飲食料品の消費税率を現在の8パーセントから1パーセントへ引き下げる制度の具体像が見えてきました。
政府がまとめた大綱案によると、実施期間は2027年4月1日から2029年3月31日までの2年間です。
しかし、今回の制度は単純な消費税減税ではありません。
その後には消費税率を8パーセントへ戻し、中低所得の働く人を対象とした就業者負担軽減支援金を本格的に導入する構想があります。
つまり今回の政策は、
消費税率の一時的な引下げ
就業者負担軽減支援金
年収の壁への対応
税と社会保険料を合わせた負担の見直し
という複数の政策を組み合わせたものとして理解する必要があります。
飲食料品の税率は8パーセントから1パーセントへ
現在、軽減税率の対象となっている飲食料品には8パーセントの消費税率が適用されています。
大綱案では、この税率を2027年4月1日から1パーセントへ引き下げます。
内訳は国税が0.78パーセント、地方消費税相当分が0.22パーセントです。
期間は2029年3月31日までの2年間に限定されます。
注意したいのは、現在8パーセントの軽減税率が適用されているものがすべて1パーセントになるわけではないことです。
週2回以上発行される新聞の定期購読については現在の制度を維持し、今回の1パーセントへの引下げ対象にはなりません。
なぜゼロパーセントではなく1パーセントなのか
今回の制度では、飲食料品を非課税にするのではなく、課税取引のまま税率を1パーセントとする仕組みが採用されています。
この違いは事業者にとって重要です。
消費税では、売上げにかかる消費税から仕入れにかかった消費税を控除して納税額を計算する仕組みがあります。
飲食料品の売上税率だけが大幅に下がると、仕入れにかかった消費税額の方が大きくなり、本則課税では還付となる事業者が出てくる可能性があります。
そのため今回の制度では、税率を下げるだけではなく、課税方式や申告制度についても特例が必要になります。
事業者には複数の特例が用意される
飲食料品の税率を7ポイントも動かすため、実務への影響は小さくありません。
大綱案では、本則課税へ移行しやすくする特例や簡易課税制度の特例が設けられます。
簡易課税を選択してから通常必要となる継続適用期間についても特例が設けられ、一定の場合には本則課税へ移行できるようにします。
さらに簡易課税制度では、1パーセントの対象となる飲食料品の売上げについて、売上税額と同額を仕入控除税額とする特例が設けられる予定です。
税率引下げによって生じる消費税計算上のゆがみをできるだけ抑えるための措置といえます。
中間申告にも特例が必要になる
消費税の中間申告にも問題が生じます。
通常の中間申告では、前年の納付税額などを基準に税額を計算します。
ところが飲食料品の税率が8パーセントから1パーセントへ下がれば、実際の納付税額が大きく減る事業者が出てきます。
前年を基準にしたままでは、中間申告額が実態に比べて過大になる可能性があります。
そこで税率引下げ後の税率を前提として中間申告税額を計算できる特例が用意されます。
2029年に税率を1パーセントから8パーセントへ戻す際にも、反対方向の調整が必要になります。
値札を一斉に変更できない場合にも対応する
スーパーやコンビニなどにとって大きな問題になるのが値札の変更です。
消費税率が8パーセントから1パーセントになれば、原則として税込価格の表示も変更する必要があります。
しかし大量の商品を扱う店舗では、一晩ですべての値札を貼り替えることが難しい場合があります。
カタログや商品パッケージそのものに税込価格が印刷されているケースもあります。
そこで一定の条件のもとで、税率変更前の税込価格を一時的に表示できる総額表示義務の特例が設けられます。
ただし、単純に税抜価格だけを表示したり、税抜価格にプラス税とだけ表示したりする方法が自由に認められるわけではありません。
消費者が本来の税込価格と誤認しないための措置が必要になります。
定期購入や通信販売には経過措置がある
税率変更前に契約した取引についても問題が生じます。
例えば食品の定期購入では、2027年4月以降に商品が届く場合でも、それ以前に契約や支払いが終わっていることがあります。
通信販売でも同じです。
そこで一定の定期供給契約や通信販売については、2027年1月1日を一つの基準日として経過措置が設けられます。
税率変更の直前には、いつ契約したのか、いつ代金を受け取ったのか、いつ販売条件を提示したのかといった点が実務上重要になります。
農林漁業者や食品事業者にも支援する
税率引下げは消費者だけの問題ではありません。
農林漁業者や食品事業者、外食事業者にも影響します。
特に簡易課税事業者や免税事業者である農林漁業者では、売上げから回収できる消費税が減る一方、仕入れに含まれる消費税負担が残る可能性があります。
大綱案では、こうした農林漁業者について個別の売上高を踏まえた給付の仕組みを設ける方針です。
食品事業者や外食事業者についても、資金繰りや省力化などを支援します。
外食については店内飲食とテイクアウトの税率差による影響も考慮されます。
2029年から減税に代わる仕組みが本格化する
今回の政策を理解するうえで重要なのが、減税が2年間で終わるという点です。
2029年4月には飲食料品の消費税率を8パーセントへ戻すことが予定されています。
その一方で本格化するのが就業者負担軽減支援金です。
もともと議論されていた給付付き税額控除について、当面は税額控除を伴わない給付制度として設計するため、この名称が使われています。
単純に低所得者へ一定額を配る制度ではありません。
所得と税金、社会保険料、社会保障の現金給付を一体として捉え、実質的な負担を見る考え方が採用されています。
働くほど支援額が増える部分も設ける
支援金には所得下限額と所得上限額が設定されます。
一定の勤労所得があることを支給要件とし、所得が高くなれば最終的には支援金がなくなります。
一方、低所得の一定範囲では定額を支給し、その後は所得の増加に合わせて支援額を増やす仕組みが想定されています。
さらに一定の所得水準では支援額を横ばいにし、高所得になると徐々に減らしていきます。
働いて収入を増やしたことで急に支援を失い、かえって手取りが減る状況をできるだけ避ける設計です。
年収の壁にも特別な加算を設ける
さらに注目されるのが就業促進特例加算です。
社会保険に加入することで保険料負担が発生し、一時的に手取りが減る年収の壁に対応します。
年収の壁そのものが制度改革によって解消されるまでの時限措置として、一定の対象者には通常の支援金に上乗せして給付する仕組みです。
つまり支援金には、生活支援だけではなく、働く時間を増やしても手取りが急減しにくくするという目的もあります。
子どもの人数による加算もある
扶養する子どもがいる場合には、こども加算も設けられます。
2027年度と2028年度については16歳未満の扶養親族が対象です。
本格導入後は19歳未満の扶養親族へ対象を広げる予定です。
個人単位で支給する制度でありながら、扶養する子どもの人数も支援額に反映する仕組みになります。
支援金はいくらになるのか
ここが現時点で最も大きな未確定部分です。
所得下限額、所得上限額、支援基本額、こども加算額、所得が増えた場合の逓増率や逓減率など、制度の核心となる具体的な金額はまだ決まっていません。
2027年度と2028年度に支給する支援金については、制度全体の費用を飲食料品にかかる消費税1パーセント相当分の範囲に収める考え方が示されています。
したがって、大綱案が明らかになった段階では、年収がいくらなら何円受け取れるという具体的な試算まではできません。
財源もまだ具体化されていない
もう一つの大きな論点が財源です。
政府は、消費税率引下げと支援金に必要な財源について、特例公債に頼らない方針を示しています。
候補として挙げられているのは、補助金などの見直し、租税特別措置の適正化、税収以外の収入確保、その他の歳出歳入全般の見直しです。
ただし、どの補助金をいくら削減するのか、どの租税特別措置を見直すのかといった具体的な内容はまだ示されていません。
2029年度以降の支援金については恒久財源が必要になるため、この財源問題は制度を持続させるうえで重要な論点になります。
税制と社会保障を一体で考える制度へ
今回の大綱案で注目したいのは、飲食料品の消費税率が1パーセントになることだけではありません。
その先にある制度設計です。
政府は税金だけではなく、社会保険料と社会保障の現金給付まで合わせた純負担率という考え方を使おうとしています。
そのため今後は、確定申告書や源泉徴収票、住民税申告書、給与支払報告書などの様式も変更し、社会保険料や扶養児童、配偶者の所得などの情報を自治体が把握できる仕組みを整備する方針です。
税制と社会保障制度を別々に考えるのではなく、最終的に家計の手元にいくら残るのかを見る方向へ制度が動き始めているともいえます。
結論
飲食料品の消費税率は、2027年4月から2029年3月までの2年間、現在の8パーセントから1パーセントへ引き下げる方向です。
しかし、この制度を単なる2年間の消費税減税として見るだけでは全体像を捉えられません。
2029年4月には税率を8パーセントへ戻し、その後は就業者負担軽減支援金へ本格的につなげていく構想になっています。
さらに年収の壁への加算、子ども加算、所得に応じた支援額の増減なども組み込まれます。
一方で、支援金の具体的な金額や所得基準、そして最も重要な恒久財源については、まだ決まっていません。
今後を見るうえでは、消費税が何パーセントになるのかだけではなく、誰にいくら支援するのか、その財源を誰がどのように負担するのかまで追いかける必要があります。
参考
税のしるべ 2026年9月11日 令和8年9月14日号1面 飲食料品に係る消費税率引下げ等の大綱案が判明、具体的な財源は明示せず
飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱案 2026年9月8日時点