人生100年時代を迎え、70代をどのように過ごすかが、その後の人生の充実度を大きく左右するようになっています。
かつては、定年退職を迎えれば仕事から離れ、それまでに蓄積した知識や経験を生かしながら穏やかに暮らすことが理想とされていました。
しかし、社会環境が急速に変化する現在、70代になっても新しい知識を学び続けることの重要性が高まっています。
特に、生成AIをはじめとするデジタル技術の進歩は、仕事の進め方だけでなく、日常生活や人間関係にも大きな変化をもたらしています。
2026年10月11日付の日本経済新聞では、作家の林真理子氏が70代の生き方について語り、年齢を重ねても新しいことに挑戦し、成長し続けることの大切さを指摘しています。
70代になっても仕事を続け、新しい習い事を始め、年下の友人との交流を楽しむ姿勢は、人生100年時代における一つの生き方を示しています。
一方、定年退職をきっかけに学ぶことをやめ、過去の経験だけに頼るようになると、社会の変化についていくことが難しくなる場合があります。
重要なのは、年齢を理由に新しい挑戦を諦めないことです。
今回は、70代になっても成長を続ける人の共通点を整理し、学び直しや好奇心が仕事、健康、人間関係、老後の生活にどのような影響を与えるのかを考えてみます。
70代は成長が終わる年齢ではない
人は何歳まで成長できるのでしょうか。
若い頃には、学校で学び、就職後は仕事を通じて専門知識や経験を身につけます。
そのため、成長とは若い世代に特有のものだと考えられがちです。
しかし、70代になっても新しい知識や技能を習得することは可能です。
もちろん、加齢によって記憶力や情報処理速度などに変化が生じる場合があります。
若い頃と同じ方法で学習することが難しくなる人もいるでしょう。
一方、長年の経験によって培われた知識や判断力は、新しいことを理解する際の土台になります。
例えば、経理業務を長年経験してきた人であれば、新しい会計システムを学ぶ際にも、会計処理の基本的な仕組みを理解しています。
金融機関で勤務していた人であれば、新しい金融商品や資産運用制度を学ぶ際に、これまでの金融知識を活用できます。
このように、過去の経験と新しい知識を組み合わせることで、若い頃とは異なる形の成長が期待できます。
重要なのは、過去の知識だけで十分だと考えないことです。
社会が変化する以上、これまでの経験を生かすためにも、新しい知識を学び続ける必要があります。
成長し続ける人は過去の成功体験に固執しない
70代になっても成長できる人の共通点の一つは、過去の成功体験に固執しないことです。
長年会社員として働いてきた人は、さまざまな経験や実績を持っています。
管理職や経営幹部として活躍した人であれば、組織運営や人材育成について豊富な知識があるでしょう。
しかし、現役時代に成功した方法が、現在も通用するとは限りません。
例えば、以前は対面での営業活動や紙の資料を中心としていた企業でも、現在ではオンライン会議やクラウドサービスを活用することが一般的になっています。
また、生成AIの普及によって、資料作成や情報収集の方法も変化しています。
このような環境で、昔の方法が最も優れていると考え続ければ、新しい技術を活用する機会を失ってしまいます。
一方、過去の経験を大切にしながら、新しい方法にも関心を持つ人は、変化に対応しやすくなります。
例えば、長年の経理経験を持つ人が生成AIやデータ分析ツールを学べば、従来より効率的に情報を整理できる可能性があります。
経験を捨てる必要はありません。
大切なのは、経験を新しい知識によって更新し続けることです。
好奇心が新しい人間関係を生み出す
70代の成長を考える際には、知識や技能の習得だけでなく、人間関係への影響にも注目する必要があります。
新しいことに関心を持つ人は、自然に人と交流する機会が増える場合があります。
例えば、語学教室に参加すれば、同じ言語を学ぶ仲間と出会えます。
スポーツクラブに通えば、運動を通じて交流する機会が生まれます。
音楽や美術、歴史などの講座に参加すれば、共通の関心を持つ人との会話が広がります。
こうした活動では、年齢や職業の異なる人と出会うこともあります。
林真理子氏も、自分より年下の友人との交流や新しい習い事の重要性について語っています。
年下の人と交流することで、これまで知らなかった価値観や情報に触れることができます。
一方、70代の人が長年の経験から得た知識を伝えることもできます。
重要なのは、年齢による上下関係を持ち込まないことです。
年長者だから教える立場にあると考えるのではなく、互いに学び合う姿勢が求められます。
好奇心は、新しい知識を得るためだけでなく、人間関係を広げるきっかけにもなるのです。
生成AIは70代の学び直しを支える道具になる
近年、学び直しの環境を大きく変えているのが生成AIです。
従来、新しい分野を学ぶためには、専門書を購入したり、講座に参加したりする必要がありました。
もちろん、現在でも書籍や講座は重要な学習手段です。
しかし、生成AIを活用すれば、分からない用語を質問したり、難しい内容を分かりやすく説明してもらったりすることができます。
例えば、70代になって初めて会計を学ぶ人であれば、貸借対照表と損益計算書の違いについて質問できます。
金融知識を深めたい人であれば、債券価格と金利の関係について段階的に説明を求めることができます。
また、英語を学びたい人であれば、英会話の練習相手として利用することも考えられます。
文章を書く人であれば、構成案の整理や表現の見直しに活用することもできます。
ただし、生成AIの回答が常に正確であるとは限りません。
特に、税制、年金、医療、法律などの分野では、制度改正や個別事情によって正しい回答が異なる場合があります。
そのため、重要な情報については、公的機関の資料や専門家の説明などで確認する必要があります。
生成AIは、専門家の判断を無条件に代替するものではありません。
しかし、適切に活用すれば、70代になっても新しい知識を学ぶための有力な道具になります。
デジタル技術を学ぶことが生活の自立につながる
70代の学び直しでは、仕事に役立つ知識だけでなく、日常生活に必要なデジタル技術も重要になります。
例えば、スマートフォンを使って行政手続きや銀行取引、医療機関の予約などを行う機会が増えています。
オンラインで商品を購入したり、公共交通機関の情報を調べたりすることも一般的になっています。
こうしたサービスを利用できれば、日常生活の利便性が高まります。
特に、体力の低下などによって外出が難しくなった場合には、自宅から利用できるサービスが役立つ可能性があります。
また、オンライン会議やメッセージアプリを利用すれば、離れて暮らす家族や友人とも交流できます。
一方、デジタル技術の利用には注意点もあります。
フィッシング詐欺や偽の投資勧誘、個人情報の流出などのリスクがあるからです。
そのため、操作方法だけでなく、情報セキュリティーについて学ぶことも重要です。
例えば、不審なメッセージのリンクを開かないことや、パスワードを適切に管理することなど、基本的な対策を身につける必要があります。
デジタル技術を学ぶことは、単に便利な機器を使えるようになることではありません。
年齢を重ねても自分自身で情報を収集し、生活上の判断を行うための能力を維持することにつながります。
70代からの資格取得には目的が必要
学び直しの方法として、資格取得を考える人もいるでしょう。
例えば、ファイナンシャルプランナー、簿記、宅地建物取引士などの資格について学ぶことが考えられます。
また、法律や税務、福祉、情報技術などの分野に関心を持つ人もいるでしょう。
資格取得のメリットは、学習目標が明確になることです。
試験日や出題範囲が決まっているため、計画的に勉強を進めやすくなります。
また、合格という成果を得ることで、達成感を感じることもできます。
ただし、資格を取得すれば必ず仕事につながるわけではありません。
特に、70代から資格を取得する場合には、資格取得後に何をしたいのかを明確にする必要があります。
例えば、専門知識を深めることが目的であれば、資格試験に合格しなくても学習そのものに価値があります。
一方、資格を生かして収入を得たい場合には、顧客の需要や実務経験、営業方法なども考える必要があります。
また、資格によっては登録費用や継続研修などの負担が生じる場合があります。
70代の資格取得では、資格の数を増やすことよりも、自分の生活や仕事に役立つ知識を身につけることが重要です。
学び直しは70代の仕事の選択肢を広げる
70代まで働き続けるためには、現役時代の経験だけでなく、新しい知識を身につけることが重要です。
例えば、経理や財務の経験者であれば、電子帳簿保存法やインボイス制度など、近年の制度改正について理解を深める必要があります。
また、企業の内部統制や情報セキュリティーなど、新しい経営課題について学ぶことも考えられます。
金融分野の経験者であれば、NISAや資産形成制度、相続対策などについて知識を更新することが重要になります。
ただし、税務相談や法律事務など、専門資格が必要な業務については、法律上の業務範囲を守らなければなりません。
重要なのは、これまでの専門知識と新しい知識を組み合わせることです。
例えば、長年の企業経理経験を持つ人が、生成AIやクラウド会計の仕組みを学べば、企業の業務改善について新しい視点から考えられるようになります。
また、文章作成やオンライン講義の技術を身につければ、これまでの経験を情報発信や教育に活用することもできます。
70代の仕事では、長時間働くことよりも、専門性を生かして価値を提供することが重要になります。
学び直しは、その専門性を維持し、仕事の選択肢を広げるための手段になるのです。
70代の学習では毎日の習慣が重要になる
70代になってから新しいことを学ぶ場合、一度に長時間勉強する必要はありません。
むしろ、無理のない範囲で継続することが重要です。
例えば、毎日30分学習する場合を考えます。
1年間365日続ければ、学習時間は約183時間になります。
毎日1時間であれば、年間365時間です。
5年間続ければ、毎日30分でも約913時間になります。
このように、短時間の学習でも、長期間継続すれば相当な時間になります。
ただし、学習時間が長ければ必ず成果が出るというわけではありません。
重要なのは、学んだ内容を理解し、実際に使ってみることです。
例えば、生成AIについて学んだ場合には、日常生活や仕事で実際に活用してみることが考えられます。
英語を学んだ場合には、短い文章を書いたり、会話の練習をしたりすることが重要です。
また、学習内容を文章にまとめることで、理解を深めることもできます。
70代の学び直しでは、他人と競争する必要はありません。
自分のペースで学び続け、昨日より少しでも理解が深まれば、それも成長といえるでしょう。
情報発信は学習成果を定着させる方法になる
新しい知識を学ぶだけでなく、それを他人に伝えることも学習の一つです。
例えば、新聞記事や専門書を読んだ後、その内容を自分の言葉で整理する方法があります。
学んだ内容を文章にまとめるためには、制度や仕組みを正確に理解する必要があります。
その過程で、自分が十分に理解していない部分に気づくこともあります。
また、継続的に情報発信することで、社会の変化に関心を持ち続けるきっかけになります。
例えば、経済や金融、税制、社会保障などについて記事を書く場合には、新しい制度改正や社会情勢を確認する必要があります。
このような活動は、知識を更新する習慣につながります。
さらに、情報発信を通じて、同じ分野に関心を持つ人と交流できる可能性もあります。
ただし、情報発信では正確性が重要です。
特に、制度改正や法律に関する情報については、施行時期や適用条件を確認する必要があります。
誤った情報を発信すれば、読者に不利益を与える可能性があるからです。
情報発信は、単に知識を披露することではありません。
自分自身が学び続けるための仕組みとして活用することに意味があります。
新しい挑戦には失敗を受け入れる姿勢が必要
70代になってから新しいことを始める際には、失敗することへの抵抗感が生じる場合があります。
長年仕事で実績を積んできた人ほど、初心者として学ぶことに戸惑うかもしれません。
例えば、会社では部下を指導する立場だった人が、パソコン教室では若い講師から基本操作を教わることになります。
そのような状況を恥ずかしいと感じる人もいるでしょう。
しかし、新しいことを学ぶ以上、最初から上手にできる必要はありません。
分からないことを質問し、失敗を繰り返しながら理解を深めることが重要です。
また、70代では若い頃と同じ速度で習得できない場合もあります。
その場合には、学習方法を工夫することが考えられます。
例えば、説明を文章で残したり、操作手順を記録したりする方法があります。
繰り返し練習することで、少しずつ理解を深めることもできます。
重要なのは、他人と比較しないことです。
70代の成長は、若い世代に勝つことではありません。
自分自身の可能性を広げ、生活の選択肢を増やすことに意味があります。
学び直しは健康維持にもつながる可能性がある
70代の学び直しは、仕事や趣味だけでなく、健康との関係でも注目されています。
新しい知識や技能を学ぶことは、日常生活に刺激を与えます。
また、習い事や講座に参加することで、人と交流する機会が増える場合があります。
社会参加や知的活動は、高齢期の生活の質を維持するうえで重要な要素と考えられています。
ただし、学習を続ければ認知症を確実に予防できるというわけではありません。
認知症の発症には、年齢や生活習慣、健康状態など、さまざまな要因が関係しています。
そのため、学び直しだけでなく、適度な運動、バランスのよい食事、十分な睡眠、社会交流などを組み合わせることが重要です。
また、聴力や視力の低下が学習の妨げになる場合には、必要な支援や医療的な対応を受けることも考えられます。
学習は健康維持のためだけに行うものではありません。
新しいことを知る楽しさや、できなかったことができるようになる喜びそのものに価値があります。
70代の学び直しでは、成果を急ぐのではなく、学ぶ過程を楽しむことが大切です。
60代から学び直しを始めると70代の選択肢が広がる
70代になってから新しいことを学び始めることもできますが、60代から準備しておけば、さらに選択肢が広がります。
例えば、60歳から毎日30分の学習を続けた場合、70歳までの10年間で約1,825時間になります。
この時間を専門分野の学習に充てれば、相当量の知識を蓄積できる可能性があります。
また、デジタル技術や文章作成、オンライン講義などを学んでおけば、65歳以降の仕事に活用できるかもしれません。
重要なのは、退職してから何を学ぶかを考えるのではなく、現役時代から学習習慣を維持することです。
例えば、毎朝一定の時間を読書や学習に充てる方法があります。
新聞や専門誌を読み、気になったテーマについて調べることも有効です。
また、学んだ内容を記録し、定期的に振り返ることで、知識の整理につながります。
60代から学習習慣を身につけておけば、70代になっても無理なく継続しやすくなります。
そして、70代で身につけた知識や経験は、80代以降の生活にも役立つ可能性があります。
人生100年時代では、学習を現役時代だけのものと考えず、生涯にわたって続ける活動として位置づけることが重要です。
結論
人生100年時代において、70代は成長が終わる年齢ではありません。
むしろ、現役時代に培ってきた知識や経験を生かしながら、新しいことに挑戦できる重要な時期です。
70代になっても成長を続ける人には、いくつかの共通点があります。
まず、過去の成功体験に固執せず、社会の変化を受け入れることです。
次に、年齢を理由に新しい挑戦を諦めず、好奇心を持ち続けることです。
そして、若い世代からも積極的に学び、自分の知識や経験を更新し続けることです。
特に、生成AIやデジタル技術の進歩は、70代の学び直しに新しい可能性をもたらしています。
これまで専門的な知識が必要だった分野でも、適切な学習支援を活用することで、理解を深めやすくなっています。
また、学び直しは仕事の選択肢を広げるだけでなく、人間関係を豊かにするきっかけにもなります。
新しい習い事や講座に参加すれば、年齢や職業の異なる人と交流する機会が生まれます。
さらに、学んだ内容を文章や講義などで発信すれば、知識を整理しながら社会に貢献することもできます。
ただし、70代の学習では、若い頃と同じ速度や成果を求める必要はありません。
毎日30分でも学習を続ければ、1年間で約183時間になります。
小さな積み重ねが、長期的には大きな違いを生む可能性があります。
そして、70代の成長を支える最も重要な要素は、学習能力の高さだけではありません。
新しいことを知りたいという好奇心と、分からないことを素直に学ぶ姿勢です。
人生100年時代では、70歳になったからといって人生の可能性が閉ざされるわけではありません。
70代で新しい仕事を始める人もいれば、資格取得に挑戦する人、趣味を深める人、情報発信を続ける人もいます。
どのような活動であっても、自分自身が新しい発見や成長を感じられることに意味があります。
また、学び続けることで、社会の変化に取り残される不安を和らげ、自分自身で生活を選択する力を維持しやすくなります。
老後の豊かさは、金融資産の金額だけで決まるものではありません。
新しいことを学ぶ楽しさ、昨日まで知らなかった世界を知る喜び、年齢の異なる人と交流する刺激も、人生を豊かにする大切な財産です。
70代でも成長できる人とは、特別な才能を持つ人ではなく、年齢を重ねても学ぶことをやめない人なのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月11日付 「70代こそ働くのをやめるな 作家・林真理子氏『卒婚も選択肢に』」
内閣府 令和6年度高齢者の経済生活に関する調査
内閣府 高齢社会白書
文部科学省 生涯学習の推進に関する資料
厚生労働省 高齢者の社会参加と健康づくりに関する資料