規則違反だけで再雇用は拒否できるのか シニア雇用で企業が知るべき法的ルール

FP
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60歳以降も働き続ける人が増えるなか、多くの企業が継続雇用制度を導入しています。一方で、定年直前に就業規則違反があった社員について「再雇用を取り消せるのか」という問題は、人事担当者にとって悩ましいテーマです。

実際に、定年後の再雇用を予定していた社員が就業規則違反を理由に再雇用を拒否され、その適法性が裁判で争われた事例があります。この判決は、シニア雇用における企業の裁量には一定の限界があることを示しました。

本記事では、この裁判例をもとに、継続雇用制度の仕組みや再雇用拒否が認められるケース、企業が実務上注意すべきポイントについて分かりやすく解説します。

継続雇用制度とは何か

高年齢者雇用安定法では、企業に対し65歳までの雇用確保を義務付けています。

企業は主に次のいずれかの方法を選択します。

・定年を65歳まで引き上げる
・定年制を廃止する
・継続雇用制度を導入する

このうち最も多く採用されているのが継続雇用制度です。

継続雇用制度では、一度定年退職した後に嘱託社員や契約社員として再契約します。勤務日数や職務内容、給与などを見直せるため、企業側にとって柔軟な制度となっています。

裁判で問題となった事案

裁判では、定年後の嘱託採用が決定していた社員が、新型コロナウイルス感染拡大時に会社の就業規則に反する行動を取ったことが問題となりました。

会社は社員を譴責処分とし、再雇用契約には「就業規則違反があれば契約を破棄できる」との条項があることを理由に再雇用を取り消しました。

これに対して社員は再雇用拒否は不当であるとして提訴しました。

裁判所はどのように判断したのか

裁判所は会社の対応を認めませんでした。

判決では、継続雇用を拒否できるのは、解雇や退職に相当するほど重大な就業規則違反があった場合に限られると判断しました。

社員の行動については、

・業務命令違反があったこと
・会社への配慮を欠く行動だったこと

は認めながらも、

・職場秩序を著しく乱したわけではない
・悪質性が高いとはいえない
・解雇に相当する重大性までは認められない

として再雇用拒否は無効と判断しました。

その後、控訴審では会社が解決金を支払う内容で和解が成立しています。

再雇用拒否が認められるケース

継続雇用制度は企業の裁量が比較的大きい制度ですが、自由に再雇用を拒否できるわけではありません。

例えば次のようなケースでは再雇用拒否が認められる可能性があります。

・重大な横領や背任行為
・暴力行為や重大なハラスメント
・繰り返し改善指導を受けても是正されない重大な規律違反
・著しく勤務成績が悪い場合
・健康上の理由で就労継続が困難な場合

一方で、軽微な規則違反や一度限りの問題行動だけでは、再雇用拒否が認められる可能性は高くありません。

継続雇用制度で企業が注意すべきポイント

実務では次の点が重要になります。

就業規則を再確認する

定年を迎える社員に対し、再雇用前に就業規則や服務規律を改めて説明する機会を設けることが重要です。

指導記録を残す

問題行動があれば、口頭注意だけで終わらせず、書面による指導や面談記録を保存します。

後日の紛争では、改善指導を行った経緯が重要な証拠になります。

基準を一貫して運用する

社員によって処分内容が異なると、不公平な運用と評価される可能性があります。

同じ基準を継続して適用することが重要です。

契約条項だけに依存しない

契約書に「就業規則違反があれば契約を解除できる」と定めても、その条項だけで再雇用拒否が認められるわけではありません。

裁判所は違反行為の重大性や合理性を総合的に判断します。

高年齢者雇用安定法との関係

現在、日本では65歳までの雇用確保が企業の義務となっています。

さらに70歳までの就業機会確保についても努力義務が設けられており、今後もシニア雇用は企業経営の重要課題となります。

継続雇用制度は企業に柔軟性を与える制度ですが、その運用には労働法上の合理性と公平性が求められます。

制度を適切に運用することで、企業と従業員双方にとって納得できるシニア雇用につながります。

実務で押さえたいポイント

今回の裁判例が示した最大のポイントは、「就業規則違反があった」という事実だけでは再雇用拒否の理由として十分ではないということです。

企業は感情的な判断ではなく、

・違反行為の重大性
・改善可能性
・これまでの勤務実績
・本人への指導経過

などを総合的に検討する必要があります。

継続雇用制度は高齢社員の生活を支える重要な制度でもあります。だからこそ企業には、公平で客観的な判断と、丁寧な手続きが求められているのです。

結論

シニア社員の再雇用は、企業の裁量だけで自由に決められるものではありません。たとえ就業規則違反があっても、その内容が解雇に匹敵するほど重大でなければ、再雇用拒否は認められない可能性があります。

企業は契約条項だけに頼るのではなく、就業規則の周知、改善指導、記録の保存、一貫した運用を徹底することが重要です。高年齢者雇用安定法の趣旨を踏まえた適正な制度運用が、労使双方の信頼関係を築き、不要な労務トラブルを防ぐことにつながります。

参考

日本経済新聞 2026年8月6日 朝刊 会員限定記事「中小企業リーガル処方箋 規則破ったシニア雇用せず コロナ下の外出、妥当性争う」

高年齢者雇用安定法

厚生労働省「令和7年 高年齢者雇用状況等報告」

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