養育費の未払いをなくせるか 共同親権と法定養育費を支えるODR

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離婚後の子供の生活を支える養育費が、十分に支払われていないという問題があります。

養育費は、子供が健やかに成長するために必要な費用であり、父母の離婚によって、その扶養責任がなくなるわけではありません。

しかし、日本では養育費を受け取れていないひとり親家庭が多く、子供の貧困につながる重要な社会問題となっています。

こうした状況を改善するため、2026年4月に改正民法が施行されました。

離婚後も父母双方が親権者となる共同親権を選択できるようになったほか、離婚時に養育費の取り決めがない場合でも、一定の条件のもとで請求できる法定養育費制度が導入されました。

さらに、スマートフォンを活用したオンライン紛争解決手続きであるODRも、養育費問題の解決手段として注目されています。

今回は、共同親権と法定養育費の仕組みを整理し、ODRが養育費の未払い問題をどこまで改善できるのかを考えます。

養育費を受け取れない家庭が多い現実

養育費は、離婚後に子供を監護する親が、もう一方の親から受け取る子供の生活費です。

食費や衣服代、住居費、教育費、医療費など、子供の成長に必要な費用を支える役割があります。

養育費の支払いは、元配偶者への経済的な援助ではありません。

子供に対する父母の扶養義務に基づくものです。

しかし、実際には養育費の支払いが継続されないケースが少なくありません。

厚生労働省の2021年度全国ひとり親世帯等調査では、母子世帯で養育費を現在受け取っている割合は28.1%でした。

裏返せば、約7割の母子世帯が養育費を受け取っていないことになります。

ただし、この数字には、養育費の取り決めをしていない家庭なども含まれます。

養育費を受け取れない理由はさまざまです。

離婚時に十分な話し合いができなかった場合もあれば、取り決めをしていても支払いが途絶える場合もあります。

相手方との連絡を避けたいという事情や、家庭裁判所での手続きに心理的な負担を感じる人もいるでしょう。

制度が存在していても、実際に利用できなければ、子供の生活を守ることはできません。

2026年4月から共同親権が選択可能に

2026年4月施行の改正民法では、離婚後の親権制度が大きく変わりました。

従来、父母が離婚する場合には、父母の一方を親権者とする必要がありました。

改正後は、離婚後も父母双方が親権者となる共同親権を選択できるようになりました。

もちろん、すべての離婚で共同親権になるわけではありません。

父母の一方のみを親権者とする単独親権も引き続き認められています。

父母の協議によって決められない場合には、家庭裁判所が子供の利益を最優先に判断します。

家庭内暴力や虐待などの事情があり、共同親権が子供の利益を害すると認められる場合には、単独親権とする必要があります。

重要なのは、共同親権の導入が、養育費の支払い義務を新たに発生させるものではないことです。

父母は親権の有無にかかわらず、子供に対する扶養義務を負います。

共同親権は、離婚後の父母による子供の養育への関与のあり方を見直す制度です。

一方、養育費の支払いを確保する仕組みは、別途整備する必要があります。

法定養育費とは何か

今回の民法改正で特に注目されるのが、法定養育費制度です。

従来、養育費の金額について父母の取り決めがない場合、家庭裁判所での調停や審判などを通じて金額を定める必要がありました。

しかし、離婚直後は生活環境が大きく変わる時期です。

養育費の協議がまとまらないまま離婚し、子供を監護する親が十分な生活費を確保できないこともあります。

こうした問題に対応するため、2026年4月から法定養育費制度が導入されました。

離婚時に養育費の取り決めをしていない場合でも、一定の要件のもとで、子供1人につき月額2万円の法定養育費を請求できます。

例えば、対象となる子供が2人いる場合には、月額4万円が基本となります。

ただし、法定養育費は、すべての家庭における適正な養育費を月額2万円と定める制度ではありません。

あくまで、父母が養育費について取り決めるまでの間などに、子供の生活を支えるための暫定的な仕組みです。

また、一定の場合には支払義務の全部または一部について免除などが認められる余地もあります。

離婚後の生活を安定させるためには、父母双方の収入や子供の年齢、生活状況などを踏まえ、適切な養育費を取り決めることが重要です。

月額2万円で十分なのか

法定養育費の月額2万円という金額については、慎重に考える必要があります。

例えば、子供の食費、衣服代、教育費、医療費、通信費などを合計すると、月額2万円を上回ることは珍しくありません。

さらに、住居費や習い事の費用、進学に伴う支出なども考慮する必要があります。

そのため、法定養育費だけで子供の生活費を十分に賄えるとは限りません。

実際の養育費を決める際には、家庭裁判所が公表している養育費算定表などが参考になります。

算定表では、父母それぞれの収入、子供の人数や年齢などを踏まえ、標準的な養育費の目安を確認できます。

ただし、算定表は個々の事情をすべて反映するものではありません。

私立学校の学費や特別な医療費など、個別の事情によって調整が必要になる場合もあります。

法定養育費は、養育費を受け取れない期間を減らすための最低限の仕組みとして位置付けることが適切でしょう。

重要なのは、月額2万円という数字だけに注目するのではなく、子供の生活に必要な費用を父母がどのように分担するかという視点です。

ODRが養育費問題に果たす役割

養育費問題では、金額の取り決めだけでなく、父母間のコミュニケーションも大きな課題になります。

離婚後の父母の関係が悪化している場合、直接連絡を取ること自体が心理的な負担になることがあります。

また、仕事や育児で忙しいひとり親にとって、家庭裁判所に出向く時間を確保することも簡単ではありません。

そこで期待されるのが、ODRの活用です。

ODRでは、スマートフォンなどを通じて、養育費の協議や調停を進めることができます。

例えば、子供の生活費に関する資料をオンラインで共有し、父母それぞれの収入や負担能力を確認しながら話し合う方法が考えられます。

中立的な調停人が関与すれば、当事者同士の感情的な対立を和らげられる可能性もあります。

ただし、家庭内暴力や強い支配関係がある場合には、オンラインであっても直接交渉が適切とは限りません。

相手方との接触が危険につながる場合には、安全確保を優先し、弁護士や公的な相談機関、家庭裁判所などを利用することが重要です。

ODRは、すべての家事紛争に適した万能の仕組みではありません。

LINEを活用した養育費支援

養育費分野でODRを活用する事例として、チャイルドサポートの取り組みがあります。

同社は2025年4月から、LINEを利用して離婚の合意形成や和解合意書の作成などを支援するサービスを提供しています。

申し立て手数料は6万9,800円からとされ、必要に応じて調停人が参加し、オンライン会議システムを利用した話し合いもできます。

2026年10月からは、法定養育費の請求に特化したODRサービスも開始しました。

このようなサービスの特徴は、日常的に利用しているスマートフォンから手続きを始められることです。

従来の法律相談では、相談先を探し、予約を取り、必要な書類を準備して訪問する必要がありました。

オンライン化によって、その一部の負担を軽減できる可能性があります。

ただし、利用料金が発生する以上、請求できる養育費の金額や相手方の支払能力などを踏まえ、費用対効果を確認する必要があります。

また、提供されるサービスの範囲や調停人の資格、合意書の法的効力なども事前に確認したいところです。

合意書を作るだけでは未払いは防げない

養育費の問題で特に重要なのは、合意が成立した後の支払いをどう確保するかという点です。

例えば、父母が月額5万円の養育費を支払うことで合意したとします。

しかし、合意書を作成しただけでは、相手方が必ず支払うとは限りません。

支払いが止まった場合には、履行を求めるための手続きが必要になることがあります。

そこで検討したいのが、強制執行を見据えた法的な書面の整備です。

例えば、一定の要件を満たす強制執行認諾文言付きの公正証書を作成すれば、支払いが滞った際に、改めて訴訟を起こさず強制執行を申し立てられる場合があります。

また、家庭裁判所の調停調書なども、強制執行につながる重要な書面です。

さらに、2026年の民法改正では、養育費債権の履行確保を強化するための制度も整備されています。

一定の養育費債権について、先取特権による保護が認められる仕組みも重要な変更点です。

ただし、対象となる債権や金額、手続きには法令上の要件があります。

ODRによって話し合いが成立した場合でも、その合意の法的性質や強制執行の可否を確認する必要があります。

オンラインで合意することと、実際に養育費を回収できることは、区別して考えなければなりません。

養育費の未払いは社会全体の問題

養育費の不払いは、当事者だけの問題ではありません。

養育費を十分に受け取れない家庭では、子供の教育や生活に必要な支出を抑えざるを得ない場合があります。

また、経済的な負担が一方の親に集中すれば、就労や生活設計にも影響します。

チャイルドサポートの代表は、支払われていない養育費が年間6,000億円規模に達するとの試算を示しています。

これは同社代表による推計であり、確定した未払い債権総額を示す公的統計ではない点には注意が必要です。

それでも、養育費の不払いが大きな社会的損失につながっていることは見逃せません。

養育費が適切に支払われれば、ひとり親家庭の生活の安定や子供の教育機会の確保につながる可能性があります。

また、児童扶養手当などの公的支援との関係でも、家計収入の改善が給付額に影響する場合があります。

ただし、養育費を受け取れば公的支援が単純に不要になるわけではありません。

児童扶養手当では養育費の一定割合を所得に算入する仕組みがあり、世帯の状況に応じた総合的な支援が必要です。

養育費の確保は、子供の生活を守る政策と一体で考える必要があります。

自治体による支援の重要性

ODRを普及させるうえでは、自治体の役割も重要になります。

養育費の請求や公正証書の作成には、一定の費用が発生します。

経済的に余裕のないひとり親家庭では、その費用自体が利用の障壁になる可能性があります。

チャイルドサポートは、沖縄県うるま市、大阪府守口市、埼玉県戸田市などの自治体と連携し、ODRや公正証書作成などの費用負担を軽減する取り組みを進めています。

自治体が費用を補助すれば、法律サービスを利用しにくかった家庭にも支援が届きやすくなります。

また、自治体の相談窓口とODRサービスを連携させれば、離婚前の相談から養育費の取り決め、合意書の作成まで、切れ目の少ない支援を実現できる可能性があります。

ただし、民間サービスへの費用補助だけで問題が解決するわけではありません。

利用者の安全確保、サービスの品質、個人情報の管理、費用の透明性などを確認することが必要です。

自治体には、利用者が安心して制度を活用できる環境を整える役割が期待されます。

結論

2026年4月の民法改正は、離婚後の子供の養育をめぐる制度を大きく変えました。

共同親権の選択が可能になり、法定養育費制度も導入されたことで、離婚後の父母の責任をより明確にする仕組みが整備されました。

しかし、制度ができただけで養育費の未払い問題が解消するわけではありません。

養育費の金額を適切に取り決め、その支払いを継続させるための実効性ある仕組みが必要です。

ODRは、離婚後の父母が話し合いを進める際の時間的、地理的、心理的な負担を軽減する可能性を持っています。

一方で、当事者間の力関係や安全性に配慮し、合意の公正性と法的な実効性を確保しなければなりません。

今後は、ODRと公正証書、家庭裁判所の手続き、自治体の支援制度などを適切に組み合わせることが重要になるでしょう。

養育費は、父母の離婚後も続く子供への責任を具体的な形にするものです。

スマートフォンによる紛争解決が普及し、これまで請求を諦めていた人にも支援が届くようになれば、子供の生活を守るための大きな前進になります。

大切なのは、オンライン化そのものではなく、子供が必要な養育費を実際に受け取れる社会を実現することです。

参考

日本経済新聞 2026年10月 スマホで民事トラブル解決 代金未払いや養育費の泣き寝入り改善期待

法務省 2024年5月 民法等の一部を改正する法律の概要

法務省 2026年 離婚後の子の養育に関する民法等改正の説明資料

厚生労働省 2022年12月 令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告

裁判所 養育費算定表

法務省 2022年3月 ODRの推進に関する基本方針

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