株式市場では、株価が上がるか下がるかだけでなく、「買いたいときに買えるか」「売りたいときに売れるか」も重要です。
この売買のしやすさを表す考え方が「流動性」です。
取引量の多い大型株ではあまり意識することがないかもしれませんが、売買の少ない銘柄では、少し大きな注文を出しただけで株価が大きく動く場合があります。
PTSの取引シェアが拡大し、日本株を売買できる場所が増えるなかでは、流動性がどこに集まるのかという問題も重要になっています。
流動性とは何か
流動性とは、ある資産を市場価格に近い水準で、必要な数量だけ速やかに売買できる程度を表す概念です。
株式市場で流動性が高い状態とは、
買いたいときに買える
売りたいときに売れる
大量の注文でも価格が大きく動きにくい
売値と買値の差が小さい
といった状態を指します。
反対に流動性が低い市場では、注文を出してもなかなか取引が成立しなかったり、大量の売買によって株価が大きく動いたりします。
流動性が高い株式とは
例えば、ある大型株について常に大量の買い注文と売り注文が出ているとします。
1000円で売りたい投資家も多く、999円で買いたい投資家も多い状態です。
このような銘柄であれば、投資家が株式を買ったり売ったりしやすくなります。
一方、売買がほとんどない銘柄では、
買い注文が990円
売り注文が1010円
のように大きな価格差が生じることがあります。
この場合、すぐに買おうとすれば1010円、すぐに売ろうとすれば990円となり、投資家にとって不利になります。
流動性は取引コストにも直結するのです。
売買高と流動性は同じではない
流動性を判断するときによく使われるのが売買高です。
売買高とは、一定期間に実際に売買された株数です。
一般的には、売買高が多い銘柄ほど流動性も高い傾向があります。
しかし、
売買高が多いイコール必ず流動性が高い
というわけではありません。
例えば非常に大きな値動きが起き、一時的に売買高が急増している場合があります。
取引量は多くても、売値と買値の差が大きく、価格が激しく変動していれば、必ずしも取引しやすい市場とはいえません。
そのため流動性を見る際には、売買高だけではなく複数の要素を確認する必要があります。
売買代金も重要
株式市場では売買高に加えて「売買代金」も利用されます。
売買代金は、
株価と売買株数
を掛け合わせた金額です。
例えば、
株価100円の株式を100万株売買
株価1万円の株式を10万株売買
した場合、株数では前者の方が多いですが、売買代金では後者の方が大きくなります。
市場全体や取引市場の規模を比較するときには、売買代金が重要な指標になります。
PTSの市場シェアについても、売買代金を基準とした考え方が使われています。
スプレッドから流動性を見る
流動性を判断する代表的な指標の一つが、売値と買値の差であるスプレッドです。
例えば、
買い気配999円
売り気配1000円
ならスプレッドは1円です。
これに対して、
買い気配990円
売り気配1010円
なら20円あります。
一般にスプレッドが小さいほど、投資家は市場価格に近い価格で売買しやすくなります。
流動性が高い市場では、多くの買い注文と売り注文が競争するため、スプレッドも縮小しやすくなります。
板の厚みも重要
流動性を見るうえでは、注文板の厚みも重要です。
例えば1000円の売り注文が存在していても、その数量が100株しかなければ、1万株買いたい投資家は1000円ですべて購入できません。
残りについては、
1001円
1002円
1003円
と、より高い価格の売り注文を順番に買う必要があります。
結果として平均購入価格が上昇します。
反対に、1000円に数万株の売り注文があれば、大口注文でも価格を大きく動かさずに取引できます。
このような注文量の厚さも流動性を構成する重要な要素です。
マーケットインパクトとの関係
大口の売買によって株価が動くことをマーケットインパクトといいます。
流動性の高い市場では、多くの注文が存在するため、大口注文を出しても価格が動きにくい傾向があります。
一方、流動性の低い市場では少し大きな注文を出しただけでも株価が急変することがあります。
例えば売り注文が少ない銘柄で大量の買い注文を出せば、上の価格に並ぶ売り注文を次々と買うことになり、株価が急上昇します。
機関投資家が流動性を重視する理由の一つが、このマーケットインパクトを抑えるためです。
PTSと流動性の関係
PTSが成長するうえでも流動性は重要です。
どれだけ東証より細かな呼び値を設定しても、売買相手が存在しなければ取引は成立しません。
投資家は一般に、
価格が有利か
十分な注文数量があるか
実際に約定する可能性が高いか
を確認します。
PTSに多くの注文が集まれば流動性が高まり、さらに投資家が利用しやすくなります。
すると新たな注文が集まり、流動性がさらに高まるという好循環が生まれることがあります。
流動性は流動性を呼ぶ
株式市場には「流動性が流動性を呼ぶ」という特徴があります。
取引が多い市場には、多くの投資家が集まりやすくなります。
多くの投資家が集まれば、
注文数量が増える
売値と買値の差が縮小する
大口注文が成立しやすくなる
価格が安定しやすくなる
という効果が期待できます。
するとさらに多くの投資家がその市場を利用するようになります。
これをネットワーク効果の一種として考えることもできます。
東証に長年売買が集中してきた背景にも、こうした流動性の集積があります。
PTSが東証と競争する難しさ
PTSが東証と競争する際、最も大きな壁の一つが流動性です。
東証には非常に多くの注文が集まっています。
PTSが多少有利な価格を提示しても、十分な売買注文が存在しなければ投資家は使いにくいでしょう。
ところが利用者が増えて一定規模の流動性が形成されると、状況が変わります。
SORによって有利なPTSへ注文が送られれば、PTSの取引量はさらに増加します。
今回、PTSの市場シェア上限が議論される状況になったことは、一部のPTSが単なる補助的市場ではなく、相当な流動性を持つ取引場所に成長したことを示しています。
市場の分断との関係
PTSの流動性が高まることは、市場間競争の観点では望ましい面があります。
しかし同時に、東証に集中していた流動性が複数市場へ分散します。
これが市場の分断です。
例えば市場全体では100万株の買い注文が存在していても、
東証に70万株
PTS Aに20万株
PTS Bに10万株
と分かれていれば、一つの市場だけを見ても全体像を把握できません。
そのためPTSのシェアが拡大するほど、複数市場の流動性を横断的に把握する仕組みが重要になります。
SORが流動性をつなぐ
市場が複数に分かれても、SORを利用すれば注文を複数市場へ振り分けることができます。
例えば1000株買いたい場合、
PTSで300株
別のPTSで200株
東証で500株
というように注文を分けることができます。
これによって、それぞれの市場に分散している流動性を利用できます。
市場分断が進むほど、SORは複数の流動性を一体的に利用するための重要なインフラになります。
流動性と価格発見機能
流動性は、株価が適切に形成されるためにも重要です。
多くの投資家が売買に参加すれば、それぞれが持つ情報や判断が注文に反映されます。
好材料を評価する投資家は買い注文を出し、割高だと判断する投資家は売り注文を出します。
こうした大量の注文がぶつかることで、市場価格が形成されていきます。
この働きを価格発見機能といいます。
流動性が極端に低い市場では少数の注文だけで価格が大きく動くため、適正な価格形成が難しくなる場合があります。
個人投資家が確認したいポイント
個人投資家が銘柄を売買するときには、株価だけでなく流動性にも目を向けることが重要です。
特に確認したいのは、
売買高
売買代金
売値と買値の差
板に並んでいる注文数量
です。
流動性の低い銘柄では、表示されている株価で大量に売買できるとは限りません。
投資額が大きくなるほど、株価そのものだけでなく「その価格でどれだけ取引できるか」を考える必要があります。
結論
流動性とは、株式を市場価格に近い水準で、必要な数量だけ速やかに売買できる程度を表す重要な概念です。
流動性が高い市場では、多くの買い注文と売り注文が存在し、スプレッドが小さく、大口注文でも価格が大きく動きにくくなります。
一方で、PTSの成長によって取引場所が増えると、東証に集中していた流動性が複数市場へ分散する可能性があります。
市場間競争を促しながら十分な流動性を確保するためには、SORなどによって複数市場を効率的につなぐ仕組みが重要になります。
そして流動性が重要なのは、単に株式を売買しやすくするためだけではありません。
多くの売買注文が集まり、その需給を通じて適切な株価を形成する「価格発見機能」を支えるという、もう一つの重要な役割があります。
参考
日本経済新聞 2026年8月7日 朝刊
私設取引「PTS」、制度見直し検討 金融庁 シェア10%上限引き上げ議論 売買活況で対応急ぐ