REITについて調べていると、投資法人とは別にアセットマネージャーという存在が登場します。
REITが多くの不動産を保有していることから、REIT自身が物件を探し、購入し、管理し、売却しているように思えるかもしれません。
しかし、日本のREITでは基本的に投資法人自身が従業員を抱えて資産運用を行うのではなく、外部の資産運用会社へ運用業務を委託する仕組みになっています。
その実務を担うのがアセットマネージャーです。
金利上昇によって不動産投資環境が厳しくなるなか、どの物件を取得し、どの物件を売却し、どのように収益力を高めるのかというアセットマネージャーの力量は、これまで以上に重要になっています。
今回は、REITにおけるアセットマネージャーの役割について見ていきます。
アセットマネージャーとは
アセットマネージャーとは、投資家に代わって資産を運用する専門家や運用会社を意味します。
不動産の世界では、不動産投資に関する戦略を立て、物件の取得、保有、運営、売却までを管理する役割を担います。
REITの場合、この役割を担うのが資産運用会社です。
REITが保有する不動産について、
どの地域へ投資するのか
どの種類の物件を取得するのか
いくらで取得するのか
いつ売却するのか
どのように収益力を高めるのか
といった判断を行います。
REITの運用成績を左右する重要な存在です。
投資法人とアセットマネージャーは別の存在
REITを理解するときに重要なのが、投資法人とアセットマネージャーを区別することです。
投資法人は、不動産を保有する主体です。
投資家から資金を集め、銀行などから借入れを行い、その資金で不動産へ投資します。
一方、アセットマネージャーは、その投資法人から委託を受けて実際の資産運用を行います。
つまり、
投資法人は資産を保有する主体
アセットマネージャーは資産を運用する主体
という役割分担になっています。
投資法人が箱であり、アセットマネージャーがその中にある資産を動かす司令塔だと考えると分かりやすいでしょう。
なぜREIT自身が運用しないのか
日本のREITは、外部運用型と呼ばれる仕組みを採用しています。
投資法人自身が多数の従業員を雇用して不動産運用を行うのではなく、専門的な運用業務を資産運用会社へ委託します。
不動産投資には高度な専門知識が必要です。
物件価格の評価だけでも、立地、築年数、賃料水準、空室率、修繕費、将来の賃料動向など、多くの要素を分析しなければなりません。
さらに金融市場や金利、資金調達環境についても判断する必要があります。
こうした専門業務をアセットマネージャーへ集約することで、効率的な運用を行う仕組みになっています。
最大の仕事は物件取得
アセットマネージャーの重要な仕事の一つが物件取得です。
REITが成長するためには、収益力のある不動産を取得する必要があります。
しかし、単に資産規模を大きくすればよいわけではありません。
高すぎる価格で物件を購入すると、投資利回りが低下します。
そのためアセットマネージャーは、物件から将来どれだけの賃料収入を得られるのかを分析します。
周辺の賃料相場や空室率、将来の修繕費なども考慮しながら、適正な取得価格を判断します。
不動産価格が上昇している局面では、無理に物件を購入しないという判断も重要です。
スポンサーからの物件取得も行う
REITでは、スポンサー企業から物件を取得するケースが多くあります。
スポンサーが開発したオフィスビルや物流施設、住宅、ホテルなどをREITが購入する仕組みです。
アセットマネージャーは、こうしたスポンサーパイプラインを活用しながら資産規模を拡大します。
ただし、スポンサーから提示された物件をそのまま購入すればよいわけではありません。
スポンサーはできるだけ高く売却したい一方、REITの投資家にとってはできるだけ適正な価格で取得することが望ましいからです。
アセットマネージャーには、スポンサーとの関係を活用しながらも投資家の利益を優先する判断が求められます。
保有中の不動産価値を高める
アセットマネージャーの仕事は物件を買うことだけではありません。
取得後の不動産の収益力を高めることも重要です。
例えばオフィスビルであれば、空室を減らしたり、賃料を引き上げたりすることで収益を増やせます。
老朽化した設備を更新することで物件の競争力を維持することも必要です。
商業施設であればテナント構成を見直し、物流施設であれば設備改善を行うなど、物件ごとに異なる戦略があります。
こうした施策によってNOIを増やすことができれば、不動産価値そのものが上昇する可能性もあります。
プロパティマネージャーとの違い
アセットマネージャーと似た言葉にプロパティマネージャーがあります。
両者は役割が異なります。
アセットマネージャーは、不動産投資全体の戦略を考えます。
一方、プロパティマネージャーは個別物件の日常的な運営管理を担当します。
例えば、
テナント募集
賃料回収
建物管理
修繕対応
入居者対応
などはプロパティマネージャーの仕事です。
アセットマネージャーは、プロパティマネージャーから報告を受けながら、物件全体の収益力をどのように高めるかを判断します。
物件売却も重要な仕事
REITは不動産を永久に保有するとは限りません。
収益力が低下した物件や将来の成長が期待しにくい物件を売却し、より収益力の高い不動産へ入れ替えることがあります。
アセットマネージャーは、
現在の売却価格
将来の賃料収入
修繕費
含み益や含み損
売却後の資金用途
などを総合的に考えて売却を判断します。
不動産価格が高い時期に売却して含み益を実現し、その資金を借入金返済や新規物件取得へ使うこともあります。
物件の取得だけでなく、出口戦略まで考えるのがアセットマネージャーの仕事です。
金利上昇で財務戦略も重要になる
金利上昇局面では、アセットマネージャーに求められる役割がさらに広がります。
不動産運用だけでなく、財務戦略の重要性が高まるからです。
借入金の満期がいつ到来するのか。
固定金利と変動金利をどのように組み合わせるのか。
LTVをどの水準に維持するのか。
物件売却によって借入金を減らすべきか。
こうした判断が分配金や財務の安定性を左右します。
低金利時代には資産を増やすことが成長につながりやすかった一方、金利上昇時代には財務の守りも重要になります。
アセットマネージャーはどのように報酬を得るのか
資産運用会社は、投資法人から運用報酬を受け取ります。
報酬体系はREITによって異なりますが、資産規模や運用実績などに連動する仕組みが採用されています。
例えば運用資産額に一定率を掛けて報酬を計算する方法があります。
資産規模が大きくなれば運用報酬も増えるため、運用会社には資産を増やすインセンティブが生じます。
一方、投資家が求めているのは単なる資産規模の拡大ではありません。
重要なのは一口当たりの分配金や資産価値を高めることです。
そのため近年では、運用成果と報酬を連動させる考え方も重要になっています。
報酬体系には利益相反の可能性もある
資産規模に連動する運用報酬には注意点があります。
資産運用会社から見れば、物件を取得して資産規模を大きくすれば報酬が増える可能性があります。
しかし、高値で物件を取得してしまえば、REITの投資家にとって必ずしも利益にはなりません。
つまり、
運用会社は資産規模を拡大したい
投資家は投資効率を高めたい
という利害のずれが生じる可能性があります。
そこで運用報酬体系を見る際には、単純な資産残高連動だけでなく、利益や一口当たりの成果などがどの程度反映されているかを見ることも重要です。
金利上昇時代は運用力が問われる
低金利時代には不動産価格の上昇と安い資金調達によって、多くのREITが資産規模を拡大できました。
しかし金利が上昇すると環境は変わります。
借入コストが上昇し、不動産価格にも下落圧力がかかる可能性があります。
そのような環境では、単純に物件を買い続けるだけでは成長できません。
物件取得、賃料引き上げ、資産入れ替え、借入金管理などを組み合わせながら収益力を高める必要があります。
つまり、金利上昇時代にはアセットマネージャーの実力差がREITの運用成績に表れやすくなるのです。
私募REITの再編でも重要な存在になる
私募REIT市場では、金利上昇を背景として統合や解散の動きが出ています。
今後、複数のREITを統合したり、保有物件を売却したりする場合にも、アセットマネージャーの判断が重要になります。
特に規模の小さい私募REITでは、運用コストを抑えながら資産規模を確保することが課題になります。
市場が拡大する局面では物件を増やす力が重視されました。
一方、市場が成熟し再編局面に入れば、どの資産を残し、どの資産を売り、どのファンドと統合するのかという判断力が重要になります。
アセットマネージャーの仕事も、拡大から選別へ変わっていく可能性があります。
結論
アセットマネージャーとは、REITから委託を受け、不動産の取得、保有、運営、売却などの資産運用を担う存在です。
投資法人が不動産を保有する主体であるのに対し、アセットマネージャーはその資産をどのように運用するかを判断する司令塔です。
さらに金利上昇局面では、物件運用だけでなく、LTVや借入期間、資産売却などを含めた財務戦略の重要性も高まります。
REITを評価するときには、どの不動産を持っているのかだけを見るのでは十分ではありません。
その不動産を誰が、どのような方針で運用しているのかを見ることも重要です。
REIT市場が拡大一辺倒から再編の時代へ向かえば、アセットマネージャーの運用力は、これまで以上にREITの価値を左右する重要な要素になるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月7日 朝刊
私募REIT曲がり角 国内初の解散、調達コスト増 金利上昇が再編促す