不動産小口化商品の相続税や贈与税の評価方法が、2027年1月から見直される方向です。
そうなると当然出てくるのが、「2026年中に購入しておけば間に合うのではないか」という考えです。
実際、制度改正を前に不動産小口化商品の駆け込み購入や贈与が起きているとされています。
しかし、相続税や贈与税では、制度改正前に取引を終えれば必ず従来の評価方法が認められるとは限りません。
特に節税効果だけを目的として、相続や贈与の直前に資産を大きく組み替える場合には注意が必要です。
2027年1月から評価方法が変わる
政府と与党は2026年度の税制改正大綱で、不動産小口化商品の相続税や贈与税の評価方法を見直す方針を示しました。
これまで小口化商品は、土地について路線価などを利用する不動産の評価方法によって評価されてきました。
そのため、商品の実際の販売価格と税務上の評価額との間に大きな差が生じるケースがありました。
国税庁が示した事例では、3,000万円で購入した商品が贈与税では484万円と評価されています。
こうした大きな評価差を利用した節税を抑えるため、2027年1月から市場価格をより反映する評価方法へ変更する方向です。
それなら2026年中に買えばよいのか
税制が変わるときには、改正前の制度を利用しようとする駆け込み需要が発生します。
不動産小口化商品についても同様です。
2027年から節税効果が縮小するのであれば、2026年中に購入し、贈与まで終わらせようと考えるのは自然でしょう。
しかし、ここで注意したいのは「改正前だから安全」という考え方です。
税務では、単純に取引を行った日だけで判断できない場合があります。
財産評価の原則的な方法を利用していたとしても、その評価結果が実際の経済価値から著しく乖離している場合には問題となる可能性があります。
国税庁が警戒する駆け込み節税
今回の記事でも、国税庁が駆け込み購入や贈与に対して警戒を強めていることが指摘されています。
特に問題になりやすいのは、相続や贈与の直前に多額の現金を不動産小口化商品へ移し、その直後に相続や贈与が発生するようなケースです。
例えば3,000万円の現金を持っている人が小口化商品を購入します。
現金のままなら3,000万円として評価されます。
ところが商品へ変えた直後に贈与し、その評価額が数百万円まで下がれば、短期間の資産組み替えだけで課税対象となる財産が大幅に減ることになります。
取引そのものに経済的な目的があるのか、それとも税負担を減らすことが主目的なのか。
こうした実態が重要になる可能性があります。
財産評価基本通達だけを見ればよいわけではない
相続税や贈与税の財産評価では、国税庁の財産評価基本通達が重要な基準となります。
通常は、この通達に定められた方法に従って財産を評価します。
しかし、通達による評価を機械的に適用することが著しく不適当と認められる場合には、別の評価が問題となることがあります。
いわゆる総則6項です。
不動産を利用した節税を考えるうえでは、この存在を無視できません。
形式的に評価通達に従っているから絶対に大丈夫というわけではないのです。
最高裁判決が示した重要な考え方
不動産を利用した相続税対策を考えるうえで、大きな転換点となったのが2022年の最高裁判決です。
この事案では、相続開始前に購入された不動産について、納税者側が財産評価基本通達に基づいて評価しました。
しかし、その評価額と実際の取引価額などとの間には大きな差がありました。
課税当局は通常の通達評価ではなく、鑑定評価額を基礎として課税しました。
最高裁は、この課税処分を認めました。
この判決によって、不動産を使った相続対策では「通達どおりに計算したから問題ない」と単純には考えられないことが改めて認識されました。
重要なのは取引全体を見ること
駆け込み購入を考える場合、単に購入日だけを見るのでは不十分です。
購入した時期。
贈与した時期。
相続開始までの期間。
購入資金をどのように準備したのか。
商品を購入した経済的な理由は何か。
購入後にどの程度保有する予定だったのか。
こうした事情を総合的に考える必要があります。
特に、購入から贈与までの期間が極端に短い場合には、なぜその商品を購入したのかという説明が重要になります。
節税目的があるだけで否認されるわけではない
ここは誤解しないようにしたいところです。
税負担を考えて資産構成を変更すること自体が、直ちに問題になるわけではありません。
相続税を考えて生命保険に加入する。
生前贈与を利用する。
不動産を購入する。
こうした相続対策は一般的に行われています。
問題となるのは、節税目的があるという一点だけではありません。
取引の内容や時期、評価額と実際の価値との乖離などを含め、通常の評価方法をそのまま適用することが適切なのかという問題です。
したがって「節税目的なら否認される」「改正前なら必ず認められる」という両極端な理解は避ける必要があります。
駆け込み購入には投資リスクもある
税務リスクだけではありません。
駆け込みで商品を購入すると、投資判断そのものが甘くなる危険があります。
「今年中に購入しなければ節税できない」と考えると、商品を十分に比較する時間がなくなります。
その結果、本来なら購入しなかった不動産を取得してしまう可能性があります。
利回りが低い。
空室リスクが高い。
管理費が高い。
将来の修繕負担が大きい。
売却しにくい。
こうした問題があっても、節税額ばかりに目が向けば見落としてしまいます。
税制改正という期限が、冷静な投資判断を難しくすることには注意が必要です。
節税額より資産価値を優先する
相続対策では、節税額だけでなく最終的に家族に残る財産を考えることが重要です。
例えば節税によって300万円の税負担を減らせても、購入した不動産小口化商品の価値が500万円下落すれば、家族全体では200万円のマイナスです。
さらに、必要なときに換金できなければ納税資金に困る可能性もあります。
相続税は原則として現金で納付します。
不動産を増やしすぎた結果、財産はあるのに納税する現金がないという状態は避けなければなりません。
相続対策では節税、収益性、換金性、分割のしやすさを一体として考える必要があります。
2026年中という期限に振り回されない
税制改正前には「今しかできない」という言葉が販売現場で強い力を持ちます。
しかし、相続対策は数十年単位の資産承継を考えるものです。
数カ月の期限だけを理由として数千万円の資産を動かすことには慎重であるべきでしょう。
本当に必要な不動産なのか。
節税効果がなくても購入するのか。
相続人にとって保有しやすい資産なのか。
将来売却できるのか。
税務上の評価について十分な説明ができるのか。
これらを確認したうえで判断する必要があります。
結論
2027年1月から不動産小口化商品の評価方法が見直される方向となり、2026年中の駆け込み購入や贈与が注目されています。
しかし、「改正前に買えば従来の節税効果が必ず認められる」と考えるのは危険です。
不動産を利用した相続税対策では、評価額と実際の価値との大きな乖離について課税当局が厳しく見る流れがすでに強まっています。
さらに、駆け込み購入には税務リスクだけでなく、焦って投資判断を誤るリスクもあります。
相続対策で大切なのは、2026年中に間に合わせることではありません。
その資産を保有する合理的な理由があり、税制が変わっても家族に残す価値があるのかを考えることです。
「今なら節税できる」よりも「税制が変わっても持ち続けたい」。
不動産小口化商品を選ぶ際には、この視点がこれまで以上に重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年10月8日朝刊 相続節税の不動産小口化、ルール改正で需要消失 FPGなど戦略転換