非上場株式の評価方法について、国税庁で大きな見直しの議論が進んでいます。
その中で特に注目されているのが「残余利益方式」です。
現在の類似業種比準方式では、配当、利益、純資産という3つの要素を使って株式を評価します。
一方、残余利益方式では、会社が保有している純資産だけでなく、その純資産を使って将来どれだけ利益を生み出すのかという収益力を企業価値に反映させる考え方が重要になります。
企業価値を考えるうえでは合理的な側面がある一方、収益力の高い中小企業では株式評価額が大きく上昇する可能性もあります。
今回は、この残余利益方式がどのような考え方なのかを整理します。
そもそも残余利益とは何か
「残余利益」という言葉は少し難しく感じるかもしれません。
簡単にいうと、会社が保有している純資産に対して、通常期待される利益を超えて生み出した利益を捉える考え方です。
会社には、株主から預かった資本があります。
その資本を使って事業を行い、利益を生み出します。
しかし、利益が出ているからといって、そのすべてが企業の超過的な収益力を意味するわけではありません。
投下した資本に対して通常期待される利益をまず考え、それを上回る部分を残余利益として捉えます。
この残余利益が将来どれだけ生み出されるのかを企業価値に反映させようとするのが、残余利益方式の基本的な考え方です。
純資産だけでは会社の価値を測れない
会社には土地、建物、現預金、設備などさまざまな資産があります。
これらから負債を差し引けば、会社の純資産を計算できます。
しかし、会社の価値は現在持っている財産だけで決まるわけではありません。
同じ1億円の純資産を持っている2社があったとしても、毎年1,000万円の利益を生み出す会社と、毎年5,000万円の利益を生み出す会社では、事業の収益力が違います。
将来にわたって利益を生み出す力も会社の価値の一部と考えることができます。
残余利益方式は、この収益力を評価へ反映させる考え方です。
利益をそのまま企業価値にするわけではない
ここで注意したいのが、残余利益方式は「利益が大きければ、その利益をそのまま株価に加える」という単純な方法ではないことです。
会社が持つ純資産を基礎にしながら、その資本から通常期待される利益を計算します。
そして、それを上回る利益がどれだけあるのかを考えます。
その超過部分を将来にわたってどの程度生み出せるのかを評価し、現在の価値に置き換えていきます。
したがって、会社の利益だけを見る方法ではありません。
純資産と収益力を組み合わせて会社の価値を考える方法だと理解すると分かりやすくなります。
なぜ収益力を評価するのか
企業価値を考えるとき、収益力は非常に重要な要素です。
例えば、同じ1億円の純資産を持っている会社でも、一方は毎年ほとんど利益が出ず、もう一方は安定して大きな利益を生み出しているとします。
現在保有している財産だけを見れば、両社は同じように見えます。
しかし、事業を継続した場合に将来生み出す利益まで考えれば、企業としての価値は違うと考えることができます。
残余利益方式には、こうした収益力を企業価値に反映させるという考え方があります。
類似業種比準方式との違い
現在の類似業種比準方式では、配当、利益、純資産という3つの要素を使います。
これに対して残余利益方式では、会社が保有する純資産を基礎として、その資本から生み出される収益力をより直接的に評価することになります。
つまり、評価の発想そのものが違います。
類似業種比準方式は、類似する上場会社の株価や財務指標などを参考にしながら、非上場会社の株式価値を推計します。
残余利益方式は、会社自身の純資産と収益力を基礎に企業価値を考えます。
この違いによって、会社ごとの評価額が大きく変わる可能性があります。
収益力の高い会社ほど影響が大きくなる可能性
残余利益方式で特に注目されるのが、収益力の高い会社への影響です。
例えば、長年にわたって安定的に利益を出している中小企業を考えてみます。
その会社が大きな純資産を持ち、しかも毎年安定して高い利益を生み出しているのであれば、収益力が企業価値に強く反映される方式では評価額が高くなる可能性があります。
これは企業価値を適切に評価するという観点では理解しやすい仕組みです。
一方で、その株式を保有している経営者が相続する場合には、相続税評価額が高くなる可能性があります。
企業として優良であることと、相続税を支払うための現金を十分に持っていることは別問題だからです。
利益を内部留保するとどうなるのか
中小企業では、利益をすべて配当するのではなく、会社内部に残すことがあります。
将来の設備投資に備えるためです。
不況に備えて現金を残すこともあります。
借入金を返済するために利益を蓄積する場合もあります。
こうした内部留保によって会社の純資産が増えていきます。
一方、事業を継続して利益を出していれば、収益力そのものも評価の対象になります。
そのため、利益を蓄積して成長してきた会社では、純資産と収益力の両方が株式評価に影響する可能性があります。
事業を続けるほど評価額が上がる可能性
今回の見直し議論で指摘されている重要なポイントの一つが、利益の蓄積と株式評価の関係です。
会社が毎年利益を出し、その利益を内部に蓄積すると純資産が増えます。
さらに、継続的な収益力も評価されるのであれば、会社を長期間経営するほど株式評価額が高くなる可能性があります。
もちろん、実際の評価額がどのように変化するのかは、具体的な評価方式や数値が決まらなければ分かりません。
しかし、利益を生み出す企業の価値をより強く評価する制度になれば、こうした方向の影響が生じる可能性があります。
なぜ中小企業の事業承継で問題になるのか
会社が成長すること自体は、企業経営にとって望ましいことです。
売上が増え、利益が増え、純資産が増えていけば、会社の財務基盤は強くなります。
ところが、経営者がその会社の株式を大量に保有している場合、その企業価値の上昇は経営者個人が保有する自社株の評価額上昇にもつながります。
経営者が亡くなれば、その株式は相続財産になります。
評価額が高くなれば、相続税の課税対象となる金額も大きくなります。
会社の業績が良くなったことが、事業承継時の税負担という別の問題につながる可能性があるわけです。
株式を売却できない問題
上場会社の株式であれば、相続税を支払うために株式を市場で売却するという選択肢があります。
しかし、非上場会社の経営者が保有する自社株は事情が違います。
自社株を大量に売却すれば、経営権そのものを失う可能性があります。
そもそも買い手が簡単に見つかるとも限りません。
そのため、株式評価額が高くなっても、それに見合う現金を持っているとは限りません。
ここが非上場株式の相続税を考えるうえで難しいところです。
評価額と納税資金は別の問題
例えば、自社株の評価額が5億円だったとしても、経営者が現金5億円を保有しているとは限りません。
会社の資産の多くが工場や設備、事業用不動産などに固定されているケースもあります。
株式そのものも簡単には現金化できません。
つまり、会社の価値が高いことと、相続税を支払えることは別の問題です。
このため、非上場株式の評価方法を変更する場合には、単に評価の合理性だけでなく、事業承継への影響も合わせて考える必要があります。
残余利益方式には合理性と課題の両面がある
残余利益方式には、会社の収益力を企業価値に反映させるという合理性があります。
一方で、収益力を強く反映すれば、利益を継続的に生み出している会社の株式評価額が上昇する可能性があります。
その結果、相続税や贈与税の負担が重くなる可能性があります。
したがって、残余利益方式を評価するときには、「企業価値をより正確に測れるか」という視点だけでは足りません。
「事業承継にどのような影響が出るのか」という視点も必要になります。
具体的な還元率が重要になる
残余利益方式を理解するうえで、今後特に重要になるのが具体的な数値です。
残余利益をどのように現在価値へ換算するのか。
どのような還元率を使うのか。
将来利益を何年分考慮するのか。
純資産をどのように扱うのか。
こうした条件によって最終的な評価額は大きく変わります。
現在の議論では、評価額を大きく左右する具体的な数値がまだ明確になっていないとされています。
そのため、現時点で「自社株が何倍になる」と断定することはできません。
評価方式だけでは改正の影響は分からない
制度改正を考えるときには、計算式だけを見るのでは不十分です。
例えば、新しい計算方式を導入するとしても、還元率が高いのか低いのかによって結果は大きく変わります。
同じ残余利益方式でも、具体的な条件によって評価額は異なります。
だからこそ、今後の有識者会議では、評価方式だけでなく、具体的な数値や企業規模別の試算などが重要になります。
中小企業の経営者にとって必要なのは、制度の名前ではなく、自分の会社の評価額がどう変わるのかという情報だからです。
事業承継税制との関係も重要
評価額が上昇する可能性があるなら、事業承継税制との関係も重要になります。
事業承継税制には、一定の要件を満たした場合に、非上場株式に係る相続税や贈与税の納税を猶予する仕組みがあります。
評価額が高くなれば、制度を利用しない場合の税負担は重くなる可能性があります。
一方、事業承継税制を利用できる企業であれば、評価額の上昇による負担を一定程度緩和できる可能性があります。
ただし、制度には適用要件や手続きがあります。
したがって、評価方式の変更と事業承継税制はセットで考える必要があります。
結論
残余利益方式は、会社が保有する純資産だけではなく、その資本を使って将来どれだけ利益を生み出すのかという収益力を企業価値に反映させる考え方です。
現在の類似業種比準方式とは、評価の発想が異なります。
収益力を企業価値に反映させることで、会社の実態に近い評価ができる可能性があります。
一方で、利益を安定して生み出している中小企業では、自社株評価額が大きく上昇する可能性もあります。
その結果、相続税や贈与税だけでなく、事業承継の方法や納税資金の準備にも影響する可能性があります。
そして、最終的な評価額を左右するのが還元率などの具体的な数値です。
残余利益方式という名前だけでは、実際の負担がどの程度変わるのかは分かりません。
次回は、この残余利益方式を理解するうえで特に重要な「還元率」に焦点を当てます。
なぜ還元率が少し変わるだけで、自社株評価が大きく動く可能性があるのかを見ていきます。
参考
税のしるべ 2026年9月14日 財務省主税局で相続税・贈与税等の企画・立案に従事した高橋達也氏に取引相場のない株式の評価見直しについて聞く