非上場株式の評価方法を理解するとき、重要な数字があります。
それが「1対3対1」と「1対1対1」です。
これは、類似業種比準方式で使われる配当、利益、純資産の3つの要素の比重を表しています。
平成12年の改正では利益を重視する「1対3対1」とされ、その後、平成29年には「1対1対1」へ変更されました。
数字だけを見ると小さな制度変更に感じるかもしれません。
しかし、実際には、どのような会社の株式評価が高くなりやすいのかを左右する重要な変更でした。
そして現在、非上場株式の評価体系そのものを見直す議論が進んでいます。
過去の改正を振り返ることは、今回の見直しを理解するうえでも重要です。
類似業種比準方式の3要素
まず確認しておきたいのが、類似業種比準方式の基本です。
非上場会社には、証券取引所で形成される市場価格がありません。
そこで、類似する業種の上場会社などを参考にしながら、非上場会社の株式価値を計算します。
その際に使われる代表的な要素が、配当、利益、純資産です。
配当は、株主への利益還元を表します。
利益は、会社の収益力を表します。
純資産は、会社に蓄積された財産を表します。
この3つを組み合わせることで、会社の価値を複数の角度から評価する仕組みになっています。
1対3対1とは何だったのか
平成12年の改正では、配当、利益、純資産の比重が1対3対1とされました。
3つの数字のうち、真ん中の利益だけが3になっています。
つまり、配当と純資産よりも利益を重く評価する仕組みです。
会社がどれだけ利益を生み出しているのかを、株式価値により強く反映させる考え方だったといえます。
例えば、純資産が同程度の2社があったとしても、一方の会社がより大きな利益を継続的に上げていれば、利益を重視する評価方法では、その会社の株式評価額が高くなる方向に働きます。
なぜ利益を重視したのか
会社の価値を考えるとき、現在保有している財産だけを見るのでは十分ではありません。
会社が将来どれだけ利益を生み出すのかも重要だからです。
工場や土地、現預金などを多く持っている会社でも、事業からほとんど利益を生み出せなければ、収益力という面では評価が難しくなります。
逆に、保有資産がそれほど大きくなくても、安定した利益を生み出している会社には企業としての価値があります。
こうした収益力を評価に反映するため、平成12年には利益の比重が高められました。
評価方法の見直しも税制改正の議論と関係してきた
ここで興味深いのが、評価方法の見直しが税制改正の議論と次第に結びついていったことです。
財産評価基本通達の変更は、法律そのものを改正するものではありません。
そのため、以前は評価方法の変更を政府や与党の税制改正大綱に必ずしも大きく記載していませんでした。
しかし、平成12年度改正では、評価方法の変更についてもきちんと大綱に記載すべきだという指摘がありました。
その結果、1対3対1への変更は税制改正大綱に記載されました。
当時は「備考」という扱いでしたが、評価方法の変更が税制改正の議論の中で明示的に扱われるようになった点は重要です。
評価方法が政治的な議論の対象になった理由
非上場株式の評価方法は、税務上の技術的な問題に見えます。
しかし、評価額が変われば相続税や贈与税の課税価格も変わります。
さらに、中小企業オーナーが後継者へ自社株を移す場合、その評価額は税負担を左右します。
つまり、評価方法を変更することは、単なる計算技術の変更ではありません。
企業オーナーや後継者の税負担に影響する制度でもあります。
そのため、評価方法の変更についても、政治的な議論の中で扱われるようになりました。
平成29年に1対1対1へ
平成12年の改正から17年後、平成29年には再び評価方法が変更されました。
配当、利益、純資産の比重が1対1対1となったのです。
利益だけを3倍に重視するのではなく、3つの要素を同じ比重で評価する方法に戻されました。
この変更によって、利益の大きい会社だけが評価上大きく影響を受けるという構造を緩和する方向になりました。
会社の収益力だけでなく、配当や純資産も同じように見るという考え方です。
1対3対1と1対1対1では何が違うのか
両者の違いを簡単に整理すると、利益をどの程度重視するかです。
1対3対1では、利益が配当や純資産の3倍の比重を持ちます。
1対1対1では、3つが均等です。
そのため、利益が大きい会社では、1対3対1の方が利益の影響を強く受けます。
一方、純資産が大きくても利益がそれほど大きくない会社では、利益の比重を下げることで評価額への影響が変わってきます。
つまり、評価方法の変更は、企業の財務内容によって影響が異なります。
すべての中小企業が同じように評価額が上がる、あるいは下がるという話ではありません。
評価方式を変えると会社ごとの影響も変わる
ここが非上場株式評価の難しいところです。
例えば、A社は毎年大きな利益を出している一方、内部留保はそれほど大きくないとします。
B社は利益が比較的小さいものの、長年の経営によって多額の純資産を蓄積しているとします。
この2社に同じ評価方法を適用しても、どの要素を重視するかによって結果は変わります。
利益を重視する方式ならA社への影響が大きくなりやすくなります。
純資産を重視する方式ならB社への影響が大きくなりやすくなります。
だからこそ、評価方式の変更は単なる計算式の変更ではなく、企業ごとの税負担を変える可能性があるのです。
評価方法には政策的な意味がある
株式評価は、客観的に会社の価値を測るための仕組みです。
しかし、どの価値をどの程度重視するかという点には、制度設計上の考え方が入ります。
利益を重視すれば、収益力の高い会社をより強く評価することになります。
純資産を重視すれば、会社に蓄積された財産をより強く評価することになります。
配当を重視すれば、株主への利益還元をより強く評価することになります。
つまり、評価方式の中には、企業価値をどう捉えるのかという考え方が含まれています。
今回の見直しは過去の変更より大きい可能性がある
平成12年と平成29年の改正では、3つの要素の比重が変更されました。
一方、今回議論されているのは、評価体系そのものを見直す可能性がある点が特徴です。
特に注目されているのが残余利益方式です。
これまでの類似業種比準方式とは異なる考え方を取り入れ、会社の収益力をより直接的に企業価値へ反映させる方向です。
そのため、今回の見直しが実現すれば、過去の「1対3対1」から「1対1対1」への変更以上に、企業ごとの評価額が大きく変わる可能性があります。
なぜ中小企業オーナーが注目すべきなのか
自社株の評価額が変わると、経営者個人の財産評価が変わります。
そして、その影響は相続税や贈与税に及びます。
さらに、後継者への株式移転にも影響します。
例えば、現在の評価額を前提として後継者への株式贈与を計画していた会社では、新しい評価方式が導入されれば、必要な税負担の試算をやり直す必要が生じる可能性があります。
事業承継税制を利用する場合でも、制度の適用要件や株式評価との関係を確認する必要があります。
評価方法は、経営者の引退時期や後継者への株式移転計画にもつながっているのです。
「評価の公平性」と「事業承継への配慮」
非上場株式の評価を見直すときには、複数の視点を同時に考える必要があります。
一つは評価の公平性です。
会社の収益力や資産価値を適切に反映できているのかという問題です。
もう一つは事業承継です。
評価額が高くなりすぎると、後継者が株式を取得する際の税負担が重くなる可能性があります。
この2つは必ずしも同じ方向を向くとは限りません。
企業価値を適切に評価しようとすれば、収益力を強く反映させることが考えられます。
一方で、評価額が大きく上昇すれば、中小企業の事業承継に影響する可能性があります。
今回の制度改正では、このバランスをどう取るのかが重要になります。
評価方式の変更は過去にも繰り返されてきた
ここまで見てくると、非上場株式の評価方法は、一度決めたら永久に変わらない制度ではないことが分かります。
平成12年には利益を重視する方向へ変更されました。
平成29年には3要素を均等に見る方向へ変更されました。
そして現在は、さらに大きな見直しが検討されています。
つまり、今後の制度を考えるうえでは、現在の評価方式だけを見るのではなく、なぜ過去に制度が変更されてきたのかを理解することが重要です。
結論
非上場株式の評価では、配当、利益、純資産という3つの要素が重要な役割を果たしてきました。
平成12年には1対3対1となり、利益が重視されました。
その後、平成29年には1対1対1となり、配当、利益、純資産を均等に評価する仕組みに変更されました。
この変化から分かるのは、株式評価の方法そのものが、企業価値をどう捉えるかという考え方によって変わり得るということです。
そして今回の議論では、過去の比重調整にとどまらず、残余利益方式などを含む評価体系そのものの見直しが検討されています。
今後、評価方法が大きく変われば、中小企業オーナーの相続税や贈与税だけでなく、事業承継の計画にも影響する可能性があります。
次回は、今回の見直しで特に注目されている「残余利益方式」とは何なのかを取り上げます。
これまでの類似業種比準方式と何が違い、なぜ企業の収益力をより強く評価することにつながるのかを整理します。
参考
税のしるべ 2026年9月14日 財務省主税局で相続税・贈与税等の企画・立案に従事した高橋達也氏に取引相場のない株式の評価見直しについて聞く