毎年公表される確定申告統計は、単なる税務データではありません。そこには国民の所得状況や資産形成の動向、さらには経済環境の変化が色濃く反映されています。
国税庁が公表した令和7年分の所得税等および個人事業者の消費税の確定申告状況によると、申告納税額のある人は前年より21%以上増加しました。一見すると所得が大きく伸びたようにも見えますが、その背景には令和6年に実施された定額減税の終了という特殊要因があります。
一方で、土地や金地金の譲渡所得は過去最高水準となり、個人事業者の消費税申告件数も増加しています。これらの数字からは、日本経済や税制の変化を読み取ることができます。
定額減税終了で納税者が大幅増加
令和7年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書を提出した人は2,353万人となり、前年よりわずかに増加しました。
しかし注目すべきは、実際に納税額が発生した人の数です。
納税人員は627万人となり、前年より21.3%も増加しました。
この背景には、令和6年分で実施された定額減税があります。前年は所得税額から一定額が控除されたため、本来であれば納税が発生していた人でも納税額がゼロとなったケースが少なくありませんでした。
令和7年分ではその影響がなくなったため、納税人員が大幅に増加したと考えられます。
税収が増えたからといって直ちに国民所得が大幅に増えたわけではなく、税制上の特殊要因を考慮して数字を見ることが重要です。
譲渡所得が過去最高水準に
今回の統計で特に目を引くのが譲渡所得の増加です。
土地等の譲渡所得を申告した人は60万人を超え、そのうち所得が発生した人は40万人を超えました。これは現在の集計方法となった平成15年以降で最多となっています。
所得金額も約6.9兆円と過去最高を更新しました。
背景には不動産価格の上昇があります。
近年、都市部を中心に地価上昇が続いており、相続した不動産や投資用不動産を売却した際の譲渡益が大きくなっています。
また、金地金価格の高騰も影響しています。
世界的なインフレ懸念や地政学リスクの高まりを背景に金価格が上昇し、長年保有していた金を売却して利益を得た人も増加していると考えられます。
株式譲渡所得は減少に転じる
一方で、株式等の譲渡所得は減少しました。
有所得者数はほぼ横ばいだったものの、所得金額は前年より15%以上減少しています。
特に非上場株式の譲渡所得が大きく減少しました。
前年は大型の事業承継や企業売却案件などが多かった可能性がありますが、令和7年分ではその反動が表れたものと考えられます。
また、譲渡損失を翌年以降へ繰り越した人も減少しています。
株式市場全体としては比較的安定して推移したことが背景にあるのかもしれません。
投資家にとっては、相場環境だけでなく税務面での損益通算や繰越控除の活用も引き続き重要になります。
個人事業者の消費税申告は増加傾向
個人事業者の消費税申告件数は216万件を超え、前年より増加しました。
納税申告件数も増加しており、インボイス制度導入後の影響が継続していることが分かります。
これまで免税事業者だった事業者の一部が適格請求書発行事業者となり、消費税の申告義務を負うようになったことが背景にあります。
一方で、新たにインボイス発行事業者となった個人事業者は前年より大幅に減少しました。
制度開始から一定期間が経過し、必要な事業者の登録が一巡した結果と考えられます。
今後は登録件数の増加よりも、制度への対応をどのように効率化していくかが課題となるでしょう。
暗号資産ブームは一服したのか
暗号資産取引による雑所得の申告人員は約6万人となり、前年から約20%減少しました。
所得金額も2割以上減少しています。
暗号資産市場は依然として大きな市場規模を持っていますが、過去のような急騰局面が減少したことや、市場参加者の落ち着きが統計にも表れている可能性があります。
また、暗号資産に対する税負担の重さが指摘される中、利益確定を控える投資家もいると考えられます。
税制改正議論の動向によっては、今後再び申告状況が大きく変化する可能性もあります。
確定申告統計は経済の健康診断書
確定申告統計は税務行政の資料であると同時に、日本経済の実態を映し出す貴重なデータでもあります。
令和7年分の統計からは、定額減税終了による納税者増加、不動産や金価格の上昇による譲渡所得の増加、インボイス制度定着による消費税申告件数の増加など、さまざまな変化が確認できました。
税制改正や経済環境の変化は、個人や事業者の行動に大きな影響を与えます。
税金は単なる負担ではなく、社会や経済の変化を読み解く重要な指標でもあります。毎年の確定申告統計を継続的に見ることで、日本経済の動きをより立体的に理解することができるのではないでしょうか。
結論
令和7年分の確定申告統計では、定額減税終了の影響によって納税人員が大幅に増加しました。また、不動産や金地金の価格上昇による譲渡所得の増加、インボイス制度定着による消費税申告件数の増加など、経済環境の変化が数字に表れています。
確定申告統計は税収の状況だけでなく、国民の資産形成や事業活動の実態を示す重要な資料です。今後も税制改正や市場環境の変化がどのように反映されるのか、継続的に注目していく必要があります。
参考
・税のしるべ 2026年6月1日号 「7年分所得税等の確定申告状況、定額減税の影響がなくなり納税人員は21%増の627万人」
・国税庁 令和7年分所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況について