還元率が変わるとなぜ自社株評価が大きく動くのか 新しい評価方式の重要数字を理解する編

税理士
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非上場株式の評価方法をめぐる議論で、今後特に注目される数字があります。

それが「還元率」です。

国税庁が進めている非上場株式の評価見直しでは、残余利益方式を取り入れる方向が示されています。

残余利益方式では、会社の純資産だけでなく、将来生み出す収益力を現在の価値に置き換えて評価します。

その際に重要になるのが、将来の利益を現在価値へ換算するための還元率です。

還元率が高いのか低いのかによって、同じ会社、同じ利益であっても評価額は変わります。

今回の評価見直しを理解するためには、計算式だけでなく、この還元率の意味を理解しておくことが重要です。

還元率とは何か

還元率という言葉は、日常生活ではあまり使いません。

簡単にいうと、将来得られる利益を現在の価値に換算するときに使う割合です。

例えば、現在100万円を持っている場合と、10年後に100万円を受け取る場合では、同じ100万円でも意味が違います。

現在の100万円はすぐに使ったり投資したりできます。

一方、10年後の100万円は、それまで待たなければなりません。

将来の利益には、時間の違いや不確実性があります。

そこで、将来の利益を現在の価値に置き換えるために一定の率を使います。

それが還元率の基本的な考え方です。

将来の100万円は現在の100万円と同じではない

会社が将来100万円の利益を生み出すとします。

その100万円が確実に明日入ってくるのか、10年後に入ってくるのかでは、価値が違います。

また、会社が将来も安定して利益を出せるとは限りません。

景気が悪化するかもしれません。

競争相手が現れるかもしれません。

商品の需要が減るかもしれません。

経営環境が変わる可能性もあります。

そのため、将来利益をそのまま現在の企業価値に加えるわけではありません。

将来の利益を一定の条件で現在価値に換算します。

その計算に関係するのが還元率です。

還元率が高いと評価額はどうなるのか

一般的に、将来の利益を現在価値へ換算する場合、還元率が高くなるほど現在価値は小さくなります。

逆に、還元率が低くなるほど現在価値は大きくなります。

これは残余利益方式を理解するうえで非常に重要なポイントです。

同じ会社が同じ利益を生み出していたとしても、使う還元率が違えば、計算される企業価値は変わります。

つまり、評価方式が同じでも、還元率によって結果が変わる可能性があります。

簡単なイメージで考える

例えば、毎年100万円の残余利益が続く会社を考えてみます。

将来の利益を現在価値に換算するとき、低い還元率を使えば、将来の利益を高く評価することになります。

一方、高い還元率を使えば、将来の利益を低く評価することになります。

実際の評価計算では、将来利益の継続性や成長率など、さまざまな要素を考慮する必要があります。

ここでは、還元率が評価額に大きな影響を与えるという基本的な関係を理解しておくことが重要です。

なぜ中小企業の株価評価で重要なのか

非上場会社のオーナーにとって、還元率は単なる計算上の数字ではありません。

最終的な自社株評価額に影響する可能性があるからです。

評価額が上がれば、相続税や贈与税の課税価格も大きくなる可能性があります。

逆に、評価額が低くなれば、税負担への影響も小さくなる可能性があります。

したがって、残余利益方式を導入するのであれば、還元率をどの水準に設定するのかが非常に重要になります。

還元率を誰がどう決めるのか

ここで問題になるのが、還元率をどのように決めるのかという点です。

企業の将来利益には不確実性があります。

業種によってもリスクは異なります。

景気変動の大きい業種と、安定した需要がある業種では、将来利益の安定性が違います。

大企業と小規模企業でも経営上のリスクは異なる可能性があります。

そのため、どのような考え方で還元率を設定するのかは、評価制度を設計するうえで重要な論点になります。

還元率が一律なら企業ごとの差はどうなるのか

仮にすべての企業に同じ還元率を使うとします。

その場合、企業ごとの将来利益のリスクを細かく反映することは難しくなります。

一方、企業ごとに異なる還元率を設定すると、評価はより細かくなる可能性があります。

しかし、あまり複雑な制度にすると、実務で使いにくくなります。

税務上の評価では、誰が計算しても一定の結果が出ることも重要です。

評価の精度と実務の簡便性をどう両立するのか。

ここに非上場株式評価の難しさがあります。

還元率は「将来利益の確実性」とも関係する

将来の利益が安定している会社なら、将来利益を比較的高く評価してもよいと考えることができます。

一方、利益が毎年大きく変動する会社では、将来利益をそのまま高く評価することには慎重さが必要になります。

つまり、還元率には将来利益に対する不確実性をどの程度織り込むのかという問題があります。

ここをどう設計するかによって、評価制度の性格が変わってきます。

「評価水準」が重要なのはこのため

今回の有識者会議では、評価方法の見直し案が示されています。

しかし、評価額を大きく左右する還元率などの具体的な数値が示されていないとされています。

これでは、新制度によって実際にどの程度の評価額になるのかを判断することが難しくなります。

例えば、残余利益方式を導入するというだけでは、現在の評価額より高くなるのか、低くなるのか、会社によってどの程度差が出るのかを判断できません。

評価方式と評価水準は、セットで考える必要があります。

計算方法だけでは税負担は分からない

税制や税務の制度では、計算方法だけが注目されがちです。

しかし、実際の納税者にとって重要なのは、最終的にいくらになるのかです。

例えば、ある会社の自社株評価額が現在1億円だったとします。

新方式を導入しても、還元率などの設定によって評価額が1億1,000万円になるのか、1億5,000万円になるのか、2億円になるのかは変わります。

さらに、相続税の場合は基礎控除や他の財産、債務、相続人の数なども関係します。

そのため、評価方法の変更だけでは最終的な税負担を判断できません。

増減収試算が重要になる

今回の見直しでは、国税庁が「評価の見直しによって増収は考えていない」と説明したとされています。

しかし、評価額が上昇すれば、結果として相続税や贈与税の課税価格が増える可能性があります。

そこで重要になるのが増減収試算です。

どの程度の会社が影響を受けるのか。

評価額が平均的にどの程度変化するのか。

相続税や贈与税の税収にどの程度の影響があるのか。

こうした数字が示されれば、制度変更による影響を客観的に検討できます。

「増収を目的としていない」という政策意図と、「結果として増収になるかどうか」は別の問題だからです。

評価額が上がる会社だけではない

ここも重要なポイントです。

新しい評価方式が導入されたとしても、すべての会社の評価額が上昇するとは限りません。

会社によって利益、純資産、配当、業種などが異なるからです。

評価方式を変更すれば、評価額が上昇する会社もあれば、影響が小さい会社もある可能性があります。

したがって、改正の影響を見るときには「中小企業全体でどうなるのか」と「自社ではどうなるのか」を分けて考える必要があります。

高収益企業ほど注意が必要になる可能性

残余利益方式が収益力を強く評価する仕組みになれば、安定して大きな利益を生み出している会社ほど影響を受ける可能性があります。

特に、長年にわたって利益を蓄積してきた会社では、純資産も大きくなっている場合があります。

そこへ将来の収益力が加われば、自社株評価が高くなる可能性があります。

ただし、具体的な評価額については、今後示される計算方法や数値を確認する必要があります。

現段階で一律に「高収益企業の株価が何倍になる」と考えるのは適切ではありません。

還元率は事業承継にも影響する

自社株評価額が変われば、事業承継計画にも影響する可能性があります。

例えば、後継者への株式贈与を検討している会社では、贈与時の株式評価額が重要になります。

評価額が上昇すれば、贈与税への影響も大きくなる可能性があります。

相続の場合でも同様です。

そのため、評価方式の見直しでは、単に「企業価値をどう測るか」だけでなく、「その評価額を前提にした場合、中小企業の事業承継にどのような影響が出るのか」を考える必要があります。

今後注目すべき数字

今回の非上場株式評価の見直しを追う場合、今後は次の数字に注目する必要があります。

まず、還元率です。

次に、将来利益をどのように計算するのかです。

さらに、純資産をどのように評価へ反映するのかも重要です。

そして、現行方式と新方式で評価額がどの程度変化するのかという試算です。

これらが示されて初めて、改正の実質的な影響が見えてきます。

結論

還元率は、将来の利益を現在の価値に換算するときに使われる重要な数字です。

残余利益方式では、会社の純資産だけでなく、将来生み出す収益力を評価するため、還元率が最終的な株式評価額を大きく左右する可能性があります。

一般的には、還元率が高くなるほど将来利益の現在価値は小さくなり、低くなるほど大きくなります。

だからこそ、残余利益方式という評価方法だけが示されても、それだけでは実際の評価額への影響を判断できません。

還元率などの具体的な数値と、現行方式との比較試算が重要になります。

そして自社株評価額が変われば、相続税や贈与税だけでなく、事業承継にも影響する可能性があります。

今後の有識者会議では、評価方式そのものだけでなく、評価水準を決める具体的な数字がどのように示されるのかが大きな焦点になります。

次回は、実際に「新しい評価方式で自社株が2倍から5倍になる会社もあるのか」という問題を取り上げます。

日本商工会議所が示した試算を手掛かりに、評価額が大きく変化する可能性と、その試算を読むときの注意点を整理します。

参考

税のしるべ 2026年9月14日 財務省主税局で相続税・贈与税等の企画・立案に従事した高橋達也氏に取引相場のない株式の評価見直しについて聞く

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