアフォーダブル住宅など別の住宅政策が求められる理由の一つです。
都営住宅には入れない中間層がいる
ここで問題になるのが、所得基準を少し超える世帯です。
都営住宅の対象にはならない。
しかし東京の民間住宅の家賃を負担すると家計が苦しい。
こうした世帯が存在します。
特に子育て世帯では、一定の広さの住宅が必要になります。
単身者向けの小さな住宅より家賃は高くなりやすく、教育費や生活費もかかります。
世帯年収だけを見ると公的支援が不要に見えても、実際には住宅費の負担が非常に重い場合があります。
この層は、公営住宅制度だけでは支援しにくいのです。
アフォーダブル住宅との違い
東京都が進めるアフォーダブル住宅は、都営住宅とは異なる制度です。
都営住宅は、公営住宅法に基づく低所得世帯向けの公的住宅です。
一方、アフォーダブル住宅では、周辺相場より低い家賃で住宅を供給しながら、入居条件は供給する事業者などが設定します。
対象となる所得層も都営住宅より広い場合があります。
今回参考にした東京都の取り組みでは、子育て世帯などを対象として、一定の年収上限を設定した住宅もあります。
つまり、
都営住宅は低所得世帯への住宅保障
アフォーダブル住宅は公営住宅と市場住宅の間を埋める仕組み
という違いが見えてきます。
家賃の安さにも違いがある
都営住宅とアフォーダブル住宅は、家賃の考え方も異なります。
都営住宅は入居者の所得などを反映して家賃を決めます。
一方、東京都が進めるアフォーダブル住宅は、周辺の市場家賃に対して一定程度安い水準に設定する考え方が中心です。
たとえば相場の8割以下という基準です。
この違いは重要です。
都営住宅は所得に応じて負担能力そのものを考慮します。
アフォーダブル住宅は市場家賃からどれだけ引き下げるかという発想です。
同じ割安住宅でも政策の仕組みは大きく異なります。
住宅政策を二段構えで考える
これからの住宅政策では、一つの制度ですべての世帯を支援することは難しくなっています。
低所得世帯には都営住宅などの公営住宅が必要です。
一方、その所得基準を超える世帯には別の支援策が必要になります。
さらに高齢者、子育て世帯、障害者などでは、所得以外にも住宅確保の難しさがあります。
そこで、
公営住宅
公社住宅
アフォーダブル住宅
セーフティネット住宅
民間賃貸住宅
など複数の仕組みを組み合わせる必要があります。
住宅政策が多層化している背景には、世帯ごとの住宅事情が多様になっていることがあります。
都営住宅だけでは東京の住宅問題は解決できない
都営住宅は重要な制度ですが、東京の住宅問題をすべて解決できるわけではありません。
第一に、供給戸数には限界があります。
第二に、所得制限があります。
第三に、東京では市場家賃そのものが高くなっています。
所得基準を超えた途端に住宅費負担が急に軽くなるわけではありません。
そのため公営住宅の対象外となる世帯をどう支えるかが政策課題になります。
アフォーダブル住宅は、まさにこの部分を補おうとする取り組みです。
低所得者支援と中間層支援は分けて考える
アフォーダブル住宅が増えるからといって、都営住宅が不要になるわけではありません。
公営住宅には、住宅確保が特に難しい低所得世帯を支えるという役割があります。
この役割は非常に重要です。
一方、アフォーダブル住宅はより幅広い所得層を対象とすることができます。
両制度を混同すると、誰をどのように支援する政策なのかが分かりにくくなります。
低所得世帯への住宅保障と、中間所得層の住宅費負担軽減。
それぞれの目的に適した政策を組み合わせることが重要です。
結論
都営住宅とは、公営住宅法に基づき、住宅に困窮する低所得世帯へ低廉な家賃で住宅を供給する東京都の公営住宅です。
入居には所得などの一定の条件があり、家賃も入居世帯の所得や住宅の条件などを踏まえて決まります。
住宅費の負担を軽減し、生活の基盤を安定させる重要な制度です。
一方、所得基準を超えると原則として対象外になります。
東京の家賃が高騰するなかでは、都営住宅に入れるほど所得は低くないものの、民間住宅の家賃負担は重いという世帯が存在します。
東京都がアフォーダブル住宅を増やしている背景には、この住宅政策の空白があります。
都営住宅とアフォーダブル住宅は競合する制度ではありません。
低所得世帯を支える都営住宅と、その外側にいる世帯を支えるアフォーダブル住宅。
両方を組み合わせることで、所得や家族構成に応じた多層的な住宅政策をつくることが求められています。
参考
日本経済新聞 2026年8月8日朝刊 アフォーダブル住宅 都、民間呼び込む政策次々 オフィス改修に補助金 都有地活用も検討