企業が社員を採用すると、会社と社員の間には「労働契約」が成立します。この契約は給与や勤務時間を決めるだけではなく、会社と社員がお互いに守るべき権利や義務を定める重要な約束です。
その基本的なルールを定めているのが「労働契約法」です。2008年に施行されたこの法律は、労働契約に関する基本原則を明確にし、労使間のトラブルを未然に防ぐことを目的としています。
労働基準法と混同されることもありますが、両者は役割が異なります。本記事では、労働契約法の概要や労働基準法との違い、労働契約の成立、信義則との関係について解説します。
労働契約法とは
労働契約法は、会社と労働者が結ぶ労働契約について、その基本的なルールを定めた法律です。
法律の目的は、労働者の保護だけではありません。
労使双方が互いの権利と義務を理解し、安心して働き、事業活動を行える環境を整えることにあります。
この法律では、労働契約の成立や変更、終了に関する基本原則が定められています。
労働基準法との違い
労働契約法と労働基準法は密接に関係していますが、その役割は異なります。
労働基準法
労働基準法は、最低限守らなければならない労働条件を定めた法律です。
例えば、
・労働時間
・休日
・割増賃金
・年次有給休暇
・解雇予告
などについて最低基準を定めています。
企業はこの基準を下回る労働条件を設定することはできません。
労働契約法
一方、労働契約法は、会社と労働者との契約関係そのものを規律する法律です。
例えば、
・労働契約はどのように成立するか
・契約内容を変更できるか
・解雇はどのような場合に認められるか
・安全配慮義務
などについて定めています。
つまり、労働基準法が「最低基準」を定める法律であるのに対し、労働契約法は「契約関係のルール」を定める法律といえます。
労働契約はどのように成立するのか
労働契約は、会社と労働者の合意によって成立します。
通常は、
・会社が採用を決定する
・労働者が入社を承諾する
という双方の意思表示によって契約が成立します。
雇用契約書や労働条件通知書を交わすことが一般的ですが、契約書がなくても、双方の合意があれば労働契約は成立します。
もっとも、労働条件を書面などで明示することは、労働基準法によって義務付けられています。
労働契約の基本原則
労働契約法では、労働契約に関する基本的な考え方が示されています。
合意の原則
労働契約は、会社と労働者の合意によって成立・変更されることが原則です。
会社が一方的に労働条件を変更できるわけではありません。
均衡への配慮
労働契約では、会社と労働者の利益の均衡を図ることが求められます。
一方だけが著しく不利益を受ける契約は望ましくありません。
安全配慮義務
会社には、労働者が安全で健康に働けるよう配慮する義務があります。
長時間労働への対策や職場の安全管理、ハラスメント防止なども、この考え方につながっています。
信義則との関係
労働契約法では、「信義誠実の原則(信義則)」も重要な考え方です。
信義則とは、お互いに誠実に行動し、相手の信頼を裏切らないようにするという民法上の基本原則です。
会社には、
・公平な人事評価
・誠実な説明
・合理的な人事運用
などが求められます。
一方、労働者にも、
・職務に専念すること
・会社のルールを守ること
・職場秩序を維持すること
などが求められます。
労働契約は、双方が信頼関係を築くことで成り立っています。
労働契約法が重要となる場面
労働契約法は、さまざまな人事労務の場面で適用されます。
例えば、
・普通解雇
・懲戒解雇
・配置転換
・労働条件の変更
・継続雇用
・休職や復職
などです。
特に、労働契約法第16条に定められた解雇権濫用法理は、多くの労働紛争で判断基準となっています。
実務で注意すべきポイント
企業は就業規則を整備するだけでなく、労働契約法の考え方を日頃の人事運営に反映させることが重要です。
例えば、
・採用時の労働条件を明確にする
・契約変更時には十分な説明を行う
・人事評価を公平に実施する
・指導内容を記録する
といった取り組みは、労使間の信頼関係を築く上で欠かせません。
また、問題が発生した場合でも、一方的な判断ではなく、労働者との十分な話し合いを行うことが、紛争の防止につながります。
結論
労働契約法は、会社と労働者の契約関係を規律する基本法であり、労使双方が安心して働き、事業活動を行うための重要なルールを定めています。労働基準法が最低限の労働条件を定める法律であるのに対し、労働契約法は契約の成立や変更、終了などの基本原則を示しています。
企業は法令を遵守するだけでなく、信義則に基づき、公平で誠実な人事運営を行うことが重要です。労働契約法の考え方を理解し、適切に実践することが、健全な労使関係と持続的な企業経営につながるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月6日 朝刊 会員限定記事「中小企業リーガル処方箋 規則破ったシニア雇用せず コロナ下の外出、妥当性争う」
労働契約法
労働基準法
厚生労働省「労働契約法のあらまし」