行政DXが進む中で、社会は急速に「ログイン前提」へ変わり始めています。
税金納付、給付金申請、健康保険、年金確認、住民票取得――。以前は窓口や郵送で行っていた行政手続が、現在はスマートフォンやパソコンを通じた電子申請へ移行しています。
この変化を支えているのが「認証」です。
つまり、
「あなたが本当に本人なのか」
をデジタル上で確認する仕組みです。
マイナンバーカード、パスワード、顔認証、SMS認証、生体認証――。現代社会では、あらゆるサービスが「ログイン」を入り口にしています。
しかし、その一方で新たな問題も生まれています。
それが、
「ログインできない人はどうなるのか」
という問題です。
今回は、行政DXの根幹にある「認証社会」の問題を考えます。
行政DXの本質は「認証の電子化」
多くの人は、行政DXを
- オンライン申請
- ペーパーレス化
- スマホ手続
として捉えています。
しかし、本質はそれだけではありません。
行政DXの核心は、
「本人確認をデジタル化すること」
にあります。
従来の行政では、
- 窓口へ行く
- 身分証を見せる
- 印鑑を押す
ことで本人確認をしていました。
しかしオンライン化では、それができません。
その代わりに必要となるのが、
- ID
- パスワード
- 電子証明書
- 生体認証
です。
つまり行政DXとは、
「紙行政」から「認証行政」への転換でもあります。
“ログインできない”は新しい社会的リスク
デジタル社会では、「ログインできない」ことが重大な問題になります。
例えば、
- パスワードを忘れた
- スマホを紛失した
- 機種変更に失敗した
- 二段階認証が使えない
- マイナカード暗証番号を忘れた
などです。
以前なら、
「窓口へ行けば何とかなる」
ことも多くありました。
しかし行政手続が完全オンライン化すると、「ログイン不能」がそのまま「行政アクセス不能」へつながる可能性があります。
これは非常に大きな変化です。
認証社会では「本人」であることが難しくなる
皮肉なことに、デジタル社会では「本人確認」が増えるほど、「本人であること」の証明が難しくなります。
例えば、
- ID
- パスワード
- SMS認証
- 顔認証
- ワンタイムパスワード
などが増えるほど、人々は管理負担を抱えます。
特に高齢者では、
- 暗証番号を覚えられない
- 認証画面が理解できない
- 偽サイトを見分けられない
といった問題が起きます。
つまり認証社会では、
「本人確認強化」
と
「本人アクセス困難化」
が同時進行する可能性があります。
マイナンバー社会で増える“認証疲れ”
現在、日本ではマイナンバーカードを軸に行政DXが進んでいます。
これは、
- 健康保険証
- 税務
- 年金
- 給付
- 行政手続
などを統合する基盤になっています。
一方で、実務では、
- 暗証番号ロック
- 読み取り不具合
- カード更新
- スマホ連携問題
なども頻繁に起きています。
つまり行政DXが進むほど、人々は「認証作業」そのものに時間を取られるようになります。
これは銀行や証券会社でも起きている現象です。
現在社会は、
「サービス利用社会」
というより、
「認証通過社会」
へ近づいているのかもしれません。
“ログイン弱者”は誰なのか
認証社会で不利になるのは、高齢者だけではありません。
例えば、
- スマホが苦手な人
- 障害のある人
- 外国人
- 低所得層
- 情報管理が苦手な人
なども影響を受けます。
さらに若年層でも、
- パスワード疲れ
- アカウント乱立
- セキュリティ管理疲労
が増えています。
つまり、
「ログインできない市民」
は特殊な存在ではなく、誰もがなり得る問題です。
「本人確認」は監視社会と隣り合わせ
認証強化には大きなメリットがあります。
- 不正防止
- なりすまし防止
- 給付適正化
- 行政効率化
などです。
しかし一方で、
- 行動履歴
- 利用履歴
- 所得情報
- 医療情報
などが、認証と紐づきやすくなります。
すると社会は、
「本人確認社会」
から、
「個人追跡社会」
へ近づく可能性があります。
これは世界中で議論されているテーマです。
“ログインできない”は新しい貧困になるのか
今後、行政・金融・医療・教育がデジタル化すると、
「ログインできる能力」
そのものが社会参加条件になる可能性があります。
つまり、
- スマホを持てない
- 認証操作できない
- ID管理できない
ことが、行政アクセス格差へ直結するかもしれません。
これは従来の「情報格差」とは少し異なります。
単に知識の問題ではなく、
「認証インフラへ接続できるか」
が重要になるためです。
将来は「認証代行」が必要になるのか
今後、高齢化がさらに進めば、
- 家族
- 行政職員
- AI支援
- 民間サポート
などによる「認証支援」が重要になる可能性があります。
つまり、
「ログインできること」
が、介護や生活支援の一部になるかもしれません。
これは非常に象徴的です。
かつては、
- 食事
- 移動
- 金融管理
が支援対象でした。
しかし今後は、
「認証支援」
そのものが社会インフラ化する可能性があります。
認証社会で重要なのは「排除しないこと」
行政DXそのものは避けられません。
人口減少社会では、電子化なしに行政維持は難しくなります。
しかし本当に重要なのは、
「どれだけ高度な認証を作るか」
ではなく、
「ログインできない人を排除しないこと」
です。
もし認証社会が、
- ログインできる人
- 接続できる人
- デジタル対応できる人
だけを前提に進めば、多くの人が取り残されます。
行政とは、本来「最も弱い人でも利用できる」ことが重要な仕組みです。
認証社会が本当に成熟するかどうかは、
「どれだけ安全か」
だけではなく、
「どれだけ誰でもアクセスできるか」
で決まるのかもしれません。
参考
・デジタル庁「マイナンバーカード」関連資料
・総務省「自治体DX推進計画」
・デジタル社会形成基本法 関連資料
・マイナポータル関連資料
・日本経済新聞 各種行政DX・認証社会関連記事