人生100年時代を迎え、定年後も働き続ける人が増えています。しかし、再雇用後は仕事内容が大きく変わり、「やりがいを感じられない」「自分の経験を十分に生かせない」と悩む人も少なくありません。
こうした課題を解決する考え方として注目されているのが「ジョブクラフティング」です。
ジョブクラフティングは、会社から与えられた仕事を受け身でこなすのではなく、自ら工夫しながら仕事の意味や役割を再設計する考え方です。現役世代だけでなく、再雇用後のシニア社員にとっても、働きがいを高める有効な方法として期待されています。
今回は、ジョブクラフティングの基本的な考え方やシニア社員への効果、再雇用制度との関係について解説します。
ジョブクラフティングとは
ジョブクラフティング(Job Crafting)とは、従業員が主体的に仕事の内容や進め方、人との関わり方、仕事の意味づけを工夫し、自分らしい働き方をつくる考え方です。
2001年にアメリカの経営学者エイミー・レズネスキー氏とジェーン・ダットン氏によって提唱されました。
ジョブクラフティングでは、仕事を会社から一方的に与えられるものではなく、自ら価値を見いだしながら創り上げていくものと考えます。
そのため、同じ仕事でも本人の工夫次第で働きがいや満足感を高めることができます。
三つのジョブクラフティング
ジョブクラフティングは、一般的に三つの側面から考えられています。
作業のクラフティング
仕事の進め方や担当業務を工夫することです。
例えば、
・業務改善を提案する
・効率的な作業方法を考える
・経験を生かして後輩向けのマニュアルを作成する
などが挙げられます。
人間関係のクラフティング
仕事を通じた人との関わり方を主体的に変えることです。
例えば、
・若手社員への助言役になる
・他部署との連携を深める
・社内外のネットワークを広げる
といった取り組みがあります。
認知のクラフティング
仕事の意味や価値の捉え方を変えることです。
例えば、単なる事務作業ではなく、「会社を支える重要な役割」と考えることで、仕事への意欲が高まることがあります。
シニア社員に期待される効果
定年後は役職を離れる人も多く、責任や権限が変わることで、仕事への意欲を失ってしまう場合があります。
しかし、ジョブクラフティングの考え方を取り入れることで、新しい役割を自ら見つけることができます。
例えば、
・若手社員の育成
・業務改善の提案
・長年の経験を生かした相談役
・社内ノウハウの継承
など、豊富な経験を生かせる場面は数多くあります。
こうした役割は、企業にとっても大きな価値があります。
女性シニアにも広がる可能性
女性シニアの中には、現役時代に一般職として働き、管理職経験が少ない人もいます。
その一方で、
・事務改善
・顧客対応
・社内調整
・後輩育成
など、長年培ってきた豊富な経験を持っています。
ジョブクラフティングでは、肩書や役職ではなく、自分の強みを生かして仕事を再設計することが重要です。
女性シニアがこれまでの経験を新しい形で生かすことで、再雇用後も高いモチベーションを維持しやすくなります。
再雇用制度との関係
再雇用制度では、仕事内容が現役時代と変わることがあります。
その際、企業が一方的に仕事を決めるだけではなく、本人の希望や経験を踏まえて役割を設計することが重要です。
例えば、
・指導担当
・品質管理
・教育担当
・社内コンサルタント
など、経験を生かせる役割を用意することで、本人の働きがいも高まります。
ジョブクラフティングの考え方は、企業と従業員が対話を重ねながら新しい役割をつくる際にも役立ちます。
企業が取り組むべきこと
ジョブクラフティングは、本人の努力だけで実現できるものではありません。
企業には、
・上司との定期的な対話
・キャリア面談の実施
・提案しやすい組織風土
・リスキリングの機会提供
など、主体的な働き方を支える環境づくりが求められます。
特に再雇用社員については、「補助的な仕事を任せる」という発想から、「経験を生かす役割を共に考える」という姿勢への転換が重要です。
人的資本経営とのつながり
人的資本経営では、一人ひとりの能力や経験を最大限に活用することが重視されています。
ジョブクラフティングは、その考え方と非常に親和性が高い手法です。
シニア社員が主体的に仕事を設計できる職場では、
・仕事への満足度向上
・生産性向上
・知識や技術の継承
・人材の定着
など、多くの効果が期待できます。
年齢に関係なく、一人ひとりが価値を発揮できる環境づくりは、企業の競争力向上にもつながるでしょう。
結論
ジョブクラフティングとは、自ら仕事の内容や人との関わり方、仕事の意味を工夫し、働きがいを高める考え方です。
定年後の再雇用では、役職や仕事内容が変わることで意欲を失うケースもありますが、自分の経験や強みを生かして新たな役割を見いだすことで、充実した働き方を実現できます。
企業にとっても、シニア社員を単なる労働力としてではなく、知識や経験を持つ人的資本として活用することが重要です。ジョブクラフティングの考え方を取り入れることで、働く人と企業の双方にとって価値ある職場づくりが進んでいくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月6日 朝刊 私見卓見「女性の定年にも目を向けて」
Wrzesniewski, A. and Dutton, J. E.「Crafting a Job: Revisioning Employees as Active Crafters of Their Work」(2001)
経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書」