老後資金は貯めるだけでは意味がない 70代からのお金の使い方と資産寿命

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人生100年時代を迎え、老後資金をいくら準備すればよいのかという問題に関心が集まっています。

老後2,000万円問題をきっかけに、退職後の生活費や年金不足額を計算し、金融資産を積み上げることの重要性が広く認識されるようになりました。

しかし、老後資金を十分に確保できたとしても、そのお金を使わないまま人生を終えてしまうのであれば、資産形成の目的を十分に果たしたとはいえないかもしれません。

2026年10月11日付の日本経済新聞では、作家の林真理子氏が70代の生き方について語り、仕事や友人との交流を続けながら、人生を楽しむことの大切さを指摘しています。

この考え方は、老後のお金の使い方にも通じるものがあります。

70代は、これまで蓄積してきた金融資産を活用し、旅行や趣味、健康維持、人間関係などにお金を使える重要な時期です。

一方、平均寿命が延びている現在、70代でお金を使いすぎれば、80代や90代の生活資金が不足する可能性があります。

反対に、将来への不安から支出を抑えすぎると、健康なうちに経験できたはずのことを逃してしまうかもしれません。

重要なのは、金融資産をできるだけ多く残すことではなく、資産寿命を確保しながら、人生の満足度を高めるためにお金を使うことです。

今回は、70代からの老後資金の取り崩し方を具体的に考え、資産寿命と生活の充実を両立するための方法を整理します。

老後資金は貯蓄すること自体が目的ではない

現役時代には、老後に備えて貯蓄や資産運用を続けることが重要になります。

住宅ローンや教育費などの支出を管理しながら、退職後の生活資金を準備する必要があるからです。

しかし、退職後も現役時代と同じように貯蓄を増やすことだけを考えていると、お金を使う機会を逃してしまう可能性があります。

例えば、70歳時点で金融資産が5,000万円ある人を考えてみます。

公的年金で基本的な生活費を賄える場合には、金融資産を大きく取り崩さなくても生活できるかもしれません。

しかし、将来の医療費や介護費が不安だからといって、旅行や趣味、友人との交流にほとんどお金を使わなければ、せっかく準備した資産を十分に活用できないことになります。

もちろん、資産を子どもや孫に残したいという希望がある場合には、相続を目的として資産を保有することにも意味があります。

ただし、老後資金の本来の目的は、退職後の生活を安定させ、自分らしい人生を送ることにあるはずです。

金融資産は、保有する金額そのものに価値があるのではなく、生活の安心や選択肢を増やすための手段です。

70代からは、資産を増やすことと同じくらい、適切に使うことを考える必要があります。

70代はお金を使う価値が高い時期でもある

老後のお金の使い方を考える際には、年齢によってできることが変わる点に注意が必要です。

例えば、70歳であれば、健康状態によっては海外旅行や登山、スポーツなどを楽しめるかもしれません。

しかし、85歳になったときにも同じ活動ができるとは限りません。

年齢を重ねるにつれて、体力や移動能力が低下する可能性があるからです。

もちろん、80代や90代になっても活動的に生活している人はいます。

ただし、将来の健康状態を正確に予測することはできません。

そのため、健康なうちに実現したいことがある場合には、必要以上に先延ばししないことが重要です。

例えば、夫婦で海外旅行をしたいと考えているのであれば、70代前半に実行することには一定の合理性があります。

また、友人と旅行を楽しみたい場合にも、相手の健康状態や生活環境が変化する前に計画する方が実現しやすいでしょう。

老後のお金の価値は、使う時期によって変わります。

同じ100万円であっても、70歳で使う場合と90歳で使う場合では、実現できる経験が異なる可能性があります。

だからこそ、70代では将来への備えを確保しながら、今しかできないことにお金を使う視点が重要になります。

70歳時点で3,000万円あれば何年間生活できるのか

老後資金を使う際には、資産寿命を確認する必要があります。

資産寿命とは、保有する金融資産を取り崩しながら生活した場合に、その資産が何年間持続するかという考え方です。

例えば、70歳時点で金融資産が3,000万円ある人を想定します。

公的年金で基本的な生活費の大部分を賄い、不足額として毎年120万円を取り崩すとします。

運用収益や物価変動を考慮しない場合、3,000万円を年間120万円ずつ取り崩すと25年間で使い切る計算になります。

つまり、95歳まで資産が持続することになります。

一方、年間取り崩し額を180万円に増やすと、約16年8か月で資産がなくなります。

70歳から取り崩しを始めた場合、86歳8か月ごろに資産が尽きる計算です。

反対に、年間取り崩し額を90万円に抑えれば、約33年4か月持続します。

この場合、100歳を超えても資産が残る計算になります。

このように、年間取り崩し額の違いによって資産寿命は大きく変わります。

ただし、実際には物価上昇や運用損益、医療費、介護費などの影響を受けます。

したがって、単純な割り算だけで判断するのではなく、複数の条件を想定することが重要です。

老後資金の取り崩しには3つの考え方がある

老後資金を取り崩す方法には、いくつかの考え方があります。

まず、毎年一定額を取り崩す方法です。

例えば、年間120万円を取り崩すと決めれば、毎月10万円を生活費や趣味などに充てることができます。

支出計画を立てやすいことがメリットです。

一方、物価が上昇した場合には、同じ金額で購入できる商品やサービスが減少します。

次に、金融資産の一定割合を取り崩す方法があります。

例えば、毎年初めの金融資産の4%を取り崩す方法です。

70歳時点で3,000万円あれば、初年度の取り崩し額は120万円になります。

翌年の金融資産が2,900万円になった場合には、その4%である116万円を取り崩すことになります。

この方法では、資産残高に応じて取り崩し額が変化します。

ただし、資産が減少すると使える金額も減るため、生活費の安定性には注意が必要です。

また、4%という割合がすべての人に適切というわけではありません。

運用方法や取り崩し期間、物価上昇率などによって、安全と考えられる割合は異なります。

さらに、生活費の不足額だけを取り崩す方法もあります。

例えば、年間生活費が360万円、公的年金収入が300万円であれば、不足額の60万円を取り崩します。

この方法では、年金を生活の基盤としながら、必要な金額だけ金融資産を活用できます。

どの方法が適しているかは、資産額や年金収入、生活費などによって異なります。

重要なのは、自分に合った取り崩しルールを決め、定期的に見直すことです。

物価上昇によって資産寿命が短くなる可能性

老後資金を考える際に注意したいのが、物価上昇です。

例えば、現在の年間生活費が360万円だとします。

物価が毎年2%ずつ上昇した場合、10年後には同じ生活水準を維持するために年間約439万円が必要になります。

20年後には年間約535万円になります。

もちろん、すべての支出が同じ割合で上昇するわけではありません。

しかし、食料品や光熱費、医療関連費用などが上昇すれば、家計への負担は増加します。

公的年金には物価や賃金の変動を反映する仕組みがありますが、マクロ経済スライドなどによって、年金額の伸びが物価上昇率を下回る場合があります。

そのため、年金収入だけで現在の生活水準を維持できていても、将来は金融資産の取り崩しが必要になる可能性があります。

例えば、70歳時点では年間60万円の取り崩しで生活できても、80歳時点には年間100万円以上必要になることも考えられます。

したがって、資産寿命を計算する際には、物価上昇を考慮したシミュレーションが重要です。

また、金融資産のすべてを現預金で保有する場合には、物価上昇によって実質的な購買力が低下するリスクがあります。

一方、株式や投資信託などには価格変動リスクがあります。

老後の資産運用では、流動性、安全性、収益性のバランスを考える必要があります。

医療費と介護費は生活費とは分けて準備する

70代からのお金の使い方を考える際には、医療費や介護費への備えが欠かせません。

健康な70代前半では、医療費や介護費の負担が比較的小さい人もいるでしょう。

しかし、80代や90代になると、入院や介護サービスの利用が必要になる可能性があります。

例えば、要介護状態となり、在宅介護サービスを利用する場合には、介護保険の自己負担に加えて、保険給付の対象外となる費用が発生することがあります。

また、介護施設へ入居する場合には、施設の種類や居室、サービス内容によって費用が大きく異なります。

有料老人ホームでは、入居一時金や月額利用料が高額になる施設もあります。

さらに、住宅のバリアフリー改修や福祉用具の購入などが必要になる場合もあります。

そのため、老後資金のすべてを旅行や趣味に使うことは適切ではありません。

生活費に必要な資金とは別に、医療や介護に備える資金を確保しておくことが重要です。

ただし、必要な金額は健康状態、家族構成、住まい、希望する介護方法などによって異なります。

公的医療保険の高額療養費制度や介護保険制度を理解したうえで、自己負担がどの程度になる可能性があるのかを確認することが望ましいでしょう。

必要以上に不安を抱えて多額の現預金を保有するのではなく、制度を理解して合理的に備えることが大切です。

70代では経験にお金を使う価値が高まる

70代からのお金の使い方では、物を購入することよりも、経験にお金を使うことが重要になる場合があります。

例えば、高額な自動車や家具を購入しても、生活の満足度が長期間高まり続けるとは限りません。

一方、旅行や趣味、家族との交流などの経験は、思い出として長く残る可能性があります。

例えば、夫婦で国内旅行を楽しむことは、日常生活とは異なる経験を共有する機会になります。

また、子どもや孫と旅行することで、家族の思い出を増やすこともできます。

友人と食事をしたり、趣味の活動に参加したりすることも、人間関係を維持するうえで意味があります。

ただし、経験への支出が必ずしも高額である必要はありません。

近所の美術館へ行くことや、地域の文化講座に参加することでも、新しい刺激を得られます。

重要なのは、金額の多さではなく、自分にとって価値のある経験を選ぶことです。

70代では、金融資産を減らさないことだけにこだわらず、人生の満足度を高める支出を意識することが大切になります。

健康への支出は将来の生活を支える投資になる

老後のお金の使い方で、特に優先したいのが健康維持への支出です。

例えば、運動習慣を維持するためにスポーツクラブへ通うことが考えられます。

また、栄養バランスのよい食事を心がけることや、必要な健康診断を受けることも重要です。

健康状態が良好であれば、仕事や旅行、趣味などを長く続けられる可能性があります。

一方、健康を損なえば、活動範囲が狭まり、医療や介護の支援が必要になることがあります。

ただし、高額な健康食品や民間サービスに多額のお金を使えば健康になれるというわけではありません。

科学的な根拠が十分でない商品やサービスには注意が必要です。

基本となるのは、適切な食事、運動、睡眠、禁煙、節度ある生活習慣などです。

また、持病がある場合には、医師などの専門家と相談しながら健康管理を行う必要があります。

健康維持への支出は、単に医療費を減らすためのものではありません。

自分の意思で行動できる期間をできるだけ長く保つための支出と考えることができます。

70代まで働く人はお金を使う余裕を持ちやすい

70代まで働き続けることは、老後資金の使い方にも影響します。

例えば、70歳時点で金融資産が3,000万円あり、公的年金だけでは年間120万円の生活費が不足する人を考えます。

完全退職していれば、毎年120万円を金融資産から取り崩す必要があります。

一方、仕事によって年間120万円の手取り収入を確保できれば、基本的な生活費の不足額を補うことができます。

この場合、金融資産を取り崩さずに生活できる可能性があります。

さらに、仕事による収入が年間180万円あれば、生活費の不足額120万円を補ったうえで、年間60万円を旅行や趣味などに使うことも考えられます。

もちろん、実際には税金や社会保険料、事業経費などを考慮する必要があります。

また、70代の就労では健康状態や仕事の継続性にも注意が必要です。

しかし、一定の収入を得られることは、老後資金を使う際の心理的な安心感につながります。

金融資産を取り崩すことに抵抗がある人でも、仕事による収入の一部であれば、趣味や旅行に使いやすいかもしれません。

70代まで働くことには、資産寿命を延ばすだけでなく、人生を楽しむための支出を確保できるというメリットもあります。

子どもに財産を残すことと自分の人生を楽しむことの両立

老後資金を考える際には、相続についても検討する必要があります。

子どもや孫にできるだけ多くの財産を残したいと考える人もいるでしょう。

一方、自分たちが築いてきた資産を、老後の生活の充実に使いたいと考える人もいます。

どちらが正しいという問題ではありません。

重要なのは、本人と家族の希望を整理することです。

例えば、70歳時点で金融資産が5,000万円ある場合を考えます。

そのうち3,000万円を将来の生活費や医療費、介護費に備える資金として確保し、残り2,000万円を旅行や趣味、家族との交流、贈与などに活用するという考え方があります。

ただし、この金額配分は一例にすぎません。

必要な生活資金は、年金収入や健康状態、住まい、家族構成などによって大きく異なります。

また、生前贈与を行う場合には、贈与税や相続税の制度を確認する必要があります。

特に、相続開始前の一定期間に行われた贈与については、相続税の計算上、加算対象となる場合があります。

そのため、節税だけを目的として安易に財産を移転することは避けるべきです。

老後資金の使い方では、相続財産を最大化することだけでなく、本人が納得できる人生を送ることも重要になります。

70代から90代までお金の使い方を変えていく

老後資金の使い方は、70代、80代、90代で変化する可能性があります。

70代前半では、健康状態が良好であれば、旅行や趣味、社会活動などに積極的にお金を使うことが考えられます。

また、仕事を続けながら収入を確保し、金融資産の取り崩しを抑えることも可能です。

80代になると、健康状態や生活環境によって、支出の内容が変わる場合があります。

遠方への旅行が減る一方、日常生活の利便性を高めるための支出が増えることもあるでしょう。

例えば、家事代行サービスや移動支援サービスなどを利用することが考えられます。

90代では、医療や介護、生活支援に関する支出の重要性がさらに高まる可能性があります。

ただし、年齢だけで一律に支出を決めることは適切ではありません。

90代でも活動的に生活している人がいる一方、70代から介護が必要になる人もいます。

そのため、年齢ごとに厳密な予算を固定するのではなく、健康状態や生活環境の変化に応じて柔軟に見直すことが重要です。

老後資金の管理では、毎年の資産残高だけでなく、今後の生活に必要な資金を定期的に確認する必要があります。

資産寿命を延ばすためには定期的な見直しが必要

70代から金融資産を取り崩す場合には、一度計画を立てたら終わりというわけではありません。

物価や金融市場、健康状態、家族構成などは変化するからです。

例えば、株式や投資信託を保有している場合には、市場の下落によって資産残高が減少する可能性があります。

そのような状況で従来と同じ金額を取り崩し続けると、資産寿命が短くなる場合があります。

一方、運用が順調で資産が増加した場合には、旅行や趣味などに使える金額を増やす余地が生まれるかもしれません。

また、医療や介護に必要な支出が増えた場合には、生活費や娯楽費の配分を見直す必要があります。

そのため、少なくとも年に1回程度は、金融資産の残高、年金収入、年間生活費、今後の大きな支出予定などを確認することが望ましいでしょう。

特に、70代から80代へ移行する時期には、住まいや介護について具体的に検討する必要が生じる場合があります。

金融資産をどの程度取り崩しても問題がないのかを定期的に確認することで、必要以上に不安を抱えずにお金を使えるようになります。

結論

人生100年時代において、老後資金を準備することは重要です。

しかし、金融資産を増やすことだけを目的にしてしまうと、せっかく蓄積したお金を十分に活用できない可能性があります。

特に70代は、健康状態が良好であれば、旅行や趣味、友人との交流など、さまざまな経験を楽しめる時期です。

将来への不安から支出を抑えすぎれば、人生の満足度を高める機会を逃してしまうかもしれません。

一方、70代でお金を使いすぎれば、80代や90代の生活資金が不足する可能性があります。

そのため、重要なのは資産寿命を確保しながら、適切な時期にお金を使うことです。

例えば、70歳時点で金融資産が3,000万円あり、年間120万円を取り崩す場合には、単純計算で25年間持続します。

しかし、物価上昇や医療費、介護費などによって、実際の資産寿命は変化します。

そのため、生活費、医療費、介護費などに必要な資金を確保したうえで、旅行や趣味などに使える金額を考える必要があります。

また、70代まで働き続けることができれば、金融資産の取り崩しを抑えながら、人生を楽しむための収入を確保できる可能性があります。

仕事を通じて社会とのつながりを維持し、収入の一部を趣味や交流に使うことは、経済面と精神面の両方で意味があります。

さらに、老後資金の使い方は、70代、80代、90代で柔軟に変えていくことが重要です。

健康なうちに経験したいことには積極的にお金を使い、年齢を重ねた後は生活の安全性や快適性を高めるための支出を重視する。

このような考え方が、人生100年時代の資産管理では求められます。

老後資金の目的は、亡くなるときに最も多くの金融資産を残すことではありません。

自分自身と家族が安心して生活し、人生の最後まで納得できる時間を過ごすことです。

お金は、貯めることによって安心をもたらします。

しかし、適切に使うことによって、人生を豊かにする力を発揮します。

70代からの資産管理では、いくら残すかという視点だけでなく、いつ、何のために使うかという視点が欠かせません。

老後資金を貯める力と使う力の両方を身につけることこそ、人生100年時代にふさわしい資産形成の完成形ではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年10月11日付 「70代こそ働くのをやめるな 作家・林真理子氏『卒婚も選択肢に』」

内閣府 令和6年度高齢者の経済生活に関する調査

総務省統計局 家計調査報告

厚生労働省 公的年金制度の概要

厚生労働省 高額療養費制度の概要

厚生労働省 介護保険制度の概要

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