日本では人口減少が進んでいます。
人口が減れば住宅を必要とする人も減り、住宅価格は全体として下がっていく。そう考えるのは自然です。
しかし、実際の住宅市場はそれほど単純ではありません。
人口が減るほど、人が集まる場所と離れる場所の差が大きくなる可能性があります。
そのなかで注目されるのが駅に近いマンションです。
駅近という条件は、単なる通勤の便利さだけではなく、人口減少時代の住宅需要を考える重要な要素になっています。
人口減少と住宅価格は別に考える
日本全体の人口が減少しているからといって、すべての地域の人口が同じ割合で減るわけではありません。
進学や就職を機に若い世代が都市部へ移ることがあります。
企業や大学、医療機関、商業施設などが集まる地域には、一定の人口が集まり続ける可能性があります。
同じ都市のなかでも差が生まれます。
駅周辺ではマンション建設や再開発が進む一方、駅から離れた住宅地では高齢化や空き家の増加が進むことがあります。
人口減少社会では「住宅が余る」という現象と「人気地域では住宅が不足する」という現象が同時に起こり得るのです。
駅近は多くの世代に需要がある
駅近マンションの強みの1つは、需要を持つ人の範囲が広いことです。
会社員にとっては通勤に便利です。
学生にとっては通学しやすくなります。
共働き世帯では移動時間を短縮できます。
子育て世帯にとっても、駅周辺に保育施設や商業施設などが集まっていれば生活しやすくなります。
さらに高齢者にもメリットがあります。
年齢を重ねると、自動車を運転しなくなる可能性があります。
駅やバス停、スーパー、病院などが徒歩圏内にあれば、自動車に頼らず生活しやすくなります。
若い世代だけではなく高齢者にも需要があることは、長期的な住宅価値を考えるうえで重要です。
時間そのものに価値がある
駅近住宅が支持される背景には、時間に対する価値観の変化もあります。
例えば駅まで徒歩20分の住宅と徒歩5分の住宅では、片道15分の差があります。
往復すれば30分です。
年間200日通勤するとすれば、単純計算で年間100時間の差になります。
共働き世帯では夫婦それぞれに移動時間が発生します。
子育てをしながら働く家庭にとって、毎日の数十分は小さな差ではありません。
住宅価格が多少高くても通勤や移動時間を短縮したいという需要があれば、駅近住宅の価格を支える要因になります。
駅近という条件は、単に距離の問題ではなく「時間を買う」という意味も持っているのです。
駅前への機能集約が進む
人口減少時代には、都市機能を一定の地域へ集める動きも重要になります。
人口が広い地域に分散していると、道路、水道、公共交通などのインフラを維持する負担が大きくなります。
そこで住宅、商業施設、医療、行政サービスなどを一定の地域に集める考え方があります。
駅周辺はその中心になりやすい場所です。
駅前再開発によってマンション、商業施設、病院、公共施設などが一体的に整備されるケースもあります。
こうした地域では、住宅そのものだけではなく周辺の生活利便性が高まります。
その結果、さらに人が集まるという循環が生まれる可能性があります。
すべての駅近が同じではない
ただし、「駅近なら必ず資産価値が高い」と考えるのは危険です。
駅そのものの利便性には大きな違いがあります。
主要駅まで短時間で移動できる駅もあれば、電車の本数が少ない駅もあります。
複数路線を利用できる駅もあります。
快速や急行が停車するかどうかも重要です。
駅周辺にスーパー、病院、飲食店などがあるかによって生活利便性も変わります。
駅徒歩5分という数字だけでは住宅需要を判断できません。
「どの駅に近いのか」が重要なのです。
徒歩分数にも実際の違いがある
不動産広告では駅徒歩何分という表示が使われます。
しかし同じ徒歩10分でも実際の暮らしやすさは異なります。
急な坂道がある。
大きな道路を横断する必要がある。
踏切がある。
夜間の人通りが少ない。
こうした条件によって体感的な距離は変わります。
反対に、駅から自宅まで商店街や屋根付きの通路が続いていれば、多少距離があっても便利に感じる場合があります。
半投半住の視点では、広告上の徒歩分数だけではなく、実際に駅から歩いて確認することが重要でしょう。
テレワークでも駅近需要はなくならない
テレワークが広がれば、駅近住宅の価値は低下するという見方もありました。
毎日会社へ通勤する必要がなければ、駅から離れた広い住宅を選びやすくなるからです。
確かに働き方の変化によって住宅選びの幅は広がりました。
しかし駅の役割は通勤だけではありません。
買い物、外食、医療、教育、娯楽など、さまざまな生活機能へのアクセス拠点でもあります。
さらに勤務形態が将来変わる可能性もあります。
現在はテレワーク中心でも、転職や会社の方針変更によって出勤日数が増えることがあります。
そのため交通利便性そのものの価値がなくなるわけではありません。
高齢化が駅近需要を支える可能性
人口減少と同時に進むのが高齢化です。
高齢になると住宅に求める条件も変化します。
広い庭より管理しやすさを重視する。
自動車を運転しなくても生活できる場所を選ぶ。
病院やスーパーへ歩いて行けることを重視する。
こうした需要が増えれば、交通や生活機能が集まる駅周辺のマンションが選択肢になります。
若いころは郊外の戸建てで暮らし、子どもの独立後に駅近マンションへ住み替えるという住宅すごろくも考えられます。
駅近住宅の需要を支えるのは通勤世代だけではないのです。
駅近にも価格という問題がある
もちろん駅近マンションには弱点があります。
最大の問題は価格でしょう。
需要が強ければ土地価格もマンション価格も高くなります。
資産価値が維持されやすいとしても、購入時の価格が極端に高ければ投資として有利とは限りません。
住宅ローンの借入額が大きくなれば、金利上昇の影響も大きくなります。
また駅前では騒音や人通りの多さなどを負担に感じる人もいます。
駅近という条件だけで高額な住宅を購入するのではなく、価格と住宅価値のバランスを見る必要があります。
人口減少時代は住宅の選別が進む
人口が増えている時代には、新しい住宅を建てれば一定の需要を期待しやすい環境がありました。
人口減少時代には状況が変わります。
住宅の数に対して住む人が少なくなれば、すべての住宅が同じように選ばれるわけではありません。
便利な住宅に需要が集まり、不便な住宅では買い手を見つけるのが難しくなる可能性があります。
つまり住宅市場全体が一方向に動くのではなく、住宅ごとの差が大きくなっていくということです。
駅近は、その選別のなかで需要を維持しやすい条件の1つと考えられます。
半投半住では出口を考える
自分が一生住み続けるのであれば、自分が気に入った場所を選ぶことが最も重要です。
しかし半投半住では、将来の売却も考えます。
その場合、自分だけではなく次の買い手がどのような住宅を求めるかを考える必要があります。
駅近という条件が強いのは、多くの人にとって理解しやすい価値だからです。
通勤しやすい。
買い物しやすい。
自動車がなくても生活しやすい。
将来売却するときに、幅広い世代へ説明しやすい住宅の特徴でもあります。
結論
人口減少が進めば、住宅需要そのものは大きな変化を迎えます。
しかし「人口が減るから住宅価格が一律に下がる」と考えるのは単純すぎるでしょう。
むしろ人口が減るほど、人が集まる場所と離れる場所の差が広がる可能性があります。
そのなかで駅近マンションは、交通、買い物、医療などへのアクセスの良さから、若い世代から高齢者まで幅広い需要を持ちやすい住宅です。
ただし、駅に近ければ何でもよいわけではありません。
駅そのものの利便性、周辺環境、価格、マンションの管理状態などを総合的に見る必要があります。
半投半住で重要なのは、値上がりする場所を予想することではありません。
10年後、20年後にも「ここに住みたい」と思う人がいる場所を考えることです。
人口減少時代の住宅選びでは、住宅の数が減るのではなく、選ばれる住宅がより明確になっていくのかもしれません。
参考
日本経済新聞 2026年10月2日朝刊 令和の住宅すごろく「半投半住」で選択多様に